彼の本気に彼女の憂鬱

〜７〜 ――――デートの前日――つまり土曜日―――― 「リナさん、あんまりです。私の事忘れて帰っちゃうなんて、お陰で私は 迷子ですよ。父さんに電話して向かいに来てもらったんですから・・・・・ ・・・・でも今、幸せだからいいです（はぁと）。」 アメリアは、ルンルンと鼻歌でも歌いだしそうな勢いで、フォークを用意 する。 「アメリアの事すっかり忘れてたのは悪いと思ってるわ・・・・・・だけど、 昨日の話はあんまりというかまったくしたくないの。」 リナは怨念のこもったような声で、ケーキを皿に移していく。ケーキを皿 に移すごとにリナの表情は険しくなっていく。こんな時のリナには、ぜっ たい話しかけないほうがいいのだが、 「あっ、そういえば明日、日曜日ですよね。ガウリイさんと遊園地での初 デート楽しんできてくださいね（はぁと）。」 自分の幸せに浮かれすぎてリナの地雷を踏みつけてしまったようだ。 ピシピシ・・・・・・・・パリッ 「ア〜メ〜リ〜ア〜〜〜。」 「さ、皿が割れてます・・・・・・ちょ、ちょっとしたジョーク・・・・・・・いやーー ーーー、目がマジリナさん。」 まさに『恋は人を盲目にする』がピッタリ当てはまるアメリア。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「いや〜〜〜、ゼルガディス本当に生きててよかったな（しみじみ）。」 「頭と腕の包帯と顔のバンソコが気になったりしますが。」 ルークの感激の言葉にボソリと付け加えるミリーナ。 「生きてただけ俺は運がよかったんだ（しみじみ）例え、アパートの大家 に『部屋の破損が酷いから出て行け』と言われても・・・・・・・・・。それに しても、リナの攻撃をもろに受けたガウリイが、なんでこんなに早く回復 しているんだ・・・・・・・やはり、これこそ『恋する力』（自分で言ってて恥ず かしいらしい）の成せる技なのか？」 ゼルガディスの目はどこか遠いところを見ていた。寂しげな儚げな哀愁が 漂っていたりする。 「なんてなんてリナの姿は可愛いんだ。青いリボンで結んだポニーテール がふわふわと揺れて、しかもフリルの白いエプロンに膝丈のスカート、メイ ド姿がなんて似合うんだ（はぁと）食べちゃいたいぞ。」 ガウリイは話なんかそっちのけで、リナのほうに魅入っていた。 「いや、ガウリイの壊れっぷりはわかっていたが、なんかガウリイが言うと エッチっぽいと思うのは俺の気のせいか？」 「エッチっぽいというか変態ですね（キッパリ）。」 しばらくどこかへ旅立っていたゼルガディスが思い出したように 「ところでガウリイ、明日リナをどうやって誘うんだ？昨日の様子だとどう考 えても無理だと思うが・・・・・・・・・・・。」 ガウリイの昨日の自粛規制された言葉を思い出したのか、ほんのり顔が赤 い。 ゼルガディスの問いに にやっ ガウリイは口の端を上げ、どこか不気味な笑みを浮かべた。その笑を見た 三人の背に悪寒が走った。 「その点は大丈夫だ。どうするか聞きたいか？」 不気味な笑みがますます深まり、見たものを凍りつかせるような笑みに変 わった。 思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう三人。 「実はな、ごにょごにょでごにょごにょだ。」 し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん 「アホだ（ですね）」（キッパリ） 力が抜けたようにテーブルに突っ伏す三人をよそに 「オレの最大な心配事はリナと何を話したらいいかだ？」 腕を組み真剣な面持ちだ。 「はぁ、ガウリイお前これまで数え切れないほどの女とデートして来たんだ ろうが。そいつらと同じでいいじゃねぇーか。」 テーブルに突っ伏したまま呆れたようにルーク。 「いやな、これまでの女とはデートっていっても、眠たくなるような話してホ テル行って、適当にやることやってサヨナラだ・・・・・・・・・うがっ！！」 スッパーーーーーーーン 「人のバイト先まで来た挙句、午後の爽やかなひと時になんて話してんの よ、あんたはぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー！！」 その顔は林檎のように赤い。どうやらアメリアのトレイをひったくりガウリイ の頭を殴りつけようだ。 ナイスだ、くそガキ！お前がやらなきゃ俺がやってたぞぉぉぉぉぉーー！！ リナさんがやらなきゃ私が明日の燃えるゴミに出してやる所です。 心の中でリナに拍手喝采を送るルークとミリーナ。 そう一同が会しているこの場所は、何を隠そうリナとアメリアのバイト先で ある『パステル』のケーキ屋だったりする。少ないテーブル数ではあるが、 一応ケーキを食べる事も出来るのである。 そして、アメリアのルンルン気分の理由は、もちろんゼルガディスが来てい るからだ。 「リナさん、落ち着いて下さい。罷り間違っても一応少なくとも、お客様なん ですから！さぁ、ゼルガディスさん、どうぞ召し上がって下さい。」 アメリアの変わり様は早かった。いち早くゼルガディスの分だけケーキとコ ーヒーを並べる。他のルークとミリーナとガウリイの分はどうでもいいらしい。 「おいしいですか？」 遠慮がちに訊ねるアメリアの目は、キラキラに輝いている。 「あぁ、うまい。」 ゼルガディスの顔は心なしか赤い。この二人の空間だけまさに『恋の花が 咲いてるの！