白 鳥 の 湖 |
〜第一幕〜
王子様の成人式を数日後に控え、国中の貴族の屋敷でお茶会や夜会の行事が盛んになっておりました。年頃の娘達は王子様の気を惹こうと皆必死です。もちろん親達も。けれども王子様の目にはそれが滑稽な物としてしか映りません。念の入った招待を受けた以上無碍な対応も出来ません。唯一の救いは招待の数が多すぎるため、それを口実に長居を避けることが出来る、という点でしょう。ついでに苦手な公務も避けてます。 今日も今日とて王子様、朝から数々の行事に大忙し。大変ですね・・・・・と、どうやら鬱憤をはらすためでしょうか、供の者を撒くことに成功したようです。 <王子様のためにパーティが開かれています。でも王子様は退屈なパーティよりも狩に行きたくてたまりません。そっとパーティを抜け出して森に向かいました> 地平線の向こうに夕日が射しかかっています。 「やれやれ、やっと抜け出せたのにもう少しで日が暮れるな」 薄暗くなりつつある空を見上げた王子様の人間離れした視力が、奇妙な光景を捉えました。白鳥が3羽、優雅に空を飛んでいます。森の中の湖のある方に向かっているようですが。 「???リュックサックを背負ってる白鳥なんてはじめて見たなあ〜〜〜」 その一言では済まされない気がしますけど? 興味を持った王子様は白鳥を追いかけて湖へと馬首をめぐらします。辺りが暗くなり、空には月がぼんやりと浮かんでいます。馬を木につなぎ、王子様は気配を殺して湖に近づきます。どうやら見間違いではなかったようです。白鳥達は背に、慣れた様子でリュックを背負っています。湖に降り立った白鳥たち。 <湖のほとりにさしかかったときにはもう夜になっていました。見ると、白鳥達が優雅に泳いでいます> 湖が月の姿を映すと、驚いたことに岸に上がった白鳥達は次々と人の姿に変わっていくではありませんか。中でも王子様の目を惹いたのは一番小柄な少女です。なぜって、小さなくせに背負っているリュックは、他の二人のものよりかなり大きいのですから。可愛らしいドレスにはとっても不釣合いです。ふわふわと揺れる栗色の艶やかな髪はまるで意志をもつかのよう。その瞳が紅玉のような輝きを放ち、強い意思を感じさせます。・・・・・神秘的な少女ですね。 <不思議なことに、湖に集まった白鳥たちが月光の下、次々と美しい少女に変身するではありませんか。なかでもとりわけ美しい少女に、王子様は見惚れます> 「あーあ。結局野宿になっちゃったわね、食糧持ってきて正解だったわ」 荷物を下ろしながら栗色の髪の少女がぼやきます。 「というか、こんなに遠出したこと自体に問題があると思うが?」 何だか声が低音ですね。 「そうですっ、しかも!食事に時間かけすぎですよっ」 黒髪を肩の上で揃えた少女が同意しています。 「たしかに、お上品に食べてるからならともかく、量が多すぎて時間がかかってるんだからな」 「なによ!?あたしが下品だとでも言いたいの〜?ゼ〜ル〜ちゃん♪」 「上品・下品という以前の問題だ。それと、ちゃん付けはよしてくれ。・・・頼むから」 「ゼルガディスさんを苛めないで下さい」 よく見ると、3人のうちゼルガディスと呼ばれたのは男性のようです。なぜドレス? 奇妙な光景に目を奪われた王子様、うっかりと音を立ててしまいます。まあ隠れる必要もないだろうと判断し、木陰から姿を現しました。 王子様の目に飛び込んだのは。 自分に向かって突進してくる小柄な少女。すごい形相です。呆気に取られた王子様の胸倉を掴み、至近距離から威嚇するように睨んでいます。 「どこの誰だか知らないけど、運が悪かったわね。今見たことは忘れなさい!!一人で忘れられないってんならあたしが忘れさせてあげるから」 にーっこりと浮かべた笑顔が怖いです。 「だっ、乱暴は駄目ですよう〜、リナ姫〜〜〜」 残る二人がリナと呼ばれた少女に一足遅れてやって来ます。 「おいっ、アメリア」 「あうっ」 慌てて女装した男性に手で口をふさがれる黒髪の少女。幸せそう? <突然木陰から現れた王子様に、少女達は驚きました> 「お前さん、リナっていうのか。俺はガウリイだ。よろしくな」 こんな人は見たことない。美少女らしからぬ発言も行動も、すべてが王子様の目には魅力的に映ります。初めての経験。面白い少女です。今まで出会った誰よりも。興味が湧きました。話をしたいと思いました。もっと彼女を知りたいと、思ったのです。 