彼の本気に彼女の憂鬱 |
――――日曜日 A.M8:00―――― 雲一つない実に見事な晴天だった。どこまでも澄み渡る青空。どこから か小鳥の囀りさえ聞こえてくる。 まさに、彼女にとっては不幸な事に、彼にとっては幸福なことに絶好の デート日和となってしまったわけである。 ここインバース家日曜日、朝の八時といえば、リナはぐっすりとおやす み中である。 ピンポーン、ピンポーン〜♪ う、うるさいなぁ、もう少し寝かせて・・・・・・・。 頭まですっぽり布団を被りなおす。 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン〜〜♪♪ さっきよりも呼び鈴の回数が増え、激しくなる。ここまでくるとイヤガラセ 以外の何物でもない。 押し売りとかだったらぶっ飛ばしてやる!! リナはまだ眠い目を擦りながら、しぶしぶベッドから起き上がり窓に近づ き雨戸を開ける。 ガラガラガラ 「・・・・・・・・・・・・・。」 バタン、ピシャッ 神業のようなすばやさで窓を閉め、おまけにカーテンまでした。 ゆ、夢だわ。そうよこれは悪い夢なのよ!いくらなんでもあの男が家の 前にいるなんて・・・・・・・・・誰がなんといおうと夢よ!ということでおや すみなさい。 リナはもう一度寝直そうと、布団に入った。だが、 「リーーーーナぁ、デートに行きましょう〜〜〜(はぁと)」 それはまさに幼稚園児が友達の家に遊びに行って 「○○ちゃん、遊びましょう!」 というのと同じノリである。 夢よ夢なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、寝るべし!! 「リーーーナぁ、デートに行ってくれるまでここから動かないぞ(はぁと)」 真っ赤なスポーツカーと金髪碧眼のやたらと顔のイイ男があたしの名を 連呼しながら家の前に居座っているところを想像してみる。 ご近所で尾ひれ背びれまでつきまくったよからぬ噂がたてられる。 | ↓ やがて姉ちゃんの耳に入る。 | ↓ お仕置きされる、しかもフルコースで! い、いやぁぁぁぁぁ!デートもいやだけど、姉ちゃんの姉ちゃんのお仕置 きはもっともっといやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!! ガラガラガラ 勢いよく窓を開け身を乗り出して、無駄な抵抗とは思いつつ 「無断駐車と近所迷惑で警察に通報してやるから!!」 「警察でも軍隊でもオレのリナへの愛を阻む事は出来ないぞ(はぁと)」 や、やめてぇぇぇ、そんな大声でしかも恥ずかしい台詞をーーーーー! どう考えても形勢はリナのほうが不利だった。 この男は居座るといったら、例え槍が降ろうと火事になろうと居座り続 けるだろう。押し売りより性質が悪い。 「リナーーー、早くデートに行きましょお(超特大はぁと)」 「だぁぁぁぁぁーーーー、わかったわかったから大声でそれ以上喋るな ーーーー!いい、二十分で行くからそこで静かに待ってなさい!大声 であたしの名前呼んだりしたら叩きのめしてやるから!!」 リナもかなりの大声である。二人して朝からご近所迷惑な奴らだ。 リナは急いでクローゼットを開きベッドの上に服を次々出していく。 いっそのこと滅茶苦茶な格好していってやろうかとも思ったが、恥ずか しい思いをするのはどう考えても自分の方である。どうやら女のプライド がそうする事を許さなかったらしい。 「どうしてあたしが・・・・・・・。」 ぶつぶつと呟きながら黒の七部袖のカットソーに、赤のフレアスカートを 選んでクラシカルな鞄とサンダルを合わせた。 「いやぁ〜、あたしって何着ても可愛いわってちがう!」 自画自賛した後すぐに自己嫌悪に陥るリナ。しかし、その後のリナの行 動はすばやかった。しかもその中で、しっかりと朝食をとるのだけは忘 れなかったからさすがだ。 それにしても、姉ちゃんの仕事が泊り込みでよかったぁ。 バターーーン 壊しそうな勢いでドアを開き、重い重〜〜い足取りでガウリイの元へと向 かう。 「ガ〜ウ〜リ〜イ〜〜、お〜待〜た〜せ〜〜。」 怨念すら篭った低い低〜〜いリナの声に対して 「オレは感激だ!リナが初めてオレの名前を呼んでくれた!!オレはオレ は嬉しいぞぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」 満面の笑みを浮かべて顔を少年のように輝かせるガウリイ。 皆さんお気付きでしょうか。そうです、リナはここにきて今まさに初めてガ ウリイの名前を呼んだのです。これまで『変態バカ男』『バカ男』など、まっ たくもって不名誉な名前で呼ばれていたのです。 『ガウリイ』 リナがオレの名を呼んでくれた。リナが呼ぶときだけなんていい響きなん だぁ(はぁと) ガウリイの回りを今まさにラッパを吹いた天使達が舞っている。 