青い、蒼い、物語


第一話・天空(そら)と黄金(こがね)の狭間で







良い天気だった。
蒼穹の天井。白い雲。さんさんと降り注ぐ太陽の光。
それらはどこから見ても同じ風景。
たとえば、このとある街道からでも。
周りは森。あまり人通りは多くない。
そんな街道を一人、彼は歩いていた。
銀髪碧眼。
レザー・アーマーにブロード・ソードという、普通の軽戦士(ライト・ファイター)タイプの少年である。
名はリュート。
彼の育った村の言葉で…戦神の意味を持つ。
何かを守れる。誰かのために力を振るえる人間にと、そんな思いを託してつけたそうだ。
「……おい…」
ぴたりと、足を止める。
「さっきから邪魔(うざ)いんだよ………。さっさと攻めてきてくれないか?」
空気が、ざわりと震える。
『…言ってくれるじゃねえか……!』
しげみをかき分け姿を現わしたのは、いかにも盗賊風の男達。
「月並みで悪いんだがな、命が惜しかったら出すもん出してもらおうか?」
その数、ざっと二十数人。
「…少ないな……」
正直なリュートの感想に、マトモに動揺する盗賊共。
「け……けっ! 俺らもナメられたもんだなぁ! こんな『女』みてぇなヤローに言われるたぁな!!」
ぴく。
「案外、胸があったりしてな!」
「ぎゃはははっっ!! そいつぁいい!」
つられて大声で笑い出すその他諸々。
ぶちぃっっっ。
「……空と大地を渡りしものよ…永久を吹き過ぎ行く風よ………」
キレた音を辺りに響かせ、リュートは呪文の詠唱に入る。
盗賊はそれに気付かず、笑い続ける。
一時たって、リュートの呪文が完成する。
呪文は風魔砲裂弾(ボム・ディ・ウィン)。
呪者の前方に高圧力の風を吹き放つ精霊魔法である。
盗賊相手にはもったいない気もするが、今の彼にそれを言ったところで無駄に終わるだろう。
だが。
「そこまでにしておくのね」
唐突な声は、女性のものだった。
街道斜め前に、人影。すでに剣を抜いている。
当然ながら、盗賊達の注意はそっちに向けられる。
リュートはぽかんと目を丸くし、突き出していた両手を力なく下ろす。
蚊帳の外、という状態だからだ。
「争いごとはあまり好きじゃないんだけど。こういう場面は見逃せないわ!」
「なっ……なんだてめぇは!!」
「あなたたちに名乗る名前なんてあるわけないでしょう!!」
…どっかで見たようなシーンだが……それはともかく。
実際、女性は強かった。
その細い華奢な右手一本で剣を振るい、盗賊達をあっと言う間になぎ散らして行く。
そして。
戦いは集結した。(はえー展開だなオイ)
「ふう……」
ぱちんと剣を治め、髪をかきあげる。
腰にまで届く長い金髪が、さらっと揺れ、きらきらと閃く。
気付かなかったが、身長はリュートより少し上だった。
「さて、と」
呟いて、くるりと暇を弄んでいたリュートの方に振り向く。
その瞳は────
見飽きた空の色より深く、海より青い───の色。
一瞬ぼうっと見とれるリュート。
女性がぽん、と胸の前で手を合わせにっこりと微笑んだ。
「大丈夫だった? ボク」
ぐさ。
「ダメよ? こんなところに一人でいちゃあ。お父さんやお母さん、心配するでしょう?」
ぷす。
「もしかして……迷子? 
もしそうなら、お家まで送って上げたいんだけど……私、人を探してるから…」
むかっ!
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!」
ふつふつと沸き上がる怒りを懸命に押さえる。
まがりなりにも、どんな形であれ、彼女は自分を助けてくれたのだ。
礼だけは言わなくてはならない。
「すまない。あんたのおかげで助かった」
「どういたしまして」
にこにことそのポーズのまま微笑む彼女。
……街でこれやったら、十人中十人がホレることだろう。
が。
今じゃそれも、バカにしているとしか受け取れない。
「ああ、それとねボク」
女性が少しだけ膝を曲げ、リュートに目線を合わせる。
完全に、ガキ扱いである。
ひくひくっ。
「この近くで、男の子を見なかった? 
妙な言葉使いで、『あなたと同じ』『十五歳くらい』の子なんだけど……」
むかむかむかぴくぴくぴくっっ!!
こめかみの辺りがケーレンしているのがはっきりとわかる。
いやいや我慢我慢。
「いや……あんたに出会うまでは誰とも………」
「あー!! ねーやん! やっと見つけたで!!」
──元気な声は、リュートの背後から聞こえた。
途端、女性の顔にが安堵の色が浮かぶ。
「あら、ガウリイ。どこに行ってたの?」
「それはこっちのセリフや! うち、ねーやん必死に探してたんに…」
「まあ」
ぽん、と胸の辺りで手を合わせる。
「私はまた、ガウリイが盗賊さん達をいじめているんじゃないかって…」
「昨日したばっかやないかっ!!」
声の主が、リュートの傍を通りすぎる。
栗色の、肩で切った短い髪。そして、瞳はやはり青。
だが……この少年の姉であろう女性の方が、もっと奇麗だった。
そう、リュートは思った。
「顔洗いに、泉に行ってただけやねん! ったく…ねーやんはほんまに心配性なんやから……」
ため息をついて後ろ頭をかきかき、ふとリュートの存在に気付く。
「なんや、お前はんは」
「ああ、その子ね、迷子………」
「違うっっ!! 大体俺は十八だ十八っ!!」
リュートは前言撤回とともに、きっぱりと叫んだ。
「えっ……」
金髪の女性は、驚愕に目を見開く。
口元を押さえ、震える白い指先でリュートを指さす。
「ボク、十八歳なのっ!?」
「わかったんならガキ扱いはやめろ!!」
かみつきそうなリュートを必死で押さえるガウリイ。
そんな彼を見て、彼女は小首をかしげる。
その拍子で、金髪が揺れる。
ふんわりとした物腰で、彼女は呟く。
「………私より…二つ上………。でも背が小さいわね…」
あんたがでかいんだよ。(笑)
「ねーやん………こぉ〜んなでっかいガキんちょが、どこン世界におるんや?」
しぴっとリュートに向かって指一本。
「………言われてみれば…」
「言われなくてもわかるやろ? フツー。ねーやんの記憶力、相変わらずヨーグルト並みやな」
………顔と剣技だけで生きているようなもんだな、こいつは。
ま、ともかく。
「じゃ、そーゆーことで」
「ああ、ボク。ちょっと待って」
ひきっ。
……ここまで来てまだ何か用か? つーかガキ扱いはやめろっ!!
そう、言いたいところだが。
寛大にも、ひきつり笑みを浮かべ、振り返る。
「また、盗賊さんが出てきたら困るでしょう? 私たちが一緒についていってあげるわ」
おいおいおいおいおいっっ!!
「断るっ!」
「そらえー考えやわ! どーせうちら、アテもない旅してんかんな!
それに……あんちゃん、ねーやんともっといたいんやろ?」
にやにやとした笑みを浮かべ、ガウリイがうりうりと肘でつつく。
「だっ……誰が!」
「お〜? 赤(あこ)ーなるとこがますますあやしーわぁ」
「背伸びはいけないわよ? ボク。それに、大人の言うことはちゃんと聞かなきゃ、ね?」
「だから俺はガキじゃないぃぃぃぃ!!」
三人のお話し合い……というか口論というか…は、延々と続き──
結局。
しばらくのあと、リュートと姉弟は並んで街道を歩いていた。
──説得されてしまったのだ。
頭が痛い? そりゃそーでしょう。(笑)
「あ、そうそう」
「……今度は何だ…?」
思いっきり疲れた声を絞り出すリュートには気付かないのか、彼女はにこ、と微笑む。
「ううん。自己紹介がまだだと思って。
私はレナ。で、こっちの男の子がガウリイ。
わかるとは思うけど、姉弟よ。ボクは、何て言う名前?」
「………リュート。セーヌの村から来た」
「セーヌの村? あの薬草の名産地の…?」
「へえ? よく知っているな」
言ったのは──ガウリイだが。
ガウリイは、えへんと胸を反らして得意気に言う。
「うちはこれでも魔道士のはしくれや。それぐらい知ってても可笑しくないで」
確かに。
黒光りのショルダーガードからは、濃紺のマントが広がり、
夏も間近なこの日だというのに、長ズボンにブーツ。
栗色の髪に巻かれるは、これまた黒のバンダナ。
どこからどーみても、立派な魔道士その一である。
「じゃ…あんちゃんは薬師(くすし)かなんかか?」
「いや、俺は魔剣士だ。もっとも、今のところは剣士の方にウェイトを置いているんだがな」
「ねえガウリイ……」
くい、とマントを引っ張るレナ。
その瞳は何かを訴えており、思わず男の目を引いてしまう魅力を漂わせている。
………既に一人、引いているが。
「あ〜。ねーやんは気にせんといて。どーせすぐ忘れるんやから」
「ガウリイ……それってちょっとヒドイ…」
うるうると瞳をうるつかせつつも、すごすごと引き下がる金色。
それもまた、愛嬌がある。
面白い奴らだ。
「んで? あんちゃん、これからどこ行くんや?」
ガウリイの問いに、リュートは遠くの空を見つめた。
「──セイルーンへ」
セイルーン。
聖なる理想郷。

