A couple pass each other







5.彷徨いしもの

「さぁ、リナさん。もう逃げ場はありませんよ?
おとなしく従ってもらえませんか?」

闇の神官が酷薄な笑みを浮かべて言い放つ。

「いやよ!!!誰があんたなんかに!!!!」

栗色の髪の少女は呪文を唱え始める。

「またその呪文ですか、無駄と言ったはずですよ」

闇の神官はにこやかにそう言うとあっという間に
少女の間合いに入ってその唇をふさいだ。

「ん、んむーっ」

苦しげにもがく少女。
それをさも楽しそうに見つめる神官。

「そうだ、もっと楽しいことをしましょうか。
 リナさんがガウリイさんのことを忘れられるように」

神官はわざとらしくそう言うと少女の服を一気に引き裂いた。
少女の瞳が見開かれ、その表情は凍り付いている。

「くくく、実に美味しいですね
 リナさんの負の感情は。
 これからもっと絶望というものを
 味わいさせてもらいましょうか」
「いや・・・こんなのいや・・・・・。
 たすけて・・・たすけてガウリイぃぃぃっっ!!!!!」

「リナぁぁぁぁっっ!!!!」

ガバッ!!!

・・・・・・。
夢、か・・・・。
窓からは柔らかな日差しが部屋に注ぎ込まれ
小鳥のさえずりが聞こえる。
オレはしばらくベッドで呆然としていたが
やがて我に返ると手早く着替えて食堂に向かった。

「・・・・酷い顔だな。例の夢をまた見たのか?」

先に席に着いていたゼルガディスが話し掛けてきた。

「・・・・ああ」

そう、ゼルガディスと合流して一週間たったが
いまだにリナの情報は掴めない。
そして三日前からさっきの悪夢をみるようになったのだ。

「気にするなというのは無理かもしれんが
 ここは大きな街だ、ここならなにかわかるかもしれんぞ」

この街には昨日の夕方についたばかりで
まだほとんど情報収集していない。
ゼルガディスに聞いたところによると
確かこの街は沿岸諸国連合の国のひとつで
名前はク・・・なんとかシティとかいうらしい。
なんでも世界で一番大きな時計台のある街として
有名な観光都市だそうだ。
リナと一緒に来てればその時計台に行ったり
名物料理を食べたりしたんだろうが・・・・・。

「おい、いつまでも暗い顔してないで
 さっさと食べろ。もたもたしてると
 貴重な時間がなくなるぞ」

ゼルの言葉にオレはあわててごはんをかきこむ。
リナと別れていらい、飯の味がわからなくなって
食事量はかなり落ち込んだのだが
現実問題として食べなければ生きていけない。
リナを探すためにも体力が必要だしな。
オレたちは手早く食事をすませると
さっそく情報収集に出た。
だが、そう都合よく情報を掴めるはずもなく
時間はあっという間に過ぎていき
はやくも昼時になろうとしていた。
オレたちに諦めムードがただよいはじめた時だった。

「ああ、その娘なら一ヶ月ほど前に
 泊まっていかれたよ」
「本当かっ!!?」

オレの剣幕に多少後退しながらも男は答えた。

「あ、ああ、本当だ」

やったぞ、ついに手がかりを掴んだ。
ここは街外れの宿屋で男はその主人なのだ。

「で、次にどこにいくか聞いてないか?」

ゼルが冷静に聞いた。

「あ〜、確かねぇ、なんていったかな。
 ほら、二年ぐらい前にセイルーンが
 主導になって外の世界を探ろうと
 各国の外交団を集めた港街があっただろ?
そこに行くって言ってたよ」
「ありがとうございます!!!」

オレはそう言うと宿屋を飛び出した。

「おい、ちょっと待てよガウリイ!!!」

慌ててゼルガディスがオレの後を追ってきた。

「いや、待てん!!あの街だったら
 ここからそう遠くないはずだ。
 もしかしたらまだいるかもしれないだろ!!?」
「わかっている、だからいったん落ち着いて
 オレの話を聞け!!!!」

