お祭りの夜は…
      〜がんばれ(はあと)ガウリイくん!(その2)〜









「う〜ん…やっぱしストレートに『祭りに行かないか?』って聞くか…?
いやいやそれじゃあアノリナのことだ、何か裏が無いかって聞き返してくるハズだ…。
〜〜だがそしねえとイイふいんきになることなんて……」
 だぁぁぁぁっっオレはどうすればいいんだぁぁぁっっ
 一応、心の内で絶叫しながら頭を抱えるオレ。
なんで一応かって言うと、オレが今いる場所は食堂から宿の部屋に行くための階段だからだ。
大の男が階段に座り込んで頭を抱え込んでいるっつーのは、はた目から見たらたいへん変な姿だろう…。だがしかぁしっ!今のオレにそんなことを気にする余裕など無いっ!今一番大事なことは、リナをどう祭りに誘うかだ!!
「どうする…?どうするどうするどうする…!?
 アノリナ相手に…だぞ、うそを貫き通すことなんてできるのか?!
…い…いやまぁ、『リナのことが好き』ってことは…さ、黙っていたけどな…」
 思わず後半の方は声が小さくなってしまうオレって…結構なさけないかも…。
「いやいや、ここで弱気になっちゃぁだめだ。
前にリナだって言ってたじゃないか!『戦う時は必ず勝つつもりで戦う!』ってな。
…そう、これは戦いだ。戦いの場で弱気になってたら負けるってのは、今までじゅーぶん見てきたじゃないか。
 そうだ。『無敵にすてき。元気に勇気』とかいったじゃないか!!(いいません)
 ここはさりげなく会話に出して、だ。それから…そ…それか…ら…
〜〜〜あぁっっそれからどうすりゃいいんだぁぁっ」
スパコーン
「うっるさあぁいいっ」
「いってぇっ…て…あ、あれ?リナ? お前さんなんでこんなことろにいるんだ?」
 そう、目の前にはいつのまにかリナが来ていた。
リナはきりきりと目を吊り上げて、
「『なんでこんなことろにいるんだ?』 じゃないでしょおぉっ?!
それはこっちのセリフよ!!
 いい年した男が、階段の真ん中なんかで座り込んでんじゃないわよっ! おまけに、何?
アレは! さっきからぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつとっ!
うるさいったらありゃしないわよ!! しんきくさいっ
他人の迷惑でしょうが?!」
と、一気にまくしたてた。
 相変わらずよくそんなにしゃべれるよなぁ…女ってわからん。
 とりあえず、反論してみることにする。
「なぁ…、今ここにいる客ってオレとリナだけだったような気がするんだが…?
だれが迷惑するんだ? あっそうか、店のおばちゃんかぁ!」
「ちっがぁぁううううううっ!
さっきおばちゃんは出かけていったでしょうが?! 何見てたのよ、アンタは!!
 それに、迷惑するのはあたしよ、あーたーし! この天才美少女魔道士リナ=インバースよっ!!」
「胸がちっちぇくせに。おお食らいで、盗賊いびりばっかやってるくせに…」
「ぬぁんかいったかなァ? ガウリイくぅん?」
 ふと気がつけば、リナの手には魔法球が握られていた。
こ…こえぇ…。 小さく言ったつもりだったんだが…さすが地獄耳。
 オレが一生懸命首をぶんぶんか振ると、リナは笑顔―しかし目は笑ってはいない―で言った。
「お空の向こうまで飛んでけぇぇっ ディッル・ブランドォ――――!!」
ドゴ―ン
「だぁぁぁっあっあぁぁぁ」
 俺の悲鳴は爆音に消されて消えた……(泣)

