奇 跡 の 軌 跡
目覚めなさい・・・あなたの在るべき場所で・・・
















闇―――・・・・

この世を統べるものは、神でも魔王でもない。

無に等しい闇だけ――――・・・・・

無明の闇は、全てを飲み込み――太陽さえも消し去り、その手中に収めた。

皆既日食といえども、世界に光は満ちているはずだった。

しかし、滅びの祝宴を上げる今は太陽の光も、星の瞬きすらない。

それが、滅び――――

破滅とは・・・世界の終末とはこんなににも静かな幕切れなのであろうか・・・。


膨大な無の空間に一人、取り残された気分になる。

金髪も、蒼穹の瞳の特徴も、

全てが闇に覆われた世界では無意味でしかなかった。

無とはある意味、全てにおいて平等をもたらす絶対力。

逆らう事を許さぬ絶対無比の魔力。

その中で、金髪と蒼瞳を持った彼と巫女は、ソラであった果てしない無を仰いでいた。

奈落の底から光を焦がれて仰ぎ、希望という名の気力で狂乱を押さえつけている。

――――辛うじて・・・・。



重なりし絶望と希望。無と有。光と闇。

勝したのは―――――・・・・・希望と言う名の光。

闇は徐々に振り払われ、光に灼かれていく・・・・・・・・・・・・

視力が回復する。

―――と、宙に静かに佇む彼女がいた・・・・


「ああ・・・・」


失われし個々の有が声を発する。それは巫女のもの。

意味は・・・・歓喜だろうか?

世界が救われたことへの?

彼の王に見(まみ)える事が出来たことへの?

巫女は片膝をつき、金色の魔王に跪いた。


――――そう。彼女は彼女ではなかった。

少なくとも・・・彼が望んでいた者とは・・・・・・・・・・

金色の魔王は、彼女の瞳で彼を見下ろし、彼女の声で言葉を紡ぎだした。


――――滅びを求めし夢幻の世界は・・・・滅びた。

    この世界に滅びの手が伸びることはあるまい・・・・――――


「・・・・・・・・・・・」


――――光が戻りし時、絶望の闇は彼方へと消え去るであろう――――


「・・・・・・・・・・・」


――――全ては・・・・終わったのだ・・・・―――――


「ありがとうございます・・・我らが王よ」


――――・・・・・・・・・・・・・・・――――


「・・・・・・終わってない・・・・・」


彼女でない彼女を見つめ、彼は一言、意志を込めて王に投げかける。


――――・・・・・・・・・・・・・・・――――


「リナが戻っていない。だから――何も終わってないんだ」


「ガウリイさん!!」


巫女は彼のいわんとする事を悟り、制止をかける。

が、彼は止まらなかった。


「リナを返せ・・・・・・」

「ガウリイさん!!!!」


――――・・・・・・・我がよりしろにせし人間――リナ=インバースは、

    自らの意志で我を受け入れた。

    己の全てを犠牲にして、我が力の糧となった。

    全ては・・・・・・・終わったのだ――――


「終わってない。終わらせなどしない。リナが帰ってくるまでは・・・・・・・・

 リナは死なない。戻って来ると、ここに帰ってくると言ったんだ。」


波紋のように静かに広がる彼の声には力があった。

迷いも、恐れもない・・・絶対の力が・・・・・・・


「リナ。目を覚ませ。そこはお前の居る場所じゃない。

 前にも言った筈だ。

 お前がいる場所は、混沌の中なんかじゃない。オレの傍だ―――」


語りかける。

彼女の器を支配する王ではなく、混沌で眠る彼女に。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とくんっ・・・・・・・・・・・・・・・・




