天空の川 想いの橋 |
その2 彦星の願い 俺の前に現れた見知らぬ男…… そんな事よりリナ……今頃どこでどうしているんだぁぁぁ!! リナと二度と会えなくなる。 その一言は俺を凍りつかせるのに充分だった。 「やっと大人しくなったな。 いいか、この天の川は泳いで渡れないようになっているんだ。飛び込んだりしてみろ。あっという間に川底に沈んでドザエモンの出来あがりだ。 ……もっとも、そうなったところで死体が浮かぶ事もないんだけどな」 「……つまりどういう事だ?」 俺の問いかけにそいつは川原に突っ伏した。 うーーん、なかなか面白いリアクションするなぁ。 「おいおい冗談だって」 「あんたが言うと冗談に聞こえねぇんだよ……」 そう言って、そいつは汗を拭った。 「さっきも言ったが、リナ=インバースは向こう側にいる。まさか今年の織姫があいつで彦星があんただとは思わなかったからな」 織姫?彦星? ……そういや、リナがしてくれたお話の中にそんな名前があったような? 「何なんだ?そりゃ」 「ん?ああ、ここじゃな、毎年七夕の時に下界から一組の男女をここに呼んで織姫と彦星をやらせてるんだ。それに今年はあんた達二人が選ばれたって訳なんだが…」 そういってそいつは大袈裟に溜息をついた。 「本来ならこーゆー役は俺とミリ…じゃなくて俺の織姫みたいなラブラブカップルがやるんだぜ? どー見たってあんた達じゃなぁ……これじゃ今年は大嵐決定じゃねぇか」 「??」 そいつは人差し指を俺の鼻先に突きつけてきた。 「あのな、この役って実は結構重要な役なんだぞ? 今年の織姫と彦星が失敗すると下界じゃ雨になっちまうんだからな。そうでなくてもここ数年はハズレばっかりでさぁ……」 そいつはまた盛大に溜息をついた。 「この天の川を渡るには橋を架けるしかねぇ。しかもただの橋じゃない。 愛しい相手を想う心……それが橋になり、橋を支える柱になる。ところがこれが曲者でさぁ。本心モロバレなんだよ。 なかには橋を架けるための最低条件すらクリアできない奴まで出てくる始末だ。 ラブラブパワー全開になるはずが、想いの橋の上で修羅場だぜ?やってらんねぇって」 そいつはやおら俺を指差した。 「今年こそは失敗するわけにゃいかねぇっ…てんで複数のカップル召還するはずがどういう訳だか来たのはあんた達二人だけ。 ……これじゃ今年も絶望じゃんかよぉ……」 そいつは頭を抱えている。 ……つまり俺とリナでこの川に橋を架けりゃいいって事なんだろ?簡単じゃないか。 はっきり言ってリナに関する事なら得意中の得意だからな。 失敗すると雨が降るってあたりがよく分からんが…… 「そういうわけで、ここでのあんたは彦星だ。俺はアルタイル。短い付き合いにしかならねぇが、ま、よろしくな」 なんだかよく分からんが…… 「で、俺は何をすればいいんだ?えっと…コールタール」 「ア・ル・タ・イ・ル・だ!!」 「おおー悪かった。……アルコールだっけ?」 「…………アルでいい」 「?」 おや?何だか青筋がはしってるぞ? 「俺の呼び名!!アルだ!これっくらいなら覚えられるだろ―が!!!」 ちょっとからかっただけなのになぁ。ムキになっちまった。 少し遊びすぎたか?? ……まぁこの位の憂さ晴らしはしたって構わないだろ。 何だか知らんがリナと引き離してくれたんだ。殺されないだけありがたいと思わなくちゃな。 「…………(必死で落ち着こうとしている) ……あんたが探すのは、この天の川の川原のどこかにあるあんたの織姫への想いを示す玉なんだが。 これが簡単には見つからないものだぜ?あんたに見つけられるかな」 「なぁ、アル」 「んだよ」 「玉ってどんなのだ?」 「んー?基本的には白い石だな。けどそんだけじゃあないぞ。 石の中にまるで虹が閉じ込められているみたいに煌いてそりゃぁ綺麗な物だぜ? ……そういえば、俺のあいつへの玉は世界で一番美しく煌いていて…」 おいおい、なんか自分の世界に浸ってやがるな。 それにしても虹が閉じ込められたような白い石って…… 「それってこれの事か?」 「はぁ???」 俺が差し出した石を見てアルの目がまん丸になった。 「ウソだろおい……」 「俺の足元にあったぞ?これ」 いきなりアルは頭を抱えた。 「何でだよ。何でこーあっさりと見つけられんだ!? 予定じゃぁ今日一日まるまるかかる筈だってのに…… 俺だってあいつへの想いの石を見つけ出すのに苦労したってのに…… なんでだぁっっ!!」 何だかあっちの世界に行っちまったアルの奴は置いといて。 俺は手の中の玉をしげしげと眺めた。 ……こんなちっぽけな石ころ一つが俺のリナへの想いだっていうのか? 冗談ではない。 俺の想いはこんなちっぽけな小石じゃない!! 「気に入らん」 「はい!?」 「俺のあいつへの想いがこんなちっぽけな小石なんて冗談じゃない。俺はこんなの認めん!!」 「認めんって……おい!?何する気だ!!」 俺はその小石をおもいっきり川へ投げた。 