ダダダダダダダダダダダダダダ
バン
「なんってことすんだリナッ!!」
 オレは、リナの部屋の扉を思いっきり開けた。
……ハァハァ し、死ぬかと思ったんだぞ。あれには。
 呪文で吹っ飛ばされる所までは、まぁいい。いつものことだ。
だけどな…だからって…落ちた先が崖の下ってことはないだろぉ!!
おまけにやっと上にあがったと思ったら、今度はやぎの大群がきて踏み潰されるしっ!
踏み潰されたと思ったら、変な料理人のおっちゃんがきて「戦え!」なんていいやがるしっ
しかもなんでかそいつイヨーに強いし。
 …てそういや、スポットみたいのにも会ったっけ? 一緒にいたあの黒髪のネーちゃん、結構強そうだったよなぁ…。 なんかリナにも似てたし。まっ、戦うのはごめんだな。
 ていや、そうじゃなくって!もうさんざんだったんだぞっ!
「あら…? 結構はやかったじゃない」
「『はやかったじゃない』じゃねぇ!?」
 くってかかったオレに、リナは苦笑しながら言った。
「ハイハイ。ホラ、リカバディかけたげるからココ座って」
 口調はまるで子供をあやす母親だ。
 これじゃぁいつもと立場がちがうじゃないか?! いや…ずっとそうだとこれはこれでまた問題が出てくるんだがまぁそれはともかくっ。
 オレはムス――っとしたままつかつかリナの部屋に入り、椅子に座った。
「聖なる癒しのその御手よ 母なる大地のその息吹 願わくば我が前に横たわりしこの者に 今一度の力を与えんことを…」
 と。
 リナが呪文を唱えてる間に初めて気づいたことなのだが、オレはいつのまにかリナの部屋に入ることに成功していた!
 うっしゃー ラッキー!!
 思わずガッツポーズをとってしまった(もちろん心の中でだけど)オレをいったい誰が責められよう?チャンスはつかんだ。後は実行あるのみ!

 作戦1:それとなく話題に出す
「なぁリナ。この後のことなんだが…」
「ン――。 今コレやってるからちょっとまってて」
 作戦失敗。
 作戦2:…………
 ない。ないっつったらない。
 …なんだよ。その目は。
どんなにオレが頭を振っても何も出てこないもんは出てこないんだ。
 何? オレがふだんどんだけ頭を使ってないかこれでわかっただろうって?
 うるさい。これがオレなんだ。
 ああそうさ。開き直ってるよ、オレは。
だいたいリナと旅をするならなぁ…何? 見苦しい言い訳はやめろって?
……………………………………………………………
 オレはちょっぴり自分が悲しくなったりした…。
ってアレ? オレ誰としゃべってたんだ?
「はい。終わったわよ」
 気がつくとすでに治療は終わっていて、リナがポンとオレの腕をたたいていた。
 さっきの声に関しては…まっいいか。気にしないでおこう。
「そういやガウリイ、さっき何か言いかけてたでしょ?」
 おっリナが覚えてる?! よしっ作戦続行!
「おお、この後何すんのかなってな。 何か予定あるのか?リナは」
「う〜ん…特に無いけど…。 そうねぇ、この前の盗賊のお宝整理かしらね?
それが何?」
「いや、な、あのさっき言ってた祭りなんだけどな…」
「『采女祭り』ってやつ?」
「ああ。 きれいな祭りだっておばちゃんも言ってただろ?
だからさ、せっかくだからその祭り見に行かないか? 部屋でじっとしてるよりかはいいだろ?」
 するとリナは苦笑して言った。
「へぇ…ガウリイにしちゃ気が利くじゃない。 
古代の国の祭りか…ふ〜む…こういうところに決まって、なにか面白い魔術とかがあったりするのよね…」
 なおもぶつぶつ言ってるが、オレにはさっぱり意味はわからなかった。
ただひとつわかることは、リナはこういう魔法のこととなると生き生きしてくるということだ。
――まぁ、もちろん飯食ってるときとか盗賊をいびってるときもこんな顔をしたりするけどな。
 オレもそうとうリナに惚れているらしい。どんな時でもリナが幸せなら、それでいいって思っちまうんだから。でもそれぐらい惚れてなきゃ、リナの相手なんてできねぇよな。
ん?何自惚れてんだ、オレ………?
 ここで、オレはある一つの事実に気づいた。

