運命、そして宿命。








第5話:賞品は姫君と騎士(ナイト)。

月が、泉の中に浮かぶ。
――それは、月が真上にきた証だった。
そして。
「……来ませんでしたね、あの小娘……」
「いや」
そばに控える男の言葉を、もう1人の男――盗賊団の首領、ウィドシークが否定し
た。
「なぜですか、ウィドシーク様?」
「もう来てるからさ」
聞き返す男――シルバーに、軽く答えるウィドシーク。
そう。
あたしはすでに、ここ――森の泉に来ている。
それにも関わらず、出てこなかった理由は1つ。
……かっこいい登場の仕方が思いつかなかったんだよ。単に。
しかし、我ながら良く来れたもんである。父親譲りの野生のカンが、役に立ったよう
だ。
「そういうわけで。出てきな、騎士(ナイト)さん?」
むか。
「……約束通り来てやったんだ。ちゃんと放せよ、そいつ」
言いながら、あたしは奴らの前に姿を現した。
目の前には、ウィドシークとシルバー、そして数十人の男達と――
なんか芋虫よろしくぐるぐるに縛り倒されてそこらへんに転がってるフェリオ。
……情けない……すっげぇ情けない……
気絶しているようだが、ここで起きてても、なんの役にも立たない――どころか、
ぎゃーぎゃーわめかれてかえって邪魔だろう。
「放してやるさ。
 ――お前が俺達に勝てれば、な」
「月並みだな。
 ……で?まぁ、ありえんとは思うが、あたしがお前らに負けたら?」
「もちろん」
ウィドシークは、月光の下、にっ、と笑うと、
「ルーナ=ガブリエフ。
 お前が負けたら、俺の286人目の女になってもらう」
「……………は?」
予想してなかった言葉に、思わずあたしは間の抜けた声を出した。
いや……あたしはてっきり、『有り金全部差し出せ』とか『俺の手下になれ』とか言
われるのかと思ってたんだが……
「女、って……あたし、まだ10歳だぞ……」
「知ってるさ。
 でも、磨けば光る素質だ。俺が調教してやるよ」
……あたしはライオンか……?
「それに。
 お前の力は、絶大だ。
 あのリナ=インバースやガウリイ=ガブリエフの血を引いているだけのことはある」
「……なるほど、な……
 あたしの力があれば、世界を牛耳れる、とでも思ってるのか?」
「ああ。
 実際に目の当たりにした俺にはわかる。
 ――お前は世界最強だよ」
「敗北者に言われても、全然嬉しくねーな。
 それに、あたしはまだ修行中だ。こんなところでくすぶってるわけにはいかねーん
だよ」
「……ふん……
 さすがは俺の見込んだ女だ。いい性格してやがる」
「………まさか、こないだ倒し損ねた盗賊団が、こんなときに足引っ張ってくれると
はな。
 思っても見なかったぜ、ウィドシーク?」
「ほう。覚えてたのか、俺達の事を。
 やっぱり、親子でも違うところはあるんだな」
すらりっ、と。
ウィドシークは剣を抜く。
あたしも短剣を構え、集中力を高めた。
「――さて。おしゃべりはここまでだ。
 言っておくが、敵が俺1人とは思わないように」
その言葉が、合図であったかのように。シルバーを始めとする、数十人の盗賊達が得
物を構えた。
…………しゃ、シャレになんねぇ……
いくらなんでも、これはいっぺんに相手できない。
魔法で牽制するか?それとも――
などと一瞬迷ったその瞬間。
「かかれぇっ!」
ウィドシークの号令一下、盗賊全員があたしに向かって飛びかかる!
ってオイ!マジでピンチ!!!
「くっ!」
本能のまま、あたしは剣を振り回した。
きぃんっ!!きぃんきぃぃきんっ!!
……ぜーはーぜーはー。
なんとか切り刻まれるのは防いだものの、体力はかなり減ってしまった。
それでも、あっちの戦力は十数人にまで減らした。
けれど……不利なのは、あたし。
ウィドシークやシルバーなど、息切れすらしていないのだ。
……ヤバイ……このままだと負ける……
あたしは集中し、呪文を唱え――
「させるかよっ!」
吠えて、ウィドシークがあたしに駆け寄る!
呪文を唱えたまま、迎え撃つあたし。しかし。
「っりゃぁぁっ!」
「!? うあっ……!!」
受け止めきれず、よけきれず。
ウィドシークの剣が、あたしの右肩を貫いた――

<つづく>

……だから……戦闘シーンは苦手なんですってば……(泣)
盗賊については………やっぱり言わないでやって下さい。(汗)