宿命の終わるとき











第2話:変化の後の一大事(2)


「うだぁぁぁぁぁぁぁっ!降―――ろ―――せ―――っ!」
数人の男どもの中でも、一際大きな男に担がれながらも。
ルーナの元気さ…もとい、やかましさはとどまるところを知らなかった。
「静かにしろ!!
 …くそ、なんだってこんなにやかましいんだ!
 おい、本当にこいつはリナ=インバースの『娘』なのか!?」
「当たり前だろうが!俺の調べたことだぞ!?
 第一、あのリナ=インバースのガキが、これと正反対……無茶苦茶おとなしい、
お嬢タイプだったらどうする!?」
「う゛っ……わ、わかった。悪かった。
 しかし……リナ=インバースの娘にしちゃあ、簡単だったな」
いまだ暴れまくるルーナを見ながら、男の1人が言う。
「あたしが魔法さえ使えりゃ、お前らなんかにあたしが捕まえられるわきゃないだろーが!
 なんだっていきなり、魔法が使えなくなってんだよ……!?」
言葉の後半は、自問するにとどめた。
しかし、耳聡くそれを聞き逃さなかった1人の男は、
「ま、俺達にとっちゃそっちの方が好都合さ。
 下手に魔法なんぞ使われたら、いろいろと面倒だし……それに、魔法を防ぐために
口を塞いだりしたら、せっかくの『お楽しみ』が半減しちまうし…なぁ?」
そう言って、仲間と共ににやついた笑みを浮かべる。
「…?なんのことだよ?」
「そのうちわかるさ。ところでお前、いくつだ?」
「年か? 13だけど…」
嘘をついてもしょうがない。ルーナは正直に答えた。
「ふぅむ……おい、ヤれると思うか?」
「ギリギリってとこだが……ま、イケるんじゃねぇか?
 腐っても女だし。どっちにしろ、ボスが先にやっちまうだろ」
「ヤれなきゃヤれないで、どっか専門の方に売り飛ばせば済むことだ。
 そういうルートに関しちゃ、ボスは詳しいしな」
「??」
…ルーナは基本的に、『そういうこと』の知識は、世界最強のウェイトレスによって
一通り知っている。
だが、いざとなって自分にその事態が降りかかっても、いまいち現実味が湧かないのか、
今のルーナには自分の置かれた現状がさっぱり理解できなかった。
まぁとにかく、とりあえずは、脱走のチャンスを待つのみである。
そのためにはまず、体力温存。ルーナは暴れるのをやめた。
「お?降参か?」
「……引き際は良い方なんだ」
「口だけは減らねぇな。…まぁ、いいけどな。
 こちらとしても、今お前に無駄に体力を使われると困るんでな。せいぜい覚悟して
おくことだ」
「……?」
この後に及んでも、ルーナにはまだわからない。
やがて―――
「――着いたぜ。ここが、俺らのアジトだ」
ルーナを担ぐ大男が言った。
彼女の目の前には、工夫も何もされていない洞窟の入り口が、ぽっかりと口を開けて
いた――…


「ちょっと!待ちなさいよ!!」
アスカは声いっぱいに叫んだ。
しかし、それで目標の人物――フェリオの足は止められない。
「待ちなさいってば!剣も持たずに行く気!?」
「―――そんなもん持ってたら、スピードダウンしちまうだろーが!!」
こちらを振り向かずにフェリオは言った。
「〜〜〜〜っ!ああもぉ!!
 あのねぇっ、あんたがキレるのはわかるけど!!
 ルーナに本性バレてもいーわけ!?」
「―――――!」
ようやっと。
フェリオの足が止まった。
「やっと止まったわね……
 今あんたがルーナに本性バレたら、いろいろと困るんでしょ?あそこまでひた隠し
にするぐらいだものね…
 第一、ルーナの居場所、わかるの?」
「……あいつの気配ぐらい、いつでも追える」
「じゃあ、ガウリイさんが帰ってくるのを待って、道案内だけでもすれば……」
「………わない」
ぼそりと、フェリオは言った。
「え?」
「それじゃあ……間に合わないんだよ!」
言い捨てて、再び駆け出すフェリオ。
慌ててアスカも後を追う。
「ちょ…ちょっと!
 間に合わないって何が……」
「いいか!?ルーナは女だぞ!!
 魔法の使えない丸腰の女を、誘拐犯どもが放っておくと思うか!?」
「!!」
「……確かに、『俺』の存在がバレるのは困る。
 でも……」
ぎりっ、と奥歯を噛み締めながら、フェリオは苦い想いで言った。
「でも…ルーナが他の男のモノになっちまったら、『僕』のやってきたことも、
『俺』のやってきたことも、全部意味がなくなるんだよ!!」
「……!?」
アスカは足を止めた。
……あの男は……もしかすると……
アスカはしばらく考え込むと、弾かれるように踵を返した。


