A couple pass each other

4.招かれざる魔族 「リナさん、起きてください!!!!」 「ふぇ・・・?」 あたしを起こす声にあたしはゆっくりと 上半身を起こした。 「今、何時?」 「八時すぎです。 　ホントはもうちょっと早く起こそうと 　思ってたんですけど、あんまり幸せそうに 　寝てるものだからつい・・・・。 　リナさん、最近あんまり寝てなかったんじゃないですか?」 「そうね・・・・。 　それよりも朝ご飯食べましょ」 あたしはわざと明るい声で言うと 着替え始めた。 そしてあたしとフィリアは手早く朝食を すませて部屋に戻った。 「やっぱり早いとこガウリイさんを 　探し出した方がよさそうですね・・・・」 沈痛な面持ちで言うフィリアにあたしは聞く。 「なんでよ?」 「だってあのリナさんがたった三人前しか 　食べないなんておかしすぎます!!!!」 あ、あのねぇ〜〜〜。 あたしは思わず脱力した。 そんなあたしに畳み掛けるように フィリアは続けた。 「なにせ世界が危機に瀕している時も 　神殿にいくより、食欲を優先した方ですからね」 ・・・・・。 あたしにケンカ売ってるんだろうか? そう思ってフィリアを見ると恨めしそうな目つきをしている。 やばい、今の彼女にヘタなこと言ってはいけない。 あたしは長年(?)の付き合いからそう感じた。 こんなところでキレられて竜変化でもされたら 目も当てられない。 「あの時は悪かったわよ。 　それよりもガウリイの居場所を 　占うんじゃなかったの?」 これぞ必殺の話題すり替え大作戦である。 フィリアに通用するかちょっぴり不安だけど・・・・。 「ああ、そうでした。さっそくやりましょう」 どうやらうまくいったようである。 「それではリナさん、瞑想しますから 　ちょっと静かにしていてくださいね」 そしてしばらくの間、沈黙が流れる。 「はっ!!!」 フィリアは突然目をカッと見開いて 紙に何かを描きはじめた。 「ふぅ〜」 ため息をついて彼女はペンを置いた。 そして紙をあたしに差し出した。 そこには大きな時計台のある町が描かれていた。 「この・・町はっ・・・」 あたしは驚いた。 なぜならその街には一ヶ月前ほどに 訪れた町だったからだ。 「心当たりがあるんですね?」 「心当たりも何もつい一ヶ月前に行った町よ!!!」 その街は沿岸諸国連合のひとつの国の町で 名前はクロード・シティ。 元結界内の中ではもっとも大きな時計台のある町して かなり有名な町である。 それゆえに観光地として栄えており あのイルマードにつぐ国である。 「なら早速行きましょう!!! 今から飛ばせばなんとか間に合うからしれません!!!!」 「待って!!!」 今にも部屋を飛び出しそうな勢いの フィリアにあたしは待ったをかけた。 「どうしたんです!?」 不審そうな顔で聞いてくる彼女にあたしは答えた。 「あんたって絵、こんなに上手かったけ?」 ズシャッ!!! あ、こけた。 「こ、こんな時に何言ってるんですか!!?」 呆れたような、それでいて困ったような表情を 浮かべるフィリアにあたしは言った。 「だって前にガウリイとアメリアを探したときに 　あんたが魚の絵を書いたじゃない? あの絵はこう言っちゃなんだけど 　ド下手だったわよ?」 あたしがキッパリ言うと フィリアは怒るかと思いきや ため息をついただけだった。 「あの絵は本物の魚ではなく 　魚の形をした島を描いたのですから 　しょうがないんです。 　もともと職業柄、絵は得意なんですよ」 しょ、職業柄って・・・・・。 火竜王の巫女をやってた時も 人探しとかやってたんだろーか?(汗) 「ともかくっ、急がないと間に合わなくなりますよ!!!」 「わかってる」 そしてあたしたちは宿の払いをすませると フィリアが竜変化できるような 人気のないところを探すことにした。 「はぁ・・・」 あたしはフィリアに気づかれないよう小さくため息をついた。 昨日はその場の勢いで会うなんて言っちゃったけど 一晩明けて冷静になってみるとやっぱり会わない方が いいんじゃないかと思い始めていたのだ。 だってあたしから別れを切り出したわけだし 今さらどんな顔して会えばいいのかわからない。 それにガウリイはもうとっくにあたしのことなんて 忘れて、他の人と楽しくやっているのかもしれない。 あたしはそれが怖い。 ガウリイが他の女の人と笑いあってる姿なんて 絶対に見たくない。 そこまで考えて、あたしは自分の考えに苦笑した。 あたしってばこんなに独占欲が強かったのね。 やっぱり会いたい。 ガウリイがあたしのこと忘れているなら 思い出させてやるし 他の女の人と付き合ってるなら あたしの方が魅力的だってことを教えてやるわ!!! そこまで考えたとき、フィリアの声が聞こえた。 「着きましたよ、リナさん。 　ここなら竜変化しても大丈夫です」 考えごとしているうちにいつの間にか 街外れまで来ていたみたいだった。 「それじゃ・・・・。 　おおおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!!」 