青い、蒼い、物語








もっと強く生きられる?
きっと夢は叶う?
一人で叫んでみても、答えも無く彷徨うだけ

第八話・邂逅の刹那(とき)

「ゼル様。仕合わせ、ありがとうございます」
かた、と拾った木刀を元に戻し、ぺこ、と頭を下げる。
「………少しはすっきりしたか?」
「はい。『少し』だけ。だってゼル様弱いんですもの(はぁと)」
「……………」
ガキん時からいっつもそーだ。
やる事成す事いちいちケチつけて。
きれーでかわいー顔だち。大人になったらさぞかし美人になるだろーと。
んでもって、ぜってー口の悪い旦那似の女になるだろーと。
予想はしていたが。
「うぉ〜いねーやーん? どこいったんや〜?」
幼い声と、足音。
ててて…と小走りに、こっちに近づいてきている。
「……ではこれで。弟が呼んでますから」
ぺこ、とお辞儀して、出口に向かって歩く。
その細い背中に。
「旦那はまだ、見つからないのか?」
ある意味、残酷な問いがかけられた。
「……」
レナは立ち止まる
返答に迷っているのか。
それとも、言葉が秘める『絶望』に打たれたのか。
弟の小さな足音は、刻一刻と近づいてきている。

「……とおさまは、わたしがけんをもつことにはんたいですか?」
──おんなが、けんをもつことに。
「う〜ん…。そんなことはないけど…」

にっこり、笑った、あの人は。

           何て、言ったのだろう?

     私は。

              その時、とても嬉しかった気がする。

「……………まだ……」
澄みきった声で、レナは答えた。
「そうか…」
もう一人の父は、ふ、と小さく息を漏らした。
「あ〜いたいた。こんなトコで何してたん?」
ひょい、とホールの入り口から顔を出す、金色の塊。
「ん? うん。ちょっとね。この人とお話ししてたの」
「なぁ〜んや怪しいわなぁ。ホンマは『いぢめてた』んとちゃう?」
「まさか。弱いものいぢめはいけないって父さん言ってたでしょ?」
「それもそーやな。ねーやんの剣技についてける人間なんか、ほとんどいないし」
「そうそう。お散歩してたら道に迷っちゃって、この人に道聞いていただけなのよ」
「……………」
涙が流れているのは気のせいだろーか。
とか思ってしまったりする近衛兵団隊長さんである。
「あ。え、と……ゼガルディス様、でしたっけ?」
「ねーやん。それ言うんならゼルディガスや」
「………ゼルガディス」
どっかで聞いたような(読んだような?)セリフぱ〜とつぅ。
「……まあ、それは置いておいて……」
にこ。
「皇太子殿下に、伝言を、お願いできますか?」
雨は、いつの間にか上がっていた。

一方その頃、当の王子様は。
「………迷った…」
母を求めて三千里していた。
母を……。
(……今更…何を言えばいいんだ…)
わからない。
わからないのに。
どうして、足は動いている?
「………ってーか……どこにいるんだよ…」
謁見の間にいた衛兵に聞いたところ、自室に戻ったとのこと。
が。
「…場所聞くの忘れた……」
バカ一秒。
(………あいつにも…)
「早く…会わなきゃなんないのに…」
ぐしゃ、といささか乱暴に、自分の銀髪をかき混ぜる。
──ミギダッタトオモウケドナア。
「………!?」
振り向く。誰も、いない…?
──んでもって、えっと……まっすぐ……?
「誰だっ!?」
聞こえた。今度ははっきりと。
姿は見えない。気配も感じない。
『声』のみが、響いてきている。
──わり。忘れたから、あと自分で探してくれ。
「っておい!」
ぷつん、と糸が切れたように、声も途絶える。
どこかで、聞いた声。
どこかで、聞いたセリフ。
どこかで
「………右行って、真っ直ぐ…か」
当てにするものも、なにもないので、とりあえず信じてみる。
右。
真っ直ぐと続く廊下。
同じような部屋が、いくつもある。
一歩、リュートが踏み出した。

