動揺
〜Lina side〜







あたしたちはいつものように生死をかけた戦いを繰り広げていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!愛しいエビフライさんを!!!!」
「おまえこそ俺の照り焼きチキン!」

   シャキィィィィィンン、ガッスゥゥゥ、

「あんたにはレディファーストって言葉はないの!!」
「おまえのどこがレディだ!」
「なんですってぇぇぇぇぇ」

   ドバキッッ!!!

顔面にパンチをくらい吹っ飛ぶガウリイ。
(ナックル装着、いつ着けたかは乙女のヒ・ミ・ツ♪)
あっ、ピクピクしてる、ちょっとやりすぎたかもしんない。
ま、いっかガウリイだし。
それにしてもよく飛んだわね。
今日もあたしは絶好調♪って感じよね。
さぁて、今のうちに・・・

「あんた、リナ・インバースだろ。」
誰よ!!あたしのお食事を邪魔するのは・・・
そこには、黒髪黒目の20代前半、
町を歩けば10人中8人は振り返りそうな顔をした背の高い男がいた。

「やっぱり、そうか。俺はノエル、見てのとおり、旅の傭兵だ。」
どこかで聞いたセリフ(原作第1巻)を言いながら椅子に座る。
「仕事の依頼をしたいんだが、」
「断る!!」
いきなり人を呼び捨てにし、
あまつさえ勝手に他人のテーブルに着くような奴の話を聞く気は全くない。
「おごるけど」
その一言で、あたしの態度が180度変わったのは言うまでもない。

それはとってもおいしい話だった。
魔導書を取り返すのを手伝ってほしい。
依頼主は魔導師協会、奪ったのは盗賊団。
協会からの謝礼が金貨120枚、うち半額を支払うとのこと。

盗賊イジメができるうえに金貨60枚、これを引き受けずに何を受ける!!!
過保護者は反対したが、スリッパで黙らせた。
依頼には条件が付いていたが・・・・
簡単だったのであたしは二つ返事でオーケーした。
そして今!・・・・・・・・すっごく後悔していた。


昼食を終えてすぐに盗賊団のアジトを目指した。
あたしは一刻も早くこの依頼を終わらせたかったのだ。
なぜなら・・・・・

「にしても、リナって噂とは全然違うな、とてもドラマタとは思えねえ。」
  ムカッ!!
「あんた、ぶっとばされたいの!!」
「い・ら・い・りょ・う♪」
「くぅ」
 依頼を受けてからずっとノエルはあたしをからかいつづけた。
殴りたかった、でも殴れない。
なぜなら・・・<ノエルに危害を加えない>それが依頼の条件だったからだ。
かなりおいしい仕事だと思って引き受けたのにぃぃぃぃ・・・・シクシク・・・

「素直だな〜。かわいいぜ。」

   ボムッ!!

あたしは完熟トマトと化した。
「くっ、くっ、くっ」
こいつ、完全に人をおもちゃにしてるわねぇぇぇぇぇぇぇ!!
だぁぁぁぁぁぁ、イライラするぅぅぅぅ!

いつもならガウリイを殴ってすっきりするのだが、
ノエルがあたしをからかうたびになぜか無口になり、今では全く口を開かない。
そのせいで、八つ当たりしようにもきっかけがない。
おかげであたしのストレスは限界近くまで溜まっていた。

ノエルゥゥゥゥゥ!覚えときなさいよぉぉぉ!!
金貨60枚もらったら、ぎゅ〜〜って目にあわせてやるぅぅぅ!!
「さっさといくわよ!!」
足音も高く、盗賊団のアジトに向かう。
盗賊たちで鬱憤晴らしをしようと心に誓いながら・・・・・










戦いは一時間ほどで片がついた。
所詮、盗賊などあたしたちの敵ではない。
おまけに今日のあたしはイライラモード。
ガウリイもなぜか殺気を放ちまくっていた。
これで負けるわけがない。

そして意外にも、ノエルは強かった。
悔しいが剣の腕はあたしより上、高等な魔法まで使えた。

「さぁて、お宝さんはどっこかな♪」
笑顔でにこやか〜に聞く。
「ひぃぃぃぃ、案内しますから命ばかりはお助けくださいぃぃ」
涙をデロデロ流しながら必死で土下座する、盗賊のお頭。
「ふっ、最初からそう言えばよかったのに〜」
「へぇ、全くそのとおりで。こちらになります。」
と言いながら背を向けた瞬間、ニヤッと笑った気がした。

   ヒュッッッン!!!

矢が十数本あたし目掛けて飛んでくる。
トラップ!!よけきれない!!

「リナ!!!!!」
ガウリイがあたしを引き倒す。
今までいた場所を矢が通り過ぎるのが見えた。

ガウリイの腕に支えられつつ、あたしは立ち上がった。

「油断したらだめじゃないか、リナ」
ため息をつきながら言う。
  ムカッ!!
それじゃあ子供を叱ってるみたいじゃない!
「ほっといてよ!!」
「おまえなぁ〜。まっ、リナらしいけどな」
苦笑いをしつつ、あたしの髪をなでる。
こ〜い〜つ〜は〜〜〜
「子ども扱いしないでって何回言ったらわかんのよ!!」
「そういうところが子供なんだよ。」

  グサッ!!


・・・あたしの心にトゲが刺さる・・・
ガウリイの態度は全然変わらない。
・・・出会って3年にもなるのに・・・
あたしの年なら結婚していてもおかしくはない。
・・・なのに、子ども扱いのまま・・・
誰かに聞かれるたびに、保護者って言ってるしね。
  ・・・もう、苦しくてたまらない・・・
ずっとこのままかな。
  ・・・それならあたしは・・・・・・・


「おい、こいつどうする。」
その声であたしの思考は途切れた。

声のした方を見てみれば、ノエルが盗賊のお頭に剣を突きつけていた。
「ひぃぃぃぃぃ、今度こそ宝物庫に案内しますから助けてぇぇぇぇ」
「「ふざけんなぁぁぁぁ!!!」」
あたしの飛び蹴りとガウリイのこぶしをくらい愚か者は沈んだ。

愚か者、もといお頭をたたき起こし、お宝の在り処を吐かせた。
(その後ボコボコにした。当然の報いである)
魔道書はすぐに見つかった。
あたしの懐も暖かくなった。
だけど、胸に刺さったトゲはなかなか消えてくれなかった・・・・・