お祭りの夜は… 〜がんばれ(はあと)ガウリイくん!(その3)〜 |
数年後―― 「とおしゃーん」 トテトテという音と共にこっちに向かってくる影が一つ。 母親譲りの栗色の髪をひょこひょこさせながらくるのは――オレとリナの 愛しい愛しい一人息子だ。 リナに作ってもらった黒いマント――なんでも大人の真似をしたいんだろうな―― に足を引っかけて何度か転びながらもここまで来ると、 「とおしゃんっ」 と言って抱きついて来る。 「足、大丈夫か?」 いいながら肩に乗せると、少しすねたような声が返ってくる。 「ヘーキだよ!」 うん。なかなか威勢がいいと思わねえか? こうしてみると息子ってもんもなかなかいいもんだよな。 ホントは女の子が欲しかったからすこし…いやかなりがっかりしたが――そうだなぁ、 2番目は女の子がいいよなぁ…きっとリナに似て美人だぞ――。 そうなったらゼッタイ嫁になんか行かせたくねーよな〜〜。 あっでも、女の子って大きくなったら一緒に風呂も入ってくれねえっつーし、 遊ぶことも出来ね―んだよな…。 そうか、それだとやっぱ男でよかったよな。 そのうちコイツにも剣術の修行させたりして…うーん。一緒に酒飲むのもいーよなー。 「ねぇ、とおしゃん。あっちにね、あたあめがあったんだよ!」 「あたあめ?―――ああ、『わたあめ』か」 まだ3才なんだから、これくらいの間違いはしかたないことだろう。 これから、少しづつ覚えていけばいいよな。 ――もっとも、リナはコイツがオレみたいなクラゲになるんじゃないかって心配してるけどな。 失敬な。 「あたあめーったべよーよーっ」 ぐいぐいっ 「いたっいたいってっ。わかったわかった、おねがいだから髪引っ張るのだけは…いててっ」 「やったぁ〜!!♪」 「…たくっ」 ――これじゃぁ昔と変わんねぇな―― うれしそうにオレの肩の上ではしゃいでるのを見ながら、オレは内心苦笑してしまった。 それからしばらくして、オレ達がわたあめ持ちながらブラブラ歩いていると、突然、 横から声をかけられた。 「ガウリイさーん」 「おっ?」 「おひさしぶりですっ ガウリイさん」 そう声をかけてきたのは、黒い髪を肩の所で切りそろえたリナと同じ位――いや、もう少し年下か?―― の女性だった。 えーと……… 「だれだっけ?」 ずべしゃっ 「うっわー…ハデに転ぶな。お前さん」 「だゃいじょうぶ?」 「〜〜〜〜〜っ何ジョーダンかましてるんですガウリイさん!?」 オレとしてはケッコー正直に答えたつもりなんだが…どうやらまちがいらしい。 「いやー…えーと」 「アメリアですよっ! アーメーリーア!」 アメリア…アメリア………おおっ! オレはポンと手を打つ。 「おおっ!アメリア、久しぶりだな!」 「やっぱり忘れてたんですね…まさかとは思ってましたけど…」 どうして分かったんだ……? あきらめきった顔で涙を流すアメリアにオレはただ苦笑いをうかべるしかない。 「いやぁ、すっかりきれいになってたからなぁ…」 一応言っとが、これは本当だ。実際彼女は昔旅をしていたときに比べると、ずいぶんきれいになった。 ――それでも、オレの一番はリナだけどな。 それに、アメリアにはゼルガディスがいるしな(2年前に結婚したばっかりだ)。 「そういやアメリア、お前さんなんでこんなとこにいるんだ?」 「……ガウリイさん、話しそらすのうまくなりましたね」 ぎくっ 一瞬背中に冷や汗流れたり。 「まぁ…いいですけど」 そういってアメリアは笑った。その笑顔には、かつて旅をしたときの面影がちゃんと残っていて、 なつかしさに思わず笑みを浮かべる。 と、アメリナはオレの肩に目を向けた。 