悠久の風のなかで |
両手でしっかりと柄を握り、体に深く埋め込ませる。 ガウリイの体を貫いたまま、薄紫の刀身は血を浴びてなお美しく輝く。 「いやああぁぁぁぁぁ!ガウリイ様ぁぁぁ!!」 シルフィールの絶叫があたりに響き渡る。 「ガウリイ!」 「ガウリイさんっ!」 ゼルも、アメリアも、皆一斉にガウリイに駆け寄る。 ガウリイはそのまま、自らを貫く剣を体から引き抜く。 かしゃんっ、と音を立てて『ブラスト・ソード』が地面に落ちる。 「ガウリイっ!!」 あたしは、崩れるように倒れるガウリイを抱き止める。 とたんに溢れ出す鮮血。 みるみるうちにガウリイの服が赤く染まりだす。 綺麗な金の髪も血で汚れ、 温かな血液はあたしの手を伝い、地面にしみを作っていく。 「アメリア!シルフィール!はやく『リザレクション』を!」 「はいっ!」 アメリアとシルフィールがガウリイの側にしゃがみ込み、傷口を伺い、 そのまま、動きが止まる。 「どうしたの?早く!」 あたしは呪文を唱えようとしない二人に声を掛ける。 「……無駄だよ……」 「ガウリイ?」 ガウリイはうっすらと眼を開き、呟く。 「……ちゃんと急所を狙った……もう助からない……」 もう助からない?どういうこと? 死ぬの?死んでしまうの?ガウリイが!? 「なんでっ!なんでこんなことをっ!」 叫ぶあたしを見つめ、ガウリイは微笑む。 「お前は……酷いことを言うな……お前のいない世界で……オレに生きろだなんて……」 「ガウリイ!喋らないでっ!!」 わずかな力を使うだけで、どくどくと血が溢れ出す。 「オレは……お前がいなかったら生きていけないのに……」 「あたし……あたしは、ガウリイには生きていて欲しかったの…… あたしの分まで……幸せになって欲しかったのに……!」 乾いたはずの涙が、また次々と零れ落ちる。 「オレが……幸せになれると思うか?……お前がいないのに……」 「────!」 「オレには……こうするしかなかった……もう一人じゃ生きて行けないほど…… 弱くなっちまったから……」 「……ガウリイ」 「それに……こうすれば……お前と一緒に逝けるだろ?…… オレも……この命を賭けて……『ロード・オブ・ナイトメア』に……この世界のことを…… 祈ってみるさ……」 あたしは、何も言えなかった。 ガウリイは、こんなにもあたしと共に在ることを願っていたのに…… あたしを失うことを恐れていたのに…… あたしはなにも気付かなかった。気付いてあげられなかった。 そのせいで、ガウリイにこんなことをさせてしまった。 「本当の馬鹿だったな。ガウリイの旦那は」 厳しい顔をして、ゼルがガウリイの傍らに座り、話し掛ける。 「何かしら、しでかすとは思っていたがな。…………だけど、お前らしいぜ」 そう言って、微笑む。 「……まあ……な」 ガウリイも、微笑む。 「……お二人に、世界を託します」 俯いていた顔を上げ、フィリアが笑顔でそう言った。 「やっぱり、二人は離れられないんですね」 アメリアが涙を拭いながら、笑う。 「どうか、世界をお救い下さい」 泣きながら、シルフィールが微笑む。 「……ああ……」 ガウリイはみんなに向かって最高の笑顔を見せる。 「ゼル……アメリア……みんな……」 みんな、笑顔であたしたちを送り出してくれてる。 そうだよね、さよならなんかじゃない、また逢えるよね。 あたしも、みんなに向かって笑顔を見せる。 全ては、あたしたち二人に委ねられたから。 一人じゃなくて、二人に。 ……ほんとは一人で逝くのが怖かったの。すごく怖かったの。 だけど、ガウリイがいてくれるなら。 ガウリイがいてくれるだけで、何も怖くない。 「ぐっ…………ごふっ!」 ガウリイの口から、血が溢れ出す。 「ガウリイ!」 みんなの声に、それでもガウリイは微笑みをかえす。 ……もう、時間が無い…… 「フィリア、『シャブラニグドゥ』のところに連れて行って! ガウリイの命の炎が消える前に!」 あたしの言葉に、フィリアが頷く。 「俺も行くぜ。最後までこの眼で見届けさせてもらう」 ゼルがそう言うと、アメリア、シルフィールも立ち上がる。 「私も行きます!悪が滅びる場所へ!」 「私も連れて行ってください」 みんなの気持ちが、すごく、すごく嬉しかった。 出逢えてよかった、あたしたちの大好きな仲間に。 「リナ」 「姉ちゃん……」 姉ちゃんは、優しい笑顔であたしを見つめていた。 「さよならは言わないわ。また逢いましょう、金色の母の元で」 「……うんっ」 「……あとは任せなさい。ほかの魔族共は私が抑えるから……」 姉ちゃんはそう言い残し、少し悲しげな表情を浮かべ、消えていった。 「父ちゃん、母ちゃん……」 泣き崩れる母ちゃんの肩を抱いたまま、父ちゃんはあたしをしっかりと 見据えていた。 「リナ、お前は俺たちの最高の娘だ。俺たちの誇りだ。 自慢の娘をもって父ちゃんは幸せだぞ」 「リナ……いつまでも愛してるわ……」 優しい微笑で、いつものようにあたしを見つめていてくれる、 大好きな、あたしの父ちゃんと母ちゃん。 「ガウリイ、てめえにリナを任すのは不安だがな、頼んだぜ」 「……ああ……」 ガウリイが父ちゃんに笑い返す。 「うん……行ってくるね」 あたしの言葉に、父ちゃんが大きく頷いた。 「さあ、いきましょう!」 「はい!」 あたしたちの周りを、フィリアから発せられた光が覆う。 テレポートする瞬間、あたしの瞳に映ったのは、涙を流す両親の姿だった。 「ありがとう、父ちゃん、母ちゃん!あたしも愛してるからねっ!!」 あたしは出来る限りの大きな声で叫んだ。 ありがとう、あたしを生んでくれて。 ありがとう、我が儘を許してくれて。 そして……ごめんね…… 4へ続く |