彼の本気に彼女の憂鬱





                
〜3〜





ガウリイが猛スピードで向かっている目的地――――セイルーン高校の校庭

いつも通りの長閑で平和な午後の一時。それは変わらないはずの彼女の日常―――そう彼が彼女の前に現れるまでの。

「ふぅあ〜〜。」

リナは長い栗色の髪をポニーテールにしながら大きなあくびを一つした。

「お腹いっぱいになった後の体育の授業って眠いのよねぇ〜〜。お昼寝の時間にしてほしいわよね。」

などとぼやいている。

「食べたすぐ後に寝ると牛になっちゃうっていいますよ。」

アメリアが1人生き生きと準備体操に勤しんでいる。

「牛ねぇ〜〜〜♪おいしそうね〜〜♪程よく焼けたステーキ、噛むとほどよく口の中に広がる肉汁〜〜〜♪♪」

「まだ、食べたりないんですか?」

アメリアはリナのさっきのお弁当とデザートの量を思い出して、うぷっと口元を押さえた。見慣れた量とはいえ、やはりリナのこの華奢な体のどこに入る所があるのか疑問である。

「ふっ、よく食べる子とよく寝る子は育つって言うじゃないのよ。」

じと〜〜〜〜〜〜〜

アメリアの視線がリナのある一点に集中した。リナはこめかみを引くつかせながら

「アメリア、何か言いたいことがあるのかしら?」

「いえ何も食べてる割に胸が小さいなん…………。」

自分の口を両手で押さえて後ずさるアメリア。その顔は紙の様に真っ白だ。

 

どうせ、胸が小さいわよ!どっちが背中か胸かわかんないわよ!!食べてるのに育たないわよ………ふふふふふ……ふふふふふ!!!おのれぇーーー、ア〜メ〜リ〜ア〜!

 

「踵落しがいいかしら、十字固めもいいわね。回し蹴りもコブラツイストも捨てがたいわねぇ〜〜♪ア・メ・リ・ア(はぁと)」

アメリアの方に近づくリナの顔には極上の笑みが、何も知らない男子生徒あたりが見たら一目惚れするかもしれなくもないが、リナと中学校からの付き合いになるアメリアには、この天使の笑みが悪魔の笑みである事をそして、リナが空手、柔道、少林寺拳法と武道全般を使いこなす事もその身をもって知っていた。

はう〜〜。父さん、今度目覚めるときは病院のベッドの上かもしれません。お見舞いには、『パステル』のクリームチーズケーキがいいですう〜〜〜〜。あの口の中でふわりと溶けるクリームチーズが何とも言えないんですぅぅぅぅぅぅぅ。常日頃から正義の行いをモットーとし、「正義日記」を毎日欠かさず付けているこのアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンに神のご加護はないのでしょうか??

 

遥か彼方の方から、砂埃を舞い上げもうスピードでセイルーン高校へ向かって来る物体が……おっと、通行人を何人か跳ね飛ばした模様。しかし、彼にとっては罪なき通行人すら女神への行く手を阻む障害物でしかない。その物体は、セイルーン高校の門の前で急ブレーキを踏み、校舎を見上げた。

「ここか、女神いやオレの彼女がいる所は………ここで待ち伏せをして出てきたところを捕まえるか……それともこのまま一気に突撃するか………。」

どうやら彼の頭の中では、女神=リナはもうすでにガウリイの彼女ということになっているらしい?ガウリイからはものすごいオーラが立ち上っていたりする。まさにオレに触ると火傷するぜ状態である。来たのはいいがどうすべきか悶々と、悩んでいるガウリイの耳に