 ――自惚れ―― 

 結局は、そうなんだよな。
リナがオレを受け入れてくれるなんて思うのは、オレの勝手な空想に過ぎない。 
ずっと保護者なんて言ってたもんだから、リナがオレを『男』として見てるかもわからないのに、だ。
 でも…でも…
「ガウリイ。それじゃ、そのお祭りいってみよっか」
 ―――――っ!!
 明るく笑うリナを見ながら、オレはそんな思いを振り払うように唇をかんだ。

 そして…今。祭りの会場であるムース・レイクについたオレはもんのすごおく後悔していた。
 見ろ!! あの男どもの目つき! あきらかにリナに気があるって目だ!
 そうなんだよな。最近のリナってすっげーきれいになってるもんだから、街でもヤローどもの
視線の数が多いこと多いこと。食堂なんかでオレがちょっと席をはずそーもんなら、すぐ言い寄ってきやがる。――そのたんびに追っ払ってるオレの身にもなってほしいもんだ。
 それに対して…リナ。こっちにも問題がありまくりだ! いつものマントやらショルダーガードやらははずしていて、格好はごくごく普通の村娘。といった感じだ。
 そのリナの格好を見て、オレは思った。たしかにっ、いままで恋愛ごとなんて関係無かったであろうから、すこしは仕方ないかもしれない…がっ。リナの格好は無防備過ぎるんだとにかくっ!
「ちっ。失敗したな」
 思わず本音がでてしまう。
「? どうかしたガウリイ?」
ぎくっ
「なぁ、リナ。なんで夜店がないんだ?」
 オレはあわてて話しをそらそうとして、あたりをきょろきょろ見まわした。
「神聖な場所なのよ」
と、そっけなっく答えたリナの顔は、どことなく酔っているような感じだった。
おそらく、この場のふいんきに酔ってしまったのだろう。
「ふ〜ん。
…おっリナ!何か出てきたぞ!」
「えっ?どこ?」
「ほら、そこだって」
 オレはその方向を指でさすが、リナにはまだ見えないらしい。
まぁ、他人に言わせるとオレの視力は普通じゃないらしいから、当然かもしれない。
 でてきたのは、数人の女性だった。
みんな同じ赤いズボンみたいなのと白い…上着…なのか? よくわからないがそんな感じの服を着ている。
 あとでリナに聞いた話だと、彼女らはここの巫女で、着ていたのはこの地方に伝わる伝統的な巫女の正装らしい。
 エルフたちがきれいな声で歌を歌いながら、小船に乗ろうとする巫女たちを送り出す。
『お祭りの夜はすなおになろう……
――――それが…幸せへの近道になるから……

