青い、蒼い、物語


〜第三話・守護者の祈り、保護者の問い〜







今、貴方に逢えたことに祝福を
今、貴方と共に在ることに感謝を──


第三話・守護者の祈り、保護者の問い

「セイルーンの王っちゅーのは、ごっつ美人のねーちゃんやて」
ガウリイが先頭に立って、ちらりと二人を振り返る。
「何でも十七、八年前、敵対関係にあったフィンディーネ国の襲撃に会(お)うて、
夫や父王子。その弟まで失ってしもーた。
ちなみにダンナは新婚ほやほやな隣国の国王で……。
…女王さんたぁ十も二十も年が離れてたそーや。
…………ウワサじゃ、後継者欲しさの結婚やゆーてたけど」
「確か名は…アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン……。
正義と愛と真実をこよなく愛する、猪突猛進弾丸女王……」
レナがのほほんと笑みを絶やさずに漏らす。
「またの名を、爆裂合金女王………。どうしたの? 二人とも」
きょとん? と小首をかしげるレナ。
リュートとガウリイは、後ずさりながら、口々に言い出した。
「ねーやん! そのヨーグルトのーみそ進化したんかっ!?」
「だとしたら大したもんだ……。その状態が続くといいんだが…」
「二人ともヒドい……」
うるうると瞳を潤ませ、こぶしを口元に当てる。
ぶりっこ、とゆーやつだが、レナにはどうも、これが似合っている。
いや、彼女の場合、これが地なのだろう。
「でも……もうすぐボクとはお別れね」
足どりが自然と止まる。
「………は?」
「だって、セイルーンまでっていう約束だったでしょう?」
レナの意外そのもの、といった声を聞いて、リュートは喉に何か詰まった気分だった。
確かに、そういう約束だった。
いや、元はといえば、自分は彼女らと別れたいはずではなかったか?
ちがう! 今は……。
「ボク?」
「あんちゃん?」
うつむいたリュートに、蒼い目の姉弟が声をかける。
レナといたい。
レナをもっと知りたい。
レナを感じていたい。
自分より年下だというのに、身長は軽く自分を越している、この少女と。
ずっと、旅をしたい。
「俺は…」
言葉を紡いだ刹那。
ぐるるるるる……。
『!!』
三人が一斉に身構えた。
「……十匹を軽く越えるぞ…」
「デーモンって……おいしい?」
「食えへん食えへん」
軽口をたたいている内に。
「来るでっ!」
ぐおああああああぁぁぁっっ!!
咆哮と共に、三人が各々に散る。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
ぽしゅっ!
ガウリイの放った魔法が、そこにいた二匹を塵へと還す。
「覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!」
振り向きざまに、また一発。
「ガウリイ〜」
ひょい。
「あんまり傷つけちゃダメよ〜」
ひょい。
「特に足の辺りがおいしいって〜」
ひょいひょい。
「父さんもいってたし〜」
ひょい。
「だー!! よけとらんで攻撃せんか!」
リュートが叫んで、剣を一閃させる。
おそらく、魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)でもかけてあるのだろう。刀身が赤い。
「ねーやん、食えんゆーたろっ!? 破砕鞭(バルス・ロッド)!」
べちっ!
光の鞭が、デーモンを粉砕する。
「…でも……父さんがまだいた時、レッサーデーモンの三分間クッキングって……」
ざしゅ!
レナが薄紫の光を纏った細身の剣を一閃。デーモンは悶絶して倒れた。
「前々から聞きたかったんだが……お前らの両親って…?」
「「聞か(んといて)ないで、頼むから」」
顔を青ざめつつ言い放った二人に、リュートは恐れをなしたのか、ただ黙々とデーモン達を倒していった。

「とりあえずはこれでOKやな」
「レナ、食うなよ」
「………どおしても?」
うるうるおめめに、一瞬退いてしまうが、ぐっと我慢する。
「…………………どうしてもだ」
「…ボクのいぢわる」
地面にのの字を書くレナ。
………いじけるなよ…。
言おうと、顔を上げた時。
レナの背後に、巨大な影が起き上がった。
「レナ!!」
「っ!」
それから先の出来事は、スローモーションに映った。
レナが身をかわそうと動き。
それをレッサーデーモンの爪が捕らえ。
鮮血が。
差し伸べた手も無意味に。
ドサリと倒れる。
「ねーやんっ!?」
ガウリイが悲鳴に近い叫びを上げ、デーモンを倒す。
「……あれ…? 血が出てる…」
ひのふのみ、といった顔で、ぬらりと鈍色に輝る己の血を見つめる。
「ガウリイ! 治療(リカバリィ)使えるか!?」
「使えるこた使えるけど…」
「…そーいえば、ほとんど使ったことってなかったわよねぇ」
「怪我人は黙って寝ていろ! ガウリイ! 早く!」
有無を言わさない剣幕に押されて、ガウリイは印を組む。
……大したことないのに…。
そう、唇だけ動かして、レナは意識を手放した。

不憫だね……下の子は、まだ五つにも達していないというのに…。
父親は何をしているんだい?
傭兵をやっているようだよ。便りが途絶えて半年になるって……。
なんて男だ…。子供を捨てるような真似を……。

ああ。
なぜだろう。
こういう時にかぎって、捨てたはずのものが。
どんどん。
押し寄せて来る。

『お前さんは、剣より魔法の方があっているみたいだな』
『……とおさまは、わたしがけんをもつことにはんたいですか?』
おんなが、けんをもつことに。
『う〜ん…。そんなことはないけど…』

なんて言ったんだっけ?
にっこりと笑って。
頭をなでて。
私が大好きだった、あの人は。
なんて、言ったんだっけ?

