宿命の終わるとき |
第13話:蒼玉の紅いチカラ。(1) 「……………何か言いたいことはあるかしらこの世界最大の愚か者? ちなみにあっても聞かないけど」 「……なら聞くなよ……」 昼前。 仕事場にいて連絡のつかないガウリイより先に、この家にやって来たのはアスカだった。 ルナももうそろそろ来るはずだ。 アスカは加害者の襟首を掴んだままの体勢で、尋問まがいのことをすでに始めていた。 「だいたい……何にも事情を知らない、そこらへんの身の程知らずがやったならともかく…… 事情を隅から隅まで知ってるあんたが、傷抉るような真似してどーすんのよ!」 アスカは加害者――フェリオから目を離し、一瞬だけ、隣の部屋にいるルーナの方へと目を走らせる。 ―――まるで、別人のようだった。 いつも輝きを保っていた瞳はくすんで色褪せ、唯一女の子らしかった艶のある長い髪の毛は、カラカラに乾いてパサついている。 その顔に浮かぶものは何もなく、ただ、どこかを―― 一番大切だった人間のいる場所を、見つめ続けていた。 「…………こんなの……カイルの時と、一緒じゃない……!」 「!……カイル?」 「……そっか、あんたは知らないもんね。 でも絶っっっ対!に、教えてやらない」 「………あ、そ」 知ってるからいーけど。 その言葉は胸中だけで呟くと、フェリオはルーナをちらりと見て、 「俺も、どうしてあーなったのかはわからない。 朝起きて――ルーナが起きたとき、すでにああいう状態になってた」 「……わかってるわよ、それは。 問題はそこじゃなくて。 あんたがルーナを襲ったってゆー事実の方が問題なの」 「…? 何でだ?」 「何でも何も!!」 アスカは空いている方の手でフェリオの眼前に人差し指を突きつけると、 「嫁入り前の娘に手ぇ出したってのがモンダイなのーっ!」 「……ああ。それなら全然。ノープロノープロ」 フェリオは悪びれた様子もなく、アスカに襟首を掴まれた姿勢のまま、手をぱたぱた振りながら、 「俺がルーナの嫁入り先だし♪」 「……リナおばさま……この生き物、死ぬまで殴っても良いですか……?」 「……いやそれはちょっと……それ、あたしがやる予定だったし……」 頬をぽりぽりと掻きながら、それでも物騒なセリフをさらっと吐くリナ。いつの間にか、事の成り行きを後ろの方で見守っていたらしい。 「まぁ、それは保留として」 リナは真摯な表情になると、 「アメリア達に連絡を入れたから、きっともうすぐ来ると思う。 ルナ姉ちゃんもそうだし……ガウリイも、もうそろそろで帰ってくるはず。 ……全部話せ、とは言わないわ。 そのかわり、お願い………どうしてこんなことをしたのか。それだけでも、話してくれる?」 その言葉に、フェリオはアスカの手をゆっくりと外させ、リナに向き合うと、頭を下げた。 「………………理由だけなら。 それだけなら――――話す」 ……………………どこ? ここ。 寒い。 暑い。 狭い。 広い。 悲しい。 嬉しい。 ……………………私、誰? この世界にとって、どうでもいい存在。 この世界にとって、とんでもない存在。 この世界にとって、どのくらいの存在? 私は、誰なの? 胸が苦しくて、 思い出そうとすればするほど、締め付けられる。 記憶に微かに残ってる、あのひと。 銀色の髪? 青は混じってる? どんな瞳? 優しい? 暗い? ――それが、私を誰なのかを、教えてくれるひと? ――それが、私を誰なのかを、奪っていったひと? あなた、誰? ……私……誰? ―――――アナタハ私ノ存在スル理由ヲ、知ッテイル人デスカ―――――? 思った瞬間。 世界が。 真っ赤に染まった気が、した。 <つづく> |