動揺
〜Ｌｉｎａ side〜








「これだから、お役所ってのはぁぁぁ」
ベッドに突っ伏しぼやく。

きぃぃぃぃぃ

「ご機嫌斜めみたいだな。」
扉を開けたのは、全ての元凶ノエルだった。

盗賊のお宝を手に入れてから・・・・・

すぐに魔導師協会目指して出発した。
途中木の下で眠ったりして時間を喰ったが、昼まえには街に着いた。
そこまではよかったのだが・・・・

あの魔道書かなり貴重だったらしく、手続きになんと五日間！！！
どうしてもそれ以上早くはできないらしい。
謝礼も手続きが済んでから、とのこと。
泊まる場所を魔導師協会が提供するということで、しぶしぶながら承諾した。

・・・・・そして今、あたしは宿屋にいる

「あれ？ガウリイさんは」
ちなみに、あたしとガウリイは同じだがノエルは違う宿屋である。

最初、あたしとノエルがいっしょと言われた。
んなことになれば、からかわれつづけるのは必至！！
そう思ったあたしと、なぜかガウリイが強く抗議しこうなった。

「宿屋のおばちゃんの荷物持ち」
おっちゃんがぎっくり腰で動けないそうだ。
そこでガウリイを朝食食べ放題で貸し出した。

「で、何の用なの」
自然と声が低くなる。
「ああ、俺の依頼のせいであんたらを足止めしちまったからな。
　お詫びでもと思ってな。」
「で、何を」
こいつのせいでな〜んもない街に５日もいることになった。
それに、からかわれつづけた恨みもある。
ちょっとやそっとのことで許す気はもうとうない。

「デートしないか？」
なっ！？！？！？
「おっ、赤くなった。」
「うっさい！それのどこがお詫びなのよ！！」
「デートするからには服もプレゼントするし、夕食も俺の金で食べ放題。
あとマジック・アイテムを格安で売ってる店も教えるぜ！」

確かにおいしい話である。
食べ放題♪にすっごく惹かれる。
それに男の人とデートすれば、
あの脳みそくらげもあたしを子ども扱いしなくなるかもしんないし。
う〜ん、悪くないわね。

「デートしてあげるわ、感謝しなさい。」
「ほんとか！！誘ったかいがあったぜ！」
あれ？お詫びにしてはうれしそうね。
なんでだろう？

それから・・・・・・
あたしたちは街が夕日で赤く染まるまであちこち見て回った。

そして今、あたしとノエルは広場にいる。
彼とのデートは楽しかった。
プレゼントされた服は白いワンピースで、かなり上質なもの。
夕食も豪勢だった。
なにより、大人の女性として接してくれた。
それがとても嬉しかった。

でも、少し切なかった。
・・・彼はガウリイじゃない・・・

「・・・くか、っておい！！」
「にゃっ！」
突然肩を叩かれる。
「酒場にでも行くかって言ったんだが、
その様子だと聞いてなかったみたいだな。」
「ごめん、ごめっっ」
振り返ったその瞬間、息を呑んだ。
ノエルの顔がとても真剣だったから・・・・






「好きだよ、リナ」
彼の顔が近づいて来る・・・・・・

逃げたいのに、体はちっとも動いてくれない。
怖い！！
反射的に目をつぶる。





「ほんとガウリイさんが好きなんだな。」
えっ？
思わず目を開ける。







そこには・・・・笑いをかみ殺している男がいた。

「あんたぁぁぁぁぁぁ！！！！！！！！！！」

　　　は〜〜〜め〜〜〜ら〜〜〜れ〜〜〜たぁぁぁぁぁ！！！！！

「あっはっはっはっは、あ〜腹痛て」
「笑うなぁぁぁぁぁぁ！！！！！！」

スパァァァァン！！！！！

コロス！！絶対っっ、コロス！！
あたしの眼はかなりマジだった。

「悪かった、協力するから許してくれ！！」
必死で頭を下げながら言う。
「何をよ」
「ガウリイさんとの仲（はーと）」

ドベス。

あたしは顔面から地面に突っ伏した（鼻いたひ）。
「面白いくらい素直だな。」
「ほっとけっぇぇぇぇ！！」
う〜〜〜、顔が赤いのが自分でわかる、恥づいよ〜。

「本心が知りたいだろ。聞き出す方法教えてやるよ。」
「勝手に話を進めるなぁぁぁ！！！！」
「知りたくないのか？」
「うぐっ」
そりゃあ聞きたいわよ、ちょっと、いやかなり怖いけど・・・

