天空の川 想いの橋






その2 織姫の想い



 見知らぬ場所、見知らぬ衣装、見知らぬ相手。
 ……あたしってば、結構我慢強くなったかもしんない。



「あなたが今年の織姫ですね?さぁ時間がもったいないです。早く布を織ってしまいましょう」
「その前に!あんた誰?織姫ってどういう事よ」
 かなりの怒気があたしの声には含まれていたかもしれない。それにもかかわらずこの銀髪の女性は落ち着き払っていた。
「その様子じゃ、何も聞いていないようですね」
「聞く?何の事よ。
 盗賊に襲われていたのを助けてあげたっていうのに、いきなり妙な事に巻き込まれて。こっちはいい迷惑よ」
「そう。ならいいわ、私がお話しますから。
 ……とりあえず座ったらいかが?すぐに終わる事は終わりますけど」
 そう言って彼女はあたしにはた織機についている椅子を勧め、自分も近くの椅子に腰を下ろした。



「何から話しましょうか?」
「とりあえず、貴女の名前教えて」
「私の名、ですか。そうですね……ベガ、とでも呼んでください」
「なによそれ。あたしに偽名で納得しろっての!?」
 あたしをバカにしてんのかしら、このヒト。だとしたらただじゃすませないわよ!?
 そんなあたしの様子に彼女は小さく微笑んだ。
「騙したり、からかっている訳じゃありません。ただこの方がまぎらわしくないですから」
「どういうこと?」
「実は、このはた織場で布を織る女性は皆『織姫』と呼ばれるんです。でもそれじゃ会話しにくいでしょう?」
 ……なにそれ。
 けどそういう事なら仕方ないか。
「なるほどね。そういう事ならそれでいいわ。
 それじゃ、次の質問よ。ここはどこで、あたしは何の為にこんな格好でここにいるわけ?」
 あたしの問いにベガはふわりと微笑んだ。
「実は貴女に今年の『織姫』をやっていただく事になりましたから」
「はぁ?」
 今年の『織姫』ですって!?
「ここは天界のはた織り場です。ここでは毎年地上から一組の男女が選ばれ、織姫と彦星になっていただいています。
 織姫はここで布を織り、彦星は別にやっていただく事がありますから別の場所にいます」
 そっか、という事はガウリイもここに居る事は居るのね。
 ベガはあたしの顔を見て小さく笑った。
「気になります?」
「そりゃ、まぁ。
 ……ちょっと、何よ!言っとくけど、変な意味じゃないんだからね!!ガウリイはただの旅の連れなんだから!」
「私、何も言ってませんけど?」
 ………………
 暴れてやる!!
「あ、言い忘れてましたけど。今日中に布を織り上げないと、お連れの方とは二度と会えなくなりますよ?」
「な、何ですって!?」
 二度と…会えなくなる!?ガウリイと!?
「今日が何日か、貴女もご存知ですよね?なら、伝説では織姫と彦星はどうなっています?」
「天の川を挟んで離れ離れ…」
「そうです。そして、天の川は弱水ですから泳いで渡ることは不可能。
 織姫が彦星に会うためには、このはた織場で織り上げた布が必要なんです。 ……それも今日中に」
「今日中!?」
 あたしは目の前のはた織機を見た。
 はっきり言って、このはた織機は今回初めて見た。当然布なんて織った事あるわけがない。
 なのに今日中に布を織れという。できなきゃガウリイには二度と会えなくなる。
 あれ?
 けどわざわざそんな事しなくても魔法で飛んじゃえばいいんじゃない。
「あ、そうそう。言い忘れてましたがここは天界なので魔法は全て使えませんので」
 読まれたか。
 って、魔法が使えない!?
 じゃあ何が何でも布を織るしかないって事!?
「大丈夫ですよ。ここに来た人は皆このはた織機を扱うのは初めてですから」
「大丈夫って言われても、どうやったら動かせるかわかんないわよ。それに布なんて織った事ないし……」
 ベガは柔らかく微笑んだ。
「ちゃんとまっすぐ向き合えば自然と分かりますから」
「まっすぐ向き合うって、何と?」
 ベガはその問いには微笑むだけだった。
「大丈夫。貴女ならちゃんとできますから。だからそんなに心配しないでください」



 あたしは溜息をついた。
 ベガはあたしに『まっすぐ向き合え』と言った。
 でも何の事かあたしにはさっぱり分からない。ベガはあたしに何を言いたいのだろう。
 時間ばかり過ぎていってしまう。
 このままじゃ、あたしは…………
「そうですね、一つだけヒントを差し上げます。この布を織る際の縦糸は時。
横糸は想いです。
 時と想いが織り成すもの。それが、ここで織り上げられる布です」
 ベガがくれたヒント。
 時と想いが織り成すもの……?
「それじゃ、頑張ってくださいね」
 ベガは微笑むと部屋を出ていってしまった。
 後に残されたのは、はた織機と困り果てたあたし。
「時と想い…か…」
 でもそんな形のないものどうやって布にするっていうの??
 あたしはぼんやりとはた織機を見つめた。
 縦糸の間を横糸がくぐり抜けて、少しずつ布が織り上げられる。時の間を想いがくぐり抜けて、その後にできるものは……
「まさか……」

