青い、蒼い、物語


〜第二話・星の旅路〜







空はどこまでも青く、少女の無垢な瞳も、どこまでも青かった。
だが、その青に捕らわれる者はいないのだろうか?
否。
その存在自体に、捕らわれ、惹かれる者はいないのだろうか……?


第二話・星の旅路


レナ達と旅を初めて早三日。
もうそろそろ、セイルーン・シティに入るころだ。
しかし……この姉弟…。
一体どーゆー育ち方をしたのかと疑いたくなるような変人だった。

朝。
宿を出て、ぽかぽか陽気な街道を歩く。
そして、まもなく。
「へっ…! 命が惜しかったら出すもんだしてもらおうかっ!?」
どっかできーたセリフ。
どっかで見たよーなカッコ。
数十人の盗賊達が、三人の前に姿を現わした。(せおり〜せおり〜)
「あんなぁ〜。もちっとセリフのバラエティーってモン、考えたらどーなんや?」
ふわわ、とあくび混じりに答えるガウリイ。
「ダメよ、ガウリイ。そんなこと言っちゃ」
何も考えていないような(いや、実際そうなのだが)のほほんとした笑みと物腰をしているレナ。
「盗賊さんっていうのは、こーゆーセリフしか思いつかないから盗賊さんなの。
馬鹿丁寧な言葉づかいな盗賊さんなんて、気味が悪いでしょう?」
それは違うぞ、姉よ。
「あ、それもそーやな」
納得するな、弟よ。
「何ブツブツ言っていやがるっ! 文句があるならとっととかかってきやがれ!!」
「あの〜……大変申し訳ないんですけど……そこ、どいてくれません? 
実力行使はあまりしたくないんで…。
父さんも『弱いものいぢめはいけない』と言っていましたし……」
「へっ! 女ぁ。そういう大それたセリフは、もっと胸がでかくなってから言うんだな!!」
「…………バストアップは今年の目標なんだけど…」
レナはふわ、とした笑みを浮かべ。
「『悪人に人権はない』って母さんも言っていたわね…」
………目がイってるよーな気がするのは気のせいだろーか…?
「一番ガウリイ! オリジナル呪文、爆裂火炎舞(ファリア・ロンド)いくで!」
「二番レナ! 嬉し恥ずかしガブリエフ家奥義、『疾風剣菊花』やります!」
街道に、斬音と爆発音、そして盗賊共の悲鳴が響きわたった。
<疲労度・30>

昼。
がきぃぃいんっっ!
金属と金属の重なる音。
とある食堂兼宿屋のテーブルで。
レナが目の前の甘エビシーフードセットを必死にガードしつつ、
ガウリイの右方にあるモモ肉を捕ろうとフォークをのばす!
が、それは計算済みだったのか、ガウリイはフォークでその斬撃を牽制して、
レナのポテトエッグにもう一本のフォークを突き刺す!
その隙に、レナがモモ肉をターゲットからぱずし、バケットサンドを引っ掴む!
ぎがっ! ききっ! ぢぃんっ!
飛び散る火花。
羽毛のような笑みと獰猛な笑み。
同じ青の目が食欲の火を吹き出す。
「………お前ら…」
横手から聞こえたウンザリとした声に、姉弟はぴた、と攻撃の手を止める。
「……もっと静かに食えんのか…?」
リュートの、問いととも香茶を飲み干すさまを見ていたレナは、きょとんと小首をかしげる。
「これでも静かな方だと思うんだけど…」
「いつもはこんなんよか、ごっつハードやかんな〜」
毎日やってるのか、お前ら…?
そう言おうとしたが、それは無駄に終わるだろうと判断、中止する事にした。
「それよりガウリイ……私のひよこプリンさんを捕った罪は大きいわよ…?」
「へんっ。ねーやんこそ、うちのカラメルアイス捕ったやないか」
「あら、私は一口しか口にしなかったんだけど…?」
にこぉ〜。
にまぁ〜。
昼飯の攻防戦は、その後一時間は続いた。
<疲労度・60> 

