女 神 降 臨
〜女神の覚醒〜

















闇が広がっている・・・・

何も見えない・・・何も聞こえない・・・?

虚無感―――そんな感じだと思う。

じゃあ、これは夢ね。あたし、目も耳もいいし。

確か、久しぶりに宿屋のベットで寝てたはが。

それにしても、へんな夢ねー・・・・自覚があるなんて。





「久しぶりだね。リナ=インバース」


!?

その声は・・・っ!?

虚ろな闇が凝縮して、闇よりも深い闇となる。

――それはやがて擬態し、人間の子供の姿を形取った。


あんたは・・・冥王フィブリゾ・・?



「そうだよ。あの御方の力で滅んだ・・ね。

でも、今日は君のためのしがないメッセンジャーさ」


魔族は廃業して、新しい事業でも興したの?


「くっくっくっ・・・相変わらずだねぇ。

 僕を目の前にそんな事を言う人間は君ぐらいなものだよ。」

そりゃどーも。おちょくりに湧いてきたんかいっ


「ちがうよ。そうだね・・・。時間もないことだし・・・

 これだけは言っておかなくっちゃね。

 光と闇が終わりを迎える時、リナ=インバース・・・、

 君は世界の敵になり、世界は君の敵になる――

 これは予想でも、推測でもない。『歴史』だよ―――」


―――なによ。それ・・・


「じゃ、確かに伝えたからね。僕は還るよ・・あの御方の下に。

 ・・・待ってるよ。近いうちに君が来るのを―――」


だからっ・・・どーゆー意味よっそれは・・っ



「――・・ナ!」


フィブリゾ・・・どうして今更、あたしの前に―――・・・


「それは・・・秘密かな?」


何、ゼロスみたいなこと言ってるのよっ

死者を統べる―――策に溺れた冥王―――



「――リナ!!」

「君は・・・・・・・・だから」


・・・ってガウリイっ うっさいぞ!

遠くから聞こえてきた相棒の声がフィブリゾの最後の呟きを遮ってしまう。

もう一度、言っ――・・あっ!

あたしの願いを叶えずして闇が解かれ、再び虚ろな闇になってしまった。

あーー・・・最後の言葉、聞き逃しちゃった・・・



「リナっ!起きろ!リナぁぁっ!!」

っ・・・だーかーらぁぁ・・・っ




「やかましいっ つーーーとるんじゃぁぁぁぁぁっっ」



スパーーーン!!



手の届く範囲に置いておいた愛用スリッパをひっ掴んで、華麗に一閃!

うん。朝からいい音(はぁと)

今日も元気にいってみようっ・・・って・・・・あれ?


「ガウリイ?」


今の一撃で見事に頭をベットに埋めているのは、あたしの自称保護者。

この部屋にはいないはずの、ガウリイ=ガブリエフ、その人である。


・・・なんでコイツがあたしの部屋にいるのよ・・・


と、すぐ復活したらしい、がばちょっと起き上がってくる。


「リナ!」


ガシっとあたしの華奢な両肩を掴んで、覗き込んでくる蒼い瞳。

それは・・・真剣な色―――

ありゃ?まぢで怒らせたかな?


「大丈夫か?リナ?何かあったのか!?」

――・・・違うみたい・・・うかうか朝寝坊も出来ないワケ・・?

ってをぃ!

あ・・・あれって・・・・


2.3回瞬きをしてみても、それが消えないってことは、幻でも、目の錯覚でもないんだろう・・・。

目を背けたくなる現実に、こめかみをぴくぴくさせながら、精一杯、冷静になろうと努力する―――が、無理!!

人間、言いたいこと溜めとくと体に良くないし。

「ねぇガウリイ?」

怒りのせいで、震える肩と痙攣する頬を抑えようともせず、ポソリと呟く。

声すらも震えていたかもしれない。

「なんだ?何かあったのか!?」

震えが伝わったのか、ますます心配そうな表情をするガウリイ。

―――が、んなのにかまっている暇じゃない。

「それを聞きたいのはあたし方よっ何なのよあれはっ!」

びしっと指差す先には、ガウリイがあたしの部屋に入ってきた後と思われるドア―――だった残骸。

そう、そうなのだ!!

それはもう見る影もなく見事にぶち破られてる。

トドメとばかりに、辛うじて留め金にぶら下がっていた蝶番が床に落ち、なんとも哀愁漂う残滓を残して消えた。

だぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっなんつぅぅぅことをぉぉぉ!!!!!

修理費がぁぁっっ弁償費がぁぁぁっっっ

あたしのお金がぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ


「あれは、だな…、リナの部屋に鍵が掛かってたから仕方なく・・・」

当然とばかりにいってくる。

が、あたしはガウリイの頬に一筋の冷や汗が流れるのを見落とさなかった。

「ったく…鍵が掛かってるのは当たり前でしょうがっ!なんで何の断りもなく乙女の部屋に入ってくるのよ!!」

「でも、何度も外から呼びかけたんだぞ?」

「そりゃ寝てたし・・・」

「そうじゃないっ!
 リナっ、お前さんの気配が消えちまいそうだったんだぞ!!」

真剣にあたしを見つめ返す蒼い瞳。その中には、その場凌ぎのウソは見つけられない。

「はぁ?何よそれ?????」

ウソは見つけられないけど、ガウリイが言っているイミも、よく分からない。

「意識的・・・じゃないはずだ。まるでここから消えちまうかもしれないってくらいに気配が消えかかってたんだぞ!!」

えーーっと・・・つまり、

「あたしが死にそうってこと?」

「そんな感じと似てたと思う。それと・・・魔族に似た気配も感じた」

野生の勘もここまでくればスゴイ。

ってことは、あの夢は冥王が干渉してきたってこと?

でも、アイツは死んだんじゃない。滅びたんだ―・・・

――確か、自分でもそう言ってたし・・・そうすると・・・

それにアイツが言ってた『あの言葉』は―――


「本当に大丈夫か?」


あたしの考えを遮って、再び尋ねてくるガウリイ。

はぁ・・・なんか怒る気失せた。

なんでコイツはこんなに過保護なんだろーねぇ・・・ったく・・・


「大丈夫よ」

「そっか・・・あ、そーだ。忘れてたけど起こしに来たんだ。朝だぞ、リナ」

「はいはい。バッチリ起きたわよ。着替えたら食堂行くから、先行ってて」

「しかしさっきのは・・・」

「はいっ!さっさと出ていく!」

無理矢理後ろ向きにさせて、背中を押す。

「お・・おいっ!分かったから押すなって……」

渋々といった表情で部屋から出ていくガウリイを見送って、やっと一息。




窓を見れば、きっといつもと何ら変わりない朝。

けれど、あたしの目には窓越しの風景ではなく、夢の中の虚ろな闇が広がっていた。







「―――フィブリゾ・・・縁起が悪いこと言わないでよ。

もう、あんたのせいで一回敵に回しているんだから―…」


ポソリと呟いた言葉は広がり、空間に吸い込まれる・・・

その言葉の重みは誰よりもあたしが分かってる―――いや、

あたしにしか分からない―――