A couple pass each other







3.再会(リナ編)

ガウリイと別れてからあたしはなにもかもがつまらなかった。
大好きだった趣味の盗賊いぢめでさえやめてしまっていた。
ただ彼に会いたいという想いが募るばかりの毎日。
でも悲鳴をあげる心を無理矢理押し込めてそれをこらえていた。
こうやって耐えていればいつか彼のことを忘れられると信じて。

「いるのはわかってるわよ、一体あたしに何の用!?」

さっきから付きまとってくる闇の気配に嫌気がさして言った。
それは知り合いの魔族の気配。

「あれぇ、バレちゃいましたか。さすがはリナさん」

そう言ってゼロスが姿をあらわした。

「白々しいわよ!!わざとあたしが感づくか感づかない
 ギリギリのところまで気配を隠してたんでしょ!?」
「ご名答、さすがにいい読みをしてらっしゃる」

そう言って拍手するゼロスを無視して、あたしは歩き出した。

「ま、待ってくださいよ〜。置いてくなんてひどいじゃないですか」

ゼロスはすぐに追いかけてくる。

「何言ってんのよ!?あんただったらすぐに追いつけるでしょーが!!!」
「そりゃあそうですけど・・・・・」

もう少し優しくしてくれてもとかなんとかゼロスはぶちぶち言っているけど
それを無視してあたしは続けた。

「だいたいあんたはあたしに何の用があるわけ!!?」

するとゼロスはあっさりと立ち直って、いつもの笑みを浮かべる。
それはタダの愛想笑い。
ただ顔が笑っているように見えるだけ。
あたしはアイツの暖かくて優しい笑顔を思い出して頭を振った。
だめ、思い出しちゃいけない!!!

「ガウリイさんのことでも思い出してたんですか?」

ゼロスの声に身体がビクンと震えたのがわかった。

「やれやれ、別れた男のことなんて気にしてどうするんですか?
僕だったらあなたにこんな淋しい思いはさせませんよ?」

そう言って伸ばしてきたのその手をあたしははらう。

「あんたあたしの負の感情を喰べに来たんでしょう!?
だったらもう充分堪能したんじゃない?」

あたしはそう言い放つとゼロスに背中を向けて歩き出した。

「まぁ、確かにリナさんの負の感情は美味しいですけど
 それがメインじゃないんです。
 これからが本題ですからようく聞いてくださいよ。
 魔族になって僕と一緒に暮らしませんか?」

ゼロスの言葉にあたしは足を止めた。

「は!?何言ってるのよ?」
「ですから魔族になって僕と・・・・」
「そうじゃなくって!!!あんたわかっててやってるでしょ!?」
「あ、やっぱりわかります?」
「・・・悪夢の王の一欠けよ
 天空のいましめ解き放たれし
 凍れる黒き虚ろの刃よ」
「リ、リナさん、僕が悪かったですからそれはやめてください」

あたしが呪文を唱えだすとゼロスは冷汗かきながら
あわててあたしを止めた。
さすがのゼロスもラグナ・ブレードはくらいたくないらしい。

「で、本当の用件はなんなわけ?」
「ですから魔族になって僕と・・・・」
「まだ言うか、あんたわっっ!!!!」

あたしは思わずゼロスの頭をスリッパではたいた。

「何するんですか、リナさん」

ゼロスは魔族のクセに器用(?)にも目に涙なんか浮かべている。

「だからあたしは本当の用件を聞いているの!!!
あんたの茶番に付き合うほど暇じゃないのよ!!!!」

あたしが一気にそうまくし立てると
ゼロスは困ったような顔をして言った。

「いやぁ、僕はいたって本気なんですけど・・・・」
「な、何言ってるのよ!?
そんなことしてあんたになんのメリットがあるわけ!!?」
「ずっとリナさんの傍にいられることです♪」
「はあっ!!?」
「実は僕リナさんのことが好きになっちゃいまして、はっはっは」
「はっはっは、じゃなぁぁぁぁぁいっっ!!!!!」

あたしは再びスリッパを炸裂させた。

「冗談でもやめてよね、そういうこと言うのは!!!」

あたしがそう言うとゼロスはすうっと薄い紫色の瞳を開いた。
・・・・怖い。
なんだかわかんないけどすごく怖い。

「僕はいたって本気ですよ・・・・」

あたしはゼロスの口調にそれが本当に本気だと感じた。
そんなわけあるはずない。
魔族が、それもこいつほどの高位魔族が人間を好きになるはずがない!!!
あたしは胸のうちでそれを必死に否定した。
だって、もしこいつが本気になれば
あたしをさらうことぐらいたやすいことである。

「獣王様にお話したら笑われちゃいましたけどね。
 でも、面白いとも言ってくださりましたよ」

あたしは身構えていつでも戦闘体制がとれるようにした。

「まあまあ、そう固くならないでください。
 無理矢理さらおうなんて思ってませんよ」

ゼロスがいつものニコ目に戻って言った。

「なんかの魔術をかけて従順にさせんじゃないでしょうね?」
「だからしませんって。
 それじゃせっかくの貴方の輝きが薄れてしまいますからね。
 こうやってちょくちょく口説きに来ますよ」

