運命、そして宿命。









第9話:救出。

……はっきり言って、彼は人間ではなかった。
細かく言えば、彼の脚力だが。
気づいてないとはいえガウリイは、フェリオをぶら下げて、なおかつ木々をよけまく
りながら走っているのだ。
しかも。
そんな条件の下、少なくとも200メートルはある距離を、わずか数秒で移動したの
だから――
この移動速度は、どう見ても人間外である。
まぁ、何はともあれ。
ガウリイとフェリオは、無事にルーナの元へとたどり着いたのだった。
「……ルーナ?」
ガウリイの声は、荒野の中に佇む娘には届いていなかった。
それを証明するかのように――
ぐらりっ、と。
ルーナの体が大きく揺れ、地面に吸い込まれるかのように崩れ落ちる!
ガウリイは手を伸ばすが、それでも彼女には届かない。
――間に合わない――彼が、そう確信してしまったそのとき。
小さな影が、ガウリイの隣をすり抜けた。そして。
……とさっ……
軽い音を立て、ルーナの体は落ちた。
固い地面ではなく、影――フェリオの腕の中に。
「……フェリオ……!?お前、ついてきて……!?」
その光景を見て、ようやくフェリオの存在に気づいたガウリイ。
――そして、もう1つの光景も、同時に蘇ってきた。
「……あ、れ……?
 えっと……フェリオ……フェリオ……
 ………………………………
 ……あ―――――――――――っっ!!!!!思い出したぁっ!!!」
やっと『その記憶』にたどり着き、ガウリイは叫んだ。
「……って、再会を懐かしんでる場合じゃねぇな……
 フェリオ、ルーナの様子は……」
フェリオの近くに歩み寄り、彼の顔を覗きこむガウリイ。
そこには、大きな瞳に涙を溜めた、少年がいた。
「……ふっ……ふえぇぇぇぇぇえええぇぇぇん……
 る……ルーナがぁっ……
 ……ルーナが死んじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!うわ――――――んっ!」
「………あ、あのなぁ。
 良く見ろよ、ほれ」
ガウリイの言葉に、フェリオはしゃくりあげながら、腕の中の少女を見る。
そこには、気絶はしているものの、まだ呼吸のあるルーナがいた。
「な?死んじゃいないよ。
 なんてったって、俺の娘だからな」
すると、フェリオはきょとんとした顔でガウリイを見ると、
「……ルーナのおとーさんなの……?夜行性の……」
「……ルーナ……フェリオになに吹き込んだんだ……?
 ま、まぁとにかく。そうだ」
……覚えてないんだな……まぁ、昔の頃だしな、会ったの……
口には出さず、胸中で呟くガウリイ。
「……ご、ごめんなさい……っ」
「?なにがだ?」
「だ、だって……僕のお母様、僕がケガすると、すっごく悲しい顔するの……
 だから、ルーナのお父さんも、ルーナがこんな大ケガして、すっごく悲しいでしょ

 あの、その、この傷……きっと、僕のせいなの……だから、ごめんなさい」
「……気にするな。
 それより今は、ルーナの状態だ」
言いながら、ガウリイは娘の額に手を当てた。
――熱い。
怪我による高熱である事は、ガウリイにもわかった。
ちら、と右肩を見るガウリイ。そこからは、今でも血が溢れ出している。
とにかく、出血を止めないことには始まらない。
ガウリイは、自分の服をちぎろうと、服に手をかけ――
「……あ、あのね……
 ぼ、僕、これが成功したの、1回だけなんだけど……」
言いにくそうに、フェリオが言った。
「……?」
「あ、あの、でも、ひょっとしたら、上手くいくかもしれないのっ!
 で、でね、それで今日ね、ルーナが『万に1つの可能性にかけろ』ってゆってね、
それで1度も使ったことのない『ブラム・ブレイザー』ってのが成功して……
 だから、これも成功するかもしれない!これなら、何回か練習したし……!」
一方的にしゃべり倒し、フェリオは呪文の詠唱に取りかかった。
今、ルーナを抱えているのはガウリイだ。
本当なら、こんな子供の呪文などに、頼るべきではないのだが――
こいつなら、信用できる。
ガウリイは確信していた。
そして――

「『リザレクション』!」

淡い光が、ルーナを包み――
肩の傷は、完全に消えていた。

「……すごい威力だな……
 普通なら、傷痕くらいは残っちまうもんなのに……」
腕の中にいる愛娘の肩を見つめ、ガウリイは呟いた。
傷のあとなどは全く残っておらず、傷などなかったかのようだ。
だがしかし――
「……まだ、熱いね」
心配そうな瞳で、フェリオは言った。
そう、いくら『リザレクション』とは言え、フェリオの魔力では高熱までは治せな
かったようである。
「とにかく――
 いったん、家に戻ろう。リナなら、きっと俺なんかよりも良い考えを持ってるはず
だ。
 ――お前も来た方がいいな」
そして――
今度は意識的にフェリオとルーナを抱え、ガウリイはまた脅威的なスピードで走り出
した。

<つづく>