横 恋 慕





















『悪い。今日行けなくなった』





メールに入ったメッセージは至って簡潔。
味も素っ気もないどころか、怒る気すら失せる。



12月の寒空の下、待つこと約1時間……


ため息は白く、暗闇に紛れていった。

いくら厚着をしていても、じわじわと染みる寒さは防ぎようがなく。
それがよりいっそうあたしを惨めにしていた。



もう…これで一体何度目だったか。
数えるのも馬鹿らしいほどすっぽかされた約束。

『今度こそ大丈夫だ』は最近、相手の常套文句になっていた。

今日ここに来ない彼。
会っていないどころか、ここ数日はロクに声も聞いていない。

…あたし、都合のいい女になってない?





12月になって、飾り付けられた木の下で。
華やかなイルミネーションとは裏腹に憂鬱になる気分。

彼が会いたいと言われれば、ほいほいと忠犬のようにいつもの木の下で待っていて。
会えないといわれれば、文句もいわず帰る。

文句のひとつも言えないわけじゃないけど。
煩わしい女になるのは嫌だった。
相手を理解出来ないほどガキじゃない。
大人の女を演じているつもりでも、最近は愚痴のひとつも言いたくなる。



「…はぁ…」

馬鹿らしい……帰って寝よ。
久しぶりに会う彼のために柄にもなくめいっぱいお洒落もしてきた。

普段は装飾品をつけないあたしの胸元には、3年前の付き合って初めての誕生日プレゼントに貰ったブルートパーズのネックレス。
そのときは手渡しだった。

2年前はピアスをしないあたしのために、小さな宝石のイヤリング。
あのときは………うん?

…そうそう、2時間遅刻。

渡すためだけに会社を抜けてきてくれたと言われたあたしは、さっさと彼を会社にたたき返して。
忙しくなりはじめた彼の精一杯の思いやりが嬉しかった。

それが、彼とともにした自分の誕生日の最後の記憶。


去年は一人。
誕生日だと言うことも、その日が過ぎてから気づき、電話で必死に謝られた。

…その年のプレゼントは、暴飲暴食を全部奢らせた。
無論、彼が泣いてやめるまで続けてやったけど、それでも、あたしたちは二人だった。


今年も…この日がやってきて。
誕生祝いどころか、こんなところに一人で待ち惚け。

――――結局、彼は来れなくなった。

その日は仕事があると言われていたけど、半ば無理やりに約束を取り付けた。


会えない時間が多くなって。
あたしたちの距離は…少しずつ、着実に開いていった。
いつか終わりそうになるのが恐くて足掻いてみたけど。
仕事に忙しい相手にとっては、最近イライラしている彼女のご機嫌取り程度だと思っていたんだろう。



この日の意味も……きっと忘れてる。



愛想が良くて、誰にでも優しい男。
しかも、金髪碧眼とくればモテないはずがない。
ヤキモキする自分とは対照的に、余裕の彼。
年も相当離れてる。
彼は自立した社会人でも、あたしはまだ学生だった。

俯いて待ち合わせの場所を立ち去ろうとしたあたしの前に、人影が立ちはだかった。


「なぁ、あんた?」


…まただ。

最近、一人で待ち合わせの場所にいると良くある誘い。
無視してそのまま立ち去ろうと避けるが、相手もまた移動して立ちはだかる。


「なあ、せめてこっち見てくれよ?」


苦笑するように頭上から言われる。
低い男の声。

挑発された訳ではないが、あたしは今虫の居所が悪い。
…俗に言う八つ当たりというヤツである。
場合によっては容赦しないと心に決め、出来るだけ不機嫌そうな顔をしながら相手を見上げる。

「よっ」

かなり上背の男の視線にあわせると、その男はにぱっと人懐っこそうな笑顔を見せた。

しかも、彼と同じ金髪蒼眼。
長い長い長髪は美しく、それでも少しも変な感じはしなかった。







そう、そしてこれが全ての始まりだった――――










■  続く  ■