「アレ? ガウリイさんの肩に乗ってる子ってもしかして…」 「あぁ、オレとリナの子供だよ」 オレがそう言ったとたん、彼女は急に目を輝かせて叫んだ。 「キャ―――――――!! ガウリイさん、抱かせてくださいっ」 オレはキンキンする耳を押さえながら、アメリアに渡した。 『抱いている方はともかく、抱かれたほうはたまったもんじゃない』っと怒りに満ちた目を 向ける息子に対して、オレはただ手をひらひらさせただけ。 すまん…お前の犠牲は永久に忘れんからな… 「かっわいいですねっ 名前は確か…」 「ケイ――――ン」 「そう、ケインくんって…ってあっ!」 「リナ!」 「かあしゃん!」 「ゼルガディスさん!」 オレとケイン、アメリアは向こうからやってくる、リナとゼルガディスの姿を見つけ、その名をさけんだ! ケインは「かあしゃんっ」って言ってそのままリナに抱きつく。 よっぽどアメリアのそばはうるさかったらしい。 「よぉ。ひさしぶりだな、旦那」 ゼルガディスは一人の女の子をつれて、まっすぐオレの所に来た。 ちなみにゼルの肌はもう、岩じゃない。神聖融合…なんとか魔法とかのおかげだ。 オレは片手を挙げて言った。 「元気にしてたか? その女の子は?」 オレが聞くと、ゼルは少し照れくさそうに言った。 「娘のミレニアムだ。ミリィって呼んでやってくれ」 「む…娘…?」 オレは少しと惑った。何しろ、その子はとてもこの二人の子供とは思えなかったからだ。 ミリィと呼ばれた女の子は、金髪碧眼のかわいいこだ。 目の色はアメリアに似ていてまだ分かるが、金髪の謎が解けない。 「ふっ。髪のことか?旦那」 まるで心の中を覗いたようなゼルの言葉に、オレはコクコクうなずくと、やっぱりなというような顔でゼルはしゃべり出した。 「オレの前の体ことは旦那も知ってるだろう? どうやらこいつの髪はそれの後遺症らしい」 ……………… 「なぁゼル」 「なんだ?」 「こういしょぐはっ」 ずしーん 気がつけばオレの腹のところに一つのスリッパ。 ……こんなことをするのは… 「なっなにすんだリナ!」 もちろんというかなんというか、オレの愛妻リナだった。 リナはニ――コリっと悪魔の笑みを浮かべると、 「ガウリイ…。 まさか『後遺症ってなんだ?』とかなんとかいわないでしょうねぇぇぇぇ!!」 口調までまねて言うリナに、オレは『何言ってんだ』という顔で返してやった。 「あたりまえじゃないか。それ以外に何を聞けと…?」 「(ぶちっ)『何を聞けと?』じゃなぁぁぁぁいっっ」 すぱこーん 「相変わらずですね…リナさん達…」 「あぁ…」 やはり、アメリア達も目的はあの祭りだったらしく、オレ達6人は祭りに向かう森の中を歩いていた。 「それにしても、ほんと久しぶりね!」 リナの声がうれしそうに聞こえるのは、オレだけじゃないはずだ。 「みりぃ、おまえがわるいっ」 「ちがうー。けいんよっ」 前の方で言い合いをしてるのはケインとミリィだ。 トカゲを捕まえようとして、失敗した責任をおたがいに押し付けあっている。 「もうすっかり仲良しさんですねっ あの二人♪」 「ほんと。イイコンビになるんじゃない?」 なんて母二人の会話が聞こえ、オレとゼルは一瞬顔を見合わせ、お互い「ぷっ」とふき出してしまった。 「ちょっとお〜 何二人して笑ってるのよ。気持ち悪い」 「なんかいいことでもあったんですか?」 「い、いや。なんでもない」 と言った後、オレは小声でゼルに言った。 (ケインとミリィ…まるでリナとアメリアみたいじゃねぇか?) (ああ…あの責任の押し付けかたはな) 苦笑してゼルが答え、オレも苦笑して答えた。 (あぁ、そっくりだ) とその時、ミリィとケインがアメリアの方に走っていき、 「ねぇねぇ!