……10分見続けたら、間違いなく吐くな……
『盗賊のボス』とやらを見た瞬間。
ルーナはそう思った。
まぁ、こういう盗賊の場合、ボスの顔とゆーのはたいてい醜いもんである。いつしか
倒した、ウィドシークは例外だが。
今回の盗賊のボスとやらは、例に漏れず醜かった。
しかも、いつも目にしている男と言うのは、それなりに顔立ちが整った奴ばかり。
ルーナにはかなりキツいものがあった。
――盗賊のアジトとやらには、数十人の男ども。
そのうち、一番奥の方でえらそーにふんぞり返っている、件の醜いボスが言った。
「これがあのリナ=インバースのガキか……
 お前の母親には、昔ずいぶんと世話になったんでな。礼をさせてもらう」
「手荒い礼みたいだな。母さんのした事が、なんであたしに降りかかってくんだよ?」
精一杯の嫌悪を込めて、ルーナは憮然と言い返す。
「ま、あの女の娘に生まれてきたことを不運に思うんだな。
 ……強気な瞳をしてやがる。あの女にそっくりだ」
ぐ、と顎を持ち上げられ、ルーナは死ぬ程気持ち悪くなった。
振り払おうにも、両腕を後ろから2人がかりで抑えられているため、できない。蹴り
入れたところで、かえって立場を悪くするだけだろう。
――あああああっ、もぉっ!
 母さんっ!独身時代に、一体何やって生きてきてたんだよぉっ!?
この場にはいない母親に向かって毒づくルーナ。
盗賊の親玉とやらは、ルーナの顔をじっくりと見た後で、やっと顎から手を放す。
そして少し離れると、今度は全身を舐め回すように見始めた。
――うああああ!精神ダメージでかすぎるぅぅぅ!誰でもいーから、この状況なんと
かしろぉぉぉっ!
心の中で、ルーナは必死に叫んだ。
しかし、まさかそんなことで助けがくるはずもなく。
やがて満足したのか、盗賊の親玉は下卑た笑いを浮かべると、
「おい。こいつ、魔法は?」
「普段は使える、と言い張ってますが…多分ハッタリですぜ。
 呪文らしきもんは唱えてましたが、そよ風すら起きませんでしたよ」
「そうか…なら平気だな。
 ……お前自身に恨みは無ぇんだけどな……ま、これが運命だったとでも思って、諦
めてくれや」
「?何言って―――ッ、かは…っ!?」
苦しげな呻き声が、ルーナの喉から漏れる。
それは、いきなりこの場にいた全員の男に、地面に押さえつけられたせいだった。
「何す……っ!?」
「自分の娘が犯されたとあっちゃあ、あのリナ=インバースも大ダメージだろうなぁ?」
嬉々とした口調で言う親玉。
ここにきて、やっとルーナは自分の置かれた状況を理解した。
「ば…バカかお前ら!?
 あたしを犯したぐらいで、母さんが泣き寝入りするとでも思うのか!?3日後には、
お前ら全員この世から消し飛んでるぞ!?」
それでも闘志だけは失わず、言葉で抵抗するルーナ。
だがルーナを放すどころか、親玉はより一層楽しそうに彼女にのしかかると、
「まぁ、犯しただけじゃ報復しにくるだろうな。
 だが―――犯し殺された自分の娘の死骸が玄関先に転がってたら、母親はショックで
2、3日は寝こむだろうなぁ…?」
「……っ!」
「その間に俺らは、国外逃亡、ってわけだ。
 ……ま、それもこれも全部、あのリナ=インバースの災いってことにしておくんだな……」
親玉が目で合図すると―――
――ビリ、と音を立てて。ルーナの服が、胸元で裂けた。


―――ちゃんと殺しておくべきだった―――
フェリオは死ぬほど後悔していた。
死なない程度に殴る、などと生ぬるいことはせずに、きちんと見せしめとして殺して
おくべきだったのだ。
結果、ルーナはさらわれた。これは自分の判断ミスだ。
もしルーナが、他の男に犯される、などということがあったら……
その男はもちろん――多分、ルーナも殺すだろう。
かけがえのない大切なもの。
……奪われる前に、奪うべきだったのか……?
答えの出ない問いを、いつまでも繰り返しながら。
銀髪の鬼神は、ルーナの気配の行きつく先――洞窟の入り口を発見したのだった。


<つづく>



次回、銀髪の裏表男がキレます。(笑)
お楽しみにー♪(待て)