うん、なかなか飛んだな。 アルの奴は口をあんぐりと開けて俺が小石を投げた方向を見ている。 「??どうしたんだ?」 「あ、あんた……」 アルの奴、口が閉じなくなったらしい。あんぐりと開けたままの顔がなかなか間抜けだ。 「何考えてんだ!!玉捨てちまってどーすんだよ!!! あれがなきゃ橋は架けられねぇ。あんたの織姫にゃ二度と会えないんだぞ! ……って何やってんだ」 「決まってるだろ。探すんだよ」 「探すって……あんた今捨てたじゃねーか」 「だから」 ったくしょうがねぇ奴だ。やろーになんざ説明したくないんだが…… 「俺のリナへの想いはあんなちっぽけなものじゃないって言っただろうが。あれは俺の想いの石なんかじゃない。 だから、俺の想いにふさわしい物をこれから探すんだ。 ………………お、あった」 「何!?」 「うーーーん……いまいちだな」 ぽいっっ…………ぽちゃん 「次は……………これもだめ」 ぽいっっ………………ぽちゃん 「お、今のは良く飛んだな。んじゃお次は…………なんだこれ?論外だな」 きんっっ………ぽちゃぽちゃん 「さて、と……」 「…………あんた……とんでもねー奴だな…………」 こうして。 俺は延々ふさわしい玉とやらを探し続けた。 「うーーん……どれもこれもいまいちだなぁ」 「なぁ……あんたまだ探す気かよ……」 げっそりした声を出しているアルに俺は氷の視線を向けた。 「ただ見てるだけのクセに文句が多い奴だな」 「あのなぁ……」 アルはいきなり川原の小石の山を指差して叫んだ。 「あんだけ見つけりゃ充分だろうが!!」 「何言っている。あれは全部ハズレだ。 ……お、今度はどうかなっと……」 アルは心底疲れきった顔で川原にへたり込んだ。 だらしの無い奴だな。 好きな女への気持ちを表わす物で妥協できるヤツがいるか? リナは俺にとって全てだ。あいつに出会ってなきゃ今でも適当に戦場をうろついていたに違いない。 目的もなく、ただ生きているというだけの日々。 あの頃の俺は自分が戦場の死体とあまり変わらないと考えていた。 ただ、息をしているかそうでないかが違うだけで。 自分の命も他人の命もどうでも良いものだった。だからいつも刹那的な生き方ばかりしていた。いつ死んだってかまわなかった。 命なんて、世界で一番軽いものだった。 リナに出会って初めて生きているのが楽しいと思えるようになった。生きていて良かったとも。 死にたくない、そう考えるようになったのも。 リナはいつも全身で生きていられる事の喜びを表わしていた。食事の時も、旅の途中で出会った景色でも。 魔族との死闘の最中でさえ、リナは生きる意欲に溢れていた。 ……もっともそんなリナだからこそ、魔王と戦わなければならなくなった時に、あの台詞がなんの気負いもなく出て来れたんだろう。 俺ではとてもあんな風には考えることは出来ない。いつも死を願って生きていた俺では…… リナのおかげで四季の移り変わりや、周囲の景色の美しさに気がつくようになった。ただ生きる為の行為でしかなかった食事も楽しくなった。 リナに出会えたからこそ、モノクロでしかなかった俺の人生に様々な色彩が甦ったんだ。 だから。 俺はリナと共に生きていきたいと願った。 何があっても、これからどんな相手が出てきても、リナの傍に居る事を。 リナに襲いかかる全てから、リナの笑顔を守りたい、リナの笑顔を見ていたいと…… それだけが、俺の全て。 俺の、願い。 ふと、俺の目が足元に注がれた。 寄り添うように並んだ二つの石。 片方は今まで俺が探していた白くて虹色の輝きを閉じ込めた石。 そしてもう一つは。 藍色の石の中に虹の輝きが閉じ込められていた。 「見つけた……」 二つの石を拾い上げると、それは俺の手の中でまるで待っていたかのように淡く優しい輝きを放った。 「やれやれ…………やっと満足したか。はぁ……予想以上に時間がかかっちまったな。 んじゃ、早いとこ元の場所に戻らないと……って……」 アルが口をパクパクさせた。 酸欠の金魚みたいだ。 「や…やばい!!もうそんな時間かよ!?」 何だってんだ? 俺は振り返って天の川を見て、絶句した。 そしてまたもや続く やってしまったガウリイsideその2。 今回はガウリイの独断場。リナちゃんへの思いを語ってもらいました。 結構難しい。 どっかで見たことあるような……って思っても許して下さい。ちゃんと完全オリジナルです。 けどやっぱりいろんな所のガウリナ小説読みまくってたからどっか似た所が出てくるかも。 ガウリイが探してた石のモデルはオパールです。 オパールってあんまりいい意味付けられてなかったような気がしますが、とても綺麗なので今回登場となりました。 さて次ではいよいよ天の川の上での再会編。これから二人がどうなるのか、それは誰にも分からない〜〜(はぁと) なんて馬鹿言ってないで。 このような駄文にまたまたお付き合いいただきまして、本当に有難う御座いました。 |