宿命の終わるとき |
第16話:蒼玉の紅いチカラ。(4) 「みゅ?」 大人達に、『大切な話があるから』と、外に放り出された後。 しばらくリーク、アイリスと一緒に遊んでいたミリーが、ふと、何かを感じ取った。 「おーい、ボールはやくなげろよ」 急かしてくるリークに、ミリーはボールを投げてから、 「リーク、アイリスちゃぁん!おうちがなんかへんなのぉーっ」 「え? いえがへん、って……なんかあったのか?」 1番家の近くにいるミリーの周辺に集まるリークとアイリス。 ――確かに、言われてみれば、何かが違う。 「そういえば、けさ、ルーナおねーちゃんどこかへんだったなの…」 「まさか、『いえで』しちゃったんじゃ?」 「やぁーんっ、ルーナおねーちゃんいなくなっちゃうなの!? やだぁぁーっ!」 リークの一方的な推理に、泣きじゃくるミリー。 「ともかく、いえにもどろーぜ! こんなときこそ、俺たちがだいかつやくして、こづかいアップをよーきゅーするチャンスだ!!」 ……何だかちょっとズレた考えではあるが、ともかくミリーとリークは、家の中へと向かう。 黙りこくっていたアイリスもたたっと駆け出すが、ふと、その足を止めた。 そのまま、静かな光を宿した瞳をあらぬ虚空へと向けると、 「―――だから、『本当に大切なモノを失わないように』って……言いましたのに」 ぽつりとそう、呟いた。 「――あの子の瞳にはね、能力があるの」 しばしの沈黙の後。 リナは静かに、フェリオに向かってそう話し始めた。 「人と、ほんの少しだけ違う力。 ――心に過度の負担がかかった時にだけ発動する力…… 『『自分』を瞳の底に隠してしまう能力』」 「……瞳の…底に?」 「ええ。 ……過去に1度だけ、ルーナが今回と同じような状態になった事があるのよ」 「リナ、話すの?」 ルナの問いかけに、リナは首を縦に振った。 「この話をしなきゃ、始まらないと思うから」 「……そうね」 「あのねフェリオくん、実は、ルーナが5歳の時の事なんだけど――」 と、ちょうどその時。 ――ばたぁんっ! 「ママママママぁぁぁっ! ルーナおねーちゃん『いえで』しちゃったなの!? ミリーやだぁっ!」 「ルーナねーちゃんがいないと、とーさんたちがあさおきるのおそいときのちょうしょくにこまるっ!」 「………………」 入ってきたのは、シリアスモードを一気にぶち壊すミリーとリークの黄色い声と、空間を再びシリアスモードに引き戻すアイリスの沈黙。 「あんた達、外で遊んでなさいって……!」 「だってだって、なんかへんだなーってかんじたなの! そしたらルーナおねーちゃん『いえで』しちゃったってリークがゆーから、おそとであそぶのやめたなのっ!」 「ルーナねーちゃんどこに『いえで』したんだ!? 俺つれもどすっ! そしたらそとであそぶっ!」 「……いやあの……確かにある意味、家出っちゃあ家出に違いないんだけど……」 力なく呟いて、リナは頭を抱えた。まだ5歳のこの3人に、どうやって説明したらいいものやら。 ちらり、と他のメンバーに助けを求めるが、誰もがそそくさと目を逸らした。唯一ガウリイとだけ目があったものの、彼に任せたらそれこそとんでもない方向に話が進む。 ――と、その時、思わぬところから助け船が出た。 「リーク、お前は連れ戻しに行かなくて良い」 フェリオ―― 彼がぽつりと、そう呟く。 リークはあからさまにむっとした表情で、 「なんだよ。俺がいかなきゃ、だれがいくんだよ!」 「――俺が行く――俺がルーナを連れ戻す」 その言葉に――全員が、息を飲んだ。 「ちょっと……正気? さっき、あんな事言われたのに、まだ懲りてないの!?」 アスカの意見は尤もだった。 『強くなってお前を殺してやる!』――あれは確かに、ルーナからフェリオに向けられた憎悪の言葉。 だがそれでも、フェリオの信念が変わる事はなかった。 すっくと座っていたソファから立ち上がり、ごそごそと取り出したるは、やたら豪華な宝剣。 それをゼルガディスに向かって放り投げた。 「――預けとく。それじゃ、勝てっこないだろうし」 「それじゃあ、何で戦うつもりだ?」 「これ」 別に取り出したのは、――魔剣。 「ってそれ! 俺のだろうが!!」 思わず叫ぶゼルガディス。 フェリオは悪びれた風もなく、 「借りてくぜ、父様♪」 腰に装備する姿が何気に決まっているのは、やはり父親からの遺伝か。 「そいじゃ、連れ戻しに――」 「待ちなさい。 ……私が黙って、あなたを行かせるとでも思ってるの?」 窓から出ようとするフェリオを止めたのは、やはりルナの声だった。 「さっきの責任問題だって、解決していないし。何より、私はあなたを信用できない」 「………多分……さっきの責任問題ってのは、きっと一生解決しねー」 俯き、自嘲の笑みを浮かべながら彼は言った。 「俺が取るべき謝罪の行動とかは、ルーナが決める事だろうし……? あんたが俺の事信用できないってのも反論できないし、それに、俺にはルーナを追いかける資格がないーとも思ってるんだろ?」 「当たり前よ。ルーナをあそこまで追い詰めたのはあなただわ」 「……けどさ……。 俺さ、ぶっちゃけた話、資格なんて別にいらないんだよな」 ――顔を上げた彼の表情は――どこかふっきれた、清々しい表情。 「資格なんかどうでもいい。でも―― ――俺以外のヤツがルーナを傷つけるのだけは、絶対に許さない」 ひょい、と窓枠を越え、外へ。 「あ――そうそう。 リナ義母さんがさっき言いかけたヤツの事だけど」 「……誰が義母さん……?」 思わずリナのツッコミが入る。 フェリオはとりあえずそれを無視すると、 「カイルの事なら、知ってるから」 「――え…?」 「だって」 そこには、いつものように大人達を欺き続けた、天使の笑顔ではなく。 フェリオ=グレイ=ティル=セイルーン――彼自身の、本当の笑顔。 「カイルを殺したの、俺だから」 『……えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 「じゃ、カタート山脈までちょっくら行ってきまーす♪」 「………大至急フィリアに連絡ぅぅぅぅっ! カタートまで運んでもらうわよ! やっぱし信用ならなぁいっ!」 『賛成っ!!』 <つづく> |