人 魚 姫
――蒼天の龍 碧海の華――









第1話

 海底に建てられた荘厳な神殿。
 リナに連れられてガウリイはその巨大な門をくぐった。
 周囲に他の人魚や魚の姿はない。
「なぁ、リナ」
「何?」
「誰もいないのか?ここには」
「そういう訳じゃないんだけどね……」
 なぜかリナの口が重い。
 不思議に思ったガウリイが口を開こうとしたときだった。
「お帰り、リナ」
「ミリィ、キャナル。………ケイン」
 神殿の入り口の所に、三人の人魚がいた。
 微笑んでいる翠の髪を三つ編みにしたマーメイドの少女がリナに近寄って囁いた。
「お帰りなさい。……もう準備は出来てるわよ」
「う………そ、そう」
「ちょっとケイン、ぶーたれてないでちゃんと仕事しなさいよね」
 肩の所で切りそろえた金の髪の少女にこづかれて、ケインと呼ばれたマーマンの少年は不機嫌な視線をガウリイに向けた。
「ごめんなさい、こいつったらリナが男の人と一緒だっていうんでふてくされてるのよ。ったく仕方ないんだから。
 あたし達もう行くけど、ちゃんと案内しなさいよ」
「それじゃ……ごめんガウリイ、後でね」
「リナ?」
 困惑するガウリイをその場に残し、リナは二人の少女とさっさと奥へ泳ぎ去ってしまった。
 残されたのは、相変わらず不機嫌さを隠しもしないケインとガウリイのみ。
「……最初に言っておく。俺はお前が嫌いだ」
 じろりと睨みつけながらケインが呟いた。
「ルナ様の命令でもなきゃ、誰がお前なんかの相手をするものか」
「そうか」
 あっさりと受け入れたガウリイに、ケインはちらりと視線を向けた。
「イヤにあっさりしてるな」
「俺のせいでリナはひどい目にあったからな。嫌われて当然だ」
「ふん。覚悟は出来てるようだな」
 ケインはすらりと持っていた剣を抜いた。
「じゃあ、ここで死んでもらおうか。責任をとって」
「それは出来ない」
 即答したガウリイにケインは不機嫌な顔を向けた。
「どういう意味だ」
「どうもこうも……確かに俺のせいでリナは危険な目にあった。それを否定するつもりも弁解するつもりもない。
 ただ、俺はリナに死ねと言われてないからな。だから死ねない。何があってもな」
「じゃあリナがそう言ったらそれに従うのか」
「あぁ」
 ケインは珍しいものでも見るような目つきになった。
「………お前、そーとーあいつに入れ込んでるんだな」
「当然だろ?」
 ケインは盛大に溜め息をついた。
「あーあやだやだ。何で俺がこんなヤツの相手しなきゃなんないんだよ。ったくやってらんねーぜ」
 ぼやきながらケインは剣を鞘に収めた。
「ついてきな。一応、準備とやらがお前にもあるからな」
「案内してくれるのか」
「それが仕事だ。俺だってプロだからな。受けた命令はちゃんとこなすさ。
 ……けど、お前が嫌いなのは変わってないからな」
 そっぽをむいたままケインは先に神殿の中に入って行った。


           
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「準備できたか。
 へえ……けっこー見れるな、お前」
 にやにやとしているケインにガウリイは不機嫌な顔を向けた。
「……楽しそうだな」
「おう。お前が嫌がるのを見てるのは楽しいぜ」
 神殿の中の一室に入るなり現れた数人の人魚達に無理矢理着替えさせられ、かなり不機嫌な顔のガウリイをケインは更に奥へと案内した。
「何だって着替えなきゃならないんだ?」
「普通こおいう時は着替えるもんだ」
「だから何なんだ?」
「知りたいか?」
 にやりと笑うケインにガウリイは溜め息をついた。
「………どうせ教えるつもりはないんだろう」
「だったら黙ってついてきな」
 ケインは今までよりずっと豪勢な扉の前で止まった。
「俺が案内するのはここまでだ。中でルナ様が待っておられる。早く行くんだな」
 ケインは扉を示すとさっさと姿を消した。


 扉を開くと中は巨大なホールになっていた。ずっと奥に下を見下ろすように玉座が据えられ、そこに真珠で身を飾ったルナが座っていた。
「やっと来たわね。待ちくたびれたわよ」
「ルナさん」
「あら結構似合うじゃない。ま、貴方の場合元がいいから何を来ても似合いそうだけど」
 くすりと笑うとルナは一振りの剣を持っておりてきた。
「それは」
「貴方の忘れ物よ。ちょんと持っていなくちゃダメじゃない」
「いいんですか?俺が持っていても」
 クスクスとルナは笑った。
「これは“珊瑚の王女”を守るためのもの。貴方以外にふさわしい持ち主がいるのかしら。それともあの子を守る役、他人に譲ると?」
「いや」
「なら持っていなさい。あの鎧もね。
 まだ何が起こるか分からないのだから。魔族、特にゼロスがあれで諦めたとは思えない」
 ルナの碧の瞳が射るようにガウリイに向いた。
「私たちもあの子を守るために動いてはいるわ。でも完璧とは言えない。だから貴方にお願いするわ。
 ……私のただ一人の妹を、お願い」
「分かりました。もう二度とリナをあんな目には遭わせない。絶対に」
 ルナが頷くと音もなく玉座の背後の壁がスライドした。
「リナはあの先にある小島にいるわ。行ってやって」
 ガウリイは一礼すると通路の中に入っていった。
 彼の姿が消えると、再び音もなく壁が閉まる。ルナは小さく息を吐いた。
「………ケイン、いるのでしょう?」
 ルナの呼びかけに、柱の影からケインが姿を現す。
「状況は」
「各地の魔物の被害が出始めています。碧鱗の王も動いて下さっていますが…それに西の海域に向かった部隊からの連絡がまだ……」
「そう。
 ……ケイン、キャナルとミレニアムを連れてあそこへ行ってちょうだい。今は並の者では近づくことができないわ。私もすぐに行きます」
「分かりました」
 一礼するとケインは素早く退出していった。


           
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 足下を発光する魚たちが泳いでいく。
「以外と明るいな……さて、と」
 光の剣を腰につけ、ガウリイは魚の群に案内されて通路を進み始めた。
 最初は綺麗に造られていた通路は、やがて元の岩がむき出しの洞窟に変わっていった。
「そういや、ここを通るのは人魚達だからな……」
 洞窟は緩やかに下へと向かっている。
 ガウリイは闇に支配された洞窟に足を踏み入れていった。




to be continue...