Goodbye…







第五話

そしてあたしは荷物を片付けた。
旅に出ていた時と変わらない、全くそのままの荷物で。
そして旅にでていた時とまったく同じ姿で。
気配を殺して家を出た。

いってきますは言わなかった。
ただいまを終えていないから。

そうしてそのままあたしはそっと家を出た。
家族全員がそれを見ているとは知らずに。

「いいの、ルナ?行かせて。」
リナの背中を見つめながら影の一つはルナに尋ねた。
「いいのよ、あの子の道はあの子が決めるわ。それにハッパかけたのは私だしね。」
「まあ、噂は本当だったのね。」
尋ねた人影は、何がおかしいのかほほほと笑った。
「青春ねぇ…。」
しみじみ呟いた言葉には、懐かしみも込められていたようだった。
「んで?そのリナに惚れられた奇特な男っつーのは誰だ?」
もう一つの人影が多少不機嫌そうな声でルナに尋ねる。
ルナは小首を傾げて呟いた、
「さあ、詳しいことは聞かなかったけど…旅先で知り合って三年ぐらい旅していたと
か言っていたわね。たしか名前はガウリイって…」
「はぁっ!?ガウリイッ!?」
そう叫んだ人影は、二つの人影により口を塞がれた、
「と、父さん声大きいわよ。知ってるの?その人。」
慌てたルナの声が口を塞がれた人影に伝わり、その人影は落ちついた。
「んー…まあ、な…ちょこっとな…もしリナの惚れたのがあいつなら――…」
人影は頭をかいたようだった。
「これも…何かの縁ってわけか。」
溜め息交じりに呟いた言葉には、あきらめも混ざっているようだった。
暗がりに身を潜めた三つの影は、そんな会話をしながら小さくなっていくリナの背中
を見守っていた。















第六話

家を出て一ヶ月。
世の中そんなにうまく出来ていないようで。
ガウリイの行方は今だわからず、噂にすら聞かない。
街道を歩きながらあたしは溜め息をつく。
もしかしたら、このまま会えないかもしれない。
でも、会わなきゃ終われない。
始まることも終わることも出来ない。
だから、探すわ。絶対にあきらめない。
会ってこの気持ちを伝えるまでは。
「あの、長身で金髪の男を見なかったですか?」
何度この問いをしただろう。
「いいや、見てないけどねぇ…」
そのたびこんな言葉がかえってきた。
会え…ないのかな…
もしかしたら…ガウリイはあたしに会いたくなくて、わざと姿を隠しているのかも…
そんな不安も心の中をしめてくる。
それとも…幻だったのかな、ガウリイと過ごした日々は。
本当は一人だったのかもしれない。
根拠なんてない、ないけどありえないことでもないから。
100%の可能性なんかじゃないけど0%の可能性なわけでもないから。
でも、でもね。
そうじゃない可能性も0%の可能性なんかじゃないけど100%の可能性なわけでも
ないから。
だから…あきらめないよ、あきらめない。
ケジメ…つけたい。
「ううん…それだけじゃない」
…………会いたい。
「あたしは、ガウリイに会いたい。」
もう一度、あの優しい瞳に見つめられていたい。
「………ガウリイ………」
呟いたあたしの視界の隅に金色の煌き。
あたしを映し出す空色の澄んだ鏡。
これは夢?
「がう……りぃ……」
思わず声がかすれた。涙が出そうになる。
「リ…ナ……?」
ガウリイだった。
紛れもなく、夢でも幻でもなくガウリイだった。
しかもそこは二ヶ月前、あたし達が別れた場所だった。
















最終話

「リ…ナ……」
ガウリイはしばし呆然と佇んでいたが、いきなり踵を返した。
「待って!」
「何だ……?さよなら、しただろ?」
苦しそうなガウリイの声。立ち止まったが振り向いてはくれない。
あたしも苦しくなる。
「ケジメを、つけにきた…」
「ケジメ?さよなら、で終わっただろう?ああ、俺が言わなかったからか?さよな
らって。なら今言って…」
素っ気無い言葉。あたしは…思わず黙りそうになるのを必死に堪えた。
「違うわ、言えなかった事、言いにきた…あなたはどうか知らないけど…あたしに
とっては大事な一言で、ずっと言うのが恐かった事。」
「何だ?」
ガウリイは、こっちを向かずに尋ねた。
あたしは言った。躊躇いがちに。
「ガウリイが、好き…あたしガウリイが好き。」
「!?」
ガウリイがはじめて、ふりかえる。そして、溜め息をつく。
「保護者として…か?」
「違う…保護者なんて…嘘…。男としてガウリイが好きなの、大好きなの、今も
―――…」
ガウリイは呆然としていたが首を横に振り、眉間に皺を寄せて苦しげな声で呟いた。
「夢、か…?夢だよな。こんな都合のいい事起こる筈…ないよな。頼むから…こんな
夢は覚めてくれ。もう俺を惑わすのはやめてくれ…忘れられなくなる…」
ガウリイ。あなたも苦しんでたの?忘れられなくて苦しんでたの?
ねえ、夢じゃないってどうしたらわかる?

