Missing Eve |
一方、イルミネーション街を小走りに進む男の行方はと問われれば。 こちらはまだお目当ての彼女が見つからないようでいつもの無表情に突き進んでいた。 初めの緩んだ顔つきとは一変。 これなら端から見れば、異性は惹かれること間違いなしである。 それを証明するかのように、時々すれ違うカップルの片割れ、 一人または数人の女性が無表情の彼にうっとりする場面もちらほら見受けられるのだが、生憎、彼の脳ではヘノヘノモヘジ程度しか認識されていなかった。 またメールが来る。 『やっほー。 いや〜あたしってモテるわぁ〜♪もう2回もナンパされちゃったv 可愛いって罪ねぇ〜。ふふーん。いっつもアンタだけモテて悔しいけど、 こーゆーのも悪くないわね〜♪』 ぬぁーーーにぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃ!?!?!?!? 本日2度目の絶叫。 ナンパ… ナンパ…! ナンパだとぉ!? オレがリナと会えなくてこんな苦労しているというのに、他の男どもがほいほいと人の女に群がって…… しかもリナもリナだっ!!!オレがいるだろう、オレが!! …とまぁ、今度は思考を垣間見ることもなく、ビシバシと彼の怨念にも似た思念波が伝わってくる。 男ゴコロもなかなかに情緒あふるるものがあるらしい。 これまた、今度は以前のガウリイを知る女性たちだったら、卒倒しているほどの変わりようである。 このガウリイという男。 はっきり言って執着心の欠片も見あたらないほどの淡泊な男であったのだが。 紆余曲折あった揚げ句、リナと出会い、感化され…まぁ、一年かけて治まるべき所に治まった、という男であった。 それまた今回は詳しく述べないが、そのメールに激怒した彼は、整った造作を今度は怒りに燃やしてリナを姿を探す。 鬼気迫る表情。 そんな言葉が似つかわしい。 それでも時折胸中に忍び寄る危惧は、無防備な彼女がほいほいと他の男に連れて行かれる映像。 頭を振ってあり得ない…というか、あってはならない想像を掻き消し、 さらに走り出す。 前を歩く、跳ねた栗色の髪を持った人物。 小柄で華奢な体つき! 「リナ!見つけたぞ!!」 肩越しに手を置いて振り向かせると……… 「はぃ〜?」 「ぅあ…とと、す、すみません〜人違いでした」 慌てて平謝りする男。 眼鏡を掛けた、全くの別人は首を傾げて『はぁ…』と気のない返事をした。 後ろはこんなにそっくりなのに… 彼ですら見間違う後ろ姿。 その姿に期待した分だけ喪失感も大きい。 イルミネーション街はそろそろ終わり、駅の前まで来ていた。 結局、リナは見つからなかった。 このまま会えずじまいでイブの夜は過ぎていってしまうのだろうか…。 嫌な予感が彼の脳裡を掠めていく。 と、そこへまたメールが届く。 『うお〜!ガウリイ、あんたもやるわね〜。でもあんたの場合、 ナンパなんかしなくたって向こうから寄ってくるわよ〜☆』 その内容に目を見張る。 今さっきの彼を見ていた者にしか分からないこと。 ガウリイは辺りをきょろきょろと見回す。 周りには、家族連れや恋人たちや帰路を急ぐ人々。 通りは様々な店。 それぞれの店やショーウィンドにはクリスマスの様式が飾られている。 時折、正月の飾り付けも一緒くたにされて飾られているが、アバウト(お祭り好き)のこの国では珍しくはなかった。 それらの店先には門松や注連縄があったと思えば、サンタの格好をした大きなクマの置物、電球で鮮やかに飾られたクリスマスツリーなどなど。 そんな和洋折衷(?)何処を注意深く見ても見あたらない彼女。 それでも彼女はこちらを把握しているのだろう。 目を凝らして見ても、視界にはイルミネーションとそれを楽しむ人ゴミ。 彼のお目当ての人物はこれっぽっちも見あたらない。 そして、またメールが届く。 『そんなアホ面したら綺麗なおねぇちゃんが釣れないぞ〜』 ムッとして、今宵初めて返信メールを打つ。 『何処にいる?』 間もなく帰ってくる返事。 ピ。 『ひ・み・つ。あ、いまさっきすれ違った女性、アンタのこと、 熱ぅ〜い目で見てたわよ〜! ちぃっ。イイ獲物を逃がしたわね?』 『お前以外の女に興味はない』 ピピ。 『嘘つき〜。声掛けてたじゃ〜ん』 『お前と後ろ姿が似てたから間違えたんだよ』 暫し、間が空く。 ようやく一つの物に視線が定まる。歩き出そうとした刹那、リナからメールが届いた。 『ふ、ふーん…。あ〜もう携帯の電池ないや。じゃ、そういうことで…』 「何がそう言うことで、なんだ?」 歩み寄って憮然とした表情のまま話しかける、大きなクマサンタの人形。 彼と同じくらいの身長に、彼の3倍はある横幅。 人形に話しかける男を周りの人はちらりと見て、過ぎ去っていくが、彼は何もとち狂ったわけではなかった。 「さて、クマの後ろに隠れたお姫様。さっさと観念して出てこいよ」 ピピピ。 