彼の本気に彼女の憂鬱 |
―――放課後――― 「あの、疑問に思うのですが・・・・・・・。」 アメリアは、やたらとキョロキョロしているリナに尋ねた。 「静かに!」 リナは後ろにいるアメリアにそう言うと、壁から少し首を出し、辺りを慎重に見渡した。 そして、姿勢を低くして表の道路から見えないように、一気に裏門まで走った。 「なんか、まるで人様の家に忍び込む泥棒のような感じなんですけど・・・・・・・・。」 リナの後に続くアメリア。 「せめてスパイといってほしいわ。」 裏門から顔を出し、辺りをうかがい『例の物体』がいないのを確認すると、リナはアメリアの手を引っ掴み、走り出した。角を右に左に曲がったところで 「ふう、ここまで来れば大丈夫でしょう。」 リナは、ゼェゼェと肩で息をしている。後から何とかついてきたアメリアもハァハァと苦しげに呼吸をしている。 「ハァ・・・・・なんでどうして裏門から・・・・・・・出るんですか?」 リナは微笑みを浮かべながらアメリアに尋ねた。 「あの後、何回あの変態バカ男からメールが入ってきたと思う?」 微笑んではいるが、声は低く目は笑っていない。 「五・・・・五回くらいですか?」 蚊の泣くような声で答える。 バキッ という音と共にアメリアのすぐ後ろの壁に亀裂が走った。 ひぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜、リナさん器物破損です〜〜〜〜。 「十八回よ十八回!『今日迎いに行く』とか『正門のとこにいるから』とか『好きな食べ物』に『趣味』とか・・・・返事なんて返してないのに懲りずに何回も何回も・・・・・だいたいあの男の趣味とか好きな物なんてどうでもいいっていうのよ!それにあっちだって講義中でしょうが・・・・・・・勉強しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 「仰せごもっともでございます。」 「こうなったのもすべて、ゼルガディスの所為よ!太平洋いいえ、北極の氷の下に埋めてやる。」 「それはあまりに惨いような・・・・・・・。」 「ゼ〜ル〜!!殴り込みよ、焼き討ちよ、御手討ちよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 アメリアの言葉など聞いちゃいないリナは叫ぶなり走り出した。 「いやぁ、風が吹きぬけたようでしたよ。」(by リナ目撃者証言) 「ま・・・待って下さい〜〜、リナさん、走るの速すぎますぅぅぅぅぅぅぅ。」 「リナのお迎え(はぁと)、じゃあな〜♪♪」 ガウリイは講義終了のチャイムが鳴ると同時に、講義室を飛び出した。まさにそれは一陣の風が吹きぬけたようでありルークとミリーナが声を掛ける暇もなかった。 「あのガキに会う前のあいつなら、女が車で迎えに来てるとか、自分の車でとっとと帰るとか、なんか生きてるのに死んでるような奴だったよな・・・・・・・人間て変われば変わるもんだよなぁ。」 感慨深げにしみじみとルークが呟いた。 「今のガウリイさんを元カノあたりが見たら、卒倒するでしょうね。」 こちらも実に感慨深げだ。 「それに、今のガウリイさん見てると私がルークと出会った時の事思い出すわ。」 心底いやそうな顔をするミリーナの横で 「うんうん、俺も『愛のラブラブアタック作戦』で頑張ったもんなぁ!その頑張りがあったからこそ、俺とミリーナは世界で一番ラブラブなカップルになったんだ!!」 緩みまくった表情で嬉々とした様子のルーク。 「本当に、しつこい、うざい、迷惑、の三大公害でした。いっそのこと首を絞めて殺そうと思った事も一度や二度ではないですから。」 このミリーナの痛恨の一撃がルークの心を抉った。 「ミ、ミリーナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!俺のどこがいけなかったんだぁぁぁぁぁぁ!!」 「自覚がないところが、また腹立たしいですね。」 「俺のどこが一体ダメだったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 頭を抱えて廊下にしゃがみ込むルーク。目つきの悪い瞳からは、うっすらと涙が。 「うぅ〜〜、リナさん足速すぎです、『正義と恋の炎』を持ってしても追いつけませんでした。」 アメリアは、疾風のように走っていったリナを見失ってしまい、早い話がゼルガディスの家を知らないアメリアは迷子になっていた。 「ゼルガディスさんの家はどこなんですか!?」 あっちにうろうろこっちでうろうろ状態のアメリア。そんなアメリアの前を あれ、あの金髪に、そしてなにより緩みまくった笑顔に、バックがお花畑になっている人は・・・・・・・・・・・、リナさん語で言うところの変態バカ男さんのガウリイさん!?彼はゼルガディスさんのお友達・・・・・ということはゼルガディスさんの家を知っている。やはり『正義と恋の神』は私を見捨てはしなかったのです!! 