バレンタインぱにっく!?
終編〜




















「そいつの生殺与奪権はあたしが握っているの。
 だから、そいつはあたしのモンなのよっっ!!!!」


勢い込んでそう言い切る。
なによなによなによなによ!!!!!!
このくらげはあたしが所有してたんだからあたしのもんなの!!
誰にも好き勝手させないんだから!

体中の血が沸騰するほど怒り狂っているあたしは我を忘れて叫ぶ。

ガウリイと言い寄ってきた相手のみならず、あたしの周辺に居た人々でさえ静まりかえってしまうその叫び。
溜まっていたものを全て吐き出し、乱れた息を整えながらあたしはガウリイだけを見ていた。
彼はようやくこちらを向くと、満足げに少し目を細め頬を緩ませる。
無言で見つめ合うあたしたち。

そう、辺りには緊迫した雰囲気がそうさせるのか、それとも面白半分野次馬根性か、ギャラリーたちは皆固唾を呑んで見守り、辺りは物音一つしない静寂が降りていた。

……むぅ。
とりあえず、言いたいこと言ってすっきりしたんだけど……。

その不思議な沈黙と、あたしたちに集まる視線に冷や汗が垂れてくる。

や、やりずらいじゃないっっ
その場の勢いで啖呵を切ったのはいいけど…これからどうすりゃいいの!?

ようやくあたしの頭が正常に戻り、内心頭を抱えた。
なんとかして取り繕わねば…っ!


「ふ〜ん。オレはリナの、ねぇ…」

とうとう堪えきれない様子で笑っているガウリイが居て。
面白くなさそうなお姉ちゃんが居て。
自分の突拍子もない発言にあたふたと焦りまくるあたしが居た。



「…ち…っちが…だ、だからね。これはその…っっ!!!!!!」

慌てて要領を得ないまま否定しても時すでに遅し。
ガウリイは自分の後ろにいるお姉ちゃんに向き直る。

「ま、そんなわけでオレはあんたと付き合うわけにはいかないんだ」

涼しい顔でそう言いうと席を立ち、あたしを抱きかかえて部屋を取ると、上の個室を1つだけ確保すると、鍵を揺らしながら囁いた。

「…さて続きは部屋で聞こうか、リナ」

軽快な足取り。
とても人一人抱えているとは思えないほどの軽やかさで歩くガウリイの顔つきは満面の笑みである。


あ、あたし………
な、なんてこと口走っちゃってるのぉぉぉぉお〜〜〜〜〜〜!?!?!?!


バクバクと高鳴る鼓動。
個室に籠もって思い返してみれば、自分の醜態にただただ唖然。
ガウリイは未だ硬直しているあたしを優しくベッドに降ろし、真っ暗だった室内に獣油のランプを灯した。

彼はあたしの隣に腰掛け、こちらを見据えながら問いかけてきた。


「なぁ、リナ。オレのこと嫌いじゃなかったのか?」
「……………」
「なんで嫌いなはずのリナがあんなこと言ったんだ?」
「……………」

それは…っ口から出任せというか、その場の勢いというか………
要領よく答えられず俯くあたしにガウリイは苦笑しながら続ける。

「あれが嘘なら、もう悩まなくていいぞ」

………え?
顔を上げたあたしの目に映っていたのは、どこか寂しそうに笑うガウリイ。

「オレはオレで違う相手を見つけることにする。もう二度とリナを煩わせたりしない」

…それって…………あたしじゃない女の人と…………一緒、に……?


いや。そんなのは絶対イヤ!



「一ヶ月前の言葉、全部取り消す。……だから、リナも忘れろ」
「嫌!」

手を伸ばせば届く距離。
それが届かない所に行ってしまうのは、ダメ!
よくわかんないけど、絶対駄目!!!!

座っていたガウリイに飛びつき、いつの間に外したのか、装備をつけていない彼の胸板を拳で何度も叩く。
彼の逞しい胸板にはさしたるダメージにはならないのかもしれないけど、
あたしは力の限り叩き続けた。

「ガウリイは……あんたは、あたしのモンなの!!!」

彼はされるがままで抵抗しない。


「ガウリイはあたしのものだから、何処にも行っちゃ駄目なの!!!!」


それは例え子供じみた独占欲であっても。
出た答えはぐちゃぐちゃになった出来損ないのものでも。
溢れ出した感情は止められなかった。

あたしの傍にだけ居て欲しい。

あたしは、ガウリイが………っっ!!!
なんで、微妙な乙女心を分かってくれないの!?
あたしはこんな感情知らないのよ!!
あんたに恋とてるとか愛してるとか、そんなふあふあした気持ちじゃないの。
醜くて、自分でも呆れてしまう激情。
ガウリイがこんな風にあたしの心を乱したんだから、責任とりなさいよ!!