『は、外れ〜』 「…ケータイのボタンを押す音、聞こえるんだけど?」 「うう…っ」 彼の突っ込みに小さなうなり声。 ちらりと覗くのは栗色の跳ねた髪。 それをピンっと引っ張ってたぐり寄せる。 「ほら。出て来いって」 彼の胸に抱き寄せられたそれは、クマの子供…ではなく、傍目は愛らしい少女。 恨めしそうな顔をしながらも真っ赤になって大人しく抱き締められる。 「見つけた」 心底ほっとした様子で顔を綻ばせる彼。 しかし、潮らしかったのも束の間、自分たちを見る視線と状況に恥ずかしがり屋な少女は照れて暴れ出す。 「は、はなせーーっ」 「ヤダ」 「うううう…っこうなるのが目に見えてたからあたしは…」 ぶつぶつとなにやら呟いているが、こうなってしまっては元も子もない。 「ったく…なんだって一人でどっか行くんだ?」 「…い、いや…その…」 「しかも、電話に出てくれないし」 「だからね…」 「オレ、心配したのによぉ〜」 「……………」 「イブに一人…せっかくリナと二人っきりで過ごせる初めての夜なのに…」 「だ、だから、それよ!」 「なにが?」 ガウリイが切々と訴えていたのをなんとかやり過ごすと、ようやくリナも反撃に出た。 「だから…その……二人っきりでそーゆー日を過ごすってことは………………その……あの…(/////)」 熟れたイチゴ同様に真っ赤な顔。 それでも冷たいリナの顔をガウリイはゆっくりと撫でる。 「冷えてる…寒かっただろ?」 「…ま、まーね」 「オレと二人きりはイヤか?」 「…そーゆーわけじゃないよーな、そうなような…」 シドロモドロのリナにガウリイは被せるように言い募る。 「嫌か?」 「……嫌…じゃない…けど、さ…」 処世術に長けている彼女であっても、やはり苦手なものはあるようで。 それがこの、男女の仲というヤツである。 嬉しさと恥ずかしさに耐えられなくなったリナは一人出歩いたものの、ガウリイに捕まるのがなんとなく恐くなり、いままで逃げてきたものの、どうやら年貢の収め時、というヤツであった。 「とにかく。ここじゃ寒いしな。オレの部屋に来て温まろうぜ。 なんか美味いもんでも買ってさ」 にっこりと、極上の笑みを浮かべる。 リナがそれに逆らえないことを知って。 この男、他のことに関しては無欲きわまりないが、こと彼女に関しては手練手管を厭わない。 ちなみに、天然記念物もかくいう…のリナにはよく分かっていない。 それがまた男の暗い意志に拍車を掛け、無垢で無防備な彼女に魔の手を伸ばしているのだが、世の中知らない方が幸せなこともあるというものだ。…おそらく。 結局、男の念願叶ってそのままずるずるとお持ち帰りされてしまうのが常であった。 「うううううう………やっぱりこうなるのね〜〜〜」 彼のマンションの手前まで来て、涙に暮れるリナ。 その手にはちゃっかり肉まんの袋を持っているのだが、そこはそれ。 彼はにっこりと幸せそうな笑みをしてリナを部屋に迎え入れた。 そこは冷たく、電気も自分で付けなければ、真っ暗だったけれど、隣にはリナが居た。 「えっと……なんで壁に追い詰めてくるのかな…?」 などと冷や汗を垂らしながら後ずさる彼女を追い詰めるガウリイ。 雰囲気やらイブの奇跡やらの過程を全てを吹っ飛ばし、迫るガウリイ。 「目、目がマジ…!? ガ、ガウリイ〜!!今日は聖なる夜なのよ〜〜!!」 足掻いてみるものの、天使の仮面を被った悪魔の微笑みは覆ることなく、 「ああ。 でもまずは恋人をほっぽっといて、ケーキやら他の男にかまけてた小悪魔に お仕置きせにゃならん」 肉まんの袋を取り上げて棚の上に置き、リナと彼との距離は、お互いの息が掛かるほどまで縮まる。 「に、肉まんは温かいうちが美味しいのよ…?」 「明日にでも温め直して食べりゃいいさ」 そして。 ようやく会えた二人は、そのまま……暗い室内に消えてゆきましたとさ。 その次の朝。 疲れ切って眠るリナの首には、誕生石の石が輝くペンダントと、 棚の上には、冷え切った肉まんが未だ放置されていたという…。 おわりv <後書き?言い訳?捕捉??> 唐突に現代バージョン〜。いやぁ、不思議ですねぇ(笑) 特に意味はないんですが… ガウリイとリナは出会って1年ちょっと。なんとかモノにして、念願の…という時期のお話。 家で待っていたリナが、その状況に耐えきれず、脱走して捕獲されるまでの話し。 うみゅ〜内容は薄くペラペラでも、なんとなくクリスマス仕様!(阿呆) 飛鳥の皆様への帰省前のクリスマスプレゼントvということで前日(当日)に書き殴ってみました(撲殺) ホントは12月の頭からまた新しい連載(リク)に手を染める手はずだったのですが、諸事情と『夜朝』が予想以上に手間が掛かり、すっかり季節はずれに……。 うーむ。不思議だ。…というか書きかけのリク、どないしましょう(汗) そんなこんなのクリスマスでしたがv 皆様には素敵なクリスマスが訪れましたか? (おお、珍しく美しくまとまったよ、飛鳥さん/笑) |