白 鳥 の 湖 |
〜第二幕〜
翌朝、小鳥のさえずりに目を覚ましたりナ姫。その瞳に真っ先に飛び込んできたものは。見知らぬ、いや、昨夜知り合ったばかりの美形の笑顔。 「なっ、何やってんのよ〜〜〜あ、ん、た、わ〜〜〜!!」 抱き寄せられて眠っていたことに気づいたりナ姫は、白い手をバタバタ、もとい。白い翼をバサバサさせます。 「おいおい。そんなに暴れるなよ」 口では文句をつけながら、体を起こし胡座をかくガウリイ王子ですが、リナ姫を手放す気はさらさらない様子。膝の上にのっけて幸せそうです。 ・・・まさか、一晩中寝顔を見つめていた、なんてことは、ない、ですよね・・・・・? 「乙女の柔肌に気安く触るなーーーーー!!」 なにやらリナ姫の絶叫が湖に響き渡っていますが。 「朝から忙しそうだな、邪魔をしては悪い。俺たちはもう少し休ませて貰うとしようアメリア?」 「・・・・・」 「この騒ぎにも目を覚まさないとは・・・・・見習うことにしよう」 供のくせに惰眠をむさぼる二人の姿がリナ姫の神経をさらに刺激します。 薄情者め〜〜〜ちょっとは助けようという気にならないの〜〜〜!?何のための従者だあ〜〜〜!! 圧倒的な力の差に、リナ姫の抵抗は全く通用しません。怒りの矛先は自然と自分を見捨てている供の者達に向いているようですが、まずは目先の問題を片付けなければなりませんね。 くう〜〜〜、手も足も出ないなんて。うう、あああ!そうだ、今のあたしは白鳥なのよ!?強力な武器があるじゃない。 鳥顔なので定かではありませんが、リナ姫はにんまりと笑みを浮かべたようです。 長い首をしならせ、ガウリイ王子の剥き出しの腕に鋭いくちばしで攻撃を加えました。 これでこの変な奴から逃れられる〜〜〜と思ったのも束の間。くちばし攻撃にも全く隙ができません。ちょっと手が緩んだらその隙に逃げ出そうと思っていたのですが。・・・拘束力が緩まないのです。意地になって攻撃を繰り返すたび、腕に痣が増えていきます。傍目にも痛そうです・・・。 なっ、何で???どう見ても痛そうなのに(御自分でなさったくせに・・・)何で何の反応もないのよ!?不思議に思ったリナ姫は、自分を抱えているガウリイ王子の顔を見上げました。 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!? おっ、恐ろしい!!腕を傷つけられてているというのにガウリイ王子。顔が、にへにへと、幸せそ〜うに緩んでいます。その上、リナ姫と目が合った瞬間、にへら〜と笑いかけます。 「な、何よその顔は(大汗)」 「えっ?いやあ〜〜〜」 頬を染めて照れた様子のガウリイ王子。不気味です。 「だってなあ、くちばしって人間で言うと唇だろ〜〜〜?てことは、リナが俺の腕にキスしてくれてるってコトと同じだろ〜〜〜?ってことは、この痣もキスマークってことになるし・・・。ちょこっとくらい痛くても気持ちいいぞ〜〜〜?」 心底幸せそうです。 一瞬の空白。そして。 リナ姫の背筋をまるで「な」のつく生物が這い上がっていくような感覚が襲いました。 「こっ、ここここここ、この、変態ーーー!!その手をどけろーーー!!」 「そしたらまた、会ってくれるか?」 突然真顔に戻ったガウリイ王子、その声にも真面目な響きが宿っています。 一瞬前の変態さんとは別人ですね。 切羽詰った様子すら窺える声に、リナ姫も引き込まれるようにガウリイ王子の顔を見返します。 青い瞳はどこか切ないものを含んでいて、悲しげで。少し寂しそうで。何かに怯えたような表情。見ているリナ姫まで胸が締め付けられる思いです。 「約束、してくれるか?」 「わ・・・・・、わかったわよ」 あまりにも真剣なガウリイ王子に気を呑まれ、リナ姫の声が少しかすれていました。 リナ姫の返答に再度顔を緩めたガウリイ王子。同時に拘束力も緩みます。もちろんその隙を逃すようなリナ姫ではありません。 「隙ありっ、じゃあねっ!!」 翼を羽ばたかせ、大空へと舞い上がる一羽の白鳥。 「リナっ!?約束だぞっ!?待ってるからな!!」 その背中に必死で呼びかけるガウリイ王子。 けれど。見る間にその姿は青空の彼方へと消え行きます。 「リナ・・・・・」 白鳥が飛び去った、その一点を悲痛な面持ちで見つめるガウリイ王子の姿は、まるで悲劇の王子様、のようでした。あくまでもこの姿だけを見たならば・・・・・。 「心配するな、俺たちがちゃんとリナ姫を連れてくる」 「・・・・・ええっと?ゼル、だっけ。・・・・・いたのか?」 「・・・・・会いたくないならそれでいい」 バビュンッ!!一陣の風が舞いました。 その風を起こした主は、数メートルの距離を一瞬のうちに移動して、仰け反った白鳥を握り潰さんばかりに捕まえています。 「会えるんだな!?会えるんだよな?俺たち」 殺気が・・・・・溢れています。 言外に、会わせてくれなきゃ恐ろしい目に遭わせるぞ。と言っているようです。 憐れ白鳥は、ただただひたすら、首を縦に振るだけ。声が出せません。 「・・・・・そっか、会えるのか。そうだよなっ。俺たちは赤い糸で結ばれてるんだから当然だよなっ。おっ、そうだ。