そして、夜。
色々な出来事から出てくる疲労度は、もはや200を越していた。
それを受け止めてまだ動ける自分の身体に、リュートはほめてやりたい気分だった。
まあ、それはともかく。
ちゅごぉぉぉおおんっ!!
「………」
ちゅどちゅごちゅどどぉぉんっっ!!
「……………」
宿の屋根の上で、リュートは炎が上がる森を見つめていた。
「月見酒……というのもなんだな…」
宿の屋根の上で、一人杯を傾けるリュート。
もっとも、彼の見ているのは月ではなく炎の紅(くれない)だが。
月光が、それを照らす。
酒場……もとい宿の一階は、まだ喧騒と笑い声が絶えない。
『なあ! あんちゃんもやりに行かへん?』
夕食(ここでも攻防戦があった)のあと、完全武装を始めるガウリイに、どこに行くのかと聞いたところ、帰ってきた返事がこれだった。
盗賊いぢめ。
ガウリイの趣味。もとい路銀の補充処(ガウリイ談)。
曰く、オリジナル魔法の実験台にもなるし、ストレス解消にもオススメ。だそうだ。
そういえば、今朝盗賊共を吹っ飛ばす時も、どこか楽しそうだったが…。
くす、と小さく笑い、彼はぽつりと呟いた。
「変な奴ら…」
「そう? それほどでもないけど…」
背にソプラノを受け、リュートはため息をもらした。
気配は隠していなかったので、すぐにわかった。それが一体誰なのかぐらい。
月とは異なる金色が、リュートの隣に現れた。
一目見ただけで、彼をその瞳のどん底に陥落(おと)した少女。
「心配じゃないのか?」
「なにが?」
リュートが渡した酒を、どこから出したのかレナは小さなカップに注いだ。
「あんたの弟さ」
くい。
「心配じゃない…と言われればウソになるけど…。
いくら盗賊さんが三十人になったって、あの子には勝てないわ。
買いかぶり、と言われればそれまでだけど……。ガウリイには、才能が、あるから」
くい。とくとく。
「才能……魔道の、か?」
カップに新しい酒を注ぎつつ、レナはこく、とうなずく。
十六の身で既にオリジナルの魔法を創り上げるくらいだ。
確かに、レナの言葉にウソはないだろう。
「ボクは、どうしてセイルーンに?」
「そのボクっていうのは………まあ、どうでもいいが…」
事実、このくらげねーちゃんに『ボク』呼ばわりされても、もうあまり腹も立てない。
…………慣れとは恐ろしいもんである。
「お袋の……遺言だ…。自分に何かあったら、セイルーンへ、と」
くい。
「まあ、それだけだったから、その言葉の意味さえわからなかったがな。
最初で最後の親孝行ってヤツか?」
「………ごめんなさい…。変な事聞いちゃって」
「気にするな。言ったところで、死人は還らん」
けろりと言い放つリュート。
しばらく沈黙が続き、やがて酒も底を尽き始めた時。
「……好きな子って…いた?」
ぶっっ!!!
思わず吹き出す。
「あらあら、大丈夫?」
懐から取り出したくらげ柄のミニタオルで、口の端から漏れた酒を優しく拭き取る。
夜の闇にも鮮明な、青の瞳。
月より明るい、金髪。
初夏の夜風に、さらさらとなびく。
すべてが、幻想的に映った。
「ボク?」
小首をかしげるレナに、リュートは我に返る。
「あ、あまり近づくな!」
そう言うのが精一杯で。
ふいっとそっぽを向き、あとはもぉ完熟トマトである。
「………冗談よ冗談。やっぱり、まだまだお子様」
くすくすと笑って、ふにふにとほっぺをつつく。
「心臓に悪い……」
「ごめんなさいね」
くす。
「………変な女…」
ぽつりと呟いて、リュートは小さく笑った。

「えー雰囲気やな〜。案外、まんざらやないかもしれんな」
屋根の上の二人を見上げ、ガウリイは部屋に入る。
お宝ザックをどすんと下ろし、一息ついたところで、頭に『声』が響いた。
『な〜に言ってんのよ。ホントはくっつけてから、からかおうとしてんでしょ?』
「やっぱわかるん?」
ぺろりと舌を出し、ザックを漁る。
『あったり前じゃない。なんせあんた、行動パターンがそっくしなのよ』
「誰と?」
宝石・神像・宝剣 etc、etc…。ガウリイはそれらを慎重に物色する。
しばらくして、『声』は思い出したかのように答えた。
『……あたしに、よ』
その言葉の奥底に、寂しげな音が浮かんでいたに、ガウリイは気付いていた。
「……あんな」
手を休め、ガウリイは独り言のように話し始める。
「うち…強くなる。ねーやんにも、誰にも負けへんよーに。
んでもって、父ちゃん、絶対探したるさかい。そやから……そやから………」
『……』
「そやから……もー少し、待ってーな。………母ちゃん」

ガウリイの瞳が、変わる。
蒼から、赫へ。
こつん。
「…バカね。そんなこと、全部背負わなくてもいいのよ」
苦笑して、『ガウリイ』は自分の頭を叩いた。
「でもホント……あたし、母親失格ね…。あんた達に、何もしてやれなかったし…。
挙げ句の果てに……あんなつまんない病気の一つでやられちゃうし…」
『そないなことないで? 現に、心配してくれたやろ?
わざわざ、うちに取り憑いてまで。今日の今日まで、ずーっと見守ってくれたやろ?』
幼さを残した少年の声が、頭に響く。
「ガウリイ…」
『父ちゃんに会うまで、母ちゃんこのままなんて、うち、いやや。
そやから絶対探したる! あのくらげ親父!」
我が子の、さりげないセリフ。
もしかしたら、この子はあたしより強いのかもね。
……あるいは、あたし自身、弱くなったのかな。
いずれにしても。
「ありがと…」
母は、それ以外言いようがなかった。

セイルーンまで、あと一日──

                 第二話・了

あ〜〜〜〜。何か石がっ石がぁぁぁぁっっ。
飛んできますぅぅ〜〜〜〜(泣)
リナ死んでるし…しかも病気だし…。
ガウリイはどーしたっっ!! とゆー方。あい、すみません。
もーちょっと待ってやって下さい。
いえ大丈夫です!! ちゃんと生きてます! ガウ君わっ!(いやホント)


                予告 (別名・シリーズ化なおまけ)

第三話・守護者の祈り、保護者の問い

            若き女王の守護者は、空を見上げる
            少年の保護者もまた、空を見つめる
            蒼穹の果てに、二人は何を想うのか
            守護と保護。
            それは、切なくも悲しい枷──
            「うちらに何の用や? 近衛兵団隊長はん?」