「ガウリイさん、ガウリイさん!!」 アメリアは大きな声でガウリイに呼びかけた。 リナと一緒に帰る〜♪少ーーし、寄り道なんかしちゃったりして〜♪喫茶店なんかに入って、リナがケーキを食べて、ほっぺについた生クリームをオレが 「ついてるぞ。」 とか言って取ってやるとか、あぁ、きっと真っ赤になって可愛いぞぉぉぉぉぉぉ!!オレとリナは甘ーい甘ーい薔薇色カップル〜〜〜♪♪ あきらめも悪い上に、さらに想像力豊かというか、妄想の激しい男だ。ガウリイは想像いや、妄想の世界に一人旅立ってしまっているので、まったくアメリアの呼びかけに気付く様子はない。 まるっきりの無視です・・・・・・あぁ、こんな手は使いたくありませんでしたが、『正義の神』をお許し下さい。『リナ』さんのお名前を使わせて頂きます。 アメリアは、大きく息を吸いこむと、目の前を通り過ぎて去っていくガウリイの後姿に向かって 「きゃあーーーー、リナさんがぁぁぁぁぁ!リナさんがぁぁぁぁぁぁぁ!!」 叫んだとたん、アメリアの視界からガウリイの姿が消えた。次の瞬間には 「リナがどうかしたのか!?リナに何があった!?リナはリナは!?」 と問いただすガウリイの顔が、アメリアの目の前にあった。 人間の限界スピード超えてるような・・・・・・といかガウリイさん人間じゃないです。 ガウリイに両肩を揺さ振られ、あまりのガウリイの切羽詰った表情に気圧され 「ええと、リナさんがゼルガディスさんの家に・・・・・・・・」 アメリアは最後まで詳しく説明する事が出来なかった。 「リナがゼルガディスの家に・・・・・・・・くそう、やっぱり昨日とどめを刺すべきだった。オレのリナに・・・・・・オレのリナにぃぃぃぃぃぃ!待ってろリナ、今助けに行くぞ!!」 「もしもーーし。」 「リナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 そう叫ぶなり、ガウリイは疾風の如く走り去って行った。 「いやぁ、まるで風が吹いたみたいでしたよ。」(by ガウリイ目撃者証言) 「なんでどうしてリナさんといい、ガウリイさんといい、こうも人間離れしてるんですか。しかも何か、ガウリイさん果てしなく勘違いしていたような気がしないでもないのですが・・・・・・。」 ドンドンガンガンバンバンバンドンガン 「ゼ〜ル〜ガ〜デ〜ィ〜ス〜!!いるのはわかってんのよ。無駄な抵抗はやめて今すぐ出て来なさい。ええーーい、このドア開けろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 リナは最初は手でドアを叩いていたが、出てこないのに腹を立てついには蹴り始めた。 しかし、中からの応答はない。 「そっちがその気ならこっちにだって、最終アイテムを使わせてもらうわよ。」 リナは、スカートのポケットから鍵を取り出し鍵穴にさし込む 「ふふ、どうしてあたしがゼルの家の鍵を持ってるか、そんなの簡単、この超天才美少女のリナちゃんの名演技で、大家さんに『ゼルお兄ちゃんから、2週間も連絡がないんです。 電話しても出てくれなくて家族も心配してるんです。』とかなんとか言えば合鍵くれたわよ。 さぁ、ゼル観念してぶちのめされなさい!!」 ガチャーーーーーン 乱暴にドアを開き中に入ったリナは、呆然として辺りを見回した。本棚からは本という本が床に落ち散乱し、引出しがひっくり返されたのか洋服やハンカチ、文房具なども散乱している。食器棚からはお皿が何枚か落ちたのか割れている。カーテンも破れていたり、はずれて落ちていたり。テレビやタンスが床に横倒しになったりしている。 「地震・・・・・・いや、昨日も今日も揺れなかったはず。ってことは強盗・・・・・ゼルの家なんか入って盗む物なんてこれぽっちもないわよ。ということは、入ったのはいいけど盗む物がない犯人は逆上してゼルを殺した。ふむふむ、名推理ね。でも、じゃあ、あたしのこの怒りは誰にぶつけりゃいいのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 問題はそこなのか?リナと思わずツッコミたくなるほど薄情な奴だ。 「か、勝手に・・・・・・殺すな。」 それまで静寂が支配していた部屋の奥から、絨毯の上を這いながらゼルガディスが出てきた。その顔色は死人のように白く、はっきりいってボロ雑巾のようであったりする。 「ゼル!!」 リナは叫ぶとすぐに鞄を放り出しゼルガディスのそばへと駆け寄って ムギュ 容赦なくゼルガディスを踏みつけた。 「心配するなんて思ったらそうは問屋がおろし大根よ!」 「さ、寒いギャグだぞ・・・・・・・・どうわぁぁぁぁ。」 リナはゼルガディスの手を掴み、足をかけ十字固めを繰り出した。 「ええい、うるさい!あの変態バカ男が朝っぱらから家の前にいるのも、十八回もメールが入ってきたのも、あたしの好きな物を把握してるのも、バイトしてる事を知ってるのも、全部あんたが教えたからでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!このたまったストレスをどうしてくれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 許さんーーーーー!地獄のフルコース味合わせちゃる!!」 「どわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・お、俺だって生と死の狭間をさ迷ったんだ。リナの事を色々聞かれて黙秘を通せば首を絞められ、答えたら答えたらで、詳しすぎると言って首を絞められ、 おまけにリナが写ってるアルバムを捜すために家を荒らされるわ、殺気はびしびし浴びせられるわ、挙げればキリがないほど酷い目に合ったんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」 バターーーーーーーーーーーーン そこへ、壊れるのではないかというくらいドアを乱暴に開き 「リナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 切羽詰った叫び声と共にガウリイがものすごい勢いで駆け込んできた。靴を脱ぐのも忘れ部屋の中に駆け込み彼が目にしたモノは、絨毯の上に寝転がり手を握り合っているリナとゼルガディスの姿だった。ほんとは十字固めをかけている最中なのだが・・・・・・・頭にスッカリ血の昇ってしまっているガウリイに解るはずもなく 「ゼ〜ル〜ガ〜デ〜ィ〜ス〜〜〜〜〜。俺のリナに俺のリナにいやがるリナに×××してあまつさえ×××して、無理やり×××や×××するつもりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(自粛規制中)」 ゼルガディス――――顔を真っ赤にして沈黙。 リナ――――思考停止状態のしばしの気絶。 「リナは髪の毛の先から足の爪の先に至るまで、全部オレのもんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!リナに×××や×××していいのはオレだけだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(自粛規制中)」 一通り叫ぶと、ガウリイはピクリとも動かないリナをゼルガディスから引き剥がし、 ちゃっかりしっかりとリナを腕の中に抱きしめてから、名残惜しそうに離れ 「ゼ〜ル〜ガ〜デ〜ィ〜ス〜〜〜、殺す。」 絶対零度の声で近づき、首を締め上げる。あまりの苦しさに正気に返ったゼルガディスは 「ご、ご・・・・・・誤解・・・・・・・だ。それに・・・・・・せめ・・・て靴・・・・・脱いでく・・・・・れ。」 息も絶え絶えに言葉を喋るが、聞いちゃあいないガウリイ。 「オレのリナに〜〜〜〜〜〜。」 ガウリイが身に纏う殺気がますます膨れ上がる。 ドゴーーーーーーーーーーーーーーン それまでピクリとも動かなかったリナが復活し、ガウリイを後ろから蹴り飛ばした。その顔は先ほどのガウリイの爆弾発言にか、はたまた怒りのためか、頭からは湯気が立ち上り、顔は林檎のように真っ赤になり、体中が小刻みに震えている。 リナが切れた。ガウリイの脅威は去るだろうが、リナの脅威が・・・・・・・。あぁ、家が壊れる。 あぁ、一昨日までの俺の平穏な日々を誰か返してくれ。俺が一体何をしたというんだ?俺はこれまで真っ当に生きてきたはず。俺に何の落ち度があったというんだ。俺は(以下永久に続くため省略) 「誰がいつあんたのモノになったぁぁぁぁぁぁ!!第一あたしはモノじゃないーーーー!」 ガウリイへと一歩一歩近づくリナ。 「う、お、怒った顔も可愛いけど、目がマジだぞリナ・・・・・・。」 少しずつ後ろへ後退するガウリイ。 「うぎゃあああああああああ!!リナーーーー、俺はお前が心配だっただけ・・・・・・・ひぎゃああああああ!!」 「問答無用。」 ガウリイのいいわけを、一刀両断とばかりに斬り捨てる。 「す、好きだから心配だったんだああああああ!!日曜日デートしてくれえええええ・・・・・どわあああああああああ!!」 断末魔のガウリイの叫び声がゼルガディスの部屋いっぱいに響き渡った。 リナの洗練された攻撃の数々にゼルガディスはただただガウリイの冥福と家の無事を祈っていたとか。 ほんとにこんな状況で日曜日リナとデートすることが出来るのか!? すべてはガウリイの頑張り次第! 頑張れガウリイ!!負けるなガウリイ!! おまけ 「ゼルガディスさんの家はどこなんですかぁぁぁぁぁぁぁ!」 まだあっちへうろうろ、こっちへうろうろしているアメリア。 「ここはどこなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 迷子になってしまったアメリア。 ここからゼルガディスの家はまったくの反対方向。 それでも頑張れアメリア!あきらめるなアメリア!! |