宿命の終わるとき |
第12話:儀式の果てに…(4) 「うみゅぅ……」 「ふぁ……」 ミリーは目をこすりながら、リークは大きな欠伸をしながら。それぞれ、良い香りの 漂うダイニングルームへと引き寄せられた。 「おはよう、ミリー、リーク」 「おはよーなのぉ……」 「おはよぉ……」 まだ眠りの世界から足を抜けられないでいるのか、声がいつもと違っておっとりとしている。 リナは双子の頭をそれぞれ軽く叩くと、 「はいはい。眠気覚ましに、お姉ちゃん達起こしてきてね」 『ふぁーい…』 いつもならば抗議の嵐なのだが、やはり寝ぼけているらしい。素直に返事をして、 ルーナの部屋へと向かった。 リナはため息を吐くと、ふと考えを巡らし、 「………フェリオくんはともかく、ルーナがこんなに遅いなんて珍しいわね…… あたしやガウリイも、カンペキ熟睡してたし……昨夜はよく眠れる気候だったのかしら?」 ルーナはどんなに遅寝しようとも、朝の8時には必ず起きていた。だが今はもうすぐ9時。 「……ま、あの子も人間だしね」 たまには寝坊もあるだろう――リナはそう自己完結した。 ここんっ。ここんっ。 同時にルーナの部屋をノックするミリーとリーク。だが、中の気配には全く動きがなかった。 ………それに、何より……… 「……ふたり……いる、よな?」 「……みゅ。ふたりいるなの」 ここは、ルーナの『1人』部屋。だが中の気配は、『2つ』だった。 つまり――もう1人、誰かいるのだ。この中に。 「だれだろ……?」 「きっと、『どろぼー』なのぉ!」 「……フツー、にげるだろ。それなら。さっき。俺たちがノックしたじてんで」 「みゅー……じゃあ、だれだろ?」 首を傾げる双子。 ふとリークが思いつき、そっと、ドアノブに手を触れた。 回し、軽く力を込めて押す。 ―――開いた。 「……はいる?」 「はいるなの?」 「……はいろうぜ」 「はいるなの!」 そのままドアを押し続け――だんだん、部屋の中が見えてくる。 散らかった衣服。カーテンが閉まっていない窓。 そして、――ベッドに横たわる、1組の男女。 ……フェリオが、ルーナを抱え込むようにして眠っていた。 『…………………』 なんだか見てはいけないものを見たような気になって、そっとドアを閉じるリーク。 ミリーとリークは同時に顔を見合わせると、 「……らぶらぶ、なのぉ」 「ああ。らぶらぶ、だったよな。いまの…ふんいき?って」 「どーしようなのぉ?」 「……たしか、ルーナねーちゃんは……『らぶらぶのさいちゅうは、じゃましないよ うにそっとみまもるべし』ってゆってたけど…… けっきょく、あれ、どーゆーいみだったんだろうな?」 むろんそれが、ルーナにとって『盗聴』の意義であったことに気付く彼らではない。 「ママにきーてみるなの」 「……それもそうだな」 完全に目が覚めた双子は、再びダイニングルームの方へ歩き始めた。 「らぶらぶだったなのー」 「だからルーナねーちゃんのいうとーり、じゃましないほうがいーのかも、て」 「それでね、でもね、わかんなかったから、ママにきこーとおもったなの」 「かーさんならわかるかな、と思って」 「………………ちょっと整理するから静かにしてて」 ダイニングルームの隣――キッチンにて。 いつもの調子に戻った双子の言葉の嵐に、リナは頭を抱えた。 「……つまり…… ルーナと誰かが、『らぶらぶ』だったっての?あんた達が言うように」 「だれか、じゃないなの。フェリオおにーちゃんだったなの」 「は?」 「フェリオにーちゃんが、ルーナねーちゃんといっしょに、らぶらぶだった」 「………百聞は一見にしかず、って言葉の必要性………初めて知ったわ………」 呟いてリナは、火を止めると、言われるままにルーナの部屋へと足を向けた。 そして。 リナが硬直したのは言うまでもないだろう。 ―――気配がする――― 自分に、自分たちに向けられる視線と気配が。 「……………ん……ぅ………?」 目を開けば、開きっぱなしのカーテンのせいで、窓から差し込む朝日。 フェリオは身を起こすと、伸びをして――自分に視線を送る人影に向かって、挨拶した。 「おはよーございます♪」 「にこやかに言うなっっっ!!!」 リナは叫ぶと、フェリオに向かって指を突き付け、 「で?この現状はどーゆーことなのかしら!?」 「……どーゆー……って…… 見たまんま」 「それが信じられないから聞いてんのよっ!! ……ルーナに何したの!?」 「何…って。そりゃ」 フェリオは入り口の所で事の成り行きを見守っている双子に目を走らせると、 「3歳のお子様の前では言えないような事」 あっさりとそう言い返す。 「〜〜〜〜っ! あのねぇっ! 真面目に答えなさい!」 「……俺は至極真面目に答えてるつもりだけど……」 「答えてなぁぁいっ! しかも何気に口調変えてるんじゃないわよっ! ………あなた、何者なの!? 本当にフェリオくんなの!?」 「ああ。 セイルーン国第1王位継承者、フェリオ=グレイ=ティル=セイルーン――それが俺だ」 リナには理解できなかった。 どういうこと? 目の前にいる、年相応の――いや、それよりももっと上の、まるで一国の王のような この少年が、昨日まで幼い子供だった彼? この1晩のうちに……一体、何が……? リナがそこまで考えを巡らすと、 「…………ぅ…んぁ………」 ルーナのうめく声。 一同が息を飲んで注目する中、彼女の瞳が震え――ゆっくりと開かれた。 ルーナは身を起こし、続いて回りを見回し――呟いた。 「………ここ、どこ………?……………………あなた達、誰?」 ――――と……。 <つづく> |