「…リナ」
「馬鹿くらげ。ミジンコヨーグルトっ……鈍感!スケコマシー!!」

思いつく限りの罵声を飛ばすあたしに、彼はこんな時でも優しく進言した。

「リナ、その叩き付けてる拳をだな」
「なによ!これはあたしの心の痛みよ!」

「オレの背に回すとだな。いっそうリナのもんって気がするぞ?」





……へ?
…………………そ、そうなの???



不意を突かれた言葉にきょとんとして殴るのを止め、
彼とあたしの手を交互に見比べる。

「そう、ぎゅ〜ってしてみ?」
「……?…こんな風に?」

首筋に腕を巻き付けてぎゅっと抱きついてみる。
確かに、さっきよりガウリイが身近に感じられるような気がする。

「そうそう。そんでオレがリナを抱き締めてみるとだな」

腰に回される手。
そうすることでぴたりとくっついた二人の体。
あたしはガウリイの中にすっぽり収まって抱き締められる。
触れ合うところに熱が生まれ、胸のもやもや苛々がその熱に溶け込んでいく。
うそぉ…なんで?………不思議…。
でも、なんだかすごくイイ気分………


「うん。なかなかイイな♪」

………そ、そう?
ま、まぁ。悪くないわね。うん。

「にしても、リナの焼き餅って可愛いv」
「……?」

この状況でガウリイの声は心底楽しそうに聞こえる。
しぱしぱと瞬きして整理するあたしの耳元で、ガウリイが囁く。

「やっぱりオレってリナに愛されてるよなぁ。最高のお返しだv」
「……ガウリイ?」

「んーー幸せvvv」
「ガァウリィィ!!!」

ぐいっと両手で彼を押て距離をとると、とろけそうなほど嬉しそうな顔をしたガウリイ。
「お、しかもリナ、目に涙が滲んでるぞ?そんなに嫌だったのか?
安心しろって。リナがこんなに可愛いんじゃ他に目がいくわけないから」

ペロっと何かが…そう柔らかくて湿った何かがあたしの目元をなめる。

「な、なぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?!?!?!?」
「おー。赤くなった赤くなった。お前さん、可愛すぎvv」

ちぅ。と頬に柔らかい感触。

それは紛れもなく、ガウリイの…く、くちびる……

あたしが何も言えないのを良いことに、ガウリイは調子に乗ってちうちうと、おでこや頬、鼻に耳朶まで口づける。


「ちょ、ちょ、あんた、一体なんなのよーーーーー!!!!!!」
「んー?
だってリナ、嫉妬してたんだろ?だから不安を解消してやろうと思ってな」
「“思ってな”で乙女に気安くキスすなーーーー!!!!」
「ん? いや、これは単にリナが可愛いから♪」

なおも顔を近づけようとするのをなんとか押し止める。

「そ、それも止めぇい!何なの!?あんたあたしに忘れろって言ったじゃない!」
「あ、それ取り消し」
「と、取り消しってンなあっさり………」

「リナを苛めるのも楽しいからつい♪
 で、リナ。オレが他の女のトコいっちまうのすっげぇ嫌だったろ?」

見上げたガウリイは人の悪い笑みを浮かべていた。
あたしには、ある一つの考えが浮かでくる。
こいつ………まさか………っ

「このっくらいしないと、リナの場合は駄目だろ?」

あたしの考えを裏付けるように悪戯っぽく目を細める。
や、やられた!あたしとしたことが!!