 あなたのこと…いつも夢に見るたび後悔する…
あの日のこと あの言葉が…耳から離れない―――
――ねぇ あなたは今何処にいるの…? 声を――聴かせて…
 ひとことでいいの…聴かせて――』
 悲しい。どこか悲しい歌だ。最初のほうはまだそうでもないけど、最後のほうは…。
 こんな歌で見送る祭りなんて、オレは見たことが無かったから、正直驚いた。
――そういや、この祭りってなんとか物語ってやつをもとにしてるんだよな。
 そう思ったとたん、そのなんとか物語ってやつにめちゃくちゃ興味が沸いた。
「はぁ…」
 リナがため息をついたことで、オレはそのことを考えるのをひとまずやめた。
「どうしたリナ?夜店がなくて落ち込んでるのか?」
 言いながら、あることに気づいた。
 リナの顔が、どことなく沈んでいるように見えたのだ。そして…リナの視線の先に一人の男がいる!?
まさか…まさか…リナのやつあんなやつが好きとか言わないよな? こんな…見るからにキザったらしくてナンパヤローのことなんか…ハハ。まさかな。 ハハハハハハハハハハ…
おのれ…ゆるさんっ!!
リナはオレの奥さんになる(予定な)んだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!
 おもいっきし、そいつの方に殺気を放つ。
こんなやつなんかにリナを取られてたまるかぁぁぁぁ!!
「なんでもないわよ。あんたの方こそなんか用事あるの?」
 もちろん殺気はリナには気づかれていない。
「ン?あぁ、…さっき言ってたあのふ…ふねみ物語ってやつなんだけどさ…」
「それを言うならう・ね・め。でしょ?」
クスクス とリナが笑った。…よかった…オレのクラゲもこういうときには役に立つもんだな。
 ついつい、顔の筋肉がゆるんでしまうのを少々こらえながら言った。
「そうっだけか?」
「そうよ」
おもいっきしあきれてる口調だけど、オレはそれがうれしかった。なんてたって、
リナが笑ってるからな。
「いやな、その『釆女物語』ってどんな話しなのかなって思ってな」
 うそは、言ってないよな。さっき実際思ってたことだし。
ちなみに今もヤツに向かって殺気は放ちつづけている。
「ふ〜ん。
まああんたのクラゲ頭でどこまで覚えているかわかんないけど。
一応、教えたげるわ。
いい?その昔、ここがヘイジョウ国って呼ばれてた頃のことよ。王のもとに春姫っていう釆女がいたの。
あっ、采女っていうのはその時代の女官のことよ。
さっきもいったけど。おぼえてる?」
「あぁ」
「へぇ…よくおぼえてたわね。
のーみそ少しは復活してきたみたいね。このままそうだといいんだけど……」
誉めてんのか、けなしてんだかよくわからないリナの言葉に思わずジト目になるオレ。
「リナ…今、サラリとひどいことを言われたような気がするんだが……?」
「気のせいよ。
それでね、その春姫には故郷にだんなさんがいたんだけど…」
 無理やり話を進めるリナにつっこんでやろうかと思ったが…ン?
「ハイハイ!
リナ先生しつもーん!」
「ハイッ!ガウリイ君!」
「結婚してたのになんでまだ女官なんかしてたんだ?」
 謎だ。まぁ…リナあたりなら結婚しててもそういうことしそうだが…。
「う〜ん、あたしも詳しくは知らないんだけど…
そのころの結婚と今の結婚って仕組みがちがうのよね。
だから、場合によってはそう言うこともあったみたいよ」
「ふ〜ん」
 そんなものか。
「でまぁ、だんなさんに会いたくて春姫は自殺に見せかけてまでして
故郷に帰るんだけど、もうその時にはだんなさんはすでに死んじゃってたのよね。
そっからバカな話しになるんだけど…」
 そこでリナは一回小さく息をついた。
「春姫はさ、悲しみのあまり後おい自殺をしちゃうのよ。
悲劇って言えばそうだけど…バカじゃない?
これから、もっともっといろんな幸せがあるかもしれないのに。
おいしいものだってあるのに。
いくら悲しいからって自分の体まで犠牲にして良いわけないのに、死んじゃったのよ。
その人。
ね、バカな話でしょう?」
 聞いているうちに、だんだん腹が立ってきた。
なんでって、オレにはその春姫ってヤツの気持ちがよくわかったからだ。もしも、オレとリナがわかれることになってもオレは絶対リナを探しだす。絶対にだ。
 リナと出会った時から――リナという存在の大切さに気づいた時から、オレの居場所はリナの隣にしかないんだから。だから…リナのいない世界なんて意味が無い。
おそらく、ここに出てくるハル姫ってやつも、同じなんだろう。
「どこがそう思うんだ?」
 オレはリナに聞き返す。多少語尾に怒気が混じってたりするのは、まぁいいだろう。
あんなヤローのこと見てたんだしな(まだ言ってるよコイツ…)。すこしばかりのお仕置きだ。
「どこがって…言ったとおりよ」
「だから、どーいう意味なんだよ」
 ここで気づいたのだが、あのヤローに向かって放っていた殺気がいつのまにか消えていた。
…というのかヤツが消えていたのだが。この事実に、内心オレは胸をなでおろした。
「じゃぁ、何でガウリイはそう思うのよ」
 半分…逆切れだなこれは。リナのどう見ても話しをそらそうとしてるとしか見えない問いかけに、
オレはちょっと困った顔をする。
「いや…何でって聞かれてもなぁ…」
 言っちまうか?! 言っちまうか?!
『リナが好きだ』のたった一言でいいんじゃないか。

