白 鳥 の 湖 |
〜第三幕〜
「リ、リナ姫、そ、それは?」 「それって、これのこと?見ての通り朝ご飯だけど?なんか疲れちゃったから、お腹空いたのよね。それがどうかした?」 急いでアメリアと共にリナ姫の後を追って城に戻ってきたゼルガディスでしたが、まずは報告を先に、と思ったのが裏目に出たかもしれません。嗚呼、食事で釣るという作戦が・・・・・。 テーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々。あ、今、口に運んだのは鳥さんの足ですね。傍目には「と○ぐ○」としか言いようがないような・・・・・やめましょう。それにしても、あの体のどこに、アレだけの食料が蓄えられていくのでしょうか?謎です。どうみても、全身のサイズより料理の体積のほうが大きいと思うんですけど?・・・・これもやめましょう。謎は謎として残ったほうがロマンなのですから。 「ところでリナ姫、ルナ女王への報告を済ませてきました」 ピキッ、と硬直するリナ姫です。 「なん、なんか言ってた?」 「いや、俺もとばっちりを喰うのはご免だからな、何とか上手くごまかせたはずだ」 にやりと笑みを浮かべるゼルガディスにリナ姫も一安心です。 「そっ、そうなの〜。さっすがゼルちゃん、気が利くわね〜〜〜」 「まあ、ウソも方便と言うからな」 ふふん、その嘘がばれたときはゼルに全責任を押し付けられるってわけね。などとリナ姫が企んでいたことにゼルガディスが気づかなかったのと同じく、リナ姫もまたゼルガディスの思惑に、この時点では気づいていなかったのです。 「ところでリナ姫、話があるんだが?」 「あによ?今忙しいんだから手短に頼むわよ?」 確かに、可愛らしいお口がとっても忙しそうに活動中ですね。 「今日の昼飯だが、外で食べないか?」 「は?珍しいじゃない。あんたがそんなこと言うなんて」 お姫様はお姫様らしく城の中で大人しくしていたらどうなんだ、というのがゼルガディスの口癖なのです。もっとも、今となってはそれもただの口癖で。リナ姫の魅力が城の中だけで発揮されるものではないことをゼルガディスは重々承知しています。 ていうか、この時間にこんだけの朝御飯を食べてる人に対して昼飯の誘いをかけているという事が・・・・・不思議です。やっぱり未知の胃袋を所有しているようですね。 「ガウリイ王子が昼飯を用意して待っているそうだ」 「・・・・・なっ、何よそれえ〜〜〜?」 「本人に直接聞いてくれ」 「だって!さっき別れたばかりなのになんで昼にまた会いに行かなきゃなんないのよ?」 「まあな、飛んでいっても結構時間がかかるし」 「だったらなんで断ってくれなかったのよ」 拗ねた表情で恨みがましい視線を投げかけてくるリナ姫に、少し呆れてしまいます。ガウリイ王子が何を考えているかなんて一目瞭然じゃあないですか。リナ姫が色恋沙汰にはかなり鈍感だということは知っていましたが、ここまで鈍感だと罪に等しいかもしれません。 少し、ほんの少しだけゼルガディスはガウリイ王子に同情しました。 それにしても、リナ姫はガウリイ王子をどう思っているのでしょうか?あれほどの美形にアレだけ迫られたら誰だってよろめいてしまいそうなものですが? 「ガウリイ王子が嫌いか?」 「え?・・・・・うーん、なんかそういう問題じゃあないのよね」 「じゃあ、ガウリイ王子をどう思う?」 「ド変態!!」 きっぱりはっきり迷いなく答えたりナ姫にゼルガディスは絶句します。これはもしかしなくても望み薄なのでは?という哀しい考えが頭をよぎります。いえ、ここで諦めてしまうわけにはいかないのです!!ここで普通の人間に戻れる機会を逃すわけにはいかないのです!!人間に戻ったら忌まわしいドレス姿とも縁を切ることができるのです。何より!!もしリナ姫をガウリイ王子に会わせることができなかったら・・・・・殺されてしまいますう〜〜〜(byアメリア風)。そう、命あっての物種。ドレス姿でもアメリアと愛を語り合うことは可能です。死んでしまったら、薔薇色の人生とさようならなのですから。必死にもなろうというものです。 「しかしだな、美味い飯が食えるぞ?期待はできると思うが?」 「う〜〜〜ん」 そう聞いて、リナ姫の心も揺れ動きます。でも変態だし。(笑)今朝の変態振りを思い出すと今にも鳥肌が立ちそうです。嫌い、というわけではないようですが。 「やっぱやめとく。あんな変態に構ってる暇があったら他にやりたいことあるし」 「盗賊いじめは当分駄目だそうだ」 うっ、と言葉に詰まった様子でリナ姫がゼルガディスを恐る恐る見つめます。 「まさかとは思うけど?」 「もちろん完全にばれてる。当分はおとなしくしておいたほうが賢明だと思うぞ?お仕置きされたいってんなら話は別だが」 「ううう〜〜〜ばれないように他所の国にまで遠征したのにい〜〜〜」 「あの方の情報網を甘く見るなということだ」 「あっ、てことは」 「なんだ?」 パッと輝かせたリナ姫に対し、嫌な予感がします。 