「そんなことないわよ!」

あんなに胃がねじくれるほど腹立たしい思いをしなくたって、もうちょっといい方法があっはずなのに……

「どんなに理屈で考えたって混乱するだけだぞ?恋愛に定義も答えもない。人それぞれのものだから」
「…そりゃー…そうだろうけど…」

なんだかガウリイに説かれるのって複雑。

「お前さんは魔道や戦いの賭け引きはともかく、色恋沙汰にはてんで弱そうだもんなぁ。あーゆーのは余裕なくストレートに思ってることぶちまける方がいいんだって」

「最初からそれを狙ってたの?」

一人にして、あたしが酒場にくる事も?
あたしの目の前で誰かがガウリイに声をかるのも?
なんだかそれって出来すぎてない?
偶然すらも操作出来るほど、ガウリイが策を労せるとは思ってなかったあたしにとっては驚愕の事実である。
見直し掛けたあたしに、ガウアリイはあっさりと首を横に振る。

「オレはそこまで頭回らないぞ。ただ、今日一日はリナを見ても一人して置こうと思ったんだ。……なぁ、リナ。いつもあるはずの存在がふらふらとどっかいっちまうと色々とマズイだろ?」

「………」

にっこりと言うガウリイはどこか満足そうである。
そんでもって、とんでもなく意地が悪そうでもある。

「…………あんた…騙したわけ?」
「人聞きが悪いなぁ。鈍いリナにもはっきり理解できるように手伝ってやったのに」

ジト目で睨むあたしに飄々と言って受け流すガウリイ。
あたしがこんな気持ちになるのを見越していたのね?
全部知ってて……あんなこと言ったのね?


「まぁ、色々あったけど、これからはずっと一緒な」
「…そんなの、分からないじゃない」
「何言ってんだ、リナ。お前さんはオレの生殺与奪を握ってるんだろ?
 管理はきっちりやってもらわないと、オレが野垂れ死にしちまうぞ」
「よく覚えてたわね」
「当然。お前さんからの一世一代の告白だからな」

忍び笑いを漏らして、あたしをより強く抱き締めてくる。

「悪かったわね。可愛気なくて」
「いいや。オレは嬉しかったぞ? むしろそのくらい勇ましいくらいがリナらしいさ」

腕の中でも暴れないのを不思議に思ったのか、ガウリイはあたしを覗き込む。
それだけで顔が熱くなるあたしはそっぽを向くが、頭上から笑い声が降ってきた。
「お前さん、耳まで真っ赤」
「うっさい」

「でも、オレはリナのものでいいぞ」

優しい瞳。優しい手。優しい唇。
それは、今あたしだけが独り占めしているもの。
あたしだけに許された…特権だと思って、いいの?

とてもじゃないけど、ガウリイにそんな殊勝な物言いは出来るはずもなく、また天の邪鬼な言葉が出てくる。

「……今までだって、ヒモっぽい…というか、ヒモの境界線ギリギリでヒモ風味な生活だったのに……とうとう公認になった挙げ句、その余生まで引き受けるなんて……嵌められた気分よね」

「をい…誰がヒモだよ……」

ガウリイが抗議してくるが、それには大きな誤解があるってものよ。

「誰もそんなこといってないでしょ?」

ガウリイは納得できないのか、不満げに漏らす。

「ハッキリと言ってないだけで言ってると同じだろうか…。
 オレはリナの相棒兼恋人。でもって、これからリナだけに所有されてやるぞ」
「………自主性ってものがないのか、あんたは」
「その代わり」
「?」
「リナもオレのモンだから」

「な、なにを勝手に…っ」
「オレはリナのもので、リナはオレのもの。ほら、これならお互い満足出来るだろ?」

いともあっさりと答えを出すと、その大きな両手であたしの顔を包み込む。
と、等価交換ってわけ?
でも、なんっか、あたしの方が損してるような…………


「……そーいやバレンタインのお返し、今日だったよな?」

え?

ある一点を見て呟いたガウリイの視線を追うと、壁掛け時計の長針と短針が重なっていた。

「うん…。でも、まだお返し用意してない」

確か、クッキーやマシュマロ、飴なんかを贈るのよね?
ガウリイがチョコをくれたんだから、あたしもそれなりの物を返さないとね。
そぉいえば、あのチョコ……まだあたしの荷物の中に入ってたんだったけ?
非常食としてならまだ食べられるかしら?

「お返し?そんなの、ここにあるじゃいか♪」

きゅっと、あたしを包むガウリイ。
違うことに気をとられていたあたしの思考が一瞬、躊躇する。
「……………????」
「マシュマロのように柔らかくて、菓子のように甘いモノが。
 ……なぁ、リナ?」
「ええっと……」

ガウリイの意図することはこれっぽっちも分からないんだけど、
その爽やかな笑顔がひぢょーーに引っ掛かるんですけど…

なんで背中を這うように撫でるの?
どうして得体の知れない笑みを浮かべてるの??
なにゆえに見上げたガウリイは舌舐めずりをしているのぉ!?

