宿命の終わるとき |
第11話:儀式の果てに…(3) ――自分は、少し目が良すぎたのかもしれない―― この状況下で、ルーナはなぜか、そんなことを考えていた。 もう少し、夜目が利かなければ。 この事実に気付くことはなかったはず―― ルーナはそう、望んでいた。 「……やっぱり、タイミングが悪過ぎるよ。ルーナは」 この闇夜に溶け込めそうなくらい、暗い声。 フェリオはそっと、ルーナの首筋に指を滑らせた。 「いっつもそう……。はあ。 出来れば、なるべく使いたくなかったんだけど……」 1人言のように低く呟くと、フェリオは普通の人間には意味不明な言葉を紡ぎ出す。 だが、ルーナにはその言霊の意味が否が応にでもわかってしまった。 ――攻撃魔法!? そう認識するやいなや、ルーナは暴れ始める。 ……ろくな抵抗にもなれなかったが。 やがて呪文は完成し―― 「……『アーク・ブラス』」 ばちぃっ! 「――ッ!?」 声にならない悲鳴が、ルーナの口から飛び出した。 放出された雷電は、部屋の四隅にあらかじめ置かれていた短剣にそれぞれ収束したり するものもあれば、…ルーナの身体を直撃したものももちろんあった。 「やっぱり、短剣立てといて正解かな。他の部屋に感電して、起きちゃったら困るし」 「う、くぅ……」 身体に広がる痺れ。声はほとんど出ないに近い。 「ごめんね。ちょっと手荒だけど、これしかないから」 ――さわやかな口調で言うなっ!―― そう言おうとしたが、声にならない。 「あ、でも大丈夫だよ♪ 感覚とか、そういうのには反応出来るように調整したから」 フェリオの言葉に、ルーナは眉をひそめた。 感覚神経残して、何になるというのだ? 「あのね、実はね。 隠してたことがあるんだ」 にっこりと微笑んで。 フェリオは言った。 「――久しぶりだな。ルーナ」 『彼』の微笑みに、悪意が混じる。 口調が変わり、ルーナは一瞬戸惑った。 ―――お前……誰だ……? その思いが通じたのか、『彼』は笑みを深くすると、 「お前に会ったのは、8年前が最初で最後だったからな。 ……フェリオ=グレイ=ティル=セイルーン。 間違いなく、俺の名前だ」 『彼』――フェリオは、そう言いきった。 ルーナの方は、驚くばかり。 この声を――どこかで、聞いた。 ルーナはそう感じていた。 「まぁ、それより。 早いとこ始めないとな……」 『始める』? ……何を……? 「儀式だ」 フェリオが低く、そう囁いた瞬間。 ルーナは言い知れぬ悪寒を感じ取った。 ――怖い! ……そう、思った。 記憶の海から浮上してきたのは、あの日の出来事。 記憶の海の底に沈めたはずの、忌まわしい記憶。 あの、洞窟で。初めてある種の『恐怖』を感じた瞬間のときが。 鮮明に蘇った。 そして。 身体を、自分ではない誰かに明け渡したその刹那。 脳裏に浮かんだのは―― 一番大切だったはずの、カイルではなく。 常に傍で笑っていた―――――フェリオの姿だった――――― <つづく> |