そう言ってゼロスは空中にふわりと浮いた。

「それじゃごきげんよう」

闇の神官は一瞬にして空に溶け消えた。

「二度と来るなぁっっ!!!!!」

あたしはゼロスが消えた空に向かって悪態をついた。






ゼロスと会ってからあっという間に半日がたち
あたしは大きな港町に着いていた。
そこはかつてあのダークスターとの戦いのときに
一番最初に各国の外交団が集まったところだった。

「懐かしいわね・・・・」

あたしは思わず呟いた。
あの時はフィリアがあたしたちを試すために
ドラゴンの姿になって襲い掛かってきたんだっけ。
それであたしがドラグ・スレイブぶっ放して
津波が起きてこの街が水浸しになっちゃったのよね。

「さ、宿屋探そ」

それ以上思い出すと彼のことになりそうで
あたしは頭を切り替えようとした。

ところがである。
これだけの大きな街なのに宿屋の見つからないこと見つからないこと。
いや、正確には見つかってはいるのだけど
どの宿屋も満杯だったりする。

「あ〜〜〜〜っもうっっ!!!!
なんでどこも開いてないのよぉっ!!!!!」
「いい宿屋紹介しましょうか♪」

!!!
その声は・・・・・。

「ぜぇぇぇろぉぉぉすぅぅぅぅぅ!!!!!」

あたしの低い声とすわりまくった視線に
ゼロスは冷汗を掻きながら後退した。

「あんたがやったのね、こんなつまんない小細工!!!!」
「さ、さぁ〜〜〜何のことでしょう?」

とぼけるゼロス、だけどその目は泳いでたりする。

「嘘ついてないでキリキリ白状しなさい!!!!」
「やっぱ、バレちゃいましたか」
「ったりまえでしょう!!!!
だいたいあんたは嘘をつかないのが
 モットーじゃなかったの!?」

あたしがそう言うとゼロスは笑って言った。

「はっはっは、いやぁリナさんをゲットするためなら
 僕は何でもやりますよ」
「まぁた嘘を。あたしが獣王を倒して来いって
 言ったら、ホントに実行するわけ!!?」

魔族である以上、創造主には逆らえないはずである。
あたしは勝ち誇った表情を浮かべた。

「・・・リナさんが僕とお付き合いしていただけるなら」
「ちょ、本気なの!?」
「僕だって覇王様あたりならともかく
 獣王様とはやりあいたくないですよ。
 ただリナさんがやれっておっしゃるなら」

・・・・・・。
なにを考えてんだろ、こいつ!!?
そこまでしてあたしを手に入れてもなんのメリットもないのに。
どこまで本気でどこまで冗談なのかあたしはわかりかねていた。

「あれ?リナさんじゃないですか??」

その時あたしに救いの手が差し伸べられた。
振り返ればそこには・・・・・・。

「フィリアじゃな〜い、久しぶりね!!!!」

そう、あのモーニングスターを振り回す竜の巫女
フィリアがそこにいたのだ。

「リナさんも変わりなくお元気なようで」
「あ、あの〜〜〜」
「ジラスとヴァルは元気にしてる?」
「もしも〜〜〜し」
「ええ、とっても元気です。
 とくにヴァルが暴れるほど元気で困りますわ」
「へぇ〜〜そうなんだ」

「僕を無視しないでくださいっ!!!!」(!----やや大きめのfontでお願いします)

「あら、いたんですか生ゴミ」
「な、生ゴミって相変わらずヒドイこと言ってくれますねぇ」

あたしと話しているときは常に余裕の表情を
崩さなかったゼロスのこめかみがひくひくしている。
いいぞ、フィリアもっとやっちゃえ。

「さ、リナさんこんな生ゴミと一緒にいたら
 身体が汚れますわ。私の泊まっている宿屋に行きましょう」
「そういうわけにはいきませんねぇ。
 僕はリナさんにお話があるんです」

ゼロスが顔を引きつらせながらもそう言うと
フィリアは余裕の表情を浮かべた。
するとゼロスの顔が青ざめた。

「こ、この正の感情は〜〜〜!!?」
「そう、これぞ生ゴミ対策。
 アメリアさん直伝の生の賛歌!!!」

フィリアはそう言うと生を謳歌し始めた。
いつ直伝してもらったのよ・・・・・(汗)。

「ああっ生きてるって素晴らしい!!!
人生ってなんて素敵なんでしょう!!!!」
「はうっ!!!ま、まだまだ・・・・」
「ああっ今日も格安で掘り出し物を
 見つけられてし・あ・わ・せ」
「うぐっ!!!く、きょ、今日のところは帰らせていただきます」

