Behind the Red Curtain
〜第三幕〜





















「で?なんでそんなことする必要があるんだ?」

運ばれてきたコーヒーをブラックのまま啜りながら、ガウリイが怪訝そうに尋ねた。
彼には、どうしてそのコーティザンを騙すなんてことしなきゃならないのかが、いまいち分からないらしい。
正直言うと…あたしにもよく分かんなかったりする…。

「よくぞ聞いてくださいました…。」
コーヒーにミルクを注ぎながら応えるガードナーさん。
「実は、我がクラブには現在、総勢100名ほどの娼婦やダンサーがおりますが──」
「へぇ〜!100人も抱えてんの!?」
角砂糖を二つ入れながら、あたしは思わず驚きの声を上げた。
この若さでそんなに大規模な娼館の経営者だなんて…この兄ちゃんってば、もの凄いヤリ手なわけ?
「ええ、100余名です。ところがその数に比例せず、ウチの収益のおよそ半分を稼いでいるのが、
 そのトップなんです。」
「ひ、ひとりで収益の半分……。」

そ、それってつまり…毎晩毎晩ってこと……?
そんなんで、身体もつわけ……?
や、やだ!あたしったらなんてこと考えてんのよっ///

「あの、卑猥な誤解を招きかねないんで補足しておきますが……。」
「え?」
「彼女の収益は、娼婦としてだけでなく、ダンサーとしての分も含まれるんですからね…?」

ああ…なるほどね…。
つまり、ショーの時に貢がれるお金も入ってるわけね……。
卑猥な誤解とやらをしちゃったじゃないのよぉ///

「その彼女が、このほど、この街から出て行きたいと言い出しまして…。」
「なるほどね、彼女にいなくなられては困るというわけか…。」
「ええ…。死活問題です…。」
「それで、彼女を引き止めるのに、ガウリイを使いたいってわけ?」
「そういうことです。」

「でもよぉ…辞めたいって言ってるのに、無理に引き止めるのはあんまりだと思うぜ?」

暫く黙っていたガウリイがボソリと呟く。
そういやぁ、この男は人道主義者っつうか、フェミニストっつうか……女子供にはとことん優しい。
う〜む…でも確かに、ガウリイの言う事にも一理あるかも…。
「そ、そんなことをおっしゃらずに!貴方にしか頼めないんですよ!」
「そもそも、なんで俺じゃないとダメなんだ?」
「そ、それは……。」
「それは?」
「あ、貴方の…。」
「貴方の?」

「その容姿ですっ!!」

『よ、容姿ぃ?』
思わず声が重なってしまったあたしとガウリイ。
「で、でも、ガウリイのルックスと引き止め作戦と、なんの関係があんのよ?」
あたしは思わず疑問の声を漏らす。
そりゃぁ、確かにあたしの相棒は、脳みそ以外は右に出る者が居ないくらい抜群である。
「私はこの街に住んで、もう随分になりますが、ガウリイさんほどイイ男を見たことがありません…!」
ガードナーさんは美しい眉を顰めて苦悩の色を浮かべる。
おひ…鏡見ろよ…この無自覚色男……。
「私は貴方を一目見た瞬間、やっと今まで温めてきた作戦を実行できる日が来たのだと神に感謝しました…!」
拳を握り締めて天を仰いでいる彼の美しさには、某歌劇団の“すたぁ”達も真っ青だろう。
「んで?その作戦っつぅのは?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
呟くガウリイの手を取るガードナーさん…。
マリンブルーの瞳がキラキラと輝いている…。
美男子同士が手を取り合ってるだけに、余計に不気味なものを感じちゃうのはあたしだけ…?
「題して、『命短し!恋せよ乙女!』作戦ですっっ!!」

…………。

『はぁ?』
あ、あたしはともかく、ガウリイまでもが呆れている……あのガウリイまでもが……。

「今まで私はオーナーとして、従業員たちに、決して恋をしてはならないと教育してきました。
 しかし、今回ばかりはそうも言っていられません…。私は、自ら慣例を壊すべく、
 協力してくださる男性を探してきましたが、私のお眼鏡に適う人物はそうそう現れず……。」
「そこに偶然ガウリイが通りがかったってわけね…。」
「はい。」
あたしはコーヒーにミルクを足した。
「それで、そのコーティザンとガウリイを会わせて、“偽物の”恋に落すわけね?」
あたしは無意識のうちに、自分でも不思議なくらい“偽物”を強調していた。

そ、そうよ……あくまでも、“ニセモノ”なんだから……。

「で、でも、なんで“ガウリイ”のままで会わせちゃダメなの?
 つまり、どうして“ガブリエフ公爵”に仕立てなきゃなんないのよ?」
ガードナーさんは、あたしの問いを聞いて、大きなため息をつく。
「実は、彼女には座右の銘と言いますか、ある確固たる信念があると言いますか……。」
「?」
「つまり、彼女にとって、お金に勝るものはこの世に無いんですよ…。」

…………。

言い切るのかそこで……言い切っちゃうのか……。
「す、すごい女ねぇ……。」
思わずこめかみのところを押さえたくなる…。
「お前さんも人のこと言えないんじゃ───いえ…何でもありません!!」
何やら失敬極まりない事をぬかそうとしていたガウリイの耳元でドラスレを唱えてやる…。

「とにかくっ!ガードナーさんの言いたいことをまとめると、どこかの国からふらりと遊びに来た
超美男子の金持ち公爵とその彼女を“偽物の”恋に落とさせて、『僕は君に会いに毎日ここに
 通うよ……。』とかナントカ適当に甘い言葉を囁いて、彼女がジャルダン・ド・ミースに残りたいと
 思うように仕向けるわけね。」
「そうです!その通りです!」
「でもよぉ……。」
綺麗な金髪をかきあげながら、後ろ向きな接続詞をポツリと呟くガウリイ。
な〜んか今回、かなり乗り気じゃないらしい……。

「その後はどうなるんだ?」

あ…。
そうじゃん…。
ゼフィーリア行きはどうなんの…?
あたしとガウリイの旅は…?
それに、もし二人が本当に恋に落ちちゃったら………どうするの……?


あたしが訳のわかんない胸の苦しさを感じたのは、そのときが初めてだったのかもしれない…。
                                        





                        
                            …to be continued