「踵落しがいいかしら、十字固めもいいわね。回し蹴りもコブラツイストも捨てがたいわねぇ〜〜♪ア・メ・リ・ア(はぁと)」

昨日から片時も頭から離れなっかた声が聞こえた。

この鈴を鳴らしたようにかわいくて、よく通る声は。

ガウリイはパッと顔を上げると声のした方に顔を向けた。その瞬間ガウリイの瞳は恋する乙女の如くキラキラと輝いた。リナの口にしているセリフはかなり物騒なモノではあるが、ガウリイにとってはそんなことはどうでもいいらしい。しかも、リナからの距離およそ130メートル、なぜ、声が聞こえるんだガウリイよ。恐るべし、恋する男―――ガウリイ=ガブリエフ

 

あの栗色の髪、華奢な体、生きる力で満ち溢れた赤い瞳、圧倒的な存在感、女神だ!!くう〜〜、しかも体操服姿にポニーテール、白いうなじにスラリと伸びた細い手足が何ともいえん。うおおおーーーー、女神に彼女に会いたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!

 

くどいようだが、リナからの距離およそ130メートル!なぜ、うなじまで見えるんだ。恐るべし、恋する男ガウリイ=ガブリエフ

そして――――――――――

次の瞬間のガウリイの行動を止める事の出来る者は、不幸な事に誰一人としていなかった。唯一の頼みの綱で、ミジンコサイズぐらいはかろうじて常識のある?ゼルガディスにミリーナ(ルークは除外)達は、まだこの場に到着していなっかったからだ。いや、たとえ到着していたとしても、今のガウリイを止める事ができたかどうか妖しい所ではあるのだが。

ガウリイは高校の部外者である事も忘れ一直線に彼女のもとへ走り出した。ガウリイの瞳にはもはや彼女の姿しか映っていない。

「覚悟、アメリア!!リナちゃん必殺スペシャルサンダーマウンテンーー。」

 

やっぱり入院決定ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ(滝涙)

 

リナが回し蹴りをしようと足を上げた、その次の瞬間

「オレの女神ぃぃぃぃぃぃぃ。」

男の叫び声と供にリナは背後から抱きしめられた。涙を流していたアメリアはその場で固まった。いつもの事と近くで、アメリアとリナを見ていた生徒達も見知らぬ男の乱入に唖然呆然とした。

「あのリナ=インバースに抱きつくなんて、なんて命知らずな。」

「まだ若いのに可哀相に明日は葬式か。」

リナの額に青筋が浮かび、握った拳が震えている。男は未だに抱きついたままだったりする。

はっと我に返ったアメリアは次に何が起こるかを予想し

「みなさん、命の惜しい方は非難をして下さい!!リナさん警報機が鳴り響いてます。」

的確な指示をだし、二人から距離をとった。他の生徒も同様に距離をとる。

リナはあまりにも突然の出来事にしばし思考力がショートしていたのだが、復活すると

「この変態ぃぃぃぃぃぃぃ。」

ドカバキボコメギョズベシ

ものすごい音が辺りに響いた。男は哀れにも地面にめり込み、リナは顔を真っ赤にして怒りに震えている。

『死んだかも…………』

その場に居合わせた全生徒達が抱いた共通の思いであった。

「一体何なのよ!この変態、警察に突き出すわよ!!。」

リナはピクリとも動かない物体に怒鳴った、とたん地面にめり込んだままの物体がガバッと起き上がった。男はとにかくリナに向かって極上の微笑みを浮かべた。女生徒達はその微笑を目の当りにし気絶する者も現れた。

な、何なのよ。今のでこの変態男、さらに頭がおかしくなったとか?なんで、どうして笑ってるのよ?あれこの男どっかでみたような―――――

 

ドキドキドクンドクン

静まれ、オレの心臓!い、いかんものすごくとてつもなく緊張してきた。昨日からどうしても会いたかったオレの女神がここに、目の前にいるのに………一体何を話せばいいんだぁぁぁぁ。何か言わないとオレはたんなんる変態だ。オレは――――――。

 

すごいです!!リナさんの殺人的な攻撃をまともに受けて、およそ10秒で復活するなんて………顔はちょっとばかし土で汚れていますが他に目立った外傷はありません。それよりなにより、リナさんに抱きつくなんて、二人は一体どうゆう関係なんでしょうか?はっ、もしや「彼氏」まさかそんな……あの食い意地がはっていて、ケンカは強いし破天荒で、やる事なす事滅茶苦茶なリナさんに天地がひっくり返るような出来事が起こるなんて…………明日、世界は滅ぶんですね。