──へ、行く前に。
「どーすんだよ! ここ行き止まりだぞ!!」
「地図反対に見てたみたいで……ゴメンね、ボク」
「ねーやんのアホぉぉぉぉっっ!! もう夜になってるでぇぇぇ!」
「今夜は森で野宿か…?」
「まあまあ、失敗はセンコウの元って言うじゃない?」
「ゼンコウじゃなくて成功だろうが!!」
「それにねーやんの場合、いっつも失敗ばかりやろっ!?」
「そうだった……?」
やっぱり早く別れたい──
そう思うリュートであった。

………行けるんだろうか…?

               第一話・了


おしっ! 終わった! 第一話だけ。(笑)
某漫画のパクリみたいな? でもガウリナの子供のお話です。
姉レナは、ガウリイの女バージョンで……。
弟ガウリイは(ややこしい…)名前考えるの面倒くさくてそのままに。(テヘ)
あと、口調ですが、気にしないで下さい。
作者は関西弁全然知りませんから。(書きたかったんだけど……)
まあ、こんなあたしでもお付き合いいただければ……と思っておりますので、どうぞよろしく。
執筆ペース、めっちゃ遅いですけど、気長にお待ち下さい。待ってくれる方は。
でわ〜。


             予告   (オマケとも言う(^^;))

第二話  星の旅路

      少年は、少女と出会い、少女は少年と出会う。
      目指すは聖なる理想郷。
      そこは、少年の旅の終わり。
      そこは、少女との別れの分岐
      「バストアップは今年の目標なんだけど……」