「その方法って何？」
開き直って聞く。
いまさら否定しても無駄だし・・・・
「こう言えばいいんだ。
ノエルに一緒に来ないかって言われた、ってな」
　　はぁ〜〜〜
認識の甘さにため息が出る。
「それじゃ無理よ。」
＜おまえを誘うなんて物好きだな＞とか言うだろうな、あの鈍感くらげは。
う〜、胸がいたいよ〜

「大丈夫だって、・・・そろろそろだな。（ニヤッ）
　それじゃあリナ、がんばれよ！！」
訳わかんないこと言いつつ、去っていくノエル。
「ちょっと！！それってどういう、ってぇぇぇぇ」
彼の姿はどこにもなかった。
何なんだ、あいつは！！
いろんな意味で計り知れん奴・・・・

「はぁ〜、疲れた。さっさと帰って寝〜ようっと」
あたしは一人つぶやいた。









月が空に昇るころ、あたしは宿屋に着いた。

中に入ると・・・
ガウリイがカウンターで酒を飲んでいた。
彼の鬼気迫るオーラのせいか、周りには誰もいない。
こ、こりはまづい。

持てる力を出し切り、階段を駆け上がる。
だが、あと少しのところで強く腕をつかまれる。
「つっ、放して！！」
ガウリイは無言のまま。
ひぃぃぃぃぃぃ、まじで怒ってるぅぅぅぅ
そのまま、彼の部屋に連れて行かれる。

部屋に入って、すぐに腕を放された。
あたしはガウリイのあまりの迫力に、俯いたまま声を出せない。
彼は腕を組み、ドアに凭れている。一言もしゃべらない。
だが、痛いほどの視線でこちらを見ている。
重い空気が流れた・・・・・

沈黙に耐えかね、顔を上げる。

　　　ゾクッ

背中に冷たい汗が流れた。
海の底のような暗い瞳がそこにはあった。

「遅かったな。」
ようやくガウリイが口を開く。
「今までどこにいたんだ？」
あたしが固まっているのに気づいたのか、幾分声を和らげる。
それでもいつもより硬い声だったが・・・・

「広場よ。」
震えつつも何とか答えを返した。
「こんな時間までか？しかもそんな格好で！おまえは女の子なんだぞ！！」
完全に子ども扱いなセリフが帰ってきた。
あたしは爆発した。

「あたしはもう大人よ！！何をしようとあたしの勝手でしょ！！！」
ガウリイの顔がゆがむ。
「おまえはまだ子供だ。」

　　　ズキッッ

・・・・心が引き裂かれる・・・・
　　もう耐えられない！！！

・・・突然、あの言葉が頭をよぎった

「さっきまでノエルといたの。一緒に来ないかって言われたわ。」

ピクッ

一瞬、彼の眉が上がる・・・・それだけだった。

あたしは顔を伏せる。
「今までありがとう。別れましょう、ガウリイ。」
・・・・彼を見ながら言えそうになかった。

沈黙が部屋を支配する・・・・・

本心を聞くはずが、別れ話になるなんて・・・
苦笑いを浮かべつつ、彼が動くのを待つ。

が、いつまで待っても彼は動かなかった。
次第にあたしはイライラしてきた。

「どいてよ！！」
一歩足を踏み出す。

　　　カチャン

かすかに金属音がした。

え？
思わず顔を上げる。

そこには・・・・
　　　見たことのない表情を浮かべたガウリイがいた。


更に瞳を暗くし、彼は近づいてきた。