『あなたのこと…いつも夢に見るたび後悔する…』

 後悔…そうだ、後悔しないためにオレは告白することを決めたんじゃなかったのか?!
ええいっ いいかげん男になれ!ガウリイ=ガブリエフ!
 リナが口を開きかける…今しかないっ。
「リナが死んだらオレもそうするだろうなっておもっただけだし…」
 まずははじめの第一歩だ。こんな遠まわしの言い方でオレの気持ちが少しでも伝わっただろうか?
「はぁ?あんた何言ってンの?」
 返ってきたのはすっとんきょんな声。
 …ホラ、やっぱし伝わってない。
 結局は、言うしかないよ…な…。
なるべく顔が真っ赤にならないよう気をつけて、言う。

「オレは、リナのこと好きだから」
―――言ったぞ。オレはとうとう言ったぞ。これであとはどうにでもなれだ!!
「それに言ったろ?
一生お前の保護者をするって。地獄までつきあってやるよ」
 あれも、ある意味告白だったんだけどな…(泣)
 少々悲しくなりながらも、リナの頭をぐりぐりすると…おりょ? 反応がねぇ?
 どうやらかなり混乱してるらしい。
………たくっ。どうしてこういう事にはうといんだ? 
これじゃぁ、オレのこと『クラゲ』なんて言えないよな。
…まぁ、しょうがない。もう一度、言ってみるか。
「リナ。愛してる」

かああああああああああ

 見る見るうちに真っ赤になるリナの顔。
おっ おっもしれぇ♪ っていやそうじゃないよな。ここで真っ赤になるってことは…
………………………………………………
……これってひょっとして…みゃく、アリ、か?
ヨッシャ―――――――――――!!!!
「うぇ?が…が…」
うろたえとる うろたえとる♪
「リナ♪返事♪聞かせてくれよ♪」
「し、しらないわよ!
こ、こんなクラゲ頭のことなんて!!」
 顔こんなに真っ赤っかにしといて何をいってんだ? お前さんは。
全然説得力というものがないぜ。
 その様子を見たオレにちょっとしたいたずら心というのができた。
「ふ〜ん。じゃぁ、これでも?」
 言って、リナの唇にオレは自分のそれを重ねる。
ここまで我慢したんだ。これくらいは、役得ってヤツでいいよな♪
「んっ…」
「リーナ♪」
唇を離して、リナの顔を覗きこむ。
「しっ、しらないわよ!!
だいたいねぇ……」
まだいうか…お前は。…好きでもない男にキスなんてされたら、普通は逃げ出すぞ。
―――まっ、オレは逃げられるようなヘマはしねぇけど―――
…そう言うやつにはちゃんと分からせてやらないとな♪
 
ちゅっ

「こンのキス魔!!」
 全然素直じゃないリナの言葉に、オレは少々あきれてしまった。
「まったく…いい加減すなおになれよ。
このひねくれ者」
「なっなんですってぇ!!」
「まだあるぞ。いじっぱりでお人好しで照れ屋……」
 たくっ 毎回毎回、めんどう事に巻き込まれては、それ以上の面倒を起こすし。
『盗賊いじめ(はあと)』なんていって毎晩宿を抜け出して、人に心配をかけさすし。
山やら町やら、いったいいくつあいつのドラグ・スレイブにかかって消えたんだ?
ちょっと何か言えばすぐ攻撃呪文だろ?
「自分より弱い奴にはとことん甘い奴だけど…」
 体はちっちゃいくせして、もってる魔力はハンパじゃないってきたもんだ。
狙われる魔族の数もハンパじゃねぇ。 
『魔族なんて普通、一生のうちで2〜3回あえればめっけもんだ』ってオレのばあちゃんも言ってたぞ。
でも…な、それでもお前さんと一緒に旅をしてきたのは…
「オレは」
『お前さんと旅するのに理由なんてない』なんて思えるのは…すべて…
「そんなお前が…」
――リナのことを…愛しているからだ!――
「好きなんだよ」

