宿命の終わるとき









第6話:堕天使の誘い(2)





1度で良い。



1度で良いから、誰よりも強くなってみたかった。



もう誰も、死なせることがないように……






「こんばんは、フェリオさ……」
「『エルメキア・ランス』っっ!!」
光の槍は、あっさりとかわされた。
「いきなりですか?乱暴ですねぇ……」
「『ブラム・ブレイザー』!!」
またも軽々とかわされる。
「いやですから、話を……」
「『エルメキア・フレイム』!!」
「ですから、話を聞いて下さいってばぁ〜!!(泣)」
涙すら流して懇願してくる魔族に、フェリオは魔法を唱えるのをやめた。
「人のベッドに堂々と正座してるからだ。
 ……で?何の用だ?……えっと……」
「ゼロスです。名前までは覚えてらっしゃいませんでしたか」
ゼロスはにっこりと微笑むと、
「実はですね、つい先程、ルーナさんにお会いしてきたんですが…」
「……ルーナに?」
一瞬だけ、フェリオの顔色が変わる。
ゼロスは乾いた拍手を送ると、
「さすが、似てますね。ガウリイさんに――
 あと、ゼルガディスさんにも」
自分の『モノ』に他人が触れることは、絶対に許さない。
常に前を見続ける者に惹かれた男が持つ、特有の感情――
「………それで?なんの用だ」
「手厳しいですねぇ。
 …本題に入ります。あなたは、10年前のことを覚えてらっしゃいますよね?」
「ああ。ルーナを魔王の依り代にするとかゆーフザけたことをお前が言いに来たとき
だろ」
「はい。
 ――やっと、ルーナさんの魔力が確立したんですよ。リナさんと同等の――いえ、
彼女を超える魔力が」
ぴく、と反応するフェリオ。
ゼロスは満足げに頷きながら、
「彼女の承諾も得ました。リナさんやガウリイさんにはもちろん内緒ですけれどね。
 そうですね、明日――いえ、明後日かその次くらいに、ルーナさんをお迎えにあが
ります。こちらにもいろいろと準備があるので」
「……ルーナがそんなことに協力するってのか?」
「はい。ちゃんとお聞きしましたよ、『誰よりも強くなりたいとは思いませんか?』
と。
 魔王様の依り代になれば、確実に誰よりも強くなれます。……他の人間全てを滅ぼ
すんですから」
「さすが魔族、というか……舌先三寸が得意だな」
「リナさんほどじゃありませんよ。……あなたほどでも」
「で?それで、俺にどうしろと?
 第一、お前が俺にそんなこと話してなんの得に…?」
「僕は、あなたに教えに来ただけですよ」
ゼロスは笑みを深くした。

「……『やるべきことは、早く済ませてしまった方が良いんじゃないんですか?』と
ね……」

闇よりの使者は、変わらぬ笑みのままでその姿を消した。




あとに残されるは、

悪魔に誘われた堕天使のみ―――








「ルーナぁっ」
「……?フェリオか?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。
「鍵はあいてる。入ってこいよ」
「はーい」
予想通りの姿が入ってくる。
「どした?」
「あのね」
ベッドに寝そべって魔道書を読んでいるルーナの隣に、フェリオはぽす、と腰を下ろすと、
「聞きたいことがあるんだ♪」
「?なんだよ。答えられる範囲でなら答えてやるけど」
魔道書を閉じ、身を起こすルーナ。
フェリオはにっこりと微笑むと、
「んーとね。
 もし、変われたらどうする?」
……………………
「はぁ?」
質問の意味がわからない。
「んと、ね。
 人って、変わるでしょ?」
「そりゃあまぁ……成長すりゃあな」
「そーじゃなくて。気持ちの問題」
「?気持ちの?」
「うん。
 たとえば……極端な話だけどね。
 ……身近にいる人が裏切ったりとか、逆に嫌いな人が味方になってくれたりと
か……そーゆー変わり」
「……さっぱりわからんけど……
 別に、いーんじゃねーの?そーゆー変化」
ルーナはぼすっ、とベッドに身を沈めると、
「それって、身近な奴の違う1面が見れるってことだろ?それはそれで面白いんじゃ
ねーの」
「……じゃあルーナは、裏切られたりしても怒んないの?」
「怒るさ。もちろん。
 ……でも、それなりの理由があるんなら……許すかもな」
「…………ふぅん……」
「でも、なんでンなこと聞くんだ?いきなり」
「ちょっとねっ♪」
フェリオはベッドから腰を上げ、
「ありがとルーナっ♪」
そう言って、ばたばたと部屋を出ていった。
「……………なんだぁ?変なの」
ルーナは再びごろんとうつぶせに寝転がり、読みかけの魔道書を開いて、見つめるこ
としばし。
「………はぁ」
ルーナはため息をつくと、呟いた。
「……別に、あいつになら裏切られても許せるだろうけどな。
 まぁ、あいつがそんなことするはずないけど」




……………その『裏切り』が、

       最悪な形で突き付けられることを、彼女は知らない……………



<つづく>