硝子の魔法使い
〜2〜




















  何がどぉしてこうなったんだろぉ・・・・・。
 
  「こんにちは!」
  「今日もいるんですね(はぁと)」
  「いらっしゃい」
 
  あ〜〜・・・空が綺麗ねぇ・・・蒼に白い雲がよく映えて・・・・・。
  そっかぁ。蒼に白を混ぜるのもいいかもしんない。

  「・・・おい、リナ」
  
  あ。でもやっぱ、白はジャマかな。
  別の作品になら使えるわね。

  「おい、リナ。ぼ〜っと空を眺めてないで、客の相手をしたらどうだ?」
  「うっさいわよ、ゼル」
  憮然として、隣に座る友人を睨む。
  あたしの次回作の構想を中断してくれたのは、友人で幼馴染みのゼルガディス。
  色の参考になりそうな青銀の髪の、クールでちょっぴりお茶目な男である。
  「だいたいねー、あたしがあそこに並んで立つと、女の子達の視線が痛いのよ」
  「そうですね。何やら女の闘いが繰り広げられてますし・・・」
  人だかりを見て呟いたのは、ゼルの彼女で友人のアメリア。
  見た目は可愛らしい少女だが、正義をこよなく愛する爆裂娘で、例の特殊効果を
  教わった人物だ。
  「いいじゃないか。商売繁盛で」
  「よくないやい」
  やっぱし憮然と答えるあたしだった。

  ――― ガウリイの突然の告白から、はや2週間。
  あたしにぶっ叩かれてもめげなかった彼に、『じゃあ友達から』と、捨てられた
  子犬のよ〜な瞳で懇願されて、思わず頷いてしまったあたし。
  それ以来。
  彼はわざわざ有給休暇を取って、連日あたしの店にやって来ては、手伝いをする
  ようになった。
  その結果が、あの人だかり。それもみ〜んな女性。
  「中身はともかく、かっこいいですもんね。ガウリイさん」
  「・・・そおね。中身を除けばね」
  「ええ。中身以外は」
  しみじみ言うアメリアは、ガウリイとは以前からの知り合いだそうで。 
  親の会社関係で知り合って、時々顔を合わせていたというコト。
  信じられないコトにあのくらげ男、大企業ガブリエフ・コーポレーション社長の
  次男坊!つまり、いいトコのお坊ちゃんだったのだ。
  でも、アメリアの知人ってのは納得。あの娘を見慣れていれば、あたしの特殊効
  果なんかで驚くワケないわ。うん。
  
  「おーい、リナぁ!商品足りなくなったぞ!」
  うげ。んな大声で呼ばないでよ〜〜〜!!
  あうぅぅぅぅぅ・・・・・し、視線に殺気が・・・・・。
  ・・・・・怖ひよぉ・・・・(涙)

  あたしは返事もソコソコに、補充用のバッグから商品を取り出すと、無言で並べ
  てそそくさと退散した。
  あんなおっそろしいトコに、1分1秒でもいられるかい!
  「そう思うなら、手伝いを断ればいいだろう」
  「だ、だって、売上げいいんだもん・・・」
  ぢつは1回断ってるんだけど、ガウリイのあの『捨てられた子犬』の瞳に負けた
  のよぅ・・・。
  それに、妬いてると思われそうで癪だし。
  「・・・なあ、リナ」
  「んあ?」
  「デパ地下の季節限定弁当」
  あうっ?!
  「有名洋菓子店のケーキ各種」
  はぐぅっ!!
  「高級レストランの食べ歩き」
  うにゃあぁぁぁぁぁっっ!!
  じたばたするあたしに掛かる、ゼルの呆れ混じりのため息。
  「やっぱり、そっちが惜しいのか」
  「だってだってぇ〜〜!全部ガウリイの奢りだし、普段滅多に食べらんないもん
  ばっかしなんだもの〜〜〜!!」
  「完璧に餌付けされてますね・・・」
  「やかましいっ!」
  ああでも、反論できないのが哀しひ・・・・・しくしく。
  うぅ。自分でもちょっぴし、意地汚いかな〜なんて思うんだけど・・・。
  食欲という名の欲望には勝てない(涙)