「リナ。これがオレの今の自分のホントの気持ちだ。
もう…保護者なんかじゃなく、一人の男としてお前のそばにいたい」
 オレは静かにリナが口を開くのを待った。
 リナは、しばらくじっとオレを見つめていた後少し俯いて、言った。
「…なんで…だまってたの…?」
 おそらく、なんでオレが自分の気持ちを隠してまで『保護者』だって言ってたんだ?
ってことだろうな。
「最初に保護者だって言っちまったしな。
だから…正直に言うと、怖かったんだ。自分の気持ちに気づいた時にはもう、
今のような生活ができなくなるかもしれないって思うと…な。
バカだよな…自分で自分の首、しめちまうなんてさ…」
 ホント、このことには後悔してる。
でも、これからもお前と旅をするのに、もう、後悔はしたくなかったんだ……!
 クスッ
「リナ…?」
 ――笑った。
 突然、リナが笑ったのだ。
 オレは、息を呑んでしまった。しゃべろうとしても、口が動かないんだ。
だって…だって…リナが、すごく幸せそうに、笑った…から。
「ううん。続けて」
オレが、こんな顔をさせることができたのか……!?
 ゴクンッ
 つばを飲み込む。あと一言だ。あと、ひとこと…
「だから…リナ。オレのそばに一生いてくれ」
言えた―――――――!!
「それプロポーズ?」
 リナの質問に、オレは少し首をひねる。
「うーん。そうかもな」
本当は『かも』じゃなくて『そう』なんだが。
「まったく。クラゲなんだから」
 ニヤリ―― かかったな、リナ。
「そう。クラゲなんだ。だからさ、教えてくれよ。
リナの気持ち。言ってくれなきゃわからないだろ?」
 そうだ。そもそも、オレだってこの一言を言うために苦労したんだから。
リナだって言ってくれなきゃ、不公平ってもんだよな。
「自分で認めてたらもうおわりね。…そうね…教えたげるわ。
ただし!…一回しか言わないわよ?」
「あぁ」
 小さい――ホントに小さな声だったけど…
「ガウリイ…好き」
 そう、リナは言ってくれた。オレはこれで満足だ!
「…リナ!」
「ただぁし!!」
 と、そこでリナはオレの前に一本指を立てると、
「あたしよりも先に死んで見なさい。
そんときは…一生ゆるさないから…!」
彼女の紅い、強い瞳がオレの瞳を射る――。
 お前より先に死ぬな?あたりまえだ。お前を、一人になんかさせるもんか!
「…あぁ。わかった」
 言って、オレは今日もう3度目になるキスを味わった。


 祭りの帰り道、彼女はこんなことを言った。
「…なんか、怖い」
「何が?」
「あたし達がこうしてること。
歩いてるってこと事態は変わらないんだけど、もう、今までのあたし達じゃないでしょ?
なんか…ちょっと…怖いなって」
「……」
そのたった一言に、オレは言葉を失った。
 そして思った。すまない――と。

――オレはホントにクラゲだから。 だから、待つことができなかった。
もうすこし、もうすこし、お前が、自分で言えるまで待てれば良かったんだ。
そうすれば、その『怖さ』も感じなかったかもしれない。
自分のことしか考えられなくて、ごめんな。リナ。―― 

 それなのに…リナはこう言ったのだ。
「でも…さっ。 ガウリイと二人一緒なら、大丈夫よね」
 …………!
「あたりまえだろ? お前のことは、オレが一生守ってやるよ」
「期待してるわよ! 元『保護者』さん?」
「おう!」

 ―――オレは心から想う
         ありがとう。リナ―――


☆ おわり☆