「ガ、ガウリイ!?」
「お前さん、一ヶ月前にオレか何て言ってたか覚えてるか?」
「ほへ?……ええっと………」





―――『イキナリ襲うのもリナが可哀想そうかなって思ってな。
    ちょうと一ヶ月後のホワイトデーまで猶予をやるから、
   それまでに(諦めて落ちるとか観念するとか、身も心も
   捧げるっていうか…』―――云々。






「…………………なんかすっごいこと言われたような…」

眉を寄せて思い起こしていると、それを遮るようにガウリイが囁く。

「リナ…」

う゛………なんでそんな熱い視線で見つめてくるわけ?
少し蒼い目が細められる様はなんだか詐欺っぽいほど男くさい。

「えーっと、なんでガウリイの目がだんだん近づいてくるのかな?」

目だけじゃなくて、顔そのものが徐々に間を詰めてくる。
迫り来る恐怖は未知のもの。
こ、これはもしや……っ

旅をしていれば自然と耳年増になってくるし、小さい頃にそーゆー本を読んだこともあるせいか、朧気ながらガウリイの思惑に検討がついてきた。

「ガウリイ!このままでいくとぶつかっちゃうわよぉっっ!!!」
「も、黙って…」

いや、黙れというか、黙ったらくっついちゃうわけで……
押し返そうとも、みょーにその気になったガウリイを留めることは出来ず、

「ガウ……んっ…!?」

目を開いたまま、リアルな感触が唇から伝わってくる。
視界がぼやけるほど近い距離。

柔らかい唇のそれはまぎれもなくガウリイのもので…
うあ。あたしたち、キスしちゃってるんだ…。
今までずっと旅をしていたのに、こんなに近くで相手の顔を見たのは初めてかもしない。

正直、触れるだけのキスは優しくて心地いい。

先が見えなくて、漠然とした恐れを抱いていたガウリイとの関係は思いのほか気持ち良くて、一ヶ月前より満たされた自分がいる。
唇が離れて、薄く開いた蒼い瞳は今まで見てきたどんな宝石より綺麗だった。


綺麗な蒼。
……これを誰にも渡したくない…
ああ、相手に欲張りになるって…こういうことなのかな?
今なら、以前言ったガウリイの言葉が少しだけ分かるような気がした。

唇が離れ、自然とこぼれる笑みに、ガウリイも顔を綻ばせる。

「まぁ、今日は自覚したばっかだろうし、今は……」

もう一度、はもっと素早く。
ふっと笑った顔が間近に迫って、唇が重なった。


深く深く、探り合うように……ではなく一方的に貪られるに近い感じだったのは言うまでもないけど。
ようやく解放されたあたしは、全身の力が抜けてガウリイに寄りかかった。
酸欠のためか、キスの余韻のせいか、頭がぼーっとして霞がかっていた。

「これだけ、な」


離れたガウリイは真っ赤になっているであろうあたしの顔を見て、嬉しそ〜に微笑んだ。

「明日から少しずつ、慣れていこうな。リナ」



…ま、まぢですか?
それは今にも噴火しそうなほど火照っているあたしに、毎日こんなことするってこと?




「ゆくゆくチョコのお返し貰うけど、リナ自身以外は受け付けないから」


硬直しっぱなしのあたしに、彼はとんでもない宣言をかましたのだった。







その後のコトは詳しく言えないけど。
しばし攻防戦が続いたものの、結局バレンタインのお返しをたっっぷりとガウリイにねだられたことだけを記しておく。













おわり♪





副題・リナちゃん災難記。
今回は珍しくリナが妬くことに。
…うん、なんというか翻弄されるリナを書いてみたくなったのですよ。
しかも、なんとなくホワイトな彼で(笑)
どのパターンをとってもガウリイは白で攻めようと♪
そういう目論見があったのですが、何故かオオカミのしっぽがちらほらと(笑)

ってなことで、お待たせしまくった続きです。
ちなみにあとがき完成時の現時刻。ただ今午前五時。
素敵な時間だ……そろそろ寝よう(笑)