そこでオレはようやく足を止めた。

「なんだよ、話って!?」

オレがそう言うとゼルは無言でマントから
ロープを取り出して、自分の胴の部分に巻きつけた。

「??」

なにするつもりだ??
オレが疑問に思っていると
ゼルはそのロープの先をオレの手首に縛りつけた。

「お、おい、ゼルガディス!!?」

オレが驚いてゼルに聞くと
笑みを浮かべながらゼルは言った。

「オレは男を抱いて空を飛ぶ趣味はないんでね」
「へ!?」
「しっかり掴まってろよ。レイ・ウィングっ!!!!」
「どわああぁぁぁぁっ!!!??」

オレはゼルに吊るされた格好で宙に浮いた。

「こ、これはいくらなんでもつらいんだが・・・・・」
「我慢しろ、急ぎたいんだろ!?」

ゼルの言葉にオレは黙り込んだ。
だが、飛んでから数分たったとき
遠くから金色のなにかがすごい勢いで
こっちに向かってくるのが見えた。

「なんだあれは!!?」

オレが声をあげるとゼルもそれを確認したようで
術を解放し地上に降り立つと、剣でロープを断ち切った。
オレもブラスト・ソードを抜き放つと身構えた。
やがてそれが近づいてくるとゼルが呟いた。

「黄金竜・・・」

黄金竜!?
それって確かミル・・なんとかさんや
フィリアが黄金竜じゃなかったっけ?
オレがそう思っている間にも
黄金竜はぐんぐん近づいてくると
オレたちの前に降り立ち、人の姿へと変身した。

「「フィリア!!?」」

オレとゼルは同時に叫んでいた。
そう、あの異世界の魔王との戦いのときに
同行した竜の巫女、フィリアだった。
しかし、再会を喜んでいる場合ではないのは
彼女の表情を見てすぐにわかった。
その顔は切羽詰って青ざめているようだった。

「よかっ・・・た・・見つか・・って。
 大・・・変・なんで・・す。
 リナさん・・が・・・ゼロスに・・・」

フィリアは苦しそうに途切れ途切れにそう言うと
ばったりと倒れてしまった。

「リナがゼロスに・・・」

感じていた不安が最悪の結果となってしまった。

「ともあれフィリアを近くの宿屋に運ぶぞ。
 すべてはそれからだ」
「たが、リナが!!!」
「旦那の気持ちはよくわかる。
 だが冷静になって考えてみろ。
 リナがゼロスにどうされたかも
 どこに連れて行かれたのかもわからないまま
 あてもなく彷徨うつもりか?」
「・・・・・・。」

確かにゼルガディスの言っていることは正論だった。
しかしこうしている間にもリナがゼロスに囚われているのかと
思うといてもたってもいられなかった。
自分のふがいなさ、無力さに心の底から怒りを感じ
握り締めた手からは血が滴り落ちる。

「とにかくフィリアが気がつけば
 もっと詳しい情報がわかるはずだ。
 とっととフィリアをさっきの宿屋まで運ぶぞ」
「・・・ああ」

そしてゼルガディスが一人で彼女を背負うとしたのだが・・・・。

「お、重い・・・・」

ゼルガディスほどの力を持っていたら
フィリアぐらいは楽に運べそうなもんだが。

「ぼぉっとしてないで手伝え!!!」

ゼルの言葉にオレはフィリアの足を持った。

「な、なんだぁ!!?」

オレはあまりの重さに驚愕の声をあげた。

「フィリアは竜だからな。
 人の姿に変身しても重さは変わらんというわけだ・・・・」

ゼルガディスは冷汗をかきながら言った。
そしてオレたちはなんとかフィリアを宿屋まで運ぶと
宿主に適当な理由をつけて布団を借りると
床にそれをしいてフィリアを寝かせた。
だって、あの体重だぜ!?
ベッドに寝かせようもんなら・・・・(汗)。