――――――・・・・・・・・・・・・・・――――――




「リナ、戻ってこい」




・・・・・・・・・・・・とくんっ・・・・・・・・・・・・・・・とくんっ・・・・・・・・・・・






――――これが・・・汝等の強さ・・・か。

    我の負けだな。・・・・リナ=インバース。

    我はそなたを見守ろう。

    混沌の玉座にて。遙かな時を経ても・・・・。

    我を誘(いざな)い、刹那の輝きを放つ輝石。

    一光の軌跡となりて、そなたの思うがままに描くがよい。

    再び我に還るその時まで――――・・・・・






光が溢れた―――・・・そして・・・・・・・・・・消える。

彼女を覆う輝きだけが。

代わりに彼女の中に光が灯された。

彼は、ゆっくりと降下してくる彼女に手を伸ばす。

彼の胸に抱き留められた彼女は、確かな鼓動を打っていた。

それは、彼女が彼女のものである証。


「お帰り、リナ」


腕の中に収まった少女は、彼の元に必ず戻ってくると豪語した彼女。

今まで器を支配していた金色の魔王はあるべき玉座に還り、

彼女が自分の手の中に還ってきた・・・・・・。


「・・・ん・・・・」

彼女の口から漏れる、彼女の声。

そして・・・・金色ではなく、紅玉の瞳がゆっくりと開かれる。

「・・・ガウリイ?」

焦点の合わない彷徨うような瞳で彼の特徴を映し出し、彼の名を呼ぶ――

「お帰り。リナ」

彼は柔らかく微笑み返す。光が戻った世界で。


そして・・・彼女は自分の居場所を知った。

ここは、自分の帰るべき場所であることを。

全て、元に戻ったのだと。

一つの世界が・・・・・・自分の手で滅ぼされ、

それでもなお、己はここにいるのだと―――・・・


「ただいま。ガウリイ・・・」


また一つ、重荷を背負った彼女は、それでもなお、穏やかに微笑む。

懺悔・・・贖罪・・・・それは即ち、彼らへの冒涜となる・・・。

だから、微笑んだ。


・・・・彼女が・・・・永劫変わらぬ、彼女である為に・・・・・・・・・・




約束を果たし、再会した男女。

ゆっくりと男は彼女に顔を寄せ、彼女はゆっくりと瞳を閉じて、彼を受け入れた。

彼女の重荷を、彼も、担うが如く・・・・・・・・・















「で、これがお前の言ったオモシロイモノか?」


嘆息しながら呟く言葉におかっぱ頭の漆黒の神官が楽しそうに頷く。

「いきなり現れて、オレ達を誘拐して何事かと思えば・・・・・・・」

あまりにあっさりとした白状に、ゲンナリと頭を項垂れる男。


「あ〜〜正義です〜〜あれこそ、あるべき在り方です〜〜」


その世にも希な台詞を言ってのけたのは、抱き合いながら唇を重ね合わせる

二人を、草むらの中から夢見る瞳で覗き見ている黒髪の少女。


「おい、アメリア、気付かれるなよ。命がなくなる。」

脅しでも比喩でもない冗談抜きの事実を忠告して、

呆れ顔のとあるクールの芸風が変わった残酷な魔法剣士が嘆息する。


「いや〜 やっばり、生は違いますね〜〜」

にこにこと・・・多少引きつった笑みを浮かべながらも、ちゃんと存在を保っている生ゴミ魔族。その傍らには・・・・・

「何が『生』ですかっ!このゲス神官!!揃いも揃って覗きなんて・・・・っ」

何故か、声を潜めてちゃっかり穿っているフィリアもいたりする。

「おや〜フィリアさん。この僕がリナさんたちに綺麗さっぱりと忘れられている貴方をここにお呼びして差し上げたんですから、感謝していただきたいものですねぇ〜」

さも優越気に嫌味を言い放つゼロスに、フィリアも負けじと言い返す。

「お黙りなさい!!わたしはお二人の事を思って自ら身を引いたのです!!

 ああっちょっと!!!!

 わたしの躰に半径2メートル以内に近寄っていたら容赦しませんよ!

 神のご加護で消し飛ばします!!」

トゲトゲのモーニングスターを構えながら、もの凄い形相で歯ぎしりをしているフィリアをゼロスは鼻で笑い、

「随分と物騒な神のご加護ですねぇ〜

 原始的攻撃なんかこの僕に効くわけないじゃないですか」

「ヤキが回ったかき氷魔王なんて愉快な物体を崇めている魔族などこれ一本で十分!お釣りまで来ますわ!!」

「ほほ〜〜〜・・・・」

ピクピク(ゼロスのこめかみが引きつってる)

「それはそれは・・・

 結局、なぁぁぁぁぁぁんの役にもたっていませんでしたのに。

 お口の方は素晴らしく饒舌な事で・・」

ピクピクピクっ(フィリアのこめかみが引きつる)

「ま、最後だけちゃっかり出てきて、いいトコ持っていこうなんて上前跳ねるセコイ魔族の戯れ言など・・・ちゃんちゃら可笑しいですわ!」

ビキッ!(ゼロスに青筋が立つ)

「そ〜ちらこそ!!