「大人しくしないとねーちゃんにお仕置きされるから、しばらく外出は控えないとね?というわけでゼル。あんたが断ってきてよ」 「おい」 リナ姫でなければ意味がないんですけど? 「いいでしょ?あ、お土産忘れないでね」 「いや、それは・・・・・お土産云々の前に俺は生きて帰ってこれるのか!?第一招待されてるのはリナ姫だぞ?」 「???何言ってんのよ。だって、気が進まないんだもの。というわけで、代理人さん頼んだわよ?あたし疲れたから昼寝するわね」 いつのまにか食事を終えていたリナ姫は、自室に戻ろうとしています。 第一の作戦は失敗です。では・・・賭けにも近い第二の作戦に移りましょう。 「・・・・・いいのか?」 普段のお茶目な声音とは違う、真面目なゼルガディスの声に、思わずリナ姫が振り返ります。 「何がよ?」 「待っているそうだ、いいのか?リナ姫が来るまで、待ち続けるぞ?あの男は」 「は?知らないわよそんなこと、確かに約束はしたけど、いつ会うかなんて決めなかったでしょ?待つのはあいつの勝手じゃない。じゃ、おやすみ」 何気ない、けれど残酷な言葉を残して、リナ姫の姿はゼルガディスの視界から消えました。 人一人が消えただけで随分と寂しい雰囲気になってしまった部屋に、ゼルガディスの呟きが聞こえました。 「何にしろ、本人がその気にならなければどうしようもない、な」 「うみゅう〜、お腹すいた」 ふと見ると空が茜色に染まりつつあります。 「ええっ?」 空腹を忘れ、熟睡していたリナ姫。思ったより疲れが溜まっていたのでしょうか。 「お昼食べ損なっちゃったわね」 自分が漏らした呟きに、不意に思い浮かんだ顔があります。 あいつ、ちゃんと御飯食べたかしら?間抜けな顔をした隣の国の王子様が思い出されます。 変な奴よねえ〜?アレが跡取だなんて気の毒に。顔は極上だけど、中身が問題だし。関わらない方が無難よね? でも・・・寂しそうな瞳だった。何考えてるのかよくわからない変態だけど、あたしが突き放すとすごく悲しそうな顔をする。あんなのずるい。あたしにどうしろってのよ。・・・会う、ガウリイに会う?会ったらあんな顔はしないでくれるの? 背中に投げられた悲痛な声がよみがえります。 「約束、待ってるから、なんて。一方的だわ。もう、待ってるわけ、ないよね?」 茜色の空がリナ姫の心に不吉な影を落とします。 こんな奇妙な身体を知っても怯えることなく接してくれた。そういう人は初めてだったんじゃあないだろうか?城の人間でさえ、最初はビクビクしてたみたいだし。 ウズウズウズウズウズウズ。 ウロウロウロウロウロウロ。 バサバサバサバサバサバサ。 「どうなさったのですか?リナ姫」 通りすがりの侍女が挙動不審な白鳥を発見し、声をかける。 「ねえ、ゼルは?昼頃出かけてた?」 「え?いいえ、多分今朝からどこにも。仕事が滞っておいでのようですから」 「わかった」 仕方ないわよね。うん。立ち止まるのはあたしの性に合わない。 ううう〜〜〜散歩よ散歩、それもこれも御飯さんをおいし〜く頂くためよ。別に・・・あいつに会いに行くわけじゃないわ、ついでよついで。 ゼルガディスとアメリアが今日何度目になるかわからない、憂鬱な溜息をついたそのとき。 騒ぎが起こったのです。 「う、うわああ〜〜〜白鳥が馬に乗ってるぞ〜〜〜」 「あんなことをするのはリナ姫に違いない!!」 「逃げろーーー!!」 「みんな止めるなーーーーー!!」 「邪魔すると蹴られるぞーーーー!!」 時間はかかってしまいましたが、リナ姫の心に何らかの変化が訪れたようです。 それにしても。 「アメリア、この姿で馬を操る自信はあるか?」 「・・・・・正義の心があっても無理みたいです」 「と、いうことは、日が沈むのを待つか」 「それにっ、少しは二人っきりにして差し上げたほうがお二人にも喜ばれるはずですっ!!ふっふふふふふふ、ふふっ。静かな森の中、月明かり照らす湖のほとりに一組の男女。恋に身を焦がす美青年と、悲劇のお姫様。ああっ、なんて燃えるシチュエイションなんでしょうっ!!」 アメリアの瞳がお星様のようにキラキラと輝いているのを見て、ゼルガディスは諦めたように大きなため息を一つ、つきましたとさ。 <突如として現れた恋のお相手に、お姫様の行く末を案じていた人々は胸を撫で下ろし、そして。皆、協力を惜しもうとはしませんでした> ――――――――――――――――――――――――― 結局またもや予定の場面にたどり着かなかった。 ガウ出番なし。前回まで悪目立ち(笑)しすぎてましたからね。 だからリナを書きたかったんです。そのせいで予定が狂った。 それというのも・・・ガウ、お前インパクトありすぎっ!! 出来上がりが遅れたのもみ〜んなガウのせいです。(断言) 次回予告、‘彼’が登場します。 登場できるといいなあ〜〜〜でないと話が進まない。 次週は遅れずにお届けしたいと思います。 今回ちょっと遅くなっちゃいましたからね〜〜〜。 飛鳥様、ご迷惑をおかけしました。 |