Behind the Red Curtain
〜第一幕〜





















あたしたちが、その風変わりな依頼を持ち込まれたのは、ここへ来てまもなくのことだった。
芸術の街でその名を轟かせているこの街、ミース......。
世界中から、あらゆる分野の芸術家を目指して、若者たちがやってくる街。
音楽家や画家、小説家や建築家、俳優に至るまで、名の知れた大家は大抵この街が輩出している。
そんなミースには、街頭でヴァイオリンを演奏する青年がいたり、キャンバスを抱えて歩く人がいたり…。
街全体を取り囲む城壁に至っては、あらゆる種類のおしゃれなポスターでびっしりと埋め尽くされていた。

あたしとガウリイは、彼の提案でゼフィーリアへ向かう道すがら、ぶらりとこの街に立ち寄った。
まあ、せっかく世界でも三本の指に入るくらい有名な街の近くまで来てるのに、
立ち寄らないバカもいないってことで、最初はただの興味本位だったわけだけど…。

今回ばかりは、好奇心旺盛すぎる自分の性格を見直そうと思うことになる…。

「ねえ見てよガウリイ!あの建物すっごく綺麗じゃないっ!?」
あたしは街に一歩足を踏み入れるなり、街中に林立する荘厳な建物群に目を奪われた。
「ん〜?あれって寺院だろ?ナントカ大聖堂って言うんだぜ。」
右斜め上から降ってくる冷静な声。
「大聖堂?」
「ああ。尖塔アーチとステンドグラスで有名なんだ。」
「……ふ〜ん…。」
こ、このあたしが、ガウリイに教わってる……。
「んで、あそこに見える大円蓋は、この街の芸術家たちの最大のパトロンの屋敷。」
「……へ、へぇ〜…。」
「向こう側には丘があって、そこは画家の街だから、行ったらリナの似顔絵なんかも描いてくれると思うぞ。」
そこまで言われて、あたしは足を止める。
「……ね、ねぇガウリイ?」
「ん〜?」
「あんた…なんでそんなに詳しいわけぇ?」
「へ?」
別にガウリイがこの街と芸術について詳しいのが悪いって訳じゃないけど、
なんとなく腹が立つっていうか、イライラするっていうか、騙されてた気がするっていうか…。
それが複雑な乙女ゴコロってもんなんだしぃ…。
とにかく、あたしは猜疑心に近い感情を込めた粘着質の視線を彼に投げかける。
「なんでって言われてもなぁ…。」
「なんでよぉ…!」
「いや、実は────」

「そこのブロンドの貴方っ!」

「え?」

説明しかけたガウリイは、背後からの突然の大声に、体をぐるりと反転させた。
あたしもその視線の先を追う。

「貴方です!私は貴方を呼び止めました!」

まるで学校英語の和訳みたいに丁寧に言葉を操る長身の若い男があたしたちに近づいてくる。
さすがに芸術の街の住人だけあって、斬新なファッションセンスの持ち主だ。
肩くらいの長さのダークブラウンヘアを後ろで一つに束ね、白いスーツに黒のドレスシャツ。
モノトーンでシックにまとめている中で、真紅のネクタイが強烈なアクセントとなっている。

彼は、ガウリイの前に来ると、マリンブルーの瞳を輝かせ、ニッコリと微笑んだ。
あたしの相棒と顔の造りが似ているためか、なかなかの美丈夫である。
「私は貴方のような男性を、ずっと探していたんです!」
「は?」
「人助けと思って、私の話を聞いていただけないでしょうか?」

お〜っと!?つまりそれは仕事の依頼ってことかしらん?

「ちょーっと待って!」

あたしの声に、二人の男が視線を向ける。
「こいつの頭ン中にはヨーグルトしか入ってないの。そういう事務的な話は、あたしが聞くわ。」
「おひ…ヨーグルトしかって……。」
ガウリイの抗議の声はとりあえず無視っ!
「あ、あなたは?」
「あたしは彼の相棒、リナ・インバースよ。」
「リナさん…とおっしゃるんですか。素敵なお名前ですね。」

へ……?
なになに?コイツあたしの名前知らないの!?
真偽はともかく、あたしの噂とか聞いたことないわけぇ!?

男は相変わらずの柔和な笑みのまま……。
「それじゃあ、リナさんも交えて、どこか落ち着いた場所で私の話を聞いていただけないでしょうか?」

そんなこんなであたしとガウリイは、この謎の色男の手によって、おしゃれなカフェに連れ込まれた。


…to be continued