A couple pass each other







6.光と闇の狭間で

「セイルーン・・・さすがに大きな街ですね」

フィリアが周りを見渡しながら言った。
さすがに竜の姿で街中に入るわけにはいかなかったので
街の入り口で人の姿に変身して入ったのだ。
かつては魔族によって混乱状態に陥り
街の一部が崩壊したこともあったが
今は平和そのものだった。
声を張り上げて客寄せする出店のおやじさん。
無邪気な声をあげて駆け回る子供たち。
道行く人たちの表情も明るいものだった。

「観光に来たわけじゃないんだ。
 とっとと先を急ぐぞ!!!」

ゼルがそう言うとフィリアは申し訳なさそうな顔をして言った。

「ごめんなさい、そんなつもりは・・・・」
「すまん、オレも言いすぎた。
 だが時間がないんだ。
 とっとと王宮に行って手がかりを見つけないと・・・・」

ゼルはオレの顔を一瞥すると続けた。

「旦那の精神が持たんからな」
「ああ、そうかもな」

オレは苦笑しながらゼルの言葉に答えた。





それからものの数分で王宮の入り口に着いたのだが
見張りの兵士がそう簡単には中に入れてくれなかった。

「おまえらみたいな怪しいやつらを通すわけにはいかん!!!」
「な、なんですってぇ!!?」

兵士の言葉に激昂したフィリアをゼルが制止して言った。

「オレたちはアメリアの知り合いだ。
 それでも通さないと言うのか」
「貴様っ!!!姫様の名前を呼び捨てにするとはなんと無礼な!!!!」

今にも切りかかりそうな兵士を今まで黙っていた年配の兵士が制止した。

「まぁ待て。そこの若いの、あんたが姫様の
 知り合いだという証拠はあるのかね?」

その言葉に内心オレは動揺した。
アメリアさえこの場にいてくれたら
それが最大の証拠になるのだが
他に証拠になりそうなものはない。
こうなったら当て身をくらわせて
気絶させてでも通るしかないか・・・・。
オレが覚悟を決めたとき、ゼルはニヤっと笑って言った。

「ああ、あるぜ。これは立派な証拠じゃないのか?」

そう言うとゼルは懐から☆印のついた青いアミュレットを
取り出して、兵士の鼻先につきつけた。

「こ、これは・・・・・」

二人の兵士は目を丸くして驚いていたが
やがて我に返ると頭を下げて謝罪した。

「た、大変失礼いたしました。
 どうぞお通りください」

オレたちは頭をさげたまま動かない兵士を
横目に見ながら中に入った。
するとまた他の兵士が槍を突きつけてきたが
ゼルがあのアミュレットを見せると
かしこまって応接室に案内してくれた。

「今、姫様をお呼び致しますので少々お待ちください」

そう言って一礼すると案内してくれた兵士は部屋を出ていった。

「しかし、いつの間にそんなもの貰ってたんだ?」

オレがそう言うとゼルは照れたように言った。

「前の戦いの後にな・・・・」
「そうか・・・・」

それにしても、とオレは豪華な造りの部屋を見回した。
この部屋といい、さっきの兵士の態度といい
あらためてアメリアがお姫様なんだということを実感させられる。
一緒に旅をしていた時はそんなことを意識したことはなかったが。

ガチャリ。

突然、ドアが開くと綺麗なドレスを着た
黒髪の少女が駆け込んできて、ゼルに飛びついた。

「ゼルガディスさん、お久しぶりです!!!!」
「お、おい、アメリア!!?」

いきなり抱きつかれたゼルはまともに動揺しているようだった。

「久しぶりだな、アメリア」
「お久しぶりです、アメリアさん」

オレとフィリアが微笑しながら声をかけると
彼女は顔を赤くしてぱっとゼルから離れた。

「お、お久しぶりです、ガウリイさん、フィリアさん」

アメリアはそう言うとゼルに申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめんなさい、ゼルガディスさん。
 あんまり嬉しかったものだから、つい」
「気にしなくていいさ。
 それよりも大事な話があるんだが」