昼飯の用意しないと。厨房に言って弁当作らせてくる。じゃあな」 にぱっと笑顔で、走り去るガウリイ王子。 「お、おいっ!!まさか今日か?今日の昼飯か!?ちょっと待て、いくらなんでもそんな急に・・・・・」 凄まじい速さで森に消えたガウリイ王子にゼルガディスの声は届いていないでしょう。 「・・・・・アレでいいのか!?この国は・・・・・」 残されたゼルガディスの呟きが虚しく湖に消えてゆきました。 <熱に浮かされるように王子様とお姫様は逢瀬をかさねるようになったのです> 昨夜から夜会をすっぽかし、行方をくらましていたガウリイ王子に、城中は大騒ぎでした。外泊することはしばしばでしたが、約束を破るような方ではなかったのです。けれど今のガウリイ王子にとっての約束とは、リナ姫との約束でしかありません。他の約束なんて遥か遠く記憶の彼方、なのです。 一目散に厨房へと駆け込み、30人分の弁当を昼までに用意するよう言いつけます。なかなか無理な注文のようですが、ガウリイ王子の形相に誰も逆らえません。唯一、勇気を振り絞って拒絶しようとした料理長も、ガウリイ王子の「必殺おねだり光線」の前には無力です。 あの綺麗なお顔で至近距離から。 「駄目か?」 と、困ったような笑顔で見つめられたら・・・・・。 かくして、厨房は戦場と化したのです。 弁当が出来上がるまで何をする気にもなれないガウリイ王子の心は、リナ姫の元へと飛んでいます。 窓辺に腰掛け空を見つめるその姿には哀愁が漂っています。誰が話しかけても上の空。まるで魂を奪われたようだと、城の人々が噂します。 「ガウリイ、どうしたんです?そんな顔をして、恋でもしたんですか?」 恋、その言葉にガウリイ王子は反応しました。 振り返るとそこには王様とお妃様が立っています。ただならぬ噂が囁かれている息子を心配し、公務の合い間を縫って様子を確かめにいらしたのです。 「おいおいミリーナ、こいつがそんなタマかよ?」 「ですがルーク・・・・・」 無口なお妃様が指差した先には。 「恋、恋・・・・・?」 と、嬉しそうに呟くガウリイ王子の姿。 見てはならないものを見てしまったあ!!と言いたげな表情で口をパクパクさせている、口の悪い王様をほおって置いて。 「ガウリイ、弁当はその方のための物ですか?」 「あいつ、すっげえ美味そうに飯食うんだ。一緒に食ってる俺も楽しくなる」 「けどよお、30人前ってのは多すぎやしないか?」 「いいんだ、あいつ俺と同じくらい食うから」 「・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 「昼が待ち遠しいなあ〜〜〜」 「とっ、とにかく」 お妃様の頬に一筋の汗が流れたのは気のせいではないでしょう。 「あなたがその方を本当に愛しているというのなら、成人式までの予定は病気療養中とでもいうことにして、すべてキャンセルしましょう」 みるみるガウリイ王子の顔に驚きの表情が広がっていきます。 窓辺を離れお二人に近づくガウリイ王子。 「母上」 お妃様の手を取り、真剣な面持ちで告白します。 「愛している」 「・・・・・・・・・・(赤面)」 「・・・・・・・・・・(蒼白)」 「なっ、何やってんだっお前はっ!?」 慌てて妻と息子を引き剥がす夫。ちょっと涙目ですね。 「いやだって、愛してるって言ったら、予定を全部キャンセルしてくれるって言ったじゃないか」 「紛らわしいんだよっお前はっ!!ミリーナも、なんで頬染めたりするんだよお〜〜〜」 「実の息子とはいえ・・・堪えます。私を責める前に、ルークも試してみたらどうですか?」 「・・・遠慮します。っま、まあ、この調子だと何言っても無駄なようだし。前もって断りいれといたほうが無難だよな。うんうん。ただし、お前は病気なんだから、知り合いに見つかるなよ?」 愛情溢れる両親の心遣いに。 ガウリイ王子は微笑みました。 王様やお妃様ですら見たこともないほどの。 実に、実に幸せそうな顔で。 輝くような笑顔を浮かべたのです。 <王子様は、父君と母君に、運命の女性に出会ったことを告げたのです。王様もお妃様も一安心です> 弁当30人前を一人で持ち、さらにはその状態で数多くの追跡者を撒き。ちょうど昼前には運命の場所、湖へと到着していたのは、リナ姫への愛ゆえか。 しかし。 弁当を地面に置き、リナ姫がどの方向から飛んできてもすぐに見つけられるように、と仰向けに寝転がります。その瞳と同じ色の空が赤く染まりつつあっても、ひたすら空を見上げ続けるガウリイ王子の姿が、湖のほとりにはあったのです。 ――――――――――――――――――――――――― 忠犬ガウ公で終わってしまいましたね。(笑) ホントはもっと話が進んでいなければならないのに。(大汗) BGMはもちろん。 チャイコフスキー作曲「白鳥の湖」なんですけど。 雰囲気合わないです。 オデット姫って悲劇の王女様なんじゃないですか?本当は。 でも大丈夫。(!?) ちゃんと悲劇も用意されています。 あまり表面化しないでしょうけどね。 それでは、読んで下さった皆様に感謝を込めて。 次回までさようなら〜〜〜♪ |