青い、蒼い、物語 |
ねぇねぇ。どーして、かあさまをかあさまってよんじゃいけないの? とおさまのそばにいる、こっちのかあさまは、かあさまじゃないんでしょ? ねぇねぇ。 どうして、母様を殺したの? どうして、秘密にしておくの? どうして。 第七話・王子 ウィンディス・参 「……game start…ってか?」 赤子を小脇にかかえ、クリアリールは剣を構える。 さわさわと風が鳴く。 僅かに、川のせせらぎも混じって。 「何がゲームですかっ! 天下のお膝元、私の愛する聖王都での暴虐の数々! 許すわけにはいかないわ! この正義の使者、アメリアが成敗してあげる! ウィンディスを今すぐ解放し、ここから逃げ去るというのなら話は別ですがっ!」 ……………。 草葉の陰から見守っていたリュート達が、同時に頬を引きつらせる。 『………『アレ』が…あんたの母親よ…』 『……………いや、やっぱ『アレ』…オレのかーさんじゃないとおもふ…』 (俺にも『アレ』の血がっ……『アレ』の血がぁぁぁぁっっ…) ↑とか言って認めている人。 「……あんた、よくあたしの居場所がわかったわね…」 「ふっ! そんなことっ! 悪のあるところ正義ありって言うじゃないですかっ!」 「言うわけないっての…(ぼそっ)」 小さくツッコみいれるトコがなかなかぷりてぃ。 「まっ。何にしても……」 ざあっと風が、両者の間に吹く。 月夜に対峙する、高貴なる姫君達の間に。 「……吹きすぐ風よ 精霊達よ…」 「……lady's…」 「我が手に集いて力となれっ!」 「go!」 再度、二人が同時に動いた! 「魔風(ディム・ウィン)!!」 ごぅっ! 突如として吹いてきた強風に乗るようにして、後ろへ跳ぶ。 「明かり(ライティング)っ!」 神々しい光球をぽんっと上に投げるクリアリール。 アメリアはそれをマトモに食らい、目を押さえる。 そのスキを逃す彼女ではない! 「影縛り(シャドウ・スナップ)っ!!」 ナイフは、明かり(ライティング)によって作られたアメリアの『影』に命中した。 これで、明かり(ライティング)が消えない限り、身動きできないはず。 「意外、あっけないわね。エラソーなこと言ったわりに……」 「崩魔陣 (フロウ・ブレイク)っ!!」 クリアリールが言い終わらないうちに、アメリアが叫ぶ! 白い魔方陣がアメリアを包み、かろんっとナイフが落ちた。 「こんなこともあろーかと、呪文を唱えておいたのですっ! さあっ! あなたの負けはもはや決定ですっ! おとなしく、正義の裁きを受けるのよっ!!」 「……セーギの裁き…?」 びしぃっ! と錫杖でクリアリールを指すアメリア。 桃色の髪を持つ姫は、憎悪と──どこか影のある眼差しを、彼女に向けた。 「それを受けるのなら……あんたも、あたしと一緒に受けるべきじゃない?」 「愚かな! 私が一体どんな罪を……」 「そうやっていつまでも正義づらしてんじゃねーわよっ!! あんたにこの子の母親を名乗る資格なんかないわっ!!」 さすがのアメリアも、クリアリールの剣幕に圧され、押し黙る。 「あんたさ、知ってる? 子供ってわかっちゃうんだよ?」 不思議そうな顔をした赤子を見やり、続ける。 「どんなに隠したって。 いつかは、わかっちゃうんだ。 ホントの親を、知っちゃうんだ。 そして……苦しくて、とても痛い想い、しちゃうんだ」 「ねえ、知ってる?」 「へ? 何が?」 「ほら、国王の……」 「ああ………アレ、ね。どうせすぐもみ消されるわよ」 「よね〜。宮廷魔道師のリラン様、明日にでも追放じゃない?」 リランなら知っている。 よく、クリアリールと妹のリヴアに魔道の手ほどきをしてくれた人物だ。 優しくて、強くて、とてもとても、大好きな人。 でも、なんでそのリランがいなくなるの? 「そりゃね〜。クリアリール様が」 あたしが? 「国王様とリラン様の」 とおさまと、リランの? 「妾腹だったなんてねぇ」 しょうふく? 意味が分からなかった。その頃は、あまりにも幼かったから。 でも、何となく分かった事が、一つだけ。 ホントのかあさまは、とおさまのそばにいるかあさまじゃない。 「………何度も聞いたわ。父さんにも、リランにも。 でも同じだった。答えはNo。 そしてその内に……リランは…ちっぽけな事件の犯人ってことで処刑されちゃった…」 アメリアは黙ったまま、話に耳を傾けている。 顔色が青いのは、明かり(ライティング)が消え、 月明かりしか辺りを照らすものがなくなったからだろうか。 「……………ねぇ、正直に答えてよ」 調べはついてる、と付け足し、さっきも言ったけどね、と苦笑する。 「その子……父親、あの王子サマじゃないんでしょ…?」 アメリアはこく、と静かにうなづいた。 『なんだ……っ!!』 『しーっ! 