すっかり喜びの境地に浸ってしまっているガウリイを無視してさっさと車に 乗り込むリナ。車の窓から顔を出し 「さっさと乗りなさい!ガウリイ。」 まるで自分の車であるかのような振る舞いだ。 ガウリイ〜ガウリイ〜ガウリイ〜ガウリイ〜ガウリイ〜(いちおうエコー) ガウリイの頭の中はすっかり今の感動で壊れてしまっている。 スッパーーーーーン リナは問答無用の勢いで鞄でガウリイの横っ面を張り飛ばした。 「とっとと出発させろ!」 ドスのきいた声に、やっとの事でガウリイは我に返り車に乗り込み、本来 の目的地である遊園地に向かった。 なんでどうしてこうなるのぉぉぉぉぉ!あたしの今日の予定は一日中部屋 でごろごろして過ごす事だったのに・・・・・・・・くっそぉ〜この男の誘い、い やイヤガラセ攻撃に負けた・・・・・・・こうなったら絶叫マシーン乗りまくって 奢らせてとことん振り回してやる!! ゴオゴオと助手席で燃え盛るリナの横でガウリイはリナと至福のときを噛 みしめていた。 「やっぱりループコースタも最高ね!あのぐっとくる心臓への圧迫感たま らないわ(はぁと)さぁ、今度はフリーフォール行くわよ!!」 「リ、リナ頼む少し休憩を・・・・・・・・・・・・。」 「だらしないわね、もう疲れたの?」 ガウリイは心の中で『リナが異常なだけだと思うぞ』と叫んだ。決して声に 出さなかったのは実に賢明な判断だ。すでに、ループコースター五回、フ リーフォール四回、スペースマウンテン五回、スプラッシュコースター六回 も乗っている。いくら体力バカのガウリイといえども疲れるのは当たり前だ。 「ソフトクリームでも買ってくるから、このベンチに座っててくれ。」 そういってリナに背を向け歩き出したのだが、しばらく進んだところで急に 立ち止まりリナの元まで戻ってくると 「いいか、変な男になんかついていっちゃダメだぞ!!」 ガウリイはいたって真剣そのものの顔だ。ガウリイの言葉にしばらく呆気 にとられていたが我に返るとリナは 「あたしは幼稚園児かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 怒りを爆発させた。今度こそガウリイはアイスクリーム屋へと向かって行っ た。しばらくして戻ってきたガウリイの手にはしっかりとソフトクリームが握 られている。 「巨峰味とパイナップル味どっちがいい?」 「パイナップル。」 リナはガウリイから受け取って食べ始めたが、巨峰味も気になってしょうが ないらしい。無意識のうちにガウリイのソフトクリームに熱い視線を送って いた。意地汚いぞリナ。 「味見するか、リナ?」 何の下心も感じられないような実に爽やかな笑顔と、そしてあまりにリナの 方にソフトクリームを差し出す動作がさりげなかったので ぺロリ 「ふむふむ、巨峰味もおいしいわぁ〜〜。」 「リナ、オレにもパイナップル味くれ。」 ペロリ 「おお、パイナップル味もなかなか。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 プッシュ―――――ボン 頭から湯気を出さんばかりの勢いで真っ赤になるリナ。 かかかかかかかかかかかかかかかかか、間接・・・・・・・キス・・・・・・しかも 自分の方から・・・・・・・・あたしの大馬鹿者ぉぉぉぉぉーーーーー!! リナと間接キス〜〜♪ふっ、オレの爽やかな笑顔とさりげな〜い誘導の勝 利だvvvvv!! この男、とんだ確信犯である。 まだ正気に戻らないリナの手を引っ張りガウリイは、ゾンビの館へと入った。 お化けの変わりにゾンビが出てくるというものだ。最近のゾンビは特殊メイク といいセットといいとことんなまでにリアリティーが追求されている。 「恐くなったらいつでも抱きついてくれていいんだぞリナ(はぁと)」 オレが喜んで受けとめるぞ(超特大はぁと) ガウリイの考え、いや下心はあまりに甘すぎた。いきなり二人の前にぬっと 現れたゾンビを見て正気に戻ったリナは 「気持ち悪いーーーーーーーーー!」 ドカバキボコ ゾンビを殴り倒し走り出す。慌てて後を追いかけるガウリイ。 ドカ、ドカーーーーン どわぁぁぁぁぁぁぁ、今セットに穴あいたぞ!! 「グロすぎるーーーーーーーーーーー!!」 ドカーーーン、バキ、メギョシ 続いて隠し扉から現れた三人のゾンビを張り倒すリナ。リナの猛攻はゾンビ の館を出るまで止まることはなかった。 その日、中のゾンビがほとんど動けない状態となり、ある者は病院送りとな ったため、ゾンビの館の運営はストップしたとか・・・・・・・・。ゾンビの館とゾ ンビを襲った突然の悲劇であった。(合掌) (今回デート編長すぎるのでここで続きます。だってだって切るところがない んですもの・・・・・・・・・ということで〜9〜も引き続きデート編です) |