天空の川 想いの橋 |
その1 織姫の憂鬱 あたしは今、今だかつてないほど困り果てていた。 今あたしの目の前には一台の木製のはた織機が鎮座している。はた織機、とゆー物は当然布を織るためのものであり。 あたしは何度目かもう分からない溜息をついた。 …………なんでこんな事になっちゃったんだろう………… 「いー天気ねー」 「あぁ、そうだな」 木漏れ日が気持ち良い天気の中、あたしは上機嫌で森の中を抜ける街道を歩いていた。 後ろを歩いているガウリイものんびりとした声になっている。 …まぁこいつの場合戦闘中でもない限りいつもこんな感じなんだけど。 チラッと振り返ると木漏れ日にガウリイの見事な金髪がきらきらと輝いているのが見えた。 …ろくに手入れもしてないってのにあんなにサラサラで綺麗なんてはっきり言ってサギよね。 「どーした?リナ」 「なんでもないわよ! ……けどホントに良い天気よね。この分なら今夜は晴れかな?」 ガウリイの髪が綺麗で見とれてたなんて言える分けない。 照れ隠しも兼ねてあたしは今日の夜の話を持ち出した。 そこ!変な想像しない様に! ……ったく、最近みょーに煩悩に走るヤツが多いんだから。 「リナ?」 あ、いけない。ガウリイがいるの忘れてた。 「あ、ええっと……何ガウリイ」 「いや……何だったっけ??」 「………………ひょっとして、今何訊きたかったか忘れた、と?」 「おーーそうだそうだ。俺何訊こうとしてたんだ?リナ」 こっこひつはぁ……!! すっぱぁぁぁぁあん!! 「んな事あたしが知る分けないでしょーが!!」 ったく相変わらずのクラゲ頭は! でも今日はやっぱり調子良いわね。スリッパショットもいつもよりいい音したし。 「毎度毎度よく出てくるなぁそれ」 「あんたのボケをつっこむにはこれが一番なのよ」 頭をさすりながら懐にスリッパをしまい込むあたしを見ていたガウリイはやおら手を打って満面の笑みを浮かべた。 「おーそうだそうだ。今ので思い出したんだが」 「ををっガウリイが思い出すなんてっっ!?」 思わずあたしは天を仰いだ。 「せっかく良い天気だと思ったのに……こりは大嵐の前触れかしら?」 「リナァ」 情けない声を出してこちらをジト目で見るガウリイ。 「じょーだんよ。で?何が訊きたかったのよ」 「さっきお前さんが言ってた……」 「ひょっとして……七夕が何か知りたい、と?」 「ああ(はぁと)」 頭、痛いかもしんない。 まぁ、ガウリイが一般常識ないのは今に始まった事じゃないいんだけど…… 「ガウリイ、あんたほんとーーーーーに知らないわけ?七夕」 「おう」 そーよね。そう。 このガウリイの物知らずはこーゆーレベルの話にまで及ぶんだったのよね。 いいかげん馴れたとは思っていたつもりだったけど……甘かったか。 「しょうがないわね。仕方ないからこのあたしがじきじきに教えたげるわ。感謝しなさいよね」 「おう教えてくれ」 あーあ、あんなに嬉しそうな顔しちゃって。 なんだか保母さんにでもなっちゃった気分よ。これでこのあたしの保護者名乗ってるんだから、世の中何か間違ってない? …………まぁ、たまには……役に立つ事も……ない、訳じゃあないんではあるのだけれどもしかし…… だぁぁぁもう!なんでこんなにあたしが悩まなきゃ何ないわけ! それもこれもガウリイが悪い!! 「リナ?」 「何でもないわよ。んな事より、話の途中で居眠りなんかしたらただじゃおかないからね? ――昔々、働き者の織姫ってヒトと彦星ってヒトがいたの。ところがこの二人、結婚したとたん仕事をしなくなっちゃったのよ」 なぜかここで大きく頷くガウリイ。 「その気持ち、良く分かるなぁ」 「はぁ?」 「ああいや、何でもない。それで?」 なによ今の。 なあーーーんか今のガウリイの態度にひっかかるものがあるんだけど…… ま、いっか。ほっといてもいいだろうし話の先を続けよっと。 「んで、あんまりにも二人が仕事をしないものだからとうとう天帝を怒らせちゃったの」 「何だ?その」 「天帝?…そうね、二人の上司ってとこかしら。二人は罰として天の川を挟んで別々にされちゃったのよ」 「何!?」 ……なんであんたがそこで怒るのよ。それにこれってただの『お話』だっていうのに。 ガウリイの綺麗な蒼い瞳に、戦闘中でさえ見せた事のないような怒りの色が見え隠れする。 「ガウリイ?」 