被保護者だから







  初めて自分の気持ちを自覚したのって…いつだったっけ?
  ―――そう…あれは……重破斬(ギガ・スレイブ)を発動させたあと。
  あの時は必死だったから、何でアレを唱えたのかなんて考えなかったけど。
  冥王の一件が一段落して。
  落ち着いてあの時のことを思い返してみた時。
  世界よりあいつを選んだのは何故だったのか
  一晩中ゆっくり考えた。
  そして―――
  すぐ傍にあった答え。素直な、純粋な想い。
  あの時―――
  自分の気持ちに気が付いた……

  気付いた時はひたすら驚いた。
   まさか…あいつに……?
   ちょっ・よしてよ……なんで…なんであんな……
   嘘でしょ!? 冗談でしょ!? 冗談に決まってるわ……
   あんなクラゲを……
   あんなクラゲを好きになっちゃってたなんて……
   嘘でしょぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!?!?!?
  心の中でどんなに否定してみても。
  ひたすら絶叫してみても。
  浮かんでくるのはあいつの顔。「リナ」って呼ぶあいつの声。

  だけど―――
  あいつのどこらへんが好きなのか…まったくわからない……
  自分の気持ちのことなのに…なんでわかんないのよ……
  こんなんじゃ気になって眠れない……
  それに―――
  あいつに「子供扱い」される度に、胸の奥が痛くなる……

  自分の気持ちに気付く前とは違う視線―――
  視線に込めた想いに
  あいつは気付かない……

  けどね……
  気付いてくれないなら、あたしに惚れさせちゃえばいいのよ。
  あいつがあたしを「子供」とか「被保護者」とか思ってるんなら……
  あいつに「保護者」を辞めさせちゃえばいい。
  それとも……
  あたしの「保護者」じゃなくなったら、あたしの傍から消えちゃうの?

――――リナ=インバース

  なによ? あたし今……

――――まだ目覚めぬのですか? リナ=インバース

  だから今……
  あれ? あたし……
  あたしは一体…どこで何をしてるの?
  たしか…盗賊いぢめに行って……その帰りに……

―――ぱちっ。
目が覚めた。 
一気に覚めた。
―――がばっ…
上体を起こすと、そこには黒いローブに身を包んだ奴がいた。
……そうだ……あたし…盗賊いぢめの帰りにこいつに……
「やっとお目覚めですか?」
そいつは口の端をニヤリと歪めると、面白そうに言った。
「待っていましたよ…リナ=インバース……」
……そう…こいつに攫われたんだ。
「あたしにはあんたに待たれる覚えないんだけど?」
言いながら立ち上がり、小さく呪文を唱え始める。
油断はできない。
あたしが気を失う前に感じた違和感……あれはそう、空間が歪められた時のもの
だ。
だとすると…こいつは―――魔族
「烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
―――ゆらっ…
あれっ?
「無駄ですよ」
発動しない……???
それにこの程度の呪文で、何でこんなに疲れるの???
「ここは私が特別に設えた屋敷でしてね……」
うっすらと笑みを浮かべて、ゆっくりとあたしに近づいてくる。
「この部屋には攻撃呪文をすべて無効化する結界を張っているんですよ」
何ィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????????????
ちょっと待てぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇっっ!?!?!?!?!?
それじゃどーしろというんだこの状況を!
……って…あり?
「……何が目的、なの……?」
ふと疑問を感じた。
「あたしの命―――ってわけじゃないみたいだけど……?」
そう。この魔族があたしの命を狙っているんだとしたら、なんでこんな部屋をわ
ざわざ用意したのかがわからない。
殺すならさっき、あたしの意識がない時にでもできたはず。
それに……こいつには殺気がない。
だけど相手は魔族……何を考えてるのかわかったもんじゃない……
「私が貴女に望むのはただ一つ―――」
奴があたしの目の前で立ち止まる。
「食事です」
げっ……冗談じゃない……
いつぞやのカンヅェルのように、あたしを嬲り殺しにする気!?
「絶望や屈辱を知らぬ貴女の負の感情は…さぞかし美味なのでしょうね……」
そんなの知るかっっ!!!
思い切り睨みつけてやるが、相手は面白そうに嗤うだけ。
馬鹿にしてるようにも見える。
「さあいらっしゃい」
その言葉と同時に、背後に複数の気配が生まれた―――
けど…この気配は……
魔族じゃない。人間の……それも雑魚。
この程度の相手なら呪文を使えなくてもなんとか……
「彼女に恨みがあるのでしょう?」
その言葉に思わず振り返…
―――くらっ…
軽い目眩。
あ…れ……? 
「体力は、そこら辺にいる街娘以下に封じてありますので」
そう言ってニヤリと嗤い、魔族の姿は徐々に消えていく……
こいつ……わざとあたしが簡単には殺されないようにセッティングしたのか!?
あたしの負の感情を喰うために!?
「さあ…好きなように恨みを晴らしなさい。好きなように……ね」
待たんかいっ!
あたしが抗議する前に奴の姿は完全に消えた。
おそらくはどこか別の空間で見物でもするつもりなんだろう。
くっそぉ〜〜〜〜〜好き勝手言うだけ言って自分は高見の見物なんて……
絶対みつけだして……
―――ぐいっ
!!!!!
マントを引っ張られた。
かるく引っ張られただけなのに、あたしはそのまま後ろに倒れてしまった。
しこたま床に頭をぶつけて涙が出そうになる。
「さっきはよくもやってくれたなぁ」
見上げればさっき潰した盗賊団の生き残りが、ニヤニヤしながら取り囲んでいた
……。