Goodbye…







第二話

ガウリイと別れてから、一ヶ月が経って。
でももう十年も二十年も経ったような、そんな空虚な気持ち。
今あたしは、故郷へ帰ってきていた。
たった一人で。目的もなく。
ガウリイは一緒に行きたがっていたみたいだったけど。
でももう傍にはいないもの。
あたしが離れた。
「ただいま〜〜!」
そして家の前で怒鳴る。
家の奥から走ってくる音。
「おかえりなさい、リナ。」
母ちゃんだ。
「帰ってきたか、リナ。」
続いて父ちゃん。
―――あれ?
「姉ちゃんは…?」
尋ねたあたしに母ちゃんが即答した。
「あんたの後ろ」
「え、う…?うきゃぁぁぁぁ!」
ほんの後ろに姉ちゃんが仁王立ちで立っていたのだ。
心臓が飛び出るかと思った…
………気配全くしなかったし…さすが姉ちゃん。
「まったく、この子は人を見るなり悲鳴なんか上げて…」
「あ、ね、姉ちゃんごめん………」
「まあ、いいわ。おかえり、リナ。」
「うん、ただいま…」
あたしはこうして何年ぶりかの故郷に帰ってきた。















第三話

久しぶりの自分の部屋は、綺麗だった。
マメに掃除をしてくれていたのだろう。
埃もたまっていなかったし、布団もふかふかで清潔だった。
あたしは『久しぶりに帰ってきて安心して疲れがどっときた』と言って早く寝ること
にした。
まだ夕方だったけど。
何故か故郷に帰ってきたらイキナリ気が抜けて、今までガウリイと旅してきたのが夢
みたいに思えたのだ。
コンコン
寝ようとベッドに座り込んだ時、ドアをノックする音。
そういえば、ガウリイもよくあたしの部屋にノックして入ってきたっけ…
ガウリイ…元気かな……
「……!」
はっと息を飲む。
忘れるのよ!忘れるんじゃなかったの!?
あたしはぶんぶん首を振る。
「リナ、起きてるわよね?」
姉ちゃんだ。ほぼ確認のような口調でいうのはいつもながら止めて欲しいものであ
る。
脅されてるような気分になるのはあたしだけでもないだろーし…
「起きてるよ。」
「入るわよ。」
姉ちゃんが入ってくる。
いつも通りの笑みを浮かべて。
いつも通りの見透かすような瞳で。
「リナ…何か、あったでしょう?」
ぎくり
「何かって…?」
極力目をあわせないようにあたしは答える。
「リナ。」
「…………。」
「私に隠し事をするのなら…覚悟は出来ているんでしょうね?」
「…………別に…たいしたことじゃない。」
あたしは俯き、呟いた。
「でも隠し事は隠し事よ。全部話すなら、今なら許してあげるけど?」
沈黙。その沈黙を破ったのはそれに耐えかねたあたしだった。
「………わかった…話す…」
あたしは旅をしてガウリイに出会ってそして別れたことを全部話し始めた。















第四話

「それで、あたしがさよなら言って、ガウリイと別れたの。今から一ヶ月ぐらい
前。…これで、全部。」
あたしは話し終えて溜め息をついた。姉ちゃんは静かに口を開いた。
「質問は、二つよリナ。…一つ目、あんたはガウリイっていう人が好きだったのね
?」
「…………うん。」
あたしは躊躇いがちに答える。
「二つ目。あんたはその気持ちを言ったの、その人に?」
「…ううん、言ってないわ、全く。」
あたしは首を横に振る。
姉ちゃんは笑った、笑って静かに言った。
「荷物を片付けなさい、リナ。」
「…………え?姉ちゃ…?」
言いかけてびくりと身体が震える。
目が、笑ってない…。
「聞こえなかったの?荷物を片付けなさい、リナ。」
「な、なんで……」
「片付けて、家から出ていきなさい。」
「ちょ…!?」
さすがに抗議の声を上げるあたし。
「こんないい加減な終わり方をするような人間はインバース家にはいないわ。キッパ
リけじめをつけるまで、家に帰ることは許さない。あんたを妹とも思わない。…いい
わね?」
「いい加減なって…あたしちゃんとさよなら言ったわよ!」
「逃げてるでしょう。」
「………!?」
「逃げてるんでしょう?リナ。その人に拒絶されることから逃げてるんでしょう?」
姉ちゃんの厳しい声が、あたしの胸に突き刺さった。
「あ……」
うつむいたあたしに姉ちゃんはやさしい顔になった。
「あんたは、今もまだ好きなんでしょう?」
好き?まだ?あたしは…ガウリイが…
「好き……よ……好き……ガウリイが…あたし……」
涙が流れた。そうよあたしは好きよ。ガウリイが好き。
だってまだあの人のことを考えるだけで心がしめつけられるもの。
忘れるなんて出来ないもの。
忘れたくてもいつもいつも彼のことばっかり…
「逃げていたら思い出にもかえられないわ。宙ぶらりんでおわることもはじまること
もできないわよ。」
姉ちゃんが言う声が聞こえた。頭に何度も何度も響いて。
あたしは涙を拭う。
「…行くわ。あたし、会いに行く、ガウリイに。気持ちを言って…ケジメつけてく
る。それまで家に帰らないわ。」
姉ちゃん。ありがとう…
その言葉は、ケジメをつけてから言うから。
「行きなさい、リナ。」
いつも通りの姉ちゃんの声が、何故か幾分優しく思えた。

〜〜続く〜〜