異様な状況におかれて尚、爽やかな笑顔を浮かべた王子様に、少女は眉をひそめます。 頭がおかしいんじゃないだろうか、こいつ。そういえばガウリイって、この国の王子の名前じゃあ?こんな反応を返した人は少女にとって、初めてなのです。 「ガウリイ、あんたって?」 少女に名前を呼ばれた王子様、嬉しそうに瞳を輝かせます。 「おうっ、なんだ?」 「・・・・・この国の王子と同じ名前ね」 間抜けな様子に自信がなくなります。 「ああ、俺がその王子だからな。それよりリナ。お前さんのこと、教えてくれないか?」 無意識のうちに口説きモードに入っています。自分から、というのは初めてではないでしょうか。 「は?あたしのことって。それよりっ・・・あんたこそなんなのよ」 「何でもいい、リナのことなら何でも知りたい」 「って、違うっ!!あたしはあんたの口を封じなけりゃ枕高くして眠れないのよ!!」 少女には通じていませんね。 「つまり、ここで見たことを誰にも言わなければいいんだろ?大丈夫だよ。リナが嫌なら絶対誰にも言わないから」 微笑んで見つめられて、顔を思わず赤らめてしまいます。よく見るととても綺麗な顔をした男性です。それどころではなかったので、今になって顔が近くにあることに気づきます。思わず胸倉を掴んでいた手を離し、体もぱっと離します。 王子様が寂しそうな瞳になり、捨て犬のような表情をしたのが印象的です。少女はなんだか罪悪感を感じてしまいます。 なんだってのよ。あたし・・・なんかした? 変な奴だと判断した少女は、内心の葛藤を抑え、さっさと追い返しにかかります。 「ま、黙っててくれるならそれでいいわ。じゃっ、そういうことでさよなら!」 王子様がやってきたであろう方向を指差し促します。しかし王子様、少女の伸ばして手を握り締め、にっこりと笑います。 「なっ、ななな何???」 「まあいいじゃないか、野宿するんだろ?手伝ってやるよ、いいだろ?」 ・・・・・黄金の笑顔、炸裂です。少女の手を引き荷物に向かう王子様。 「ちょちょちょ、ちょっとお!?」 「なんだか、変なことになりましたね、ゼルガディスさん」 「ああ、だがあの様子。もしかするともしかするぞ?」 「そっ、そうですよね。白馬に乗った王子様がとうとう現れたんですねっ!!やはりっ、正義は必ず勝つのです!!」 高らかに正義の勝利宣言をしようとする黒髪の少女を、青年は慌てて止めに入ります。 「静かにっ、リナ姫に気づかれたら元の木阿弥だ。あの性格だぞ?例の可能性を気づかせたら千載一遇の好機を逃すことになる。これを逃せば俺たちは一生このままだ。だからアメリア。今は‘それ’を我慢するんだ。後で好きなだけやれ」 青年が小声で話しているのでどうしても二人の距離は縮まります。お互いに頬をちょっぴり染めたりして。 「わ、わかりました。二人の未来のためにも、頑張りましょうね、ゼルガディスさん」 「ああ」 黒髪の少女に両手を握り締められ、青年は照れを隠すようにそっぽを向いて頷きました。 どうも王子様がおとなしく帰るつもりはないようだと判断した少女は、仕方なさそうに指図をはじめます。そしてまた、何か言いつけられるたびに嬉々として働く王子様。お城での好青年像が崩れるほどの顔の緩みです。 自分の荷物をごそごそ漁っていた少女は、ふと、背中に強い視線を感じます。振り返ると真後ろに王子様が薪の束を抱えて立っています。 「はうっ、あっ、あんた、いきなり人の背中とるのやめてよね。心臓に悪いったら」 慌てて飛びのく少女。機敏な動作です。なぜでしょう? お姫様の姿を見つめる王子様。顔がニマニマしています。色男度がちょっと落ちちゃっていますね。 ああっ、可愛いなあ〜〜〜。しゃがみ込んで荷物漁ってる姿なんか、撫でまわして〜〜〜。 王子様の内心も知らず自分が笑われていると感じたお姫様。 そんなことあるはずないようなんですけどね。 顔を真っ赤にして言い訳します。 「しっ、仕方ないでしょっ!?‘お姫様のドレスはピンク’ってなぜか相場が決まってるんだからっ!!」 ・・・・・お姫様はどうやらピンク色がお気に召さないようですね。 <この夜、王子様とお姫様は一目で恋に落ちたのでした> ――――――――――――――――――――――――― すみませんっ、こんな感じで続いていきます。(汗) でもお子様向け絵本の通り、ハッピーエンドは間違いなし。 こんな駄文をUPして下さる飛鳥様。 もう、本当に大感謝です。 |