青い、蒼い、物語 |
第五話・王子 ウィンディス・壱
「本性なんて人聞きの悪い……。私はいつも『これ』ですけど?」 (ウソつけ) ゼルガディスはリュートを連れていく時に、ほえほえ笑顔に殺気が混じっていたのを感じている。 ………しかも『リュートに何かしたらぶっ殺ス』、とあからさまに物語っていたし。 「…にしても……すごく痛かったんですよ? イキナリ叩くものですから…」 「あの程度で倒れるようじゃ、剣士とは言えないだろ?」 ゼルガディスがふう、とため息をつく。 「……何か用があったんじゃなかったのか?」 「ああ。そうですねぇ。 ガウリイたちがいたものだから、初対面として接しなければなりませんでしたし…」 ぽんと手をうつ。 「よろしければ付き合ってくれません? ストレス解消に」 「ちょっと待て…娘って…母親…!?」 「そーよ。訳あって、ガウリイの『中』にいるんだけどね。 あ、ちなみに『身体』自体はガウリイ本人のだから」 ぽふっとベットに腰掛ける『リナ』 「けどさ〜あんた。スト起こしても何にもなんないわよ? あんたがこの国の第一王位継承者ってことには、変わりな………」 「うるさいっ!!」 激昂する。 「あんたもそんなことを言いに来たのかっ!? 俺の母親は死んだんだ! それに俺は王子なんかじゃない! 何が……十八年間も放っておいて、何が母親だよ! 何がお帰りなさいだっ! 人の気も知らないくせに…!!」 一気に叫んで、肩で大きく息をする。 『リナ』はそれを、冷めた目で見つめていた。 そして。 「ばーか」 「…は?」 拍子抜け。 ぴっと人指し指をリュートに突きつける。 「人の気も知らないくせに? そっくり返すわよ。その言葉。 アメリアがどんな気持ちであんたを待っていたのか、知りもしないくせに……。 勝手なこというんじゃないわよ、ガキ」 「なっ……」 「レナがなぁ〜んであんたをガキ扱いしたかわかる? 文字通り、あんたが右も左も分からないガキだからよ。 もっとも………理由は他にもあるけどね」 ふ、と微笑む。 リュートは、握った拳を震わせながら、『リナ』を睨んだ。 その目は、ホントにそっくりで。 (熱くなりやすいのは……母親似かな?) そんな他愛もないことを思いながら、真剣にそれを受け止める。 「ってーかさ。あたしはあんたとケンカしにきたワケじゃないのよ。 れっきとした『ヨウジ』で来たの」 「だったらさっさと言え。何だ?」 かわいくないのは父親似。と心中、毒づいて。 「見せて上げるわ。十八年前、一体何が起こったのか」 言って、す、と両手を前に突き出す。 リュートに向かって。 ──遥かな夢よ 闇に浮かぶ星 蒼き流れが静かに灯る 等しく 優しく 其の祈りはぬくもりの象徴 果てなき虚空を覆う 金色なりし闇の王 願わくばその力 しばし我に与えたまえ── 「時空流離(ディメション・ダンス)!!」 刹那。 かっ!! まばゆい光が、リュートと『リナ』の姿を包んだ。 「はあああらぁぁぁっ!!」 がぎぃぃぃぃぃっ! レナの咆哮ともとれる叫びが、斬音に吸い込まれる。 その上段からの攻撃を受けながら、ゼルは相手の懐に飛び込み、蹴りを放つ。 だがレナはそれをかわし、かわりにゼルに横凪の一撃を加える。 ゼルはその一撃も剣で受け止め、その威力を利用して後ろに飛び、相手との距離を開けた。 「……はっ…。腕を上げたな」 「恐れ入ります」 にこ、と微笑み、再び構える。 ストレス解消。それはすなわち── 『私、今ちょっぴりムカついてるんで、汗を少々、流したいのですが……。 ひさかたに、稽古をつけてもらえませんか?』 (どこがちょっぴりだ……。あやうく首を斬られそうになったぜ…) 彼らが稽古に使っているのは、訓練用に作られた木刀だが……。 