邪魔者はとっとと消えて下さい（はぁと）byアメリア』となって いる。 「なんか二人だけの世界になってるわね・・・・・・・・・。ピンクのオーラが見え り気がする。」 リナがしみじみと呟きながら、仕方なしに他の三人のケーキとコーヒーを並 べていく。 「いや〜、今思いついたんだけどなこれでカップルが三組成立したじゃねー か。もちろん言わずと知れた美男美女のラブラブカップル俺とミリーナに他 人に迷惑かけまくり変態ガウリイにくそガキのカップル・・・・・・・・。」 ギロッ ミリーナの冷たい冷た〜〜〜〜〜い、視線がルークに注がれる。続いて バキドコッ リナの華麗なる鉄拳がルークに炸裂。その上、さらに ドガッ ガウリイの優美なる肘鉄がお見舞いされた。・・・・・・・・あえなくルーク撃沈。 「とにかくケーキ食べたらとっとと帰りなさいよね、あんたは！！」 ガウリイは腰に手を当て、髪の毛が怒りで逆立ってるの状態のリナをにへら と見つめながら 「いやだ。」 きっぱりすっぱりはっきり悪びれもせず言い返す。リナは額に青筋を浮かせ つつ 「ケーキセット一つで何時間粘るつもりなのよ！！」 「リナのバイト時間が終わる八時までいるぞ。心配しないでくれ後、四時間ほ どじゃないか。やっぱりほら女の子の夜の一人歩きは危ないだろ。オレ以外 の誰かに襲われたらどうするんだ？」 一人でうんうん頷きながら優雅にコーヒーを飲む。その前に、襲うのがガウリ イならいいのか？と思わず突っ込まずにはいられない。 ガウリイさん、ストーカーでそのうち逮捕されそうですね。そうなったらそうなっ たで楽しそうですけど・・・・・・・・クス。 ミリーナは思わずにやりと悪魔も逃げ出すような笑みを浮かべた。ミリーナに とってガウリイとリナのカップルはすでに娯楽の一つと化していたりする。 はぁ〜〜、このバカ男には何を言っても通じないわ・・・・・・・まさに『バカの信 念岩をも通す』ってやつだわ。昨日も結局、家までついて来たし・・・・・・・。こ こで、この男をぶっ飛ばせば、間違いなくこのバイト首になる。 リナはガウリイをぶっ飛ばしたい気持ちをグッと堪え、二人だけの世界を作っ ているアメリアの方を見た。 「アメリア行くわよ。仕事しないと。」 問答無用でアメリアの首根っこを掴むとズルズルとひっぱて行く。 「ゼルガディスさん〜〜〜、必ず会いましょうねぇ〜〜〜〜〜！！」 ゼルガディスの顔は赤い・・・・・・・・そして密かに嬉しそうだ。リナの後姿を見 送りながら 「リナが行ってしまった・・・・・・リナがつれない・・・・・・オレは寂しい・・・・・・そ れに明日、何を話せばいいんだ・・・・・・・。」 「だぁぁぁぁぁぁぁーーー！気持ち悪い、お前は小学生かぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」 いつのまに復活したのかルークが天を仰ぎながら叫んだ。そしてガウリイに 活を入れるべく 「いいかガウリイ、よく聞け。男ならとことん突き進め！ハートさえあれば自然 と話す言葉が浮かんでくるもんだ。そして明日で一気にいけるとこまで行って しまえ、ええい押し倒して来い！！そうやって俺もミリーナにアタックしたんだ。 そうして今のラブラブな俺達が・・・・・・・・・。」 「存在しません。」 ミリーナの即答を受けもろにへこむルークに対し 「そうだな何を弱気になっていたんだオレは、明日は押して押してリナが逃げ る隙もないほど押して、途中障害物があろうともぶっ壊す！そしていくとこまで 猛スピードで突っ走るぞ・・・・・・ふふふ・・・はははは・・・・・。」 やる気十分、エネルギー全開のガウリイ。並々ならぬオーラを漂わせている。 もう奴にまったをかけられる人間など存在しない。 「いやあの、やりすぎもどうかと・・・・・・もしもーーーーーーし。」 アドバイスをしたルークであえも、ガウリイのあまりの気合の入れぶりに身震い した。 「明日デートが失敗したら間違いなく、今のルークのアドバイスが原因ですね。」 「頼むからデートが成功しますように。」 天を仰ぎ祈るゼルガディスは、なんて友達思いの奴だと思うものだが 「デートが失敗したら、その皺寄せはぜったい俺にくる・・・・・・これは過去の行 動パターンからの確信だ・・・・・・・どうか俺の身の安全と平穏のためにデートが 成功しますように。」 ボソボソと付け加えられた言葉は、友達思いというより一番に自分の身を案じ ているようだ。 結局、あの後ルークとミリーナは帰って行ったが、ガウリイとゼルガディスは見 事にケーキセット一つで八時まで粘り通した。まさにあっぱれである。 ゼルガディスは帰りたかったようだが、ガウリイの『最後まで残ってくれるよな』 の言葉と、顔は輝くばかりの笑みだが目は完全に据わりきっているという迫力 に気圧され、残る事を決めたようだ。 アメリアは喜んでゼルガディスに家まで送られて行った。 ガウリイは喜んで機嫌の悪いリナを家まで送って行ったというより、後をついて 行ったというほうが正しい。 アメリアが『明日、デートですね』なんていうから、いやでも思い出しちゃったじゃ ないのよ・・・・・・・・明日は家から一歩も出るもんですかっ！！！ リナとデート〜♪おう、遊園地のチケットは忘れないようにしなきゃな！明日着る 服のポケットに入れとくかな（はぁと）あぁ〜〜、オレ今日寝れないかも、し・あ・わ ・せ・す・ぎ・て〜♪ リナとガウリイそれぞれ正反対の思いで、ついに迎える日曜日！ 〔次こそホント〜〜〜〜に、デート編です（汗）〕