白 鳥 の 湖


〜第六幕〜




 森に逃げ込んだリナ姫がアメリアに伴われて湖のほとりに戻ってみると、そこにいるのはゼルガディスのみ。ガウリイ王子の姿はありません。
「ねえ・・・・・あいつは?」
「あいつ?ああ、あの変な王子様のことか。追い返した。リナ姫があいつを嫌っていたようだからな」
「べ、別に嫌いってわけじゃあ・・・」
不満げな感情が見え隠れするリナ姫に、ゼルガディスが内心ほくそ笑みました。
「それはよかった」
「よかった!?」
ギッと、リナ姫がゼルガディスを睨み付けます。
「そういえばあんたたち、あたしが危ない目に会ってたのに、のほほんと観察してたそうじゃない。隠しても無駄よ!!アメリアから聞き出したんだからね!?」
 怒りに燃えるリナ姫の後ろで、アメリアがしきりに申し訳なさそうに目配せしているのには気づいていました。きっと脅されたのでしょう。
 それにしても、と、ゼルガディスは考えました。
 自分の考えは間違っていなかった。怒りに燃えていたであろうリナ姫が、ガウリイ王子の姿を見失ったことで、そんな肝心なことを失念してしまっていた。これこそリナ姫の心がガウリイ王子に向いている証拠。・・・・・ルナ女王もさぞお喜びになられるであろう、と。
 「実は約束を取り付けたもんでな」
余裕すら見せるゼルガディスにリナ姫は訝しみます。
「先日の盗賊のアジトにもろくな魔導書はなかった」
「ついでに言うならお宝ともいえないお宝ばかりだったしね」
「そのわりには頂くものはしっかり頂いていたようだが?」
「そりゃそうよ。手ぶらで帰るのは癪だもの。それにしても、役に立ちそうな魔導書って、探してみるとないものね」
「当たり前だ、我が国の書庫にすらないような代物をケチな盗賊が持っているとは思えん」
「わかってるわよそんなこと。・・・でも、じっとしてるよりはマシだわ」
リナ姫の声に宿る意外なほどの真摯な響きが暗い沈黙をもたらしました。
 「で、でも!!」
場を盛り上げるため、ひいてはリナ姫を慰めるためでしょう。アメリアが明るい声で話を進めます。
「だったら何もあそこまでやらなくても・・・悪を倒し役人に突き出せば正義の使者になれるのに。お宝ぶん取って死ぬほど酷い目にあわせたらそっちが悪か判りません」
「正義云々はともかく。国内ならまだしも、他国の盗賊のお宝を無断で没収したことが発覚すれば外交問題に発展するぞ?」
「いっ、いいのよ、ばれなきゃ。それより、話を逸らそうとしても無駄だからね!?」
一瞬視線を泳がせたリナ姫ですが、ハタと思い出したようにゼルガディスにくってかかります。
 「ああそうそう。話が逸れたな。実は明日は、と言っても今日になるか。ガウリイ王子の成人の日だそうだ。朝から行事が目白押しだそうだが。夜、城でその祝賀会が催されるらしい」
「だから何よ?」
ゼルガディスの意図がつかめぬリナ姫は胸倉を掴んだ手を放しません。
「我が国にも招待状が来ていてな。誰か他のものが出席する予定だったんだが、俺たちで行ってみないか?」
「は?何であたしが?」
 ルナ女王の代理として、リナ姫が公的な外交の場に出席する機会はこれまでに何度もありました。実際に数度、足を運んだのですが。国王代理ということでリナ姫は必死で猫をかぶらなければならなかったのです。大好きなご馳走を前にして、ただニコニコ微笑んで退屈な会話をするだけ。リナ姫にとって拷問にも等しい時間です。それくらいなら出席なんかしない、と。ここ数年、公式行事をなるべく避けていたのです。
 「ご馳走が待ってるぞ」
「あんた喧嘩売ってんの!?」
恨めしそうな目でリナ姫がゼルガディスを睨みます。リナ姫の視線の意味をわかっているゼルガディスはリナ姫の恨みを打ち消す発言を口にしました。
「この国王子様は‘アレ’なんだぞ?」
「・・・・・な、なるほど。‘アレ’を見慣れていたら、あたしなんて可愛いもんよね?」
 誤解です。確かにガウリイ王子はリナ姫の前では‘アレ’ですが、普段の立ち居振舞いはとても立派な方なのです。まあ‘アレ’しか目撃していない人々にとっては想像もつかないことですね。
 「それに。王家所蔵、マル秘文献の数々。一見の価値はあると思うぞ?」
「ゼル、まさか約束って・・・」
「ああ、あの王子様に手引きしてもらう。役に立つ魔導書があるかもしれん」
「なるほどね、それが本当の目的か。確かに、この魔法を解く方法が見つかる可能性は高いわね。盗賊イジメしてるより」
ようやく納得がいった様子でリナ姫はにやりと笑みを浮かべ、ゼルガディスから手を放しました。
「そういうことだ」
「いいわ、行ってやろうじゃないの。今夜ね?」
 こうしてリナ姫はガウリイ王子の待つパーティーに出席することとなったのです。
 ところで、姿を消したとばかり思っていたゼロスは、梟の姿で木に止まり。一部始終を見聞きしていたのでした。

<王子様はお姫様にかけられた魔法を解くため、お姫様をパーティーに招待しました。ところが、悪い魔法使いは逃げたふりをして、この様子を窺っていたのでした>

―――――――――――――――――――――――――

書くペースが落ちてます。遅くなった上、かなり短めですね。ただ、一応最後の場面までの目処は立ちました。ま、今後の予告(!?)については次回にでも。
ガウ・・・出番なし。ごめんよ〜〜〜。ほんとは出る予定だったんですけどね。時間なくて予定の場面まで打ち込めませんでした。今日はこの辺でお許しください。(滝汗)