彼の本気に彼女の憂鬱

〜９〜 続いて二人はミラーハウスに向かった。入り口の前で立ち止まり、くるりとガ ウリイの方を振り向き 「こういうのわね、やっぱりどっちが早く出口に辿り着くかを競争することに意 義があるのよ。ということで、どっちが早く出口に着くか、よぉーーーいドンッ ！！」 ちょっと待ってくれ！オレにはリナと二人っきりでいる事に意義があるんだぁ ーーーーーー！！離れるなんていやだぁぁぁぁぁぁぁぁ！！ ガウリイの心の叫びもむなしく、リナはあっという間に走ってミラーハウスに入 ってしまった。すぐに後を追いかけるガウリイ。 ――――１０分後―――― リナの姿を求めて彷徨うガウリイは、やっとの事でリナを見つけた。嬉しさのあ まり 「リナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」 「だぁぁぁぁぁ！ガウリイ、ストップ、ダメぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・。」 バーーーーーーン・・・・・ピシピシピシ・・・・・ピシ・・・・パリーーーーーン ガウリイはものすごい勢いで大きな鏡に映っているリナに突進した。 一人の男の情熱が鏡をも砕いた（合掌） それはまさに悲劇・・・・・・いや、喜劇だった。 「リ、リナぁ〜〜〜〜〜。」 「だからストップっていったのに・・・・・・なんてバカなの。」 リナは額に手を当て天を仰ぎながら呟いた。 このままこの場にいたら、鏡弁償させられてしまうわ！！ リナは半ば強引に額を押さえて蹲っているガウリイを引きずるようにミラーハ ウスを後にした。 日も暮れかけてきた頃 「オレ最後に観覧車に乗りたい。」 どこか遠慮がちではあるが、有無を言わせないくらいガウリイの目は真剣その ものだ。 「あ、あたしジュース買ってくる！！」 リナはガウリイと目を合わせないようにして、ダッとの如くその場を離れた。 乙女のデートの王道ともいえる観覧車だけは、絶対に何があろうと避けなけれ ば！！観覧車は観覧車は 密室なのよ！二人だけの空間になるのよ！！ しかも、ここの遊園地の観覧車は全くもってありがたくない事に、観覧車のうえ に『大』がつくのよ・・・・・・・つまり『大観覧車』なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！！ 一周回るのに少なくとも１５分はかかるのよ！！ 絶対、絶対、絶対（以下エンドレスのため省略）ダメダメダメったらダメぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇ！！ 「ママ、あのお姉ちゃん一人でしゃっべてるよ。」 「しっ、見ちゃいけません！！」 無意識のうちに声に出して一人百面相をしているリナ。傍から見るとかなり恐 い。 オレは何が何でもリナと観覧車に乗る！！観覧車は観覧車は 密室だぞ！二人だけの甘〜〜〜い空間だぞ！！ しかも、ここの遊園地の観覧車はありがたい事に、観覧車のうえに『大』がつく 『大観覧車』だ！少なくとも１５分はリナと密室で二人きり（はぁと） それだけのためにこの遊園地を選んだといっても過言ではない！！ ここで、「はい、そうですか。」とあきらめきれるかぁぁぁぁぁぁぁぁ！！ この男、地道な確信犯である。 ガウリイは脳みそをフル回転させた。普段ほとんど使われないガウリイの脳み そだが、リナの事となると恐ろしいくらいに回転が速くなるから不思議だ。これ も恋する力の成せる技なのか！？やがて何事か考えついたのかガウリイは にやり 口の端を上げ不敵な笑みを浮かべた。その笑みを真正面から見てしまった子 供は泣き出した・・・・・・・・よほど恐かったらしい。 どうやったら観覧車に乗らずにすむかという事で頭をフル回転させながら、ジュ ース片手にリナはガウリイが待っている場所へと戻ってきたが、ガウリイの姿 はどこにも見当たらない。 目を凝らしてもう一度辺りを探してもガウリイの姿はない。 どこいったのよ！あいつは！？ リナは心の中で悪態をついた。と、その時、 ピーーーーンポーーーーンパーーーーーーン〜〜♪♪ 『迷子のお知らせです。○○からお越しのリナ＝インバース様、お連れ様が探 しておられます。至急、観覧車乗り場までお越し下さい。もう一度繰り返します ・・・・・・・・・。』 リナは最初自分の耳を疑った。しかし、確かに自分の名前が呼ばれている。 や、やられた！！あの男はなんて事を！！ グシャッ 紙コップを握る手に力が入り、見事に紙コップはひしゃげた。もちろん中のジュ ースはこぼれた。 怒髪天を貫くなんて言葉では足りないくらいにリナは猛烈に怒っていた。 怒りに怒っていた。ガウリイとは顔を合わせようともせず、腕を組んで窓の外 の景色を見ながらひたすらむっつりと黙り込んでいる。 「リナ・・・・・・もしかしなくても怒ってる・・・・・・・・。」 