今回、セリフが多かったくせに、やったことはただの焚き付け役。

滅んだ冥王様以下の活躍!!素晴らしいご活躍でしたね。

思わず拍手と共に哀れみの涙が出てきますよ!」

プチッ(痛い所を突かれた)


「おほほほほほほほほほほほ・・・・・・・・・・・・(龍変化準備)」

「はっはっはっはっはっはっ・・・・・・・・・・・・(背後のゼロス本体出現)」

その様子を見守っていたゼルガディスは・・・

「お前等も、大概飽きないな。」と、あっけなく一言で片付けてしまった。

「まぁ、まぁ。ゼルガディスさん。今に始まったことじゃないですから。

 それより! リナさん達の貴重な1シ〜ンを一緒に堪能しませんか?」

フォローのつもりだか、ただの自分の趣味なのか、アメリアは、慌ててそう取り繕ってきた。

そのどちらにも取り切れない意味合いに、ゼルガディスはまた深い溜息を吐いて、木の幹に体重を預ける。

「悪いが、遠慮しておく。心臓に悪いからな。」

そうですか・・・なとどアメリアは呟き、またリナ達に視線を戻していった。

ゼルガディスは一触即発の睨み合いが続く二人を一瞥し、

今度こそまともなフォローを入れる。

「フィリア、このことを他の連中に伝えなくていいのか?」

成すべきコトを思い出せというように抜群のタイミングで言い放つと、

フィリアはそのことに目を輝かせる。

「そうでしたわ!こんな浮浪魔族と同じ空気を吸ってなど居られません!

 私にはこの吉報を世に知らしめなければ!」

そのまま消え去るフィリア。

ゼロスは舌を出しながら見送った事は言うまでもない・・・・

と、不毛な口げんかも一段落すると、アメリアが気に掛かっていたコトを口に出した。

「トコロでゼロスさん?さっきから気になっていたんですけど、その手に持ってるオーブは何ですか?」

微光を放つ握り拳ほどの魔力球を指差して尋ねるアメリアに、

ゼロスが待ってましたとばかりに意気揚々と答える。

「これはメモリーオーブですよ。今までのシ〜ン★がばっちり撮れてます。

 後でリナさんに言ったら、これを消滅させるために重破斬なんかを唱えて

 くれるかもしれませんからね」

「・・・あながち否定できないな」

これが知れたら、きっととばっちりを食うに違いないという的を射た答えを出しつつ、堪えられない笑みが自然と口の端に浮かんでしまう。

「ゼロスさんっっ」

びしっとアメリアが人差し指を出す。

・・・ただし、突き出すのではなく、縦に。


「それ、リナさんに壊される前に、ダビィング。お願いしますね」

「はい。お買いあげありがとうございます」

「をぃ・・・・そんなもんどうするんだ?」

ただ一人、思考がクリアーなゼルガディスが、ぽそりと突っ込んでみると、

アメリアは重々しく頷き、

「セイルーン王室の宝物庫に永久保存しておきます」

真顔で答えるアメリア――――と、また夢見心地ちに戻って、瞳を遙か彼方に馳せる。

「あのリナさんがラブラブ・・・これはもう末代まで伝えるべき代物ですっ」

「謎の竜破斬に気を付けてくださいね」

言わずと知れたリナの人災攻撃のことであろう。

かなり好き勝手言っている二人と1匹たが、こうみえても、リナ達の仲間

だったりする。

「あの〜私たちの出番って、このデバガメだけですか?」

「だろーな」

「ええ、そーゆー事になりますね」

「そーですか・・・でも!