不審そうなあたしの声に気がついたのか、一瞬のうちにガウリイの瞳から怒りの色が消え去る。 そこにいるのはいつものクラゲのあたしの自称保護者。 「悪い。話の腰折っちまったな」 「それはいーけど……」 「悪かった」 そう言うなりあたしの髪をくしゃくしゃと撫ぜてきた。 「もう!髪が痛むからやめてって言ってるでしょ!」 「スマンスマン」 「ったく。いいわ、続き話すわよ」 ホントはガウリイにこうされるの、嫌じゃない。それにそうするガウリイがいつものあたしの知ってるガウリイで、ちょっぴし安心したし……それにガウリイの大きな手は嫌いじゃないし。 けどそんな考えがガウリイに知られるのは癪で、あたしはさっさと話の続きをする事に決めた。 「まぁこのまま二度と会えないってのはさすがに可哀想って事で、年に一度七月七日に天の川のほとりで会う事が許されたのよ」 「一年に一度しか会っちゃいけないのか?」 「そーよ。……まぁこの部分は別の話もあってね」 キョトンとするガウリイ。 あ、なんか小さな子供みたいな顔してる。 「天の川で引き離された時、織姫は『七日、七日に会いましょう』って言ったのに彦星がそれを『七月七日に』って聞き間違えちゃったのよ。んで『七月七日か』って言い返したら織姫も間違えて『そう』って答えちゃったのよ。その結果二人は一年に一度しか会えなくなっちゃったというおまぬけな話もあんのよ。 にしてもこれだとマヌケな話よねー。二人して聞き間違えるなんてさ」 「……俺なら」 いつもより低いガウリイの声。 「俺なら絶対間違えたりしない」 「へ?」 な、何よ。急に真剣な顔しちゃって……ってち、ちょっとぉぉ!? ガウリイの眼差しがあたしを捕らえて離さない。 ちょ、ちょっと、それって『保護者』が『被保護者』を見る目じゃないんじゃないの!? 「……リナ」 なによなによなんなのよおぉぉぉっっっ!! ひたすらパニくるあたし。 何時の間にか後ずさりしていたらしいあたしは足元の石に躓きバランスを崩してしまった。 「うきゃぁ!」 「リナ!」 ひっくり返る直前、あたしはガウリイの腕に抱きかかえられていた。おかげで地面で頭を打たずにすんだのではあるが…… ガウリイの端正な顔が滅茶苦茶至近距離にある。おまけにあたしの腰にまわされたガウリイの腕で完全に身動きがとれないし……(滝汗) ひょっとしなくても、これってかなりヤバイ体勢なんじゃ…… 「ちょ、ちょっとガウリイ?」 「リナ」 今まで聞いた事がない声のガウリイ。 耳元で囁かないでよぉぉっっ!! ガウリイの手があたしの顎にかかる。そのままゆっくりとガウリイの顔が近づいてきて… これってひょっとして、ひょっとしなくても……キスされる寸前!? 「ち、ちょっと待ってガウリイ」 「やだ」 「やだって、ガ、ガウリイ……!!」 「きぃぃやあぁぁぁぁ!だれかぁ!!」 ――――あたしにはこの時、この悲鳴が天の助けに聞こえた………… 「いぃぃやぁぁぁ!!誰か!!」 「へっへっへっへ、いくら騒いでも誰も来やしねぇぜ?いいかげん観念するこったな」 「そうそう。何もとって食おうってんじゃねえんだからよ。諦めて大人しくしてればそうそう手荒には扱わないからよぉ」 「そこまでよ!」 あの後。突然の悲鳴にガウリイの動きが止まり、あたしは文字どうり間一髪で彼の魔の手を逃れられたのであった。 まだ心臓がばくばく鳴っている。 ううっっ、なんかまともにガウリイの顔見れないっっ。 こーなったらあいつら吹っ飛ばして憂さ晴らししちゃる! 街道沿いの、木々に囲まれ少し辺りが薄暗くなった場所。 いるのは盗賊連中と襲われた女性。 ま、よくある光景である。 んっふっふ、盗賊倒して礼金貰って。なおかつあいつらのアジトを吐かせれば お宝がザックザク。ついでにストレス解消にもなるし(はぁと) 「何だてめぇ!」 「そのヒトを放しなさい」 「うるせぇ!てめぇらやっちまえ!!」 オリジナリティーの欠片もない台詞をはいて襲いかかってくる盗賊さん達。 「火炎球!」 ちゅっどおぉぉーん…… あたしの呪文で吹っ飛ぶ盗賊さん達。 残りを吹っ飛ばそうと思ったらすでにガウリイが全員のしていた。 …………あ、心なしかガウリイ不機嫌そう………… これってまさか、さっきのキス未遂のせい? ……考えるの、やめとこ…… 「あ、ありがとうございました」 「いえいえそんな、お礼なんて喜んで受け取らせていただきます」 「おひ………」 ガウリイがジト目で何事か呟くがそんな事は無視するに限る。 