Behind the Red Curtain 〜第五幕〜 |
……で、よ。 「なぁぁんであたしがこんな格好しなきゃなんないのよぉっ!!!」 「まあまあそう言うなよ。結構似合ってると思うぞ?」 ここはジャルダン・ド・ミースの支配人室。 流石に世界随一の高級クラブの支配人室だけあって、とにかく派手派手派手っっ!! あたしとガウリイはガードナーさんから呼び出しがかかるまでここで待機中。 時刻は夜の帳もすっかり下りた午後10時。 あたし達はここに潜入するために、豪華絢爛なガードナー邸で、 豪華絢爛なカンカンダンサーの衣装を着けさせられたわけで…。 髪は頭のてっぺんでまとめられ、顔にはブルーのシャドウに真っ赤な口紅。 肘までの長さの黒い手袋に、豪奢なダイアモンドネックレス、そして極めつけは編みタイツ。 コルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられた身体には、薄いピンクが基調の膝丈のヒラヒラドレス……。 この裾を持ち上げて、男たちの前で足を高く振り上げて踊るわけである。 もちろん、スカートの中は見えても大丈夫になってるんだけど……。 でも……。 「こんな恥ずかしい格好して人前にでたくないのっっ!!」 「俺だってこんな窮屈な格好で我慢してるんだぜ?」 かく言うガウリイはと言うと、黒のタキシードとシルクハット、ステッキに白い手袋という、典型的な貴族スタイルである。 長い金髪を一つにまとめている濃紺のリボンが、瞳の色と調和している。 これがまたものすごぉぉく似合ってるから、余計にむしゃくしゃしてくるったらないわっ! 「あんたはまともな衣装なんだからゴチャゴチャ言うんじゃないわよ!」 「俺は最初っからやる気なんて無かったんだぞ!自分で勝手に取り付けた依頼じゃないか!」 うっ…!? そこをつかれると弱いかも……。 「それから……。」 「え?」 ガウリイがあたしのスカートの裾を掴んだ。 「こんな服着てるんだから、絶対に足なんか上げるなよ?」 ───は? 「な、なんであんたに、そんなこと言われなきゃなんないのよ……。」 目を閉じてため息を漏らすガウリイ。 「俺が我慢できないからだ。」 ///かぁぁぁぁぁっ/// 「な、何言ってんのよガウリイ……。」 思わず赤くなるあたし…。 「リナには、そんな娼婦みたいなマネ、して欲しくない。」 やだ……あんたの顔…見れないじゃない……。 「別に娼婦って職業を軽蔑してるわけじゃない… 彼女たちだって一生懸命生きてるのは分かってる……でも……。」 そこまで言うと、ガウリイはあたしの手首を掴んで振り向かせた。 「リナにだけは…絶対に………。」 「ガ、ガウリイ──」 「お二人さ〜ん♪支配人がお呼びですよぉ〜!」 「「わああああああああっ!!!!」」 な、な、な、なにやってんのよあたしたちっ!!!! 突然聞こえてきた高い声に、あたしたちは弾かれたように身体を離す。 声のしたほうを見ると、あたし以上に派手に飾りつけた女性が黄金のドアの所に立っていた。 どうやら彼女も、ここのダンサーの一人らしい。 「もうすぐトップのご登場です♪私がご案内しますんで、どうぞダンスホールの方へ♪」 「「ハ、ハ〜イ…。」」 あたしたちはお互いから視線を逸らしつつ、彼女の後に続いた。 あぁ〜…もう!調子狂っちゃうじゃない……。 暗い通路を通り、疲れた表情のダンサー数名とすれ違う。 初めは微かに聞こえる程度だった楽器の音、そして嬌声や歓声が段々大きくなっていき──。 差し込んできた強烈な真っ白い光に、思わず目をそばめる。 そして次に目を開けた時には、眼前に夢の世界が広がっていた──。 レッド・カーテンに包まれたそこは、まさにデカダンな世界──。 どこか退廃的で、破滅的で、非現実的なアンダーワールド────。 ここが享楽の夜の王者と言われる所以が何となく分かった気がした瞬間だった──。 …to be continued |