「ねーやん……ええんか? これで…」
隣を歩く姉に、弟は問いかける。
「…………」
「……ねーやんは、さ。むかしっから変わらへんのやな」
苦笑混じりのため息をつく弟。
無言の姉。
「ピーマン嫌いやわ、胸のこと言われるとキレるわ、いっつもほえほえしとるわ」
「……何が言いたいのかしら?」
「いつもいつも笑って誤魔化すのも、黙って行くんも。
ガキん時から変わってないんやなぁ………」
弟は、そこで大きく息を吸う。
「そやけど」
うつむいてる姉の前に回り込む。
「ねーやんホンマにええんかいなっ!! あいつやて、すぐ気付くでっ!?
すぐうちらを追い掛けて来るに決まっとるわぁっ!!
なんでそーなんやっ!? なんで………っなんでいつも黙って行くんやっ!
それに………それにねーやんは……あいつのこと……」
「ガウリイ」
鋭利な、姉の呼びかけに。
弟はびくりと身を震わせ、暴発寸前だった口を閉じる。
「あいつって、だあれ?」
「な……何寝ぼけたこと言ってんねん! あいつやっ! リュートのこ……」
弟は、再び口を閉じる。
風が、金髪を揺らす。
その空を映した瞳も、揺れている。
口元には微笑を。
蒼の瞳には水を。
「ごめんね。私…」
くすりと笑った拍子に。
「くらげだから、忘れちゃった…」
涙が、堕ちた。

「……誰ですか?」
扉の外に気配を感じて、アメリアは誰何の声を上げた。
だが、返事が無い。
兵や侍女だったらすかさず返答する。
ということは──
『……俺…だ……』
肯定。
『そのままで、聞いてくれ…』
扉を開けようと駆け寄るアメリアが、ノブに持ってきた手を引っ込める。
『……さっきは…謁見の間でのことは……謝る…』
アメリアは、扉の前で首を横に振って、いいんです、と言おうとした。
『…あんたのこと……何も知らなかったんだ…。
あんたが、俺のことでどれだけ悩んでいたのか……なんて…。
少しも知ろうと……思わなかった……。
ただ、捨てられたって………思って……思い込んでいたんだ…』
「いいんです。あれは……私の…」
『でも………あんたは…俺を助けに来てくれた。
その子は大事な、私の子です──って…。そう、言ってくれた』
誤解していた。
捨てられたのだと、思っていた。
「なぜその事を……!」
驚愕の、アメリアの声。
頭の中がごちゃごちゃしてる。
次に言う言葉を選んで、舌に乗せる。
『ごめん……母さん…』
懺悔の祈りに聞こえたのは、気のせいか。
かちゃ。
扉を開く。
リュートが、いた。
「………今年で、いくつだったかしら」
「十…八……」
おずおずと、まるで怯えた小動物のように。
「大きく、なったわね」
「ああ」
「もう、だっこもできないわね」
「……ああ」
「……『おかえり』。ウィンディス…」
「………。………。………。………。……あぁ…」
ぎこちなく笑って、リュートは懐かしい言葉を口にした。
「ただいま、母さん」

              第八話・了


次回で最終回次回で最終回っ♪
やぁ〜〜〜〜っっと終わった〜。
第一部っ!(^ワ^)
…………………………………………………。
おひぃぃぃぃぃっっ!!!
第二部あるんだ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
再会篇がぁぁぁぁっっ!!
あぅっ! その前にテストだぁぁぁぁぁぁっっ!!


             予告

第九話・end of start

           少女は少年の身を案じ 自ら姿を消す
           弟はそんな少女を慰めることもできず
           そして 少年は少女を追い掛ける
           だが 再会は知らぬ間に背負わされた
           身に覚えのない 
           栄光の 始まりに過ぎなかった──
            「女、泣かすなよ…リュート」