静かにしなさいっ! 気付かれるわよっ!』 慌てて口を塞いだ『リナ』が、小声で怒鳴る。 『黙っていられ……』 「じゃあ、誰なの?」 クリアリールの、冷たいとも言える問い。 「………あなたの腕の中にいる赤子は…ウィンディス・ウィル・クレア・セイルーン…。 私、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンと……。 ゼルガディス・グレイワーズとの間に生まれた、第一王子……っ!!」 刹那。 周囲の時が、凍りついたように思えた。 『……まだ、よ…』 『リナ』が呟く。 「そう…その子は……」 アメリアは言う。 凛然と背を伸ばして。 「その子は大事な、私の子ですっ!」 対峙したまま動かないホールに、雨の音が響きわたる。 雨は、止むことを知らないのだろうか。 そして。 (こいつも……休むってヤツを知らないんだな…) 呑気なことを冷静に思ってしまう自分がいて、ゼルガディスは小さく苦笑した。 足ががくがくと痙攣している。 あと一撃で、完全に立てなくなるだろう。 あと一撃。 確認したあと、ゼルガディスはレナに向かって走った。 「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」 スピードは限界を越えていた。 レナが、下段から来るゼルガディスの一撃を受け止めようと剣を反転させ── かぁぁんっ…。 「え…?」 信じられない面持ちで、自分の手から滑り落ちる剣を見つめる。 ひぅっ! かろんっ。 風を斬る音。 剣が落ちる、乾いた刹那。 そして、雨音。 ゼルガディスは、少しでも力を抜けば落としてしまいそうになる剣を、レナの喉元に当てていた。 受ける瞬間に、上段攻撃に切り換え、レナの剣を叩き落としたのだ。 「下段はフェイント……か…」 ふう…と深く深くため息をつき、仰向けにどさっと寝っころがる。 さすがのレナも疲れたのだろう。肩で大きく息をしている。 「まあ…ほとんど……反則勝ちだが、な…」 しばらく、二人とも仰向けのまま休息をとっていた。 「さっきね…あのコに言われました……。 赤の他人のお前に、心配などされたくない。 保護者面も………いいかげんにしろ、と……」 ぽつり。 吐き出された一言。 「私、約束しましたよね。 『強くなったら、きっとあなたの願いを叶える。きっと、育ててくれた恩を返す』って…。 それから四年ですよ……よく、覚えていられましたよね…私」 一目で分かった。 この青年は、セイルーンの王太子。 仮の父と、まだ見ぬ、心優しき女王との間に生まれた、御子息なのだと。 分かっていたからこそ、知らないふりをした。 彼をセイルーンに送り届ける。 それが。 「………でも…私はなれなかった…」 父様のように……。 「『完璧』には……演じることが…できなかった………」 怖いの。 失うことが、怖くて怖くてたまらないの。 でもだめ。このコは王子。私が守って上げなきゃだめ。 怖いなんて思っちゃだめ。 このコは、遠い場所にいるから。 「………気付いたら……恋ってヤツ、してたんですよねぇ…」 ため息をついた。 「……タイヘンよくできました」 クリアリールの冷たい草色の双眼が崩れる。 「……?」 「それを、胸張って堂々と言いなさい。 うじうじ隠さない。陰口叩かれても、前向いて言いなさい。 隠すのは、正義じゃないっしょ? おーぢょサマ」 にこっと口の端をつり上げる。 「……軍隊を撤収させるわ。父さんには、あたしから言っておく」 「どうして……」 アメリアが、不思議そうに呟く。 「元々、あたしや妹は、この戦、乗り気じゃなかったし。 ……あんたら見たら気が変わっちゃったのよ。だーいじょーぶいっ! 火炎球(ファイアー・ボール)ちらつかせながらオネガイしたら、絶対聞いてくれるって!」 「……それって脅迫ぢゃあ…」 「そお?」 ぽりぽりと頭を掻く。 『……リュート、浮遊(レビテーション)か翔封界(レイ・ウイング)、使える?』 『あ? ああ……一応両方…』 『そう、なら今のうちに翔封界(レイ・ウイング)の方、唱えておいて。 あたしが合図したら飛んでね』 『……わかった…』 反論するかと身構えていたリナは拍子抜けした。 (あっちゃ〜……そーとーショック受けてるわね〜) 頭を抱えるが、今はそんなことをしている場合でもない。 「ほら、母さんのトコに帰んな」 あやしながら、アメリアに赤子を手渡す。 と。 『今っ!!』 「炎裂砲(ヴァイス・フレア)」 ずずどごごわしゃぁぁぁっっ!! 呪文が、クリアリールの足元に炸裂した。 「きゃっ……!」 そばにいたアメリアが吹き飛ばされ、地面に転がる。 「つっ……!! あんたは…!」 腕の中で大きく泣き出す、セイルーンの王子。 