真剣だったら、ゼルガディスの言う通り、首を斬られるところだったはずだ。 口にこそ出さないが、ゼルガディスは感嘆、そして驚愕していた。 ガウリイがいない時、よくレナと剣の練習をしたものだ。 が、ガウリイが行方不明に、リナが死んでからは、ゼルガディスが親代わりとなった。 リナの故郷のゼフィーリアに……という手もあったのだが……。 とにかくレナが(珍しく)嫌がった。 そりゃあもぉぴーぴー泣いて暴れて真剣振り回して。 「ひゅっ!」 どちらが漏らした孤息だろうか。 同時に疾り、剣を振るう。 ぎがががががぎがぎっ!!! ……はやすぎだよ…ってーか手ぇ抜くなってば、作者。 たんっ。 「りゃあっ!」 ぎゅいっ! 「くっ!」 地を蹴っての居合い斬りを、すんででかわし、振り向くレナを薙ぐ。 が、それも予想済みだったのか、剣の腹を叩き、起動を変える。 思わずたたらを踏むゼルガディスに斬りかかるが、そのまま床に倒れつつ転がり、それをやり過ごす。 再度、間合いを詰める。 「……レナ…」 「はい?」 僅かに肩で息をするゼルガディスに、小首をかしげる。 「お前、手加減してるだろ!」 「だって……なんとなく、ゼル様が弱いなあって思いまして…。 負けちゃうと、私が困るんですよ? まだ汗かいていませんし……」 うるうるおめめがなかなかぷりてぃ。 「腹が立つからやめろ! 何度でも付き合ってやるから!」 むしろ、手加減されるという事実は屈辱だ。 「…………ウソついたら、針千本ですからね(はぁと)」 にぃぃぃぃっっっこりと深々と笑みを浮かべるレナに、ゼルは何故か寒気を覚えた。 目を開けると、そこはやはり、王宮だった。 『ここは……?』 『セイルーン王宮よ。もっとも、上に十八年前の、がつくけどね』 隣に立つリナが、ぽそりと言う。 ぉぉぉんっ…。 ずぅぅぅんっ。 遠い爆発音と震動。 ぱらぱらと、天井からカケラが落ちて来る。 リュートがいぶかしげに思い、窓から外を覗けば── セイルーンの街が、燃えていた。 『……十八年前…フィンディーネ国との戦の最中……。 街はほとんどが瓦礫と化し、城の外壁も崩れようとしてた…。 住民は全員、城の中に避難していたから…まずは安心だったけどね…』 ガウリイから聞いてるでしょ? と言って、『リナ』は歩き始める。 リュートも慌ててそれに習う。 『あたしやがう……どこぞののーみそヨーグルト男も、それに加勢したわ…。 アメリアとは付き合いがあってね。一緒に旅をしたものよ』 ふ、と遠い目。 『……でも…。そうね、五分五分……といったとこかしら。 あっちにも中々のお転婆姫が二人もいてさ。 セイルーンの精鋭部隊五百人をぶちのめして……。 ここに来ようと躍起になってた…。無論、あたしがお仕置きしといたけど』 ぴたり。 『リナ』が立ち止まる。 『………隠れて!』 イキナリぴょこんと背中に飛びつき、口を塞ぐ『リナ』。 リュートはすぐ抗議しようとするが、進行方向から誰か来ることに気づき、それに従う。 それは、銀と白のコンチェルト。 第五話・了 ってーか誰だかすぐわかるぞ、これわ。 第一部も佳境です。もう少しだけお付き合い下さいましましっ♪ へ? 第二部? いや…あることはあるんだけどさ。 …………書くのめんどい…(ごぎょっ) ご…ごべんなざい…ぢゃんどがぎまず……。 まあその前に、(できたら)レナちゃんとガウ君の番外でも…。 ……………だ、大丈夫よぉ。ちゃんと第一部終わらせてからっ! ねっ? ねっ? 予告 第六話・王子 ウィンディス・弐 忘却 それはヒトが持たんとするモノ 慈母 それは文字通り、母が持たんとするモノ 情け それは掛けてはいけないモノ それは 優しさを持ち 勇気ある存在の成したコト── 「そんなに笑わないでよ…殺すに殺せないじゃない……」 |