あ、いけない。あいつらにアジトの場所訊かなきゃいけなかったのに…って全員話ができる状態じゃないわね。 ひょっとして、あたしが盗賊いぢめにいけないようにわざとやったとか? ……ありえる。普段はどうしようもないクラゲなのに事このことに関しては異様に頭が働くのだあいつは。 「あああああああああーーーーーーーーーっっ」 「ふぇ!?な、何よ一体」 「わ……割れてる……」 女の人は小さな袋の中を覗いて呆然としている。 そういえば、この人ずいぶん変わった格好よね。 基本的にタイトなワンピースみたいだけど。 グリーンの、体にぴったり沿った作りの衣服は嫌でも体のラインがはっきり出る。なんでこう胸の大きい人ばっかりなのよ。 かなり上の方まで入ったスリットから覗く白い足。 …こんなカッコでこんなトコ歩いてたら、そりゃー襲われて当然よね。 まぁ、そのおかげであたしは助かった訳ではあるんだけど…… 向こうが透けて見えそうなくらい薄手の白い布をショールみたいにかぶっている。要所要所に入った銀糸の刺繍。どこから見ても一級の品である。 結論。この人お金持ち(はぁと) 「どうかしました?」 あたしが声をかけた途端、その人は弾かれたように顔を上げた。 「………………」 「あ、あの?」 穴があくほどあたしの顔を見ていたその人は、今度はガウリイの顔をまじまじと見つめた。 「時間も玉もないし……この人達に賭けるしかないわね」 「は?」 「いえいえ、こっちの話です。それより、助けていただいて有難う御座いました。おかげで助かりました。 あの、お二人のお名前は?」 「あたしはリナよ。リナ=インバース」 「俺はガウリイ」 「リナさんに、ガウリイさんですね…………これでよしっと」 もっていた小袋の中から取り出した玉に何やらボソボソ呟いている。 「あの…ちょっと?」 「お待たせしました。それじゃ、よろしくお願いしますね?リナさんガウリイさん」 「は?何の事よ??」 あたしが問いかけるよりより先に。 あたしの意識は玉から溢れ出した光に飲み込まれていた…… 気がつくと見知らぬ場所にいた。 あたし、どうしたんだっけ? 「えーーっと確か……」 周囲を見まわしてみる。 目の前には一台の木製の機械。 かなり広いこの部屋の中には、同じ物が何台も置いてある。 「これってはた織り機よね……でもなんであたしこんなのの前に座ってるの? それに……」 何かが違うと思っていたら。 あたしの服。いつもの魔導師姿じゃない。 さっき助けた女の人。服のとめ方なんかは似ているけれど豪華さの点では今あたしが着ている物の方がはるかに上。 綺麗な服を着て機嫌が悪くなる女の子はほとんどいないだろうけど、あたしはちょっぴり嫌だった。 なんでって…………色がピンク、なのだ。 ああ思い出したくもない出来事が甦るっっ! けどこの服、はた織りする時の服装には見えないわね。両手が隠れちゃいそうに袖は長いし、スカートの部分だって完全に足が隠れている。 こんな格好で歩いたら一発で転びかねないわね。あたし。 ……ってちょっと待て。 誰がこの服に着替えさせたわけ? ……乙女の柔肌に許可なく触れるとは……その罪万死に値する!! 「あの…」 「何よ!」 怒りをこめて振り向くと、あたしとは色違いの同じ衣装を身に着けた銀髪の女性が立っていた。 続く(滝汗) うっひゃぁ。久しぶりに駄文を書いてしまった。 ん年振りだろこーゆーの。しかも時期思いっきり外してるし。 あ、これ『天空』と書いて『そら』と読みます。(んな事分かるわけないってば) しかもこの続き、本人にすらどうなるかわかってないし。 あぁ自分の表現力と文章力のなさが露呈しまくり。特に出てきた女の人とリナの服。 あれ、最初の人ははチャイナドレスのよーな物。んで、リナたちは…というと。 文庫版「創*伝」5巻のカラー口絵がモデルです。(何それ) 知りたい方は、本屋さんへGo!立ち読みで見るだけはできますから。 ガウリイの出番はいつになるだろ。 しかもガウリイsideまであるらしい。(自分で自分の首絞めてどーする) ま、ガウリイsideは気が向いたらでいいや。 それでは駄文にお付き合いいただき有難う御座いました。 ……て、読んでくれるよーな奇特なお方が果たしているんでしょうか?? |