それを安心させるがごとく、抱きしめるクリアリール。 木陰から出でる、闇よりなお暗き存在。 「王室特務暗殺部隊隊長、ブラッド!」 「……わざわざわかりやすいご説明を……ありがとうございます…」 うやうやしく礼をする。 「何の用よ。この子を殺すのはあたしの役目でしょ!? それに、万が一にでもあたしに当たったらどーするつもりだったの……」 「赤子共々、クリアリール様を始末せよ……。 国王直々の、命にございますゆえ…」 え……。 「お父さん…が…?」 「戦に生じて、あなたが戦死するならそれでよし……。 …が、もし行きていたのなら…抹殺しても構わない……。 …まあ、理由はご想像つくでしょう?」 「…………あたしが………………母さんの子じゃないから…?」 王族の血を汚し、『母さん』が孕んでしまった子供だから……? 「そう……。王国の威厳を保つためにも、ということでしてね…。 さすがにリヴア様や『母君』は抵抗はしていましたが……やはり……。 実に悲しいことです……」 ちっとも悲しがっていない口調。 その後ろで、アメリアが頭を二、三度振り、跳ね起きる。 それをちら、と目線で確認すると、ひび割れた大地を見つめる。 「さて、お話はお終いにして……そろそろ死んでもらいましょう」 「じょーだんじゃねーわよ」 はっきりと紡がれた、否定の言葉。 「あんた知ってる? この近くって川が流れててさ。 昨日の土砂降りでその川、氾濫してて、この辺の地盤が緩んでんのよ」 「………それが?」 動じない暗殺者。 クリアリールは密かに呪文を唱える。 「まさか……やめなさい! そんな……」 「だいじょーぶいっ!」 『そのこと』に気付いたアメリアが、制止の声を上げるが。 赤子をしっかと抱いて、笑った。 「絶対守るから! 守って、あんたのところに返しに来る!」 空から見ていたリュートに『写る』。 遠く、白い、暖かな記憶が── ──なぁ〜にやってんのっ! はやくしないと置いてくわよ! 「あたしを信じて!」 ──信じてなかったの? あっきれた息子ね〜。 いい? あたしはね……。 「あたし」 ウソはつかない主義なのよ── ダブる。 「風波礫圧破(ディミルアーウィン)っ!!」 「封気結界呪(ウィンディ・シールド)!」 クリアリールの放った魔法が、先のブラッドの呪文で弱った地面に、止めを刺した。 どぅぉぉおおんっ!! がらがらと崩れ落ちる地面。 その下は深い谷底。 風の結界を纏ったアメリアが、もうもうと立ち込める土煙の中に隠れる。 「絶対守る! 返しに来るから!!」 そう言い切る声と、暗殺者の絶叫が、響きわたった。 『………これが…あんたが『捨てられた』ワケよ』 ふぃっと、『風』が耳に鳴る。 再び、深遠なる闇が視界を覆う。 『戦は結局、セイルーンの勝利。 フィンディーネとの和平によって、戦は終結した。 ただし──王子の失踪、というモンダイを残してね』 『………あれは……』 『………何?』 一言ずつ、まるで自分に言い聞かせるように。 『……あれは…本当に………クリアリール、なのか…?』 その問いに、『リナ』はまるで、自分のそれであるかのように遠くを見た。 『──そう。 あんたを人里はなれたセーヌの村で育て。 死ぬ間際に、セイルーンへと遺を下した。 …………あんたの、母よ』 顔を上げると、そこは元の部屋だった。 第七話・了 ………え〜。すみません、レナちゃんたちちょっびっとしかでてません。 しかも何気に告白してるし〜〜〜っっ!! ついでに言うと頭もよくなってるっ! ってーかレナちゃんの書き方忘れたっ! あ……ちびガウもここんとこ出番ないし…。 あたしはちびガウ好きだな〜。ころころ変わって面白いし。 あ、それとですね。 クリアリール(略してクリル(^^))が、すぐセイルーンにリュートを 連れていかなかったわけはですね。 セーヌってのは山々に囲まれてて、魔獣やら何やらがどどぉぉんっと生息しているんです。 当然、赤ん坊のリュート(足手まとい)をつれてセイルーンに行くのは自殺行為。 んでもって、川に流れ流されたおかげで、リュートが風邪をひくし。 クリルちゃん、リュートを看護しているうちに 手放せなくなってしまったんですよ。(ほろほろっ) ……いーのかクリル。ちゃっちゃと返しなさいよ。 ………とまあ、こんなカンジですけど……。 わかんなかったら、無視してやって(はぁと) ここんとこの話も考えているんですが……。 おそらく一生涯、書くことはないでしょうね〜。 であであ〜。第一部、もーそろそろお終いですっ。 予告 第八話・邂逅の刹那(とき) ふるさとは 旅人を優しく迎え入れ 母は 旅人の為、涙を流す 父は それを見つめ微笑し そして 蒼い瞳の姉弟は── 「ねーやん……ええんか? これで…」 |