そう言ってゼルはオレに目配せした。
オレは頷くとアメリアに事情を説明した。

「なんですって!?
リナさんがゼロスさんに!!?」
「ああ、そうだ・・・・」
「そんなことが・・・・」

そう言うとアメリアは厳しい表情で考え込んだ。

「わかりました、そういうことなら
 このアメリア、精一杯協力します!!!
リナさんをさらった不届きものの
 ゼロスさんに必ずや正義の鉄槌を!!!!」

決めポーズをとるアメリアにオレたちは苦笑した。

「じゃあ、早速図書館に・・・・」

そう言いかけたゼルをアメリアは制止した。

「待ってください。
 その前にガウリイさんに聞いておきたいことがあります」
「なんだ?」

オレは半ば質問の内容を予想しながら答えた。

「リナさんがゼロスさんにさらわれたとき
 ガウリイさんは何をしていたんです!!?」

やっぱり、な。
オレはため息をひとつつくと
リナと別れていたことを説明した。

「どうしてそんなことを!?
ガウリイさんはなんでリナさんを引き止めなかったんですか!!?」

非難めいたまなざしを向けてくるアメリアにオレは何も言えなかった。

「待て、アメリア。
 ガウリイを責めることはあとでもできる。
 今はリナを救い出すことが先だ」

ゼルの言葉にアメリアは頷いた。

「そうですね、今はリナさんを助け出すことが先決です。
 でも、ガウリイさん。リナさんを助け出したら
 じっくりとお話聞かせてもらいますからね!!!」

アメリアはそう言い放つとすっくと立ち上がった。

「それじゃ、図書館にご案内します」

オレたちはアメリアの後についていった。
さすがにアメリアがいると顔パスで通路を通ることができた。
なかには彼女の後に続いているオレたちに不審そうな視線を
向ける兵士もいたが、比較的スムースに図書館の中に入る事ができた。

「それじゃ、手分けして探しましょう。
 フィリアさんはあっち側、ゼルガディスさんはそっち側。
 それに・・・・・・」

アメリアはそこまで話すとため息をついた。

「ガウリイさんは・・・どうしましょう・・・・?」

するとゼルとフィリアがオレに冷たい視線を向けて言った。

「こいつに頭脳労働がむいてない事は確かだな」
「ガウリイさんにまかせたら百年たっても見つかりませんわ」

そ、そこまでいうか・・・・・。

「仕方ありません。ガウリイさんはわたしと一緒に
 こっち側を探してもらいます。
 それじゃ、みなさん取り掛かりましょう!!!」

アメリアの声にオレたちは頷くと
早速、作業にとりかかった。

「ガウリイさん」

アメリアが書物をパラパラとめくりながらオレを呼んだ。

「なんだアメリア?」

オレもわけのわからん小難しい本をめくりながら答えた。

「さっきの続きですけど
 なんでリナさんとの別れをあっさり受け容れたんですか?」
「・・・・・・・。」
「わたしはおふたりの関係をすごく羨ましいと思ってました。
 なにも言わずにわかりあえる仲って素敵なことじゃないですか。
 戦闘中の連携の良さなんて世界中を探しても
 リナさんとガウリイさんにかなう人なんていないと思ってました。
 それに好きな人の傍にずっといられるって幸せだと思います」

・・・・なるほど。
アメリアは立場上、ゼルガディスについていくことはできないもんな・・・・。

「なのにどうして別れたんです!!?
教えてください、ガウリイさん!!!!」

真っ直ぐにこっちを見つめてくるアメリア。
オレは小さくため息をつくと言った。

「じゃあ逆に聞くけどな、好きな人から別れを切り出されたら
 アメリアだったらどうする?」
「そ、それは・・・・」
「確かにオレは自分から別れを切り出そうとしていた。
 あいつをオレのくだらない欲望で壊したくなかった
 汚したくなかった、あの輝きをくもらせたくなかった・・・・」
「・・・・・・・。」
「だけどな、これはゼルにも言わなかったことだが
 実際に向こうから別れを切り出されるとな
 凄くショックだった。
 いっそのことどこかの家に閉じ込めて
 オレだけのものにしてしまおうかと思うくらいに」
「・・・・・・・。」
「笑っちゃうだろ?
 別れたいと思っていたはずなのに
 いざ、向こうから切り出されるとこの様だ。
 オレにはあいつを愛する資格も価値もないのかもしれない」
「ガウリイさん・・・・・」
「だけどな、たとえリナがオレのことを嫌っていたとしても
 かまわない。なんとしてもゼロスには魔族だけには
 あいつを渡すわけにはいかないんだ」

オレはそこまで一気に話すと今まで読んでいた本を直して
新しい本をとりだした。

「それは人間だったら
 かまわないということですか?」

アメリアは今まで見せたことのないような
冷たい表情で言った。

「・・・・ああ」

パシンッッ!!!!

静かな図書館に頬を引っ叩く音が響いた。
左の頬が熱くなってじんじんと痛んだ。

「ガウリイさんは女心というものが
 全然わかっていません!!!!!」
「アメリア・・・・」
「じゃあ、あなたはリナさんが他の相手の
 手を取って笑いあっているのを平気で見ていられるというんですか!!?」

アメリアはかなり激昂している。
そんな彼女の様子を見てオレは静かに首を振った。

「いや、平気じゃいられないさ。
 たぶん、いや間違いなくその相手を殺しちまうだろうな。
 だからそのまえに消えればすむことだ・・・・」
「ガウリイさんはなにもわかっていません!!!!
そうやって自分の気持ちをはぐらせて
 リナさんを子供扱いしてたんでしょう!!!!」
「・・・・・・。」

的を射ているアメリアの言葉にオレはなにも言い返せなかった。

「それがどれだけリナさんを傷つけたと思ってるんです!!!!