そう言ってゼロスは闇に溶け消えた。

「ありがと、フィリア。おかげで助かったわ」
「いえいえ、ところでガウリイさんが
 いないみたいですけどどこに行かれたんですか?」

ずきんっ!!!!
あたしの胸に鋭い痛みが走る。
ヤメテ、カレノコトハキカナイデ。

「リナさんどうされたんですか!?
 顔が真っ青ですよ!!?」
「なんでもないわ、平気よ・・・・」
「なんでもなわけありません!!!
私でよければ相談に乗りますので
 話してください」

どうやらごまかしきれないみたいである。
仕方ない・・・・・。

「わかったわ、宿屋に着いたら話すから・・・」
「絶対ですよ!?」

そしてあたしはフィリアが泊まっているという
宿屋に連れて行かれることになった。
フィリアも一度言い出したら聞かないからなぁ・・・・。






「・・・・大体の事情はわかりました」

宿屋に着いてからあたしが正直に事情を説明すると
フィリアは神妙な表情でそう言った。

「だけどリナさん、あなたはそれでいいんですか?」
「いいと思ったから別れたんじゃない」
「本当にそう思ってるんですか?」

フィリアは真っ直ぐにあたしを見つめて言った。

「むりやり自分の気持ちを押し殺してるんじゃないですか?」
「・・・・・・。」
「それにガウリイさんがそれで幸せになれると思ってるんですか?」
「思ってるから別れたのよ!!!」

あたしはフィリアの言葉につい怒鳴り返してしまった。
だけどフィリアは静かな声であたしに言い返した。

「リナさん、本当にそう思っているんですか?」
「だってそうじゃない!!あたしといたら魔族に
 襲われたりロクなこと無いのよ!!!
一人で平穏な生活をした方がいいに決まってじゃない!!!」
「じゃあお聞きしますがリナさん、あなたは今幸せですか?」
「・・・・・・。」
「どうなんですか?」

幸せじゃない。
心が寒い。
スースーする。
あいつに会いたくて、あいつの優しい笑顔がみたいって
毎日、いやいつもそう思ってる。
でも・・・・・

「あたしが別れたいって言ったとき彼はすんなり受け容れたわ。
 だからガウリイは今ごろあたしのお守りから解放されて
 一人旅を満喫してんじゃない!?」

あたしがそう言うとフィリアは驚いたように目を見開き
そしてあきれたような表情になってため息をついた。

「これじゃ、ガウリイさんも苦労しますね・・・・」
「な!?どういう意味よ!!?」
「以前、ご一緒に旅をしたときに気づいてたんですが
 ガウリイさんはいつもリナさんのことを最優先に考えてらっしゃいましたよ?」

確かにガウリイはいつもあたしのことを最優先にしてくれていた。
でもだからと言って・・・・・。

「でも・・・・」
「彼には彼でなにか事情があったのかもしれませんよ」
「だったら、なおさら!!!」
「お互いに自分の想いを隠したまま別れるなんて
 あなたたちらしくないじゃないですか」
「・・・・・・。」
「わかりました!!!」
「へ?」

突然、フィリアが立ち上がって叫んだので
あたしは思わず、情けない声を出してしまった。

「リナさんも自分から別れを切り出した手前
 一人では会いづらいでしょうから
 私が一緒についていってあげます!!!」
「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ。
 だいいち、ガウリイが今どこにいるかなんてわかんないわよ!?」
「あら、私は元火竜王に仕えていた巫女ですよ?
人探しぐらいお手の物です」

そのセリフ、前にも聞いたことがあるけど
探すのには結構時間がかかったような気が・・・・。

「とにかく、もう一度会ってからでもいいんじゃないですか?」

もう一度ガウリイと会う・・・・。
今彼に会っても、あたしはどうすればいいのかわかんない。

「自分がなぜ別れを切り出したのか、その理由を話せばいいんですよ」

黙りこんでしまったあたしに諭すようにフィリアは言った。

「このままじゃお二人とも一生すっきりしないものを
 抱えたまま生きていくことになりますよ!?」

そう・・・ね、そうよね。
このまま終わりだなんてあたしたちらしくないし
いつまでもウジウジ悩んでいるなんてあたしの柄じゃないわ!!!

「わかったわ、あたしもう一度ガウリイに会って
 自分の気持ちを正直に言うわ」
「それでこそリナさんらしいというものです。
 さ、あの生ゴミ魔族もあなたを狙っていることですし
 明日は早く出発しましょう」

フィリアはそう言ってランプの灯りを消した。

「おやすみなさい、リナさん」
「おやすみ、フィリア」

あたしは期待と不安で頭がごちゃごちゃしていたが
やがて心地よい眠気に身を任せた。
そしてあたしは久々に深い眠りについた。







「おやおや、これは困りましたねぇ。
 フィリアさんもいつも僕の邪魔ばかりしてくださる。
 仕方ありません、多少強引にやるとしますか。
 恨まないでくださいよ、リナさん。
 悪いのは全部フィリアさんなんですからね」

アストラル・サイドからリナの様子を窺っていた
闇の神官はそう言うとその場から消えた・・・・。







 【END】



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話の展開に滅茶苦茶ムリがあるような気がするのは
気のせいなんだろうか・・・・・・・(滝汗)。