ふっと、瞳を開ける。
白いこざっぱりした天井が映る。
「………ここは…」
起き上がろうとして、目眩がした。
「だめですよ! まだ寝ていなきゃ!」
まだ若い、女の声。
「胸から脇にかけて………かなりの大怪我だったんですよ?
もう一歩、ここへ来るのが遅かったら………」
「弟と……あのコはどこに?」
遮って、問い。
かろうじて、名前だけは言えなかった。
あのコの、その名前だけは。
「ああ。さっきまでいたんですが……。弟さん、ですか? 二人とも」
「…………」
いいえ。
「………黒髪の男の子は、ちょっと……」
「やっぱりそうですか〜。なんか、ずぅっとあなたの傍にいたもんですから……。
弟さんには、見えなかったもので……」
いいえ。
「恋人……ですか?」
いいえ。
「……旅の連れで…私には…………」
言い掛けて、ふと思いつく。
「…そうですね。私はあのコの……『保護者』、みたいなものです」
思いつく。
どこかで聞いた称号。

「つーこって。ここはセイルーンの城下町や」
しゃりしゃりとリンゴを剥くガウリイ。
「……ったく…。頭は軽そうに見えて、神経だけはズ太いな」
「なぁ〜んや。泣きながら『死ぬなーっ!』って連呼してたんは、どこのどいつやったか?」
にやにやしながら、剥き終わったリンゴをレナに渡す。
リュートはその横で、頬をちょっぴし赤らめたりして。
「なっ……泣いてはなかっただろーがっ!」
「ああっ! そっかそっか! 手ぇしっかり握ってただけやったか!」
「そんなこともしてないわっ! こんクソガキ!」
「やかましっ! 半分はホンマやろっ!?」
「てめーこそ『ねーやん死んだらあかんっ!』とかなんとか言ってただろーがよ!」
「どーでもいーけど……ガウリイ、これ皮に身がついてる…」
コンコン。
「弟やんけ! んなの当たり前や!」
「はっ! よく言うぜシスコンが!」
「うちがシスコンやったら、あんちゃんはマザコンやわ!」
「うるせーシスコン!」
………コンコン。
「マザコン!」
「シスコン!」
「マザコン!」
バンッ!
懸命に続いていたノックの音が、ドアを押し退ける音に変わった。
「あらあら。どうもすみませんね、気がつかなくて。えっと……」
ほや〜っと笑みを浮かべ、レナが入ってきた人物に頭を下げる。
白と青を象徴としたシンプルな軍服に、見慣れた勲章。
……が、その肌は青黒く、岩か何かでできているように見える。
白銀の髪に包まれた人物は、低いテナーで口を開く。
「リュート・レイクリッドだな?」
「………誰だ?」
「どこかでお会い致しましたっけ?」
ベットの上で上半身を起こし、小首を傾げる。
それに男が答えるより早く。
「うちらに何の用や? 近衛兵団隊長はん?」
ぴょこんっとリュートの後ろから、ガウリイが顔を出した。
が。
男はガウリイを一瞥し、冷たく言い放つのみ。
「猿に用はない」
と。
「なっ……言うに事欠いてサルぅっ!? なめとんのかいこのおやぢっ!」
「まあまあガウリイ。相手に失礼よ?」
ぽむぽむと頭を撫でてあやすレナ。
そんな、おおよそこの場ににつかないシーンを尻目に、リュートが男と対峙する。
「……で? 確かにその礼服はセイルーン近衛兵団のもんだが……。
そのおエライさんが、一般市民に何か用事か?」
ぴくり。
面白いオモチャを見つけたように、男の眉が動いた。
そして。
「……リュート・レイクリッド。城まで同行願おう」
……………………………。
…………ちょうちょうが十匹、飛んでったような気がする…。
「……は?」

                 第三話・了

やぁ〜っとキーボード直りました〜。
待って来れてる人なんていないけどっ♪
長らくお待たせしましたっ。
青い、蒼い、物語・第三話をお送りいたしますっ。
これからもがんばりますんで、なにとぞヨロシクですぅ〜。
………って月並みだけどさ。


                    予告 

第四話・UPON MEETING SUDDENLY…

            被保護者の少年は 全てに心を閉ざし
            自称保護者の少女は それに初めて悔しさを知る
            そして
            そんな二人を見つめる懐かしき紅の双眼は
            一体何をしようというのか
            それは 誰にも解らない──
           「お久しぶりです、ゼル様。私を覚えておいでですか?」