ママ、このおまひゅりってすっごくきれーなお歌があるんだよね!」 と、ミリィが期待に満ちた目でそう聞いた。 そうですよ。 とアメリアが答えると、ケインも負けじと(いったい何とはりあってんだかは知らないが)、 「なぁなぁ、みりぃのおばちゃん。 とおしゃんてかあしゃんに、ここでこ…こ、はくしたんだよ!」 …………………………!! 「こはくじゃなくて、こくはくでしょ! けいんのばぁーか」 「ふ…ふーんだっ」 なんて子供の言い合いはおいといて、とにかくそれを聞いた大人達四人は一斉にかたまった。 ちらりとリナのほうを見てみるが…あちゃぁ、顔がまっかっかだ。 まず、一番最初に動いたのはアメリアだった。 彼女はギギギギと顔をリナの方に向けると、 「…リナさん…それ、本当ですか…?」 「ばっバカ言うじゃないわよ! 子供の言うこと信じるって言うの?!」 リナは顔をこんなに真っ赤っかにしていて、言葉に全然説得力というものがない。 なんて、オレものんきに眺めてる場合じゃなかった!! オレの隣にはゼルがいたのだ。そういえば、ゼル達の結婚式に思いっきりからかってやったような記憶がある……! 「ほぉ〜お。旦那もやるじゃないか。祭りの最中に告白とはな。 一体なんて言ってあのリナを落としたんだ?」 「えっ いや それが…」 「ちょっと! 『あのリナ』ってどう言う意味よ!」 「リナさん!今質問してるのはわたしですっ。 答えないなんて悪ですよ悪! 一児の母親が悪なんかじゃ子供がいけないんですっ。 飛行に走ったらどぉうするんですか?!」 昔とおなじ『爆裂正義娘』に戻ったアメリアは今にも木に登らんばかりの勢いだ。 さしものリナも少々オされ気味だ。 「んな大げさな…」 「いいえ、おおげさなんかじゃないですっ いいですか?!………」 なおもアメリアに説教をくらっているリナの姿を見ながらぼーと立ってると、くいくいと 服をひっぱられた。 「ン?… どうした?ケイン」 「ねぇ、歌ってどんな歌なの?」 「おじしゃんおせーて!!」 瞳をきらきらとさせながらおねだりする姿は…なるほどリナとアメリアの子供だと納得させられてしまう。 「そうだな…」 ゼルのほうに目をやるが、ゼルはそっとかたをすくめただけだ。 …しょうがない 「〜〜〜一回しか歌わねぇぞ?」 「やったぁ〜♪」 やれやれ。 「いいか、一回だけだぞ。 お祭りの夜はすなおになろう…… ――――それが…幸せへの近道になるから…… …っと続きは忘れちまったな」 「え――」 「ねぇ、どういういみ? おじちゃん」 「うんーとな…」 〜〜〜〜〜〜さてどういったものか… あたりをきょろきょろ見回したところで答えになりそうなものなんて……あった! オレはリナの方につかつか歩いていくと、?を浮かべる子供たちにこう言った。 「いいか? 言うのは難しいから実践でやるぞ。 よーく見とけよ?」 「……何するつもり?ガウリイ?」 訝しげに言うリナに、 「こうするの」 と言って、自分の唇をリナのに重ねる。……キスだ。 「○▽■*&%$#●□◆!?」 「まぁ……!!」 驚くアメリアと、 「………!!」 顔を真っ赤にするゼル。 リナは唇を離したとたん、 「なてことすんのよ! 子供が見てるでしょ――――!!」 「かあしゃんらぶらぶ〜〜〜」 「あぁ〜〜 コラケイン! 何言うのよ!」 「パパとママもらぶらぶ?」 「はい。ラブラブなのよミリィ」 「なっ オイコラガウリイ! なんとかしろっ」 そんなまわりの騒ぎなど気にならない。 オレは一つウインクして、リナにこう言った。 「祭りの夜ぐらい、すなおになるもんだぜ」 と。 ☆おわり☆ |