フィリアが人の姿から美しい黄金竜へと姿を変えた。 「さ、早く乗ってください」 「うん」 あたしはレビテーションを唱えて フィリアの背に飛び乗った。 「それじゃ、行きますよ。 　しっかり掴まっててください」 そう言ってフィリアが飛び立とうとした時だった。 「そういうわけにはいきませんねぇ」 「!!!」 闇の神官が空中にふわふわと浮いて あたし達の前に姿をあらわした。 「ゼロス!!?」 あたしは思わず声をあげた。 動揺しているあたしとは対照的に フィリアは静かな口調でゼロスに尋ねた。 「わたしたちに何か用ですか?」 「いえいえ、僕が用のあるのはリナさんだけで 　あなたには用はありませんよ」 ゼロスはからかうような口調で言った。 しかし意外にもフィリアはこのあからさまな 挑発にも顔色を変えずに言った。 「だからと言って、ああそうですか、と 　リナさんをあなたみたいな魔族に渡すと思いますか?」 「面白くありませんねぇ。 　いつもみたいにしかけてくださった方が 　僕も楽だったんですけどね」 ゼロスが肩をすくめて言った。 「あなたを楽しませる義務などわたしにはありません」 キッパリと言い放ったフィリアに ゼロスはその紫色の瞳を開いた。 「無駄な抵抗はやめた方がいいですよ? フィリアさんは僕の力も見抜けないほどの 　バカではないでしょう」 「時間稼ぎぐらいはできます」 「ほぅ、なら試してみますか?」 そう言ってゼロスは錫杖をかまえた。 「フィリア!!!」 「リナさんはわたしにかまわず逃げてください」 「そんなことできるわけないでしょ!!! 大体、あいつと戦ったら時間稼ぎなんてする前に 　やられちゃうわよ!!?」 あたしはゼロスの恐ろしさを知っている。 たとえあたしとフィリアが連携しても 勝ち目はないだろう。 それなのにフィリアを置いていくなんて できるわけがなかった。 「さ、結局どうなさるんですか? おとなしく渡してくださるか 　それとも戦うか」 「戦うわ!!!」 ゼロスの問いに答えたのはフィリアでなくあたしだった。 「これはあたしの問題でしょう。 　それなのに人にまかせていられるほど 　あたしは腐っちゃいないわ!!!」 「リナさん!!!」 「いやぁ、実にリナさんらしいですね。 　そういう所が気に入ってるんですが。 　それじゃ、遠慮なくやらしてもらいますよ」 ゼロスが錫杖をかまえなおす。 あたしの使える術でゼロスに 通用しそうなものは二つある。 だけど、そのうち一つは絶対に使いたくないし 使うつもりはまったくなかった。 もう一つは当てることさえできれば ゼロスといえども大ダメージはまぬがれないだろうけど 当てるが非常に難しい術で、ましてやゼロス相手となると ほとんど当たらないだろう。 今のあたしはまさに八方塞な状態におちいっていた。 「はああぁぁぁっっ!!!!」 ドヒュゥゥゥゥゥーーーーン!!!! フィリアが不意にレーザーブレスを ゼロスに向かって放ったが あっさりとかわされてしまった。 「いけませんねぇ、フィリアさん。 　先ほどリナさんがおっしゃったように 　これは僕とリナさんの問題なんです。 　部外者は黙っててもらいましょうか」 ゼロスはそう言うと錫杖を振りかざした。 「うっ・・・」 フィリアは一言うめくとばったりと倒れて動かなくなった。 「フィリア!!!」 あたしは慌ててフィリアに駆け寄った。 「心配いりません。 　邪魔しないように 　眠っていただいただけですから。 　命に別状はありませんよ」 こともなげに言ったゼロスをあたしは睨みつけた。 「さて、邪魔者もいなくなったところで 　一緒に来てもらえますか?」 「お断りよ、誰があんたなんかと!!!!」 「それじゃあ、仕方ありませんね。 　約束を違えることになりますが 　力づくでも来てもらいますよ」 そう言うとゼロスは真っ直ぐに あたしに向かって突っ込んできた。 あたしは早口に呪文の詠唱をすませると 術を解き放つ。 「ラグナ・ブレードっっ!!!!」 もはやこれにすべてを賭けるしかない。 当てさえすればゼロスを撃退できるだろうから。 「やっぱり、その呪文ですか。無駄ですよ。」 ゼロスはそう言った瞬間、アストラル・サイドへと逃げ込んだ。 「く・・・」 どこからくる!!? あたしは身体の全神経を集中させる。 「だから無駄ですてっば♪」 「!!!」 後ろ!!? そう思った次の瞬間にはあたしの意識は闇に沈んだ。 「ホントはこんな強引なやり方 　したくなかったんですけどねぇ。 　悪いのはぜぇぇぇぇんぶフィリアさんなんですから」 闇の神官は気絶している黄金竜を一瞥すると 栗色の髪の少女を抱えたまま、虚空に溶け消えた・・・・。 　【ＴＯ　ＢＥ　ＣＯＮＴＩＮＵＥＤ】 ******************************************************************* 沿岸諸国連合にクロード・シティは実在しません。 私の勝手な創作です(汗)。 お話の都合上ということで・・・・・。