年頃の女の子が子供扱いされるつらさを知らないからそういうことができるんです!!!!」

オレは顔を歪ませながら言い返す。

「じゃあ、大人扱いしてればよかったのか?
 今まで保護者だったやつが急に男の顔をしても
 あいつがそれを受け容れてくれると思うのか?」

するとアメリアは悲しそうな、寂しそうな顔をして言った。

「ガウリイさんはリナさんを信じてあげられないんですね・・・・・」
「!!!!」

違う、そうじゃない!!!!
オレはそう叫びそうになったができなかった。
そうかも知れないと思ったからだ。
今まで出会ったどんなやつよりも
リナを信用信頼していたつもりだった。
でもそれはそう思い込んでいただけで
心の片隅ではどこか疑っていたのかもしれない。

「ふ・・・・」

思わず自嘲の笑いが口から出た。
これではリナに別れを切り出されても仕方がない。
あいつは何回もオレを救ってくれたのに
オレは恩を仇で返したわけだ。

「わたしにはリナさんの気持ちがよくわかります。
 きっと報われない恋に疲れてしまったんです。
 他にもわたしにはわからない理由があるのかもしれませんが
 これも理由の一つだとわたしは思います」
「そうかもな・・・・」

そしてオレたちの間に沈黙が流れた。

「ありがとうな、アメリア」
「ガウリイさん・・・・?」

突然のオレの言葉にアメリアは面食らっているようだった。

「おかげで目が冷めた。
 リナを取り戻したらあいつに
 今までのことを謝って自分の気持ちをきちんと伝えるよ」
「ガウリイさん・・・・・」
「さ、ちょっと滞らせちゃったからな。
 とっとと続きをやろうぜ。
 あいつを早く助け出したいからな」
「そうですねっ!!!」

そしてオレたちはピッチをあげて本を探した。
それから数分もしないうちにふとある本が目に付いた。

「これは・・・・」

内容はオレにはよくわからないが
なぜかこれに書いてあるような気がした。

「アメリア、ちょっとこれを読んでみてくれ」
「見つけたんですか!?」
「いや、よくわからないんだが・・・・」

アメリアはオレからその本を受け取ると
一読するなり顔を輝かせた。

「これですよ、間違いありません!!!
フィリアさーん、ゼルガディスさーん
 ちょっと来てくださーい!!!!」

するとすぐにふたりは駆けつけてきた。

「見つかったのか!?」
「見つけたんですか!?」

二人同時に同じことを言うゼルとフィリア。

「ええ、これを見てください」

アメリアはふたりにその本を差し出した。

「・・・・群狼の島は北の海の果て。
 白い霧に包まれた魔の島。
 ただし、満月の夜だけ霧が晴れ
 その威容を表すだろう・・・・・・」

ゼルガディスは読み終えると言った。

「確か満月は明後日のはずだ。
 それまでに近くまで行って待つのが最善だと思うが?」

ゼルの言葉にオレたち三人は頷いた。

「じゃあ北の海に一番近い街、レジオン・シティに行くぞ。
 フィリア、すまないが運んでもらえるか?」
「ええ、わかってます。まかせてください!!!」

そしてオレたちは外に出た。
アメリアが兵士に見つかるとまずいと言うので
いつも彼女が使っていると言う抜け道から
王宮を脱出して、街をでると
フィリアの背に乗ってセイルーンをあとにした。

「しかし、まだ旦那が吹っ切れてなかったとは思わなかったぜ」
「ガウリイさんて何も考えてないふりして、実は悩んでいたんですねぇ」

空に飛び立ってからすぐにゼルとフィリアにそう言われ
オレとアメリアは慌てた。

「聞いてたのか(ですか)!!?」

オレたちがそう言うと二人は苦笑しながら言った。

「そりゃあ、あんな大きな声で言い合いしてたら嫌でも聞こえるぜ?」
「そうですよねぇ、ゼルガディスさん」

二人の言葉にオレとアメリアは固まった。

「あんまり考えすぎるなよ、ガウリイ。
 普段使ってない頭を無理に使うから
 考えが変な方向に行くんだぞ」

ゼルガディスの言葉にオレは笑いながら答えた。

「ああ、そうだな。もう何も考えない。
 オレはただリナが傍にいてくれたらそれでいい」

そう言ってオレは地平線の彼方に視線を向けた。
赤い夕日に彼女の瞳を思い出す。
待ってろ、必ず助け出してやるからな。
オレは今朝よりも強く、そう思った・・・・。









 【TO BE CONTINUED】