リナさんとガウリイさんのラブシ〜ンが撮れただけでも・・」

「誰と誰のらぶし〜んですってぇ〜?」

ひきっっ

全員の表情がその声で凍りつく。


・・・・認めたくない。決して認めてはいけない。

そ、そーです、幻聴です〜・・・

冷や汗を流しながらも、背後から聞こえた声を無視。

が、元々そちらを向いていたゼロスは、さらに引きつった笑みを浮かべ、

十字架の印をきるゼルガディスがアメリアの前に居る。

居るが、これも幻覚ということで片付けようとする。


「ねぇ・・・アメリア〜な〜んであんた達がここにいるのかなぁ〜?」

その声から後退しようとするが、今度はがしっと両肩を捕まれる。

きっ・・きっと、これは気のせいです〜ゆっくりと振り向けば・・・・

死の笑みを浮かべたリナさんの姿ぁ〜

う゛う゛っ・・・父さん。

正義を胸に一足先にかーさんの下へ逝くアメリアを許してください・・・。

よく分からない懺悔をしつつも、最後の希望は捨てずに取り繕ってみる。


「ええ〜っと・・・・き、奇遇ですね、リナさん!こんな所で会うなんて!」


ぐるぐると危険回避の言い訳が浮かぶ――――けれど、最後に残ったモノは

言い訳でも、謝罪の言葉でもなく、防御魔法だけだった。

しかと、それが最良の作戦であろう。

今のリナならば、死んだ振りをしたとしても、トドメを刺すに違いない。



「んっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ・・・

 覚悟は出来てるんでしょ〜ねぇ〜〜」

「でもっ、リっリナさんっ これは元々ゼロスさんがっっ」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「ガ、ガウリイさんっっっ助けてくださいよぉぉっっ」

リナの後ろでこちらを伺っていたガウリイに最後の望みを託すが、無惨にも彼は大きなモノを諦めるように首を左右に振った。

「アメリア。可哀想だがオレには何も出来ん。・・・・命だけは守れよ。」

ほろり、と光る涙を見せて、ガウリイは手を振る。

「ふえ〜〜ん・・・リナさんっゴメンナサ〜〜〜〜〜イっっ」

リナの両腕を振り払って逃げ出すアメリア。

と、呪縛が解かれた二人もそれぞれ逃げ出す。

「ゆ・る・さ・ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ

まぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

「ひぎゃぁぁぁぁっっリナさんごめんなさいぃぃ〜〜〜〜〜っっっ」

「おいっリナ!!俺は関係ないぞ!?」

「もぉ〜〜ん〜〜〜どぉぉぉ〜〜〜むようよぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜
ひーーーひっひっひっひっひっ逃げろぉぉぉぉ逃げ惑えぇぇぇぇぇっっ」

「ひぃぃぃぃぃリナさんっっ怖いですぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜」

「お、ゼロス。さっきのやつ、オレにもダビングしてくれ!」

「ををっ流石ガウリイさん!お目が高い!!

 スピード仕上げで翌日には必ず貴方のお手元に!!」

「あんたらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」


























くっくっくっ・・・・・本当に愉快な者達じゃな・・・・

その様子を見守っていた金色に輝く絶世の美女。


と、傍らに控える紅の影。


―――――我らが王よ・・・またお戯れを・・・・――――


くっくっくっ・・・・そう言うでない。

そちもあの人間を気に入っておるのだろう?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


良いではないか。我より生まれ、我すら凌駕するその心・・・・

全てを見届ける価値はあるであろう?

・・・・・・・・のぅ、嘗てあの者と相見え、破れし赤眼の魔王よ。


・・・・・・・・我らはただ貴方の御許に帰参する事のみを渇望する虚。

しかし・・・・・・

どうやら私も随分と人間化して久しかったせいかそうも勝手がゆきませぬ。

どうぞ。王の気の向くままに。我らはそれに付き従いましょう。


決まりじゃ。在りし日を望み、待つだけはもうやめだ。

捕まっておれ、シャブラニグドゥ。我も暇を持て余しておる。

早速干渉しにゆくぞ。


・・・・・やれやれ・・・・・・・・本当に仕方のないことですね・・・・・

これもリナ=インバースの悪影響でしょうか・・・・・。














〜Fin〜