ガウリイの今にも消えそうなか細い声に対してリナの返事はというと ―――無言であった。 そりゃそうだろう、十五歳にもなって迷子の呼びだしされた挙句、観覧車乗り 場にものすごい勢いでやって来たリナを無理やり観覧車に乗せたのだから。 これで怒らずにいられるわけがない。 「リナ、ほら夕日が綺麗だぞ！」 ―――無視 「リナ、ほら海が見えるぞ！！」 ―――無視 ガウリイの努力の甲斐むなしくリナの怒りは一向におさまる気配はない。 今やガウリイはしょんぼりと肩を落とし、しゅんとうな垂れている。まるで、母 親に叱られた子供のようである。さっきまでリナをどうやって観覧車に乗せる かを考えていたガウリイとは大違いである。 「心の底から反省してるんでしょうね。」 リナの絶対零度の声が観覧車内に響いた。 「は、反省してます。」 沈黙――――果てしなく沈黙――――ひたすら沈黙―――― ようやく重い沈黙を破り 「今度こんな事したらどうなるかわかってるんでしょうね。」 はっきりいって恐すぎる。身に纏うオーラだけで人が殺せそうである。 「もう・・・・・・・しません。」 対するガウリイは今にも消え入りそうなくらいに存在が薄くなっている。 「しょうがないから今回『だけ』は許してあげるわ。」 リナのこの一言で、重苦しい空気は一掃された。 「この綺麗な夕日と海に免じてね！！」 そう言ってリナは微笑んだ。 ドクン、ドクン、ドクン リナの咲き誇る花のような微笑を目にして、ガウリイの心臓は急激に高まった。 自分の心臓の音がリナにも聞こえてしまうのではというくらい、激しく高鳴って いる。咽喉はカラカラになり、胸が締め付けられるように苦しくなって、辛うじて 呼吸をしている状態である。まるで体中の血が沸騰しているかのように、体が 熱い。 「リ・・・・・・・・ナ・・・・・・。」 咽喉の奥から絞り出したような声。 「何！」 次の瞬間、ガウリイの中から『理性』という感情は綺麗さっぱり消えていた。（最 初から理性なんてなかったようにも思うが・・・・・ｂｙ作者） 残ったのは『本能』だけ。 「リナ・・・・・・・・・・・。」 「だから、何・・・・・・うっ・・・・・・・ふう。」 ガウリイはリナに近づき、腕を掴むと強引に口づけていた。 「ちょっ・・・・・・はん・・・・・・うん。」 一瞬唇が離れリナはガウリイから離れようともがいたが、またすぐに唇が塞が れる。 「ふぅ・・・・・はぁ・・・・・・んん・・・・・・くぅ・・・・・・。」 ガウリイは角度を変えて何度も何度もリナに口づけた。 「いいかげん・・・・・・・はぁ・・・・・・・んん・・・・・・・・。」 リナは体を捩ってガウリイから離れようとしたが、ガウリイはリナを放さない。 「・・・・・・・あのお客様・・・・・もう一周回られますか？」 そこへ唐突に第三者の声が割り込んできた。どうやらいつのまにか一週回っ ていたようである。 ドンッ 「どわぁぁぁぁ！！」 ゴンッ 一瞬ガウリイの力が緩んだのを見逃さず、リナは上から押さえ込むようにして いるガウリイを渾身の力を込めて突き飛ばした。不意をつかれたらしくガウリ イは、後ろの窓に頭を打ち付けた。 「リ・・・・・・リナ。」 茫然自失の状態でリナはよろよろと立ち上がり、言葉を発することもなく、もの すごいスピードで観覧車を降りて走り去って行った。 「お、お客様！！」 「リ、リナ、待ってくれ！！」 ガウリイは慌てて立ち上がると、リナを追いかけようとしたのだが・・・・・・・・・ 無情にもタイムリミットとばかりに観覧車はガウリイだけを乗せたまま二周目 を回ることとなった。 「お、下ろしてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！リナぁーーーーーーーー！！」 「し、しまったぁぁぁぁぁぁ！！オレは何て事を・・・・・・・・。」 観覧車内で一人頭を抱えて阿鼻叫喚するガウリイ。 リナの笑顔があまりに可愛くてや、やってしまった・・・・・・・・・リナの唇はもの すご〜〜く甘かった。またキスしたいなぁ〜♪♪って違うだろオレ！！ キスの前にもう一度きちんと 『好きだ』 と言うべきだった・・・・・・・そしてその後に、キスをすればよかったんだよなぁ 〜〜♪♪ってこれも違うだろオレ！！ しかも、キスはキスでも『ディープキス』をしてしまうなんて・・・・・・・・リナもう口 聞いてくれないかも・・・・・・・それだけならまだしも二度と会ってくれないかも・ ・・・・・・・・・オレの大バカ者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！！ ガウリイはひたすら自己嫌悪の嵐に見舞われた。 『後悔先に立たず』とはまさにこの事である。 こうして二人の怒涛のデートは終了した。 （次から自覚編突入です） 一言あとがき ガウリイついにやってしまったのね（爆）