「リザレクションを使えるヤツが
 いたらよかったんだが・・・・・」

ゼルは苦い表情で呟いた。
オレはそれを聞いて黒髪のいつも元気な正義少女を思い出した。
おそらくゼルも彼女のことを考えているに違いなかった。

「う・・・うん・・・・」

フィリアはうめくような声をあげると
突然、ガバッと身を起こした。

「ここは!?」
「街外れの宿屋だ」

彼女の問いに間髪いれずにゼルが答えた。

「そうですか・・・・」

そう言って俯くフィリア。

「まだ身体がきついだろうが、どうしても聞きたいことがある」

オレがそう言うとフィリアは顔を上げてオレを見た。

「わかってます、リナさんのことですね?
 ごめんなさい、わたしの力が足りないばかりに・・・・」

そう言ってまた俯いたフィリアにオレは言った。

「別にあんたを責めているわけじゃない。
 オレはただ、リナが攫われた時の状況と
 どこに連れ去られたのかを知りたいだけだ」

するとフィリアはポツポツと事情を話し始めた。
リナと再会した時のこと、
すでにその時にはゼロスに狙われていたこと、
そしていまさっき強引に連れ去られたこと。
すべてを話し終えるとフィリアはため息をついてから言った。

「残念ながらわたしはゼロスがどこにリナさんを
 連れて行ったかはわかりません。
 でも、もしかしたら自分の本拠地に行ったのかもしれません」
「本拠地!!?」

オレの言葉にフィリアは大きく頷いた。

「群狼の島、だな?」

ゼルガディスが厳しい表情で言った。

「ええ、確信は持てませんが・・・・」
「いや、その可能性は高そうだ」
「おい、待てよ。なんなんだその『群狼の島』って」
「だがら、今言ったゼロスの本拠地だ。
 正確に言うならばゼロスの主である
 獣王ゼラス=メタリオムの本拠地だがな」

オレの問いにゼルは答えると空を仰いだ。

「もしそうなら絶望的だな・・・・」
「なんだと!!?」
「オレの情報が正しければ群狼の島は北の海の果てだ。
 だが正確な位置はわからないんだ。
 たどりつくまえに野垂れ死にするのが関の山だ。
 万が一、運良く辿り着けたとしても
 あの獣王の本拠地だぞ!?
 あっという間にやられてしまうさ・・・・」

そう言うとゼルガディスは大きなため息をついた。

「それでもオレは行く。
 リナはかつてオレが冥王に捕われたときに
 危険な禁呪を使ってまでオレを助けてくれた。
 今度はオレの番だ。
 おまえたちが行かないというのなら
 オレは一人でも行く」

オレがそう言うとゼルは苦笑いをした。

「誰が行かないと言った?
 オレは絶望的だと言っただけだ。
 助けに行かないとあとでリナになにされるかわからんからな」

そう言ったゼルの顔は心なしか赤くなってるようだ。

「わたしも行きます。
 船で行くより、わたしが
 運んだ方が時間を短縮できますし
 なによりあの生ゴミ魔族なんかに
 リナさんを渡すわけにはいきません!!!!」

フィリアはきっぱりと言い放った。
オレは二人を見回した。
二人の瞳に強い決意を感じてオレは頷いた。

「じゃあ行くとするか」
「待て、まずはセイルーンに行ってからだ」
「セイルーンに!?」

オレは驚きの声をあげた。
まさか自分からアメリアを巻き込むようなことを
ゼルが言い出すなんて思いもよらなかった。

「ああ、そうだ。あそこの王宮図書館なら
 群狼の島について書かれている書物があるかも知れん」
「・・・・いいのか?」
「なにがだ?」
「巻き込むことになるんだぞ!?」
「何言ってる!!?リナが攫われている時に仲間外れにするほうが
 よっほどあいつを傷つけることになる。
 それにあいつは強いしリザレクションも使える。
 充分に戦力になると思うが?」
「ゼルがそれでいいのならオレはかまわんさ」

オレはそう言うとフィリアの方に視線を向けた。

「身体はもう大丈夫か?」
「ええ、全然平気です!!!
それじゃ早速セイルーンに行きましょう!!!!」

そして、オレたちはフィリアの背に乗って
一路セイルーンを目指した・・・・・。







 【TO BE CONTINUED】


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ああ、話が最初の構想からどんどんずれていく・・・・・。