 カタン…パタン…

 気がつくと、手が勝手に動いていた。
 見た事もない触るのだって初めてのこのはた織機。けどあたしはそれをちゃんと使っている。
 …やっぱり、そういうこと、か。
 時の縦糸。これは何があっても変わらないもの。
 そう。あたしがいてもいなくても変わらないもの。…時間。
 想いの横糸。
 時の中をくぐり、紡がれていくもの。
 これはあたしだけの物。あたしがいる限りこの横糸は時の縦糸の中を縦横無尽にくぐりぬけ、あたしだけの、あたしにしか織る事のできない布を織る。
 という事はこの布の正体はおのずと明らかになる。
 あとはベガの言っていた『まっすぐ向き合う』って事。
 これって今までとこれからに向き合うって事。
 けどそれだけじゃない。
 『過去』と『未来』…この二つの時間を繋ぐもの。それは『今』。『現在』という名の時間。
 そして今のあたしが目をそらしていた事。
 ……別に、逃げてたつもりはないんだけどなぁ。フィブリゾの一件で嫌でも自覚はさせられてたから。
 けどやっぱり、逃げてたんだろう。
 あたしは『被保護者』だから。『保護者』のガウリイにとってはまだまだ子供なんだろうから。
 だから、目を背けてた。自分の気持ちが、ガウリイに知られるのが怖かったから。
 『子供』が何言ってるんだって言われるんじゃないかって、笑われるんじゃないかって思ったから。
 でも、怖いからって逃げるのはあたしの知ってる“あたし”じゃない。
 だから、もう逃げない。
 それに、今は、ここにガウリイはいないから。
 少しだけ、ほんのちょっぴり、自分の気持ちに素直になってみても恥ずかしくないし……
 ね?
 ガウリイ…………



 ……どうやら、気がついたようね。
 物陰から見守っていたベガは小さく微笑んだ。
 この分ならリナさんの方は心配要らないわね。あとは……
 天の川のガウリイさんの方。まぁ、あの人はリナさんと違ってすんなりいってそうだけど……
 私の“彦星”は振り回されているでしょうね。



「できちゃった……ホント、何とかなるものね」
 出来上がった布を前にあたしは驚いていた。
 そりゃあ、ベガの言った事が分かった以上このあたしに出来て当然!なのではあるんだけど。
「終わりましたね?」
「うきゃ!!ちょっとベガ!いきなり後ろから声かけないでよ。びっくりしたじゃない!」
 ベガはにっこりと微笑んで布を外し、きちんと巻き取った。
「どうぞ。後は天の川のほとりに行けば貴女の彦星と会えますよ」
 手渡された布は光沢のある純白の布。手触りは上等のシルクみたい。
「ねぇ、ベガ」
「何ですか?」
「なんでこの布……白なの?織ってる時はいろんな色の布に見えたんだけど」
 織ってる時と織り上がりで色が違うなんてどういう事なんだろう?
 ベガはきょとんとするあたしを見ていたずらっぽい笑みを浮かべた。
「この布は織った人に一番ふさわしい色に染まりますから……今の貴女にはこの色が一番ふさわしいって事です。
 さぁ、天の川へ。
 貴女の彦星が待ってますよ?」
 ベガはそう言ってあたしを外へ連れて出た。
 ……言っときますけど。
 あたしは転んだりしませんでしたからね!!



 銀に輝く小石の川原。
 銀の飛沫を上げて流れていく乳白色の大河。
「これが天の川……」
「そうです。……まだ来ていない様ですね。
ここで待っていてください。じきに貴女の彦星が来られるはずですから。
 でもこの川の中に入っては駄目ですよ?さっきも言ったように、この川は弱水。この水の中に落ちたものは何一つ浮かぶ事ができないのですから。
 飛び込んだりしたら、溺れ死んでしまいますよ。
 この川の水が透き通ったら橋を架けられますから」
「分かった。
 …………ありがと。ベガ」
 ベガはここで本当に嬉しそうに微笑んで。
 あたしは一人、天の川のほとりに残された。



 またまた続く













 うみゅう。駄文その2でした。
 ……誰かあたしの文章力のなさをなんとかして……って出来る訳無いのに。
(滝汗)
 弱水、とゆーのはとある小説に出てきたものです。読んでてピンときたあなた。あ・れ。読んでますね?(ってゆーか、あんまりアイデア使わせてもらってると盗作って言われるぞ)
 しかし本当にこの話まともに終わるんでしょーか?
 ガウリナなのにこの話じゃガウリイ会話にしか出てこないし。(まぁこの部分のガウリイsideは反対にリナ出てこないんだけど)
 予定では次で終わるはず。(いや多分…)
 こんな恥さらしな駄文その2にお付き合いいただき有難う御座いました。