「聞こえてるわよ!アメリア!!。」

リナがアメリアを睨みつけた。どうやら、無意識のうちに声にだして呟いていたアメリア。地獄耳のリナには、しっかり聞こえたようである。アメリアは冷や汗を大量に流していたりする。リナは男の方を向きなおすと、思い出したようにポンと手を打った。

「あんた、昨日のイチャイチャバカップルの片割れ。」

はっきりいってひどい言われようであるが、それでもガウリイは微笑んでいた。

「ちょっとやっぱり打ち所が悪かったのね。」

やっぱりガウリイは微笑んでいた。突然、ガウリイはリナの手を握ると有無を言わせず

「オレと付き合ってくれ。」

沈黙―――果てしなく沈黙―――ひたすら沈黙―――まだまだ沈黙―――まだまだまだ沈黙

やっとの事で我に返ったリナは

「はあ!?。」

思いっきり怪訝な顔で素っ頓狂な声を上げた。

「幸せにするから!!。」

ガウリイはそう言うと、ますますリナの手を握る力を強めた。

「ス、ステキです!!これぞ、『愛』です。これぞ、生告白!!」

アメリアの瞳は星のようにキラキラしていた。

「何が愛よ!ちょっと、あんたはいつまで人の手握ってんのよ。ええい、離せ離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

リナの叫び声が校庭に響き渡った。もちろん授業なんてモノは、遥か宇宙の果てに忘れ去られていた。

 

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セイルーン高校の裏門からこっそり侵入し、声の聞こえる範囲にある大きな木の影に潜んでいる妖しい3人が―――いわずとしれたゼルガディス、ルーク、ミリーナ達である。

「どうしますか?今のガウリイさんを止めるなんて、怒り狂ったライオンとワニと熊を同時に相手にするようなモノです。」

「ミリーナ、ゼルガディスはどうしたんだ?」

横でゼルガディスは何やらぶつぶつ呟いている。セイルーン高校に着き、ガウリイが抱きついた少女を見てからだ。顔は紙の様に白くときどき痙攣すら起こしていたりする。

 

なせ、なぜ、あいつなんだ。この世に女は五万といるのにどうしてなんだぁぁぁぁぁぁぁ。

 

ゼルガディスの心の中でエンドレスに繰り返されているセリフである。

「今のゼルガディスさんは使いモノになりません。ということでルーク頑張って下さい。貴方の尊い犠牲は無駄にはしません。」

ミリーナはそう言ってルークの肩にポンと手を置いた。ギギギギとブリキ人形のようにぎこちなくミリーナの方に顔を向けるルーク、顔面蒼白である。

「今の奴を止めるなんて無理…………。」

ルークに最後までセリフを言わせず

「頑張って下さいね。」

無言の圧力をかけるミリーナ、顔にははっきりと『ささっといけ!』と書いてある。ミリーナ一筋のルークにこれ以上反論できるはずもなく、哀れな子羊もとい生贄はルークに決定した。

「なるべく穏便に事をすませて、ガウリイさんを収容してきて下さい。」

ルークは、力なく笑みを浮かべ木の影から目標物に向かって進み出した。

もちろんルークに事を穏便に済ませるなどという高度な技が使えるはずもなく、人選ミスを起こした事にミリーナが気づいたのはもう少し後のこと。

 

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あとがき

やっと、やっと二人が出会えたぁぁぁぁぁぁぁ(滝涙)

でもこの二人お互いの自己紹介まだなんですよね〜〜(遠い目)

ほんとにガウリイ君がすっかり可愛くなちゃって、一番最初は鬼畜だったのに……もう少しブラックになってほしいなぁ(しみじみ)反対にリナちゃん滅茶苦茶乱暴だし。