How can I let you know…(どうしたらわかってもらえるかしら)
I’m more than the dress and the voice…(私は服と声ばかりじゃない)
Just reach me out than……(こちらに手を伸ばしてくれたら)
You will know that you’re not dreaming…(夢じゃないってあなたもわか
るのに)

いつかどこかで誰かに教えてもらった、知らない言葉の歌の一部。
それが頭を過ぎった。
手を伸ばしてくれたら。
伸ばしてくれたら?そんな都合のいいコトあるわけはないわ。
じゃあ、どうすればいい?
そしてあたしは思いついた。
彼が夢じゃないってわかるには…
「ガウリイっ!」
そしてあたしは彼に力いっぱい抱きついた。

手を伸ばしてくれないのなら、自分が手を伸ばせばいいわ。
待ってるだけなんてあたしらしくない。

ガウリイは…手を伸ばしてあたしを抱きしめた。
あたしの存在を確かめようとして。
あたしはそれを抱きしめかえす。
「ねえ、ガウリイ…夢じゃない、でしょ?あたし…ここにいるよ。」
ガウリイはコクコクと頷いた。
「ああ、わかった…わかったよ。リナ、さっきの、夢じゃなかったんだよな。いるん
だよな?ここにいるんだよな…?」
ガウリイはぽろぽろと笑いながら涙を流した。あたしも笑いながら涙を流した。
「いるわ、いる。あたしあんたが好き、好きよ。恐くて逃げてばかりいた。でももう
逃げない。だから、あたしを見て。」
ガウリイはあたしをそっとはなしあたしの顔を見た。
「リナ……」
懐かしさと安堵で顔がほころぶのがわかった。
「返事は断られてもいいと思ってる。でもこれだけは言いたかった。あんたが好き。
さよならなんて…本当はしたくなかった…でも失うのが恐かったの、あんたを失うの
が恐かったの…でもあたしあんたのこと忘れられなくて……だから……」
しどろもどろになった。ただ今まで殺してきた思いを全部伝えたくて。
「愛してるよ。」
ガウリイの一言にあたしは目を見開く。
「ガウ…!?」
「愛してる、リナを愛してる。何とも思ってない奴と別れてこんなに苦しんだりしな
い。お前のせいで命をおとしたって後悔するつもりはないし、お前が、お前のせいで
俺が死んだら苦しむっていうんなら、俺はお前を残して逝ったりしない。だから…ワ
ガママかもしれないけど、頼むからもうさよならなんて言わないでくれッ!俺を…一
人になんてしないでくれ…ッ!」
あたしは、その時ガウリイの孤独を知った。
ずっと恐かったんだね?ガウリイも、あたしと同じだったんだね?
「ごめんね…ありがとう………」
ガウリイに抱きついてあたしは言った。
「もう、離れない…ずっと傍にいる…いさせて……」
「離してって言っても…もう離さない。」
あたしとガウリイは抱き合ったまま涙を流しつづけた。

別れた場所でまた出会って、またあたし達は一緒にいる。
違うとしたら今度は保護者と被保護者じゃなくて、恋人同士として一緒にいるってこ
と。
ねえ、ガウリイ…一緒にいようね、何があっても。
もう、離れないから。
一緒に故郷へ帰ろう。
そしてずっと…一緒にいよう。
ねえ、ガウリイ。




〜〜おわり〜〜








**あとがき**
ついにおわった・・・・長かったです。
連載は私の性格上向いてないんでこれからやめよう。
とか誓いをたててる今日この頃です。
それでは。最後まで読んでくださっていたらば光栄です。
では・・・ありがとうございました。