  「おい、リナ」
  「ぅわひゃ?!ってガウリイ?!」
  いつの間に人の背後に?!つーか全然気配かんぢなかった・・・。
  「終わったんだけど」
  「へ?もう?!」
  慌てて見やれば、あれだけの人山は解散していて、簡易テーブルもすっかり片付
  けられている。
  あ。でも、向こうからコッチ見てる・・・(汗)
  「時間には早いけど、全部売り切れちまったからさ」
  「・・・ってまた完売かい・・・」
  ため息を吐く。
  腕時計を確認すれば、午後2時を少し回ったところ。朝の10時から売ってると
  はいえ、補充用まで売り切れるなんて・・・。
  ホントなら、喜ぶべきコトなんだろう。
  でも・・・あたしだけの時は、こんなコト無かった。
  つまりそれは、あたしの作品が目当てなワケじゃなく、目的はガウリイってコト。
  ・・・・・なんかムカツク。
  「なあ、リナ。あのハイヒールの形したヤツ、すぐ無くなっちまうんだけど」
  「硝子の靴のイヤリングのコト?」
  「そう、それ。でも、ヘンなのな?左右ちゃんと揃ってるのに、みんな片っぽし
  しか買ってかないんだぜ?まあ、1コでも値段ついてるけどさ」
  「ああ、それは――」
  「恋のアイテムなんですよね♪」
  あたしの言葉を遮って、アメリアがにこにこ顔で説明する。
  「片方にだけつけるのは、『恋人募集中』のサインなんです。それで恋人が出来
  たら、もう片方を彼氏に買って貰うんですよ♪」
  「へぇ〜。そーいやアメリアは、両方つけてるな」
  「えへへ〜」
  頬を染めるアメリア。
  こーゆートコは、女の子してて可愛い。ゼルが惚れるワケだわ、こりゃ。
  横のゼルを肘で突ついてやれば、赤くなって顔を逸らす。
  ・・・・・後でからかってやろ♪
  「でも、どうして靴なんだ?」
  「ガウリイさん、『シンデレラ』って童話知ってます?」
  「・・・え〜と・・・」
  知らんのかい。
  「あのね、シンデレラってのは、継母と義姉にいぢめられてた少女が、魔法使い
  の力と自分の美貌を武器に、見事お城の王子様をゲットするってゆー玉の輿サク
  セス・ストーリーよ☆」 
  「・・・リナさん・・・それじゃあ、身もふたもないですぅ・・・」
  概ね間違ってないと思うけど。
  「硝子の靴は、王子様をゲットするのに、必要不可欠なアイテムでね。まあ要す
  るに、王子様を夢見る少女趣味な女の子が、シンデレラ気分を味わいたくて買っ
  てくのよ」
  「ふ〜ん。そうなのか」
  うみゅ。理解したかは甚だ疑問だけど、解かった気にはなってるから良し。
  「リナさぁ〜ん・・そうゆう言い方って・・・」
  「なによ」
  「創ってる人のセリフじゃないですよぉ」
  いやまあ、そー言われればそーかもしんないけどさ。
  「でも『恋のアイテム』なんて広まったのは、あんたが噂の元でしょーが。
  『ゼルガディスさんに貰ったんですぅ』って自分で言い触らすし」
  「そ、そうなんですけどぉ・・・」
  もじもじするアメリア。照れんな。いまさら。
  「恋のアイテムねぇ・・・」
  ガウリイは、アメリアの耳に揺れる硝子を見て、何やら唸ってる。
  ・・・ど〜せこの男のコトだから、意味もわからずお姉ちゃん達に誘われて
  たんだろな。すぐに無くなるハズだわ。
  「・・・リナは?」
  「は?」
  「リナはこうゆうの、興味無いのか?」
  「ん、ん〜〜〜〜〜」
  その問いに、あたしは言葉を濁す。
  ・・・だってねぇ・・・コレって・・・・・。
  「あるに決まってるじゃないか」
  「ってゼル?!」
  ああ〜〜!!目が笑ってるぅぅぅ!!
  「そもそもこのイヤリングは、リナのアイディアだからな。おれは何がいい
  か相談しただけだ」
  「へぇ、そうなのか」
  にやにやするガウリイ。焦るあたし。
  「いや別にコレは世間一般の乙女を基準として・・・!」
  「子供の頃、欲しいって言ってただろう」
  「だあぁぁっ!!ゼルっ!!余計なコト喋るなあぁぁぁぁぁっっ!!」
  「リナって結構、可愛いとこあるよな♪」
  「け、結構ってなによ?!あたしは元から可愛いわよっ!!」
  「ああ。そうだな」
  ・・・・・へ?

  ぼふんっ!!
 
  「おお♪真っ赤になった♪」
  「あっ、遊ぶなあぁぁぁっ!!」
  「そうゆう、照れ屋なところも可愛い――うぐっ?!」
  更に言い募るガウリイを、あたしは懐の特製スリッパで沈めた。
  ったくこひつは〜〜〜!!人前でなんつー恥づいコトをっっ!!
  うぅ・・・しっかしあの笑顔は反則だわ・・・・・。
  「ガウリイさ〜ん。生きてますぅ〜?」
  全く心配してない様子で、アメリアが呼び掛ける。と、ガウリイはむくりと
  起き上がった。
  「・・・・いつつ・・・い、いまのはちょっと・・効いた・・・」
  ちちぃ!仕留め損なったか!
  今度スリッパに、鉄板でも仕込んどこーかしら。
  「・・・お前いま、怖い事考えただろ」
  「ゼルうっさい」
  あたしはゼルにも制裁を加えると、アメリアの叫びも無視して、さっさと歩
  き出した。
  その後ろからガウリイが、あたしの商売道具を持って追いかけて来る。
  「待てよ、リナ。どっかでお茶していかないか?」
  「お・こ・と・わ・り!」
  「チーズケーキの美味しい店があるんだけど・・・」
  ぴく。
  ち、ちぃずけぇき・・・・・♪
  「そ、そうね。お茶くらいなら・・・」
  「それから夜は、ロアニア羊のフルコース食いに行かないか?いい店、知って
  るんだ。もちろん、オレの奢り」
  ぴぴくぅ!
  はぅ・・・ひつぢさんのふるこぉす・・・・・♪
  「いってあげてもいいわよ(はぁと)」
  「よし!じゃあ、リナの所に荷物置いてから行こうな♪」
  「うん♪」
  あたしは満面の笑みで頷き―――
  ・・・・・おや・・・・・?・・・あたしいま・・承知しちゃった・・・・?

  「・・・しっかり餌付けされてるな」
  「もう条件反射ですね」
  「しまったあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
  後ろから聞こえてきた友人達のツッコミに、あたしは頭を抱えて叫ぶのであった。

  しくしく・・・自分がちょっぴし情けなひ・・・・・。