宿命の終わるとき











第4話:変化の後の一大事(4)


洞窟の入り口には、3人の盗賊みたいなのが転がっていた。
彼女は遠慮無くそれらを1つ1つ踏みつけ、生死を確認する。
……不幸なことに、1人だけかろうじて息があった。
「うぎゅ。」
「あ。生きてるし」
不幸づくしの男の襟首を引っ掴んで立たせると、アスカは射殺すような視線を向け、
「誰にやられたの?これ」
「な……なんでンなこと、俺が……」
「いいから答えなさいって。
 栗色の髪の女の子?銀髪のキレ気味な男の子?」
にこやかな笑顔や言葉とは裏腹に、アスカの足は男の鳩尾を捕らえていた。
「別にいーのよ。答えなくても。
 あんたを地獄に叩き落せば済む話だし」
「……い、言えばいいんだろ……!
 銀髪の男だ……!」
「あっそ。ありがと♪」
用済みとなった男を放り出すと、アスカは洞窟の入り口を見据え、
「……ってことはー……ルーナが死ぬ程危ないってことよねぇ……」
―――手遅れだったらあの銀髪殺ス。
心の中で物騒なことを考えつつも、アスカは洞窟の中へと足を踏み入れ――ようとし
て。
彼女は、近づいてくる気配を捉えた。
2つ――1つは、死人のごとく薄い気配だ。
そしてもう1つは、普通の人間なら絶対に出す事の出来ないほどの、濃い憎悪。
間違いない。これは――


「なんとか無事だ」
腕の中に少女を抱えたまま器用に座ると、フェリオはそう言った。
「……それのどこが?」
皮肉をたっぷりと込めて言うアスカ。
彼女の視線の先には、満身創痍のルーナがいた。
「……少なくとも、俺が心配してたことにはギリギリ間に合った。
 怪我の方は、魔法でなんとかなるだろ」
「………身体の傷は、ね」
意味深にアスカは言った。
「? どういう意味だよ、それ?」
「女の子はそう簡単じゃあないってことよ」
「……よくわからんけど……
 それよりも、それ、なんだ?」
言ってフェリオが指差したのは、ずっと手に抱えていた包み。
「あ、これ?
 ルーナにあげようと思ってたクッキー」
「…………………」
どうコメントしていいのかわからず、フェリオはとりあえず押し黙った。
――眠り姫の目が、覚めるまで――
「……ん」
ぴく、とルーナが身じろいだ。
「ルーナ!?」
さっきまでの憎悪を上手く隠すと、フェリオはルーナに向かって呼びかける。
すると、彼女が呟いたのは―――
「………と、う…………ィ……」
アスカには聞こえないくらいの、小さな声だった。
そのままルーナは再び気を失い、フェリオの胸の中に崩れる。
「…なんてゆったの?よく聞こえなかったんだけど」
聞いてみる。すると……
殺気が溢れた。
「――え…!?」
すとん、と。
腰が地面に当たった。
立てなくなったのだ。フェリオの放つ、殺気によって。
「な……え……?」
「………なんで」
うろたえるアスカのことなど気にも止めず、強くルーナを抱き締めると、フェリオは
暗い表情で呟いた。
「なんで……お前は、いつになったら『俺』を見てくれるんだよ……!?」


青銀の髪。
灰色の瞳。
ずっと友達で、
すっと恋人で、
ずっと一緒だと思ったのに…!


「…………ここは……」
ルーナは一瞬、状況が掴めなかった。
天井を見つめたまま、頭の中を整理する。
――確か……なんだか母さんのせいで襲われかけて……そしたらなんだか腹痛くなっ
て……んで、気ぃ失って……
………あ……母さん殴りたくなってきたかも。
理不尽な怒りを抱えていると。
「……あ、起きた!?」
そこには、いつの間にいたのか、フェリオが笑顔で立っていた。
「良かったぁ。あのね、ミリーやリークが心配してたから。
 僕も気になって様子を見にきたんだけど……どこか、痛いところとかない??」
「……なんか、腹が妙に重い」
ぽす、とベッドに座ると、
「あ、それね、『女の子特有の病気』なんだって♪」
にっこりとフェリオが言った。
「……はぁ?なんだそりゃ?」
どうやらそこらへんの知識はないらしく、素直にクエスチョンマークを飛ばすルー
ナ。
「さあ……リナおかーさんに聞いたら、そうとしか教えてくんなかったよ」
と、フェリオが思いついたように、
「あ、あとね、言ってたよ。
 『良く頑張ったね』って」
「…誰が?」
「僕が♪」
フェリオは視線をさまよわせると、
「んとね、よくわかんないけど、ルーナ、すっごい怖い思いしてたんでしょ?
 だから、『頑張った』……」
声が止まった。
ルーナの手が、フェリオの服の裾をぎゅっと握ったのだ。
「……ルーナ?」
答えずに、ルーナはこてん、と頭をのっけると、
「………怖かった」
震える声、そして白い手。
顔は俯いているせいで見えないが、フェリオには想像出来た。
――今にも、泣き出しそうな顔が。
「……『良く頑張ったね』」
言葉は、それだけに留めておいた。


―――あともうちょっと…待つつもり、だったけど。
早めたが、いいな……―――

その考えは、胸に秘めておいて。



<つづく>