運命、そして宿命。









第8話:もう1つの出会い。

どだだだだだだだだだだだだだだだだだだっっっ!!!!!
とてつもなくものすごいスピードで、ガウリイは闇の中を走っていた。
それでいてなんの障害物にも当たらないのだから、まさに本能と運が味方していると
言えよう。
そして。
ガウリイは、くだんの森の入り口に到着した。
「ル―――――――――ナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
声を最大限に引き出し、愛娘の名を呼ぶ。
だがしかし、無情にも返事はなく、彼の叫びは森へと消えた。
「――くそっ!」
悪態をつくと、ガウリイは一目散に森へと走り出した。

闇に包まれた森。
気の弱い人間ならば、絶対に近づかないであろうこの森に――
自分の、娘がいる。
そんな風に考えただけで、リナはもちろん、ガウリイも一瞬立ちくらみを起こしかけ
た。
まぁすぐに、『ルーナはそこらの子供とは違う』と、考えを改めたものだが。
しかし、今のガウリイにとって、そんなことはどうでもよかった。
なぜなら――

――リナと別れるなんて嫌だ!
ルーナの剣の稽古に付き合えなくなるなんて嫌だ!!
生まれてくる子の名前を考えさせてもらえないなんて嫌だ!!!
リナが抱けなくなるなんて絶対に嫌だ!!!!
リナが他の男に抱かれるなんて……死んでも嫌だぁぁぁぁぁっっ!!!!!――

……ここまでくると、はっきり言ってストーカーよりも鬱陶しい。
まぁ、リナにとっては、それが嬉しくもあり、といったところなのだろうが。
恋は盲目、とはよく言ったもんである。
「――!?」
突然。
ガウリイは、右側の茂みに気配を感じた。
……誰だ……?
前に……かなり前に、どこかで会ったような……?
敵意ではない気配の出現に、珍しく頭を働かせるガウリイ。
そう。敵意ではない。
あえていうなら、救いを求めているような……
――と。
がさぁぁっ!
茂みが揺れ、1つの影がガウリイに飛びつく!
そして――
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!
 おじさぁぁんっっ!!助けてぇぇぇぇっ!!」
……ガウリイの耳に届いたのは、少年の涙声だった。
「……へっ……?」
少年を降ろすことも忘れ、混乱するガウリイ。
だが。
「おねがいっ!ぼ、僕の友達が……ルーナがぁっ」
「――!!」
少年の一言に、ガウリイは我に返った。
ルーナ。間違いない。
彼は、本能的にそう確信した。
しかし、ルーナにいつの間にこんな友達が……?
ガウリイは思った。
ルーナは、そんなに人になつく方ではない。友達と遊ぶのより、魔法の勉強をしてい
る方が楽しいと言うくらいだ。
そんな彼女が、ボーイフレンドをつくるとは……
「お前、名前は?」
「え?あ、あの、フェリオだけど……」
『フェリオ』
どこかで聞き覚えのある名前だったが、今はそれを追求している暇はない。
なにしろ、娘の安否と妻との離婚とがかかっているのだ。
「フェリオ。ルーナになにかあったのか?」
「え、えっとぉ…よくわからないんだけど……
 か、肩からいっぱい血が出てた……」
――ルーナが怪我して帰ってきたら、即離婚――
少年――フェリオの言葉に、リナの言葉がガウリイの頭の中で何回も響き渡る。
その声を振り払うかのように、ガウリイは2、3度頭を振ると、
「それで?どっちに行けば良いんだ?」
「あ、あっちだけど……
 でもルーナは、『戻ってくるな』って…でも、それでも、『絶対に死なない』っ
てぇっ……」
――なるほど……そう言ってこいつを逃がしたのか……さすが、リナの子供だな――
声には出さずに、心の中で呟くガウリイ。
弱いものを見過ごせない。そして、例えウソとわかっていようと、相手が安心する言
葉を与え、救う。
意地っ張りで、優しくて――そんなリナの性分を、ルーナは立派に受け継いでいた。
「でも…でも、助けてぇ……
 ルーナ、多分あのまんまだと死んじゃうよぉ……」
「わかった。じゃあ、とりあえず――」
――お前は逃げろ――
ガウリイがそう言おうとした、そのとき。

ちゅっどぉぉぉぉぉぉぉぉんっっ!!!

けたたましい爆音と、眩しすぎる光が、ガウリイ達の目を灼いた。
「――な――!?」
あの方向は――
さっき、フェリオが指し示した、ルーナの居場所。
そして、あの破壊音は――!
「……『ドラグ・スレイブ』……!?」
闇になれていた目は、回復していなかったが――そんなことを気にしている暇は、な
い。
ガウリイは本能のまま、さっき以上のスピードで走りだし――
フェリオは、なぜか、ガウリイの服にしがみついて――
そして。